上 下
315 / 1,103

314.護衛依頼へ出発

しおりを挟む
 この世界の長距離移動は、何日かかるなんてはっきりとした予定を組む事はできないらしい。電車とか飛行機とかみたいな、到着時間が分かる移動手段じゃないんだから当然と言えば当然だよね。

 俺としてはハルと一緒にいられるから問題は無いんだけど、いつ帰って来れるかが分からないってのはちょっと困る。

 レーブンさんには依頼を受けたとちゃんと報告をしてから、いない間の宿代も先払いさせてもらった。払わなくても勝手に誰かに貸したりはしないぞと言われたけど、そこは甘えて良い所じゃないとなかば無理やり払わせてもらった。

 依頼のために必要なものを買いそろえて回るのも楽しかったし、全ての用意が終わった時には何だか旅行前日みたいなワクワク感があった。



 出発の日の朝、早朝に起きだした俺達は出発準備を整えると、黒鷹亭の部屋を出た。速すぎるせいか人が全くいない廊下を進み、階下へと下りていく。

「おはよう、アキト、ハル」

 普段通りに受付カウンターの前に腰を下ろしていたレーブンさんは、そう言って微笑みかけてくれた。

「おはようございます、レーブンさん」
「おはよう、レーブン」
「早くに起こしてしまってごめんなさい」
「いや、俺はいつもこの時間には起きてるからな」

 あっさりとそう答えたレーブンさんは、普段から朝食の仕込みのために早起きしてるんだと続けた。本当にそうなのか、それとも俺達が気にしないようにそう言ってくれてるのか。どっちだろうと考えていると、レーブンさんはカウンターに四つの包みを並べた。

「これは差し入れの飯だ、持っていけ」

 俺はその言葉に驚いて、まじまじとその包みを見つめた。こんな早くに四つもお弁当を作ってくれたって事?

「良いのか?」
「ああ、お前らの分と、クリスとカーディの分だ。一緒に食え」
「レーブンさん、ありがとうございます!」
「ありがとう」

 レーブンさんは俺とハルののお礼の言葉に、照れくさそうに手を振って答えにかえた。

「アキト、ハル」
「はい」
「なんだ?」

 まっすぐに俺達の目を見据えて、レーブンさんは口を開いた。

「無事に帰ってこいよ」
「はい!いってきます!」
「いってくる」
「ああ、いってこい」

 帰る場所があるって、本当に嬉しい事だな。レーブンさんへのお土産は、絶対に買うぞと決意しながら、俺達は待ち合わせ場所である南門へと急いだ。



「えーと…まだ来てないかな?」
「ああ、まだみたいだな」

 ぐるりと見渡してみた広場は、人も少ない上にまだ屋台すら並んでいなかった。さすがにこれだけ人がいなければ、見落とす事は無いだろう。

「屋台が無いと広いねぇ」
「ああ、広いな」

 大門が見渡せる場所にあるベンチに腰を下ろして、俺達は自然と手を握り合った。街の外では繋げないんだから、今のうちに充電しておかないと。

「緊張してる?」
「いや、それが全然してないんだよね」
「そうなのか」
「ハルと一緒だからじゃないかな?」
「それは光栄だな」
「昨日までは旅行前みたいなワクワク感だったんだけど…」
「うん」
「レーブンさんの無事に帰ってこいって言葉で気が引き締まった気がする」
「…そうだな。俺も気が引き締まったよ」
「さすがレーブンさんだね」
「そう、だな…でもやっぱり他の奴を褒められるとやっぱり妬けるな」
「えーレーブンさんも駄目なの?」

 クスクスと笑い合いながら話していると、クリスさんとカーディさんが道の向こうから歩いてきた。当然のように手を繋いでいるのが、俺達とお揃いだ。

 カーディさんは使い込んだ冒険者装備に身を包んでいるが、クリスさんは商人が良く使うシンプルだが上質なマントを羽織っている。

「お待たせしてすみません」
「すまない」
「いや、まだ時間前だ」
「気にしないで下さい」

 何日もかけて移動するの予定なのに荷物がびっくりするぐらい少ないのは、魔道収納鞄のおかげだろうな。異世界のすごい所だな。

「じゃあ行こうか」
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...