生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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313.【ハル視点】嫉妬と誤解

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 もやもやとした気持ちを持て余していた俺は、アキトの手をぐいぐいと引きながらまっすぐ歩き続けた。道を数本横切ってから、俺はやっと足を止めた。

「アキト…」

 上からじっと見下ろしても、アキトは視線を反らしたりはしなかった。今の俺は結構ひどい顔をしてると思うんだけどな。

「話さなくて良いって言ったのになんで返事したの?」

 思った以上に冷たい声が出た事に、自分でも驚いてしまった。アキトは何も言い訳しなかった。

「ごめん」

 じっと俺の目を見つめて謝られてしまった俺は、ハッと我に返った。

「あ…いや、謝って欲しいわけじゃないんだ…あいつとは話して欲しくなかったから、動揺しすぎたみたいだ」

 俺こそごめんねと続ければ、アキトはぶんぶんと首を振った。

「ハルが話さないでって言ってたから話すつもりは無かったんだけど…プーケさんの目がね?」
「目?」
「俺達の事を温かい目で見てたから」
「…本当に?」
「うん、本当に。多分俺に興味なんてなかったよ?」
「いや、そんな事は無いよ、だってアキトはこんなにも可愛いし格好良いんだから。誰でも好きになるよ」

 プーケの好みにぴったりだしとは言いたくなくて、俺はそう言葉を濁した。

「でもプーケさんはね、きっとハルを揶揄いたかっただけだよ?」
「そう…かな?」

 まだ心底納得はできていないけれど、アキトはそう思ったから言葉を返したって事か。

「あと一つだけ言っておきたいんだけど」
「ん?」
「俺、ハル以外に口説かれても、何とも思わないからね?そこだけはちゃんと分かってて欲しい」

 アキトはきりりとした顔で、そう言い切った。俺は一瞬だけ固まってからボンッと頬を赤く染めた。不意打ちで言われたその言葉は、俺の事が好きだから俺の言葉だけが特別だと言われたも同然だ。

「アキト、それは反則…」

 俺はあまりの恥ずかしさに頬を赤く染めたままうつむいたけれど、アキトはまじまじと俺の顔を見上げてくる。身長さのせいで顔が隠せない。

「あんまり見ないで」
「無理…照れるハルって可愛いんだよね」
「可愛い…か…」

 どうせなら格好良いと言われたいのにと思った瞬間、アキトは嬉しそうに笑いながら続けた。

「普段は格好良いからギャップがあってね」

 もう駄目だ。アキトは俺をどうしたいんだろう。

「あの、アキト、ごめん。ちょっとだけ待って」
「ん?」
「それ以上話さないで…無意識の殺し文句が怖い」

 両手で顔を隠した俺が落ち着くまで、アキトは何も言わずにただ隣に立っていてくれた。



「携帯食料にもおすすめのお店ってあるの?」
「ああ、もちろんあるよ」

 気を取り直して繋いだ手を揺らしながら大通りを歩いていると、道の先に手を振っている一団がいた。アキトが嬉しそうにあっと声を上げる。

「あれって」

 ぶんぶんと手を振っていたのは、ブレイズのパーティーメンバー達だった。幽霊としては数日かけて近くで見守っていた相手だから、知らない相手の気がしないな。うっかり呼び捨てにしないように気をつけないと。

「皆さん!」
「アキトー!久しぶり!」
「久しぶりー!ブレイズ!」

 勢いよく駆け寄ってきたブレイズの後ろには、今日も元気に揺れるしっぽが見えている。アキトと揃うと本当に子犬と子猫だな。

「アキト、元気だったか?」
「はい、元気です!」

 盾使いのウォルターはアキトに声をかけながら、ちらりと俺の方を見つめてきた。

「なら良かった」
「アキト、あれから魔法は上達した?」
「俺、補助魔法が使えるようになりましたよ!」
「え、補助魔法!?補助魔法のどっちが使えるようになったんだ?俺は補助魔法は使えないんだけど、あれって…」

 魔法の話に今日も勢いよく食いついたファリーマの言葉を、リーダーであるルセフがわざと遮った。

「アキト、元気そうで良かった。そちらは?」

 ルセフの声かけに、四人の視線がアキトの隣に立っている俺に一気に集まった。ルセフとウォルターは品定めの視線だが、ファリーマはただの興味、ブレイズは誰だろうとワクワクしてる表情だった。

「はじめまして、俺はハル。アキトとパーティーを組んでる冒険者だ」
「パーティーねぇ…?」

 ウォルターは意味ありげにそう言うと、繋いだままだった俺達の手をじろじろと見つめた。ただのパーティーメンバーじゃないんだろうと言いたげな視線に口を開こうとしたが、俺よりも先にアキトが答えた。

「あ、ハルは、俺の恋人です」
「ええーアキト、恋人いたの!?」

 ファリーマはそう声を上げながら、アキトと俺を交互に見比べている。

「あ、でも、付き合いだしたのは最近で…」
「元々以前から知り合いだったんだが、最近再会してね。俺が口説き落としたんだ」

 どう説明しようと悩んでいた様子のアキトのために、俺は先回りしてそう告げた。

「アキトは恥ずかしがり屋だからあまり揶揄わないでやって欲しいな」

 そう言いながらも、アキトの手をきゅっと握りなおす。俺を見つめてくるアキトの視線が嬉しくて思わず微笑めば、アキトもふにゃりと笑ってくれた。

「俺はこのパーティーのリーダーをやってるルセフだ」
「前衛の盾使い、ウォルターだ」
「あ、俺は魔法使いファリーマ」

 順番に自己紹介をしてくれる皆に、俺は真剣な顔で耳を傾けていた。

「最後に弓使いの…っておい、ブレイズ、自己紹介!」
「あっ…えと、ごめんなさい。ブレイズです」

 さっきから何故か呆然と固まっていたブレイズは、慌てながらも何とかそう自己紹介をしてくれた。まあ全員の名前と役割は知ってるんだけどな。

「ハルさんは、かなり強そうだな?」

 ルセフの言葉に、俺は笑って答える。

「ハルで良いよ、ルセフさん」
「俺もルセフで良い」
「まあ腕に覚えはあるが…」
「…それに、本当にアキトの事を大切にしているんだな――これなら心配はいらなかったな」
「心配…?」
「アキトが急にパーティーを組んだって噂を聞いてな、変な奴に押し切られたとかだったら…と気になってたんだ」

 今会えたのは本当にただの偶然だけど、実は今日は黒鷹亭まで俺達に会いに来る予定だったんだとルセフは笑って続けた。メロウの流した噂を聞いて、アキトの事を心配してくれたって事か。

「アキトはしっかりしてるから大丈夫だと思ったんけど、やっぱり心配でな」

 誘いを断られて逆恨みする奴だっているのに、ただ純粋にアキトの身を案じて会いに来たって事か。やっぱりこいつらは良い奴らだな。

「…疑って悪かったな、ハル」
「いや、アキトを気にかけてくれてありがとう」

 心からそう答えれば、ルセフは嬉しそうに笑って頷いてくれた。

「なあ、また今度、ハルも一緒に依頼受けようぜ?」

 ウォルターは爽やかにそう言うと、俺の肩をぽんぽんっと軽く叩いた。

「ああ、ぜひ」
「じゃあ、俺達は依頼の報告に行くから」
「またなーアキト、ハル」
「はい、また」
「アキト、今度は補助魔法について心行くまで語りあおうなー」
「お前の魔法談義は終わらないから却下だ」

 横暴だと叫ぶファリーマを引きずって、ルセフは歩き出した。ウォルターもその後を楽し気に笑いながら歩いていく。

 その場に一人だけ取り残されてしまったブレイズに、アキトはそっと声をかける。

「ブレイズ、何か今日元気ない?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど…」

 言い淀んだブレイズは、ぶんぶんと大きく頭を振ってからまっすぐアキトの目を見つめた。ささっと距離を詰めたブレイズは、アキトの耳元でコソコソと何かを囁くとすぐに体を離した。

「ブレイズー行くぞー」

 遠くから聞こえてきたウォルターの声に、ブレイズは慌てて叫び返す。

「はーい!ウォルター兄ちゃん待ってー」
「誰が兄ちゃんだ!」
「またなーアキトー!」

 元気に去っていくブレイズに手を振り返しながらも、アキトは何とも言えない表情で呻いた。

「…ええー」
「…アキト、大丈夫?」
「大丈夫だけど…えーどうしよう…」

 一体ブレイズに何を言われたんだろうか。アキトがここまで動揺するのは珍しいなと、俺は興味を引かれて問いかけた。

「ブレイズ、何だって?」

 アキトは困った顔をしながらも軽く背伸びをして、俺の耳元で囁いた。

「その、ハルが精霊だって事は、誰にも言わないからって」

 俺はその言葉を聞くなり、ブハッと噴き出した。よりによって俺の事を精霊だと思っているのか。俺が名乗ってから固まっていたのも、一度も視線が合わなかったのもそのせいか。

「とんでもない誤解が生まれたな」
「どうしよう」

 困った顔のアキトに、俺は笑顔で答える。

「アキトさえ良ければ、次に会った時にでも、体質について話したら良いんじゃないか?」
「あ、そっか。そうだね!」

 そうすれば良いんだと嬉しそうに笑ったアキトは、すぐに俺の提案を受け入れた。あの四人なら、きっとあっさりと受け入れてくれるだろう。

「じゃあアキト、買い物の続きに行こうか」

 俺は握ったままのアキトの手をきゅっと握りなおした。

「うんっ!」
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