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309.【ハル視点】依頼者との顔合わせ
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メロウからこうしてギルド内の鍵を渡される事は、今までにも何度かあった。何なら忙しすぎる時や案内が面倒な時なんて、ぽいっと鍵を投げられた事まである。
そんな俺は当然のごとく鍵を受け取って歩き出したけれど、アキトは不安そうに俺を見上げてきた。
「これって勝手に地下に入ってって良いの?」
怒られるんじゃない?と心配しているアキトに、俺は笑って頷いてから口を開いた。
「うん。もし声をかけられてもこの鍵を見せれば大丈夫だからね」
ギルドの鍵は通行証扱いになるんだよと伝えれば、アキトはすごいねと目を輝かせた。
この鍵にも実はちょっとした秘密があるんだけど、さすがに誰が聞いているか分からないここでは説明できないな。俺は手の中にある鍵を無言のままクルリと回した。緑の石が光を反射してキラリと輝く。
大事なのはこの石の色だ。緑の石がついた鍵は、ギルド職員以外に貸し出すための専用の鍵で、ギルド職員が使う鍵には必ず赤い石がつけられている。つまり正しくギルド職員から受け取った鍵かどうかが、一目で分かるって事だ。
階段を下りた所で声をかけてきた職員に鍵を見せれば、すぐに微笑んでぺこりと頭を下げられた。ここで赤い石の鍵を持っていたら、笑顔のまま別室に案内されるんだよな。初めてこの鍵の秘密を知った時は、絶対にこれを導入したのメロウだろうと思ったのを覚えている。
実際にメロウが導入したと聞いて、あの時は相棒と二人で笑ったな。
問題なく部屋に辿り着いた俺達は、中央にあるテーブルには向かわず壁際に置いてあった椅子に並んで腰を下ろした。
「ハルは指名依頼の人に心当りある?」
「いや、もしハロルドを知ってる人の依頼なら、メロウはそう言ってくれると思うんだ」
というか本当にハロルド宛ての依頼なら、断って良いなんて言い方はしないだろう。
「アキトは?」
「えー…と…俺に依頼しそうな人?」
「そう、心当りはある?」
アキトはしばらく考えこんでから、申し訳なさそうに口を開いた。
「全く思い浮かばない」
「でもまあ、メロウが問題が無いというなら信じて待つしかないね」
「表はともかく裏もってのが気になったんだけど」
アキトのその言葉には、俺はただ笑みを浮かべるだけで答えとする事しかできなかった。メロウに懐いているアキトはできれば知らない方が良いと思うし、勝手にメロウの情報網の話なんてしたら後が怖い。
答えなかった俺をじっと見つめてから、アキトはすぐに話題を変えてくれた。相変わらず聡い子だ。
「護衛任務って、どこに行くんだろうね?」
「隣の領って場合もあれば、他国って場合もあるね」
「そうなの?」
「行先が遠い国だと途中の領までの護衛任務で、そこから先は別の冒険者に…なんて場合もあるよ」
「へぇー」
「そういう依頼の時は、自分たちがどこまでの護衛を引き受けるかを尋ねてくれるから…」
アキトに護衛任務について話していると、不意にノックの音が響いた。
「どうぞ」
「おまたせしました」
そう言って入ってきたメロウの後ろに続いたのは、二人組の男達だった。一人は整った顔立ちの優し気な男で、もう一人は冒険者らしき逞しい体格の男だ。
ああ、見覚えのある二人だな。確か黒鷹亭の食堂にいた冒険者と、魔道具屋の店主だったか。
「ハルさん、アキトさん、こちらが護衛任務の依頼人であるカーディさんとクリスさんです」
「こんにちは」
「「こんにちは」」
「あーっと、俺達の事、覚えてるかな?」
眉を下げながらそう尋ねる冒険者の男の質問に、アキトはすぐに答えた。
「あの、黒鷹亭の食堂でお手伝いしてた方ですよね?」
「ああ、そうだ!覚えててくれたんだな」
「ギルドの酒場で注文をしてもらったのも覚えてます。お二人が新婚だって教えてもらいましたね」
ああ、俺の思っていた二人で合ってるな。
「そこまで覚えてくれてたんですね」
「詳しいお話は座ってからにしましょうか?」
メロウがそう声を上げ、俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろした。
「まずは自己紹介からですね。依頼側からどうぞ」
「では私から、ストファー魔道具店を営んでいます、クリスです」
「俺は元冒険者のカーディだ。今はストファー魔道具店で一緒に働いてる」
二人の自己紹介が終わると、メロウの視線が俺達の方に向いた。
「俺はCランク冒険者 前衛で戦士のハルだ」
「同じくCランク冒険者 後衛魔法使いのアキトです」
「はーもうCランクなのか…すごいな」
よく頑張ったなと褒め始めたカーディさんは、兄のような温かい目でアキトを見つめている。そんなカーディさんを、クリスさんは微笑まし気に見つめていた。
「お互いにまずは聞きたい事があればどうぞ」
進行役を買って出てくれたメロウの言葉に、俺はすぐに口を開いた。
「早速だが、俺達を指名した理由を教えてもらえるか?」
「理由…ですか」
「話せないならこの話は無かった事にしてもらいたい」
「ああ、いえ、話すのは問題無いんですが…」
クリスさんはそう言うと言葉を濁した。
「呆れられるかもしれません」
呆れるような理由って一体なんだ?警戒心を抱きながら、俺は言い淀むクリスさんを見つめた。
そんな俺は当然のごとく鍵を受け取って歩き出したけれど、アキトは不安そうに俺を見上げてきた。
「これって勝手に地下に入ってって良いの?」
怒られるんじゃない?と心配しているアキトに、俺は笑って頷いてから口を開いた。
「うん。もし声をかけられてもこの鍵を見せれば大丈夫だからね」
ギルドの鍵は通行証扱いになるんだよと伝えれば、アキトはすごいねと目を輝かせた。
この鍵にも実はちょっとした秘密があるんだけど、さすがに誰が聞いているか分からないここでは説明できないな。俺は手の中にある鍵を無言のままクルリと回した。緑の石が光を反射してキラリと輝く。
大事なのはこの石の色だ。緑の石がついた鍵は、ギルド職員以外に貸し出すための専用の鍵で、ギルド職員が使う鍵には必ず赤い石がつけられている。つまり正しくギルド職員から受け取った鍵かどうかが、一目で分かるって事だ。
階段を下りた所で声をかけてきた職員に鍵を見せれば、すぐに微笑んでぺこりと頭を下げられた。ここで赤い石の鍵を持っていたら、笑顔のまま別室に案内されるんだよな。初めてこの鍵の秘密を知った時は、絶対にこれを導入したのメロウだろうと思ったのを覚えている。
実際にメロウが導入したと聞いて、あの時は相棒と二人で笑ったな。
問題なく部屋に辿り着いた俺達は、中央にあるテーブルには向かわず壁際に置いてあった椅子に並んで腰を下ろした。
「ハルは指名依頼の人に心当りある?」
「いや、もしハロルドを知ってる人の依頼なら、メロウはそう言ってくれると思うんだ」
というか本当にハロルド宛ての依頼なら、断って良いなんて言い方はしないだろう。
「アキトは?」
「えー…と…俺に依頼しそうな人?」
「そう、心当りはある?」
アキトはしばらく考えこんでから、申し訳なさそうに口を開いた。
「全く思い浮かばない」
「でもまあ、メロウが問題が無いというなら信じて待つしかないね」
「表はともかく裏もってのが気になったんだけど」
アキトのその言葉には、俺はただ笑みを浮かべるだけで答えとする事しかできなかった。メロウに懐いているアキトはできれば知らない方が良いと思うし、勝手にメロウの情報網の話なんてしたら後が怖い。
答えなかった俺をじっと見つめてから、アキトはすぐに話題を変えてくれた。相変わらず聡い子だ。
「護衛任務って、どこに行くんだろうね?」
「隣の領って場合もあれば、他国って場合もあるね」
「そうなの?」
「行先が遠い国だと途中の領までの護衛任務で、そこから先は別の冒険者に…なんて場合もあるよ」
「へぇー」
「そういう依頼の時は、自分たちがどこまでの護衛を引き受けるかを尋ねてくれるから…」
アキトに護衛任務について話していると、不意にノックの音が響いた。
「どうぞ」
「おまたせしました」
そう言って入ってきたメロウの後ろに続いたのは、二人組の男達だった。一人は整った顔立ちの優し気な男で、もう一人は冒険者らしき逞しい体格の男だ。
ああ、見覚えのある二人だな。確か黒鷹亭の食堂にいた冒険者と、魔道具屋の店主だったか。
「ハルさん、アキトさん、こちらが護衛任務の依頼人であるカーディさんとクリスさんです」
「こんにちは」
「「こんにちは」」
「あーっと、俺達の事、覚えてるかな?」
眉を下げながらそう尋ねる冒険者の男の質問に、アキトはすぐに答えた。
「あの、黒鷹亭の食堂でお手伝いしてた方ですよね?」
「ああ、そうだ!覚えててくれたんだな」
「ギルドの酒場で注文をしてもらったのも覚えてます。お二人が新婚だって教えてもらいましたね」
ああ、俺の思っていた二人で合ってるな。
「そこまで覚えてくれてたんですね」
「詳しいお話は座ってからにしましょうか?」
メロウがそう声を上げ、俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろした。
「まずは自己紹介からですね。依頼側からどうぞ」
「では私から、ストファー魔道具店を営んでいます、クリスです」
「俺は元冒険者のカーディだ。今はストファー魔道具店で一緒に働いてる」
二人の自己紹介が終わると、メロウの視線が俺達の方に向いた。
「俺はCランク冒険者 前衛で戦士のハルだ」
「同じくCランク冒険者 後衛魔法使いのアキトです」
「はーもうCランクなのか…すごいな」
よく頑張ったなと褒め始めたカーディさんは、兄のような温かい目でアキトを見つめている。そんなカーディさんを、クリスさんは微笑まし気に見つめていた。
「お互いにまずは聞きたい事があればどうぞ」
進行役を買って出てくれたメロウの言葉に、俺はすぐに口を開いた。
「早速だが、俺達を指名した理由を教えてもらえるか?」
「理由…ですか」
「話せないならこの話は無かった事にしてもらいたい」
「ああ、いえ、話すのは問題無いんですが…」
クリスさんはそう言うと言葉を濁した。
「呆れられるかもしれません」
呆れるような理由って一体なんだ?警戒心を抱きながら、俺は言い淀むクリスさんを見つめた。
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