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307.とんでもない誤解
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「はじめまして、俺はハル。アキトとパーティーを組んでる冒険者だ」
「パーティーねぇ…?」
ウォルターさんは意味ありげにそう言うと、繋いだままだったハルと俺の手をじろじろと見つめた。まあただのパーティーメンバーだったら、こんな風に街中で手を繋いで歩かないもんね。
「あ、ハルは、俺の恋人です」
「ええーアキト、恋人いたの!?」
ファリーマさんはそう声を上げながら、俺とハルを交互に見比べている。
「あ、でも、付き合いだしたのは最近で…」
「元々以前から知り合いだったんだが、最近再会してね。俺が口説き落としたんだ」
アキトは恥ずかしがり屋だからあまり揶揄わないでやってと続けたハルは、俺の手をきゅっと握りなおした。そっと視線を上げれば、ハルは目を細めて微笑みかけてくる。愛おしさが込められたその視線に、胸がきゅっと締め付けられる。
こんなやりとりを見せつけられた皆の反応が気になって、俺はそっと視線を巡らせた。
ウォルターさんは面白そうにニヤニヤ笑っているし、ファリーマさんはへぇーと何故か感心した様子だ。ルセフさんは真剣な顔で俺とハルのやりとりを見つめている。
良かった、皆呆れてたりはしないみたいだ。ホッとしながら視線を動かしてみれば、ブレイズは大きく目を見開いたまま固まっていた。目が乾いちゃうんじゃないかと心配になるぐらいに目を見開いてるんだけど、そんなにびっくりしたのかな。
大丈夫かと声をかけようとした瞬間、ルセフさんが口を開いた。
「俺はこのパーティーのリーダーをやってるルセフだ」
「前衛の盾使い、ウォルターだ」
「あ、俺は魔法使いファリーマ」
順番に自己紹介をしてくれる皆に、ハルは真剣な顔で耳を傾けていた。
「最後に弓使いの…っておい、ブレイズ、自己紹介!」
「あっ…えと、ごめんなさい。ブレイズです」
ブレイズは慌てながらも何とかそう名乗ってくれた。
「ハルさんは、かなり強そうだな?」
「ハルで良いよ、ルセフさん」
「俺もルセフで良い」
「まあ腕に覚えはあるが…」
「…それに、本当にアキトの事を大切にしているんだな」
ルセフさんはそう言うと、ふわりと笑みを浮かべた。
「これなら心配はいらなかったな」
「心配…?」
「アキトが急にパーティーを組んだって噂を聞いてな、変な奴に押し切られたとかだったら…と気になってたんだ」
今会えたのは本当にただの偶然だけど、今日は黒鷹亭まで俺達に会いに来てくれる予定だったらしい。
「アキトはしっかりしてるから大丈夫だと思ったんけど、やっぱり心配でな」
パーティーに誘ってくれたのを断った相手なのに、そんな風に気にかけてくれてるとは想像もしていなかった。ルセフさんの言葉にうんうんと頷いているウォルターさんとファリーマさんも、俺の事を心配してくれてたんだな。
「…疑って悪かったな、ハル」
「いや、アキトを気にかけてくれてありがとう」
ルセフさんはハルが一緒なら安心だと笑って続けた。
「なあ、また今度、ハルも一緒に依頼受けようぜ?」
ウォルターさんは爽やかにそう言うと、ハルの肩をぽんぽんっと軽く叩いた。
「ああ、ぜひ」
「じゃあ、俺達は依頼の報告に行くから」
「またなーアキト、ハル」
「はい、また」
「アキト、今度は補助魔法について心行くまで語りあおうなー」
「お前の魔法談義は終わらないから却下だ」
横暴だと叫ぶファリーマさんを引きずって、ルセフさんは歩き出した。ウォルターさんもその後を楽し気に笑いながら歩いていく。
その場に一人だけ取り残されてしまったブレイズに、俺はそっと声をかける。
「ブレイズ、何か今日元気ない?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど…」
言い淀んだブレイズは、ぶんぶんと大きく頭を振ってからまっすぐ俺の目を見つめてきた。思わず身構えるほど真剣な顔をしたブレイズは、ささっと俺に近づいてくると耳元で囁いた。
「俺、ハルさんが精霊だって事、誰にも言わないからな」
ハルが精霊だって事を、誰にも言わない?ハルが精霊?どうしてそうなった。
「ブレイズー行くぞー」
「はーい!ウォルター兄ちゃん待ってー」
「誰が兄ちゃんだ!」
あまりに予想外の言葉に固まってしまった俺を置いて、ブレイズは元気に駆けていってしまった。
「またなーアキトー!」
ぶんぶんと手を振るブレイズに、俺は反射だけで手を振り返した。
「…ええー」
そういえばブレイズは、ハルが名乗った時から様子がおかしかったな。
ハルと話してたのを聞かれた事があったから、俺に色んな事を教えてくれてるのがハルという存在だとブレイズは知っていた。それに加えて、俺の通り名は精霊に関係している。つまりハルという存在は、イコール精霊だときっとブレイズは思ってたんだろうな。
その精霊が人の形を取って目の前に現れた。そう考えたからあんなに動揺してたのか。
やっとそこまで理解できた時には、既にブレイズの姿は無かった。
「アキト、大丈夫?」
「大丈夫だけど…えーどうしよう…」
「ブレイズ、何だって?」
「その、ハルが精霊だって事は、誰にも言わないからって」
周りに聞こえないようにと俺もハルの耳元に唇を寄せて囁けば、ハルはブハッと噴き出した。
「とんでもない誤解が生まれたな」
「どうしよう」
「アキトさえ良ければ、次に会った時にでも、体質について話したら良いんじゃないか?」
「あ、そっか。そうだね!」
あのパーティーの人達になら、俺の幽霊が見える体質について話してもきっと大丈夫だ。
ルセフさんは真剣に聞いてくれるだろうし、ウォルターさんはきっと笑い飛ばしてくれるだろう。ファリーマさんは、そんな事より魔法の話をしようって言いそうだな。ブレイズは勘違いしてたのかってきっと照れくさそうに笑ってくれる。
そんな幸せないつかを想像しながら、俺はふわりと微笑んだ。
「パーティーねぇ…?」
ウォルターさんは意味ありげにそう言うと、繋いだままだったハルと俺の手をじろじろと見つめた。まあただのパーティーメンバーだったら、こんな風に街中で手を繋いで歩かないもんね。
「あ、ハルは、俺の恋人です」
「ええーアキト、恋人いたの!?」
ファリーマさんはそう声を上げながら、俺とハルを交互に見比べている。
「あ、でも、付き合いだしたのは最近で…」
「元々以前から知り合いだったんだが、最近再会してね。俺が口説き落としたんだ」
アキトは恥ずかしがり屋だからあまり揶揄わないでやってと続けたハルは、俺の手をきゅっと握りなおした。そっと視線を上げれば、ハルは目を細めて微笑みかけてくる。愛おしさが込められたその視線に、胸がきゅっと締め付けられる。
こんなやりとりを見せつけられた皆の反応が気になって、俺はそっと視線を巡らせた。
ウォルターさんは面白そうにニヤニヤ笑っているし、ファリーマさんはへぇーと何故か感心した様子だ。ルセフさんは真剣な顔で俺とハルのやりとりを見つめている。
良かった、皆呆れてたりはしないみたいだ。ホッとしながら視線を動かしてみれば、ブレイズは大きく目を見開いたまま固まっていた。目が乾いちゃうんじゃないかと心配になるぐらいに目を見開いてるんだけど、そんなにびっくりしたのかな。
大丈夫かと声をかけようとした瞬間、ルセフさんが口を開いた。
「俺はこのパーティーのリーダーをやってるルセフだ」
「前衛の盾使い、ウォルターだ」
「あ、俺は魔法使いファリーマ」
順番に自己紹介をしてくれる皆に、ハルは真剣な顔で耳を傾けていた。
「最後に弓使いの…っておい、ブレイズ、自己紹介!」
「あっ…えと、ごめんなさい。ブレイズです」
ブレイズは慌てながらも何とかそう名乗ってくれた。
「ハルさんは、かなり強そうだな?」
「ハルで良いよ、ルセフさん」
「俺もルセフで良い」
「まあ腕に覚えはあるが…」
「…それに、本当にアキトの事を大切にしているんだな」
ルセフさんはそう言うと、ふわりと笑みを浮かべた。
「これなら心配はいらなかったな」
「心配…?」
「アキトが急にパーティーを組んだって噂を聞いてな、変な奴に押し切られたとかだったら…と気になってたんだ」
今会えたのは本当にただの偶然だけど、今日は黒鷹亭まで俺達に会いに来てくれる予定だったらしい。
「アキトはしっかりしてるから大丈夫だと思ったんけど、やっぱり心配でな」
パーティーに誘ってくれたのを断った相手なのに、そんな風に気にかけてくれてるとは想像もしていなかった。ルセフさんの言葉にうんうんと頷いているウォルターさんとファリーマさんも、俺の事を心配してくれてたんだな。
「…疑って悪かったな、ハル」
「いや、アキトを気にかけてくれてありがとう」
ルセフさんはハルが一緒なら安心だと笑って続けた。
「なあ、また今度、ハルも一緒に依頼受けようぜ?」
ウォルターさんは爽やかにそう言うと、ハルの肩をぽんぽんっと軽く叩いた。
「ああ、ぜひ」
「じゃあ、俺達は依頼の報告に行くから」
「またなーアキト、ハル」
「はい、また」
「アキト、今度は補助魔法について心行くまで語りあおうなー」
「お前の魔法談義は終わらないから却下だ」
横暴だと叫ぶファリーマさんを引きずって、ルセフさんは歩き出した。ウォルターさんもその後を楽し気に笑いながら歩いていく。
その場に一人だけ取り残されてしまったブレイズに、俺はそっと声をかける。
「ブレイズ、何か今日元気ない?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど…」
言い淀んだブレイズは、ぶんぶんと大きく頭を振ってからまっすぐ俺の目を見つめてきた。思わず身構えるほど真剣な顔をしたブレイズは、ささっと俺に近づいてくると耳元で囁いた。
「俺、ハルさんが精霊だって事、誰にも言わないからな」
ハルが精霊だって事を、誰にも言わない?ハルが精霊?どうしてそうなった。
「ブレイズー行くぞー」
「はーい!ウォルター兄ちゃん待ってー」
「誰が兄ちゃんだ!」
あまりに予想外の言葉に固まってしまった俺を置いて、ブレイズは元気に駆けていってしまった。
「またなーアキトー!」
ぶんぶんと手を振るブレイズに、俺は反射だけで手を振り返した。
「…ええー」
そういえばブレイズは、ハルが名乗った時から様子がおかしかったな。
ハルと話してたのを聞かれた事があったから、俺に色んな事を教えてくれてるのがハルという存在だとブレイズは知っていた。それに加えて、俺の通り名は精霊に関係している。つまりハルという存在は、イコール精霊だときっとブレイズは思ってたんだろうな。
その精霊が人の形を取って目の前に現れた。そう考えたからあんなに動揺してたのか。
やっとそこまで理解できた時には、既にブレイズの姿は無かった。
「アキト、大丈夫?」
「大丈夫だけど…えーどうしよう…」
「ブレイズ、何だって?」
「その、ハルが精霊だって事は、誰にも言わないからって」
周りに聞こえないようにと俺もハルの耳元に唇を寄せて囁けば、ハルはブハッと噴き出した。
「とんでもない誤解が生まれたな」
「どうしよう」
「アキトさえ良ければ、次に会った時にでも、体質について話したら良いんじゃないか?」
「あ、そっか。そうだね!」
あのパーティーの人達になら、俺の幽霊が見える体質について話してもきっと大丈夫だ。
ルセフさんは真剣に聞いてくれるだろうし、ウォルターさんはきっと笑い飛ばしてくれるだろう。ファリーマさんは、そんな事より魔法の話をしようって言いそうだな。ブレイズは勘違いしてたのかってきっと照れくさそうに笑ってくれる。
そんな幸せないつかを想像しながら、俺はふわりと微笑んだ。
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