上 下
308 / 1,103

307.とんでもない誤解

しおりを挟む
「はじめまして、俺はハル。アキトとパーティーを組んでる冒険者だ」
「パーティーねぇ…?」

 ウォルターさんは意味ありげにそう言うと、繋いだままだったハルと俺の手をじろじろと見つめた。まあただのパーティーメンバーだったら、こんな風に街中で手を繋いで歩かないもんね。

「あ、ハルは、俺の恋人です」
「ええーアキト、恋人いたの!?」

 ファリーマさんはそう声を上げながら、俺とハルを交互に見比べている。

「あ、でも、付き合いだしたのは最近で…」
「元々以前から知り合いだったんだが、最近再会してね。俺が口説き落としたんだ」

 アキトは恥ずかしがり屋だからあまり揶揄わないでやってと続けたハルは、俺の手をきゅっと握りなおした。そっと視線を上げれば、ハルは目を細めて微笑みかけてくる。愛おしさが込められたその視線に、胸がきゅっと締め付けられる。

 こんなやりとりを見せつけられた皆の反応が気になって、俺はそっと視線を巡らせた。

 ウォルターさんは面白そうにニヤニヤ笑っているし、ファリーマさんはへぇーと何故か感心した様子だ。ルセフさんは真剣な顔で俺とハルのやりとりを見つめている。

 良かった、皆呆れてたりはしないみたいだ。ホッとしながら視線を動かしてみれば、ブレイズは大きく目を見開いたまま固まっていた。目が乾いちゃうんじゃないかと心配になるぐらいに目を見開いてるんだけど、そんなにびっくりしたのかな。

 大丈夫かと声をかけようとした瞬間、ルセフさんが口を開いた。

「俺はこのパーティーのリーダーをやってるルセフだ」
「前衛の盾使い、ウォルターだ」
「あ、俺は魔法使いファリーマ」

 順番に自己紹介をしてくれる皆に、ハルは真剣な顔で耳を傾けていた。

「最後に弓使いの…っておい、ブレイズ、自己紹介!」
「あっ…えと、ごめんなさい。ブレイズです」

 ブレイズは慌てながらも何とかそう名乗ってくれた。

「ハルさんは、かなり強そうだな?」
「ハルで良いよ、ルセフさん」
「俺もルセフで良い」
「まあ腕に覚えはあるが…」
「…それに、本当にアキトの事を大切にしているんだな」

 ルセフさんはそう言うと、ふわりと笑みを浮かべた。

「これなら心配はいらなかったな」
「心配…?」
「アキトが急にパーティーを組んだって噂を聞いてな、変な奴に押し切られたとかだったら…と気になってたんだ」

 今会えたのは本当にただの偶然だけど、今日は黒鷹亭まで俺達に会いに来てくれる予定だったらしい。

「アキトはしっかりしてるから大丈夫だと思ったんけど、やっぱり心配でな」

 パーティーに誘ってくれたのを断った相手なのに、そんな風に気にかけてくれてるとは想像もしていなかった。ルセフさんの言葉にうんうんと頷いているウォルターさんとファリーマさんも、俺の事を心配してくれてたんだな。

「…疑って悪かったな、ハル」
「いや、アキトを気にかけてくれてありがとう」

 ルセフさんはハルが一緒なら安心だと笑って続けた。 

「なあ、また今度、ハルも一緒に依頼受けようぜ?」

 ウォルターさんは爽やかにそう言うと、ハルの肩をぽんぽんっと軽く叩いた。

「ああ、ぜひ」
「じゃあ、俺達は依頼の報告に行くから」
「またなーアキト、ハル」
「はい、また」
「アキト、今度は補助魔法について心行くまで語りあおうなー」
「お前の魔法談義は終わらないから却下だ」

 横暴だと叫ぶファリーマさんを引きずって、ルセフさんは歩き出した。ウォルターさんもその後を楽し気に笑いながら歩いていく。

 その場に一人だけ取り残されてしまったブレイズに、俺はそっと声をかける。

「ブレイズ、何か今日元気ない?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど…」

 言い淀んだブレイズは、ぶんぶんと大きく頭を振ってからまっすぐ俺の目を見つめてきた。思わず身構えるほど真剣な顔をしたブレイズは、ささっと俺に近づいてくると耳元で囁いた。
 
「俺、ハルさんが精霊だって事、誰にも言わないからな」

 ハルが精霊だって事を、誰にも言わない?ハルが精霊?どうしてそうなった。

「ブレイズー行くぞー」
「はーい!ウォルター兄ちゃん待ってー」
「誰が兄ちゃんだ!」

 あまりに予想外の言葉に固まってしまった俺を置いて、ブレイズは元気に駆けていってしまった。

「またなーアキトー!」

 ぶんぶんと手を振るブレイズに、俺は反射だけで手を振り返した。

「…ええー」

 そういえばブレイズは、ハルが名乗った時から様子がおかしかったな。

 ハルと話してたのを聞かれた事があったから、俺に色んな事を教えてくれてるのがハルという存在だとブレイズは知っていた。それに加えて、俺の通り名は精霊に関係している。つまりハルという存在は、イコール精霊だときっとブレイズは思ってたんだろうな。

 その精霊が人の形を取って目の前に現れた。そう考えたからあんなに動揺してたのか。

 やっとそこまで理解できた時には、既にブレイズの姿は無かった。

「アキト、大丈夫?」
「大丈夫だけど…えーどうしよう…」
「ブレイズ、何だって?」
「その、ハルが精霊だって事は、誰にも言わないからって」

 周りに聞こえないようにと俺もハルの耳元に唇を寄せて囁けば、ハルはブハッと噴き出した。

「とんでもない誤解が生まれたな」
「どうしよう」
「アキトさえ良ければ、次に会った時にでも、体質について話したら良いんじゃないか?」
「あ、そっか。そうだね!」

 あのパーティーの人達になら、俺の幽霊が見える体質について話してもきっと大丈夫だ。

 ルセフさんは真剣に聞いてくれるだろうし、ウォルターさんはきっと笑い飛ばしてくれるだろう。ファリーマさんは、そんな事より魔法の話をしようって言いそうだな。ブレイズは勘違いしてたのかってきっと照れくさそうに笑ってくれる。

 そんな幸せないつかを想像しながら、俺はふわりと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...