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306.嫉妬と再会

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 勢いよく薬屋のドアを閉めたハルは、俺の手をぐいぐいと引きながら歩きだした。一言も言葉を発さずに歩いていたハルは、道を数本横切ってからやっとその足を止めた。

「アキト…」

 じっと見下ろしてくるハルの顔は、今まで見た事が無いほどの無表情だった。

「話さなくて良いって言ったのになんで返事したの?」
「ごめん」

 こんなにもハルを怒らせてしまったのは初めてだ。俺はハルの目をまっすぐにみつめて謝った。ハルは俺の謝罪にハッと表情を変えた。

「あ…いや、謝って欲しいわけじゃないんだ…あいつとは話して欲しくなかったから、動揺しすぎたみたいだ」

 ハルは申し訳なさそうに俺こそごめんねと謝ってくる。

「ハルが話さないでって言ってたから話すつもりは無かったんだけど…プーケさんの目がね?」
「目?」
「俺達の事を温かい目で見てたから」
「…本当に?」
「うん、本当に。多分俺に興味なんてなかったよ?」
「いや、そんな事は無いよ、だってアキトはこんなにも可愛いし格好良いんだから」

 誰でも好きになるよとかさらりと言わないで欲しい。ハルのは惚れた欲目ってやつだよと考えてから、当然のように惚れられてる事を受け入れている自分に気づいて少しだけ笑ってしまった。

「でもプーケさんはね、きっとハルを揶揄いたかっただけだよ?」
「そう…かな?」

 ハルはまだ疑わしそうに眉間にしわを寄せている。

「あと一つだけ言っておきたいんだけど」
「ん?」
「俺、ハル以外に口説かれても、何とも思わないからね?」

 そこだけはちゃんと分かってて欲しい。そう告げればハルは一瞬だけ固まってからボンッと頬を赤く染めた。

「アキト、それは反則…」

 頬を赤く染めたまま、ハルは恥ずかしそうにうつむいた。こういう時だけ、ハルより身長低くて良かったなって思うよね。うつむいててもばっちり顔が見えるんだから。

「あんまり見ないで」
「無理…照れるハルって可愛いんだよね」
「可愛い…か…」
「普段は格好良いからギャップがあってね」
「あの、アキト、ごめん。ちょっとだけ待って」
「ん?」
「それ以上話さないで」

 ハルは無意識の殺し文句が怖いと呟くと、両手で顔を隠してしまった。ハルが格好良くて可愛いのなんてただの事実なのにな。そうは思ったけど、良い子の俺は黙ってハルが落ち着くのを待った。



「携帯食料にもおすすめのお店ってあるの?」
「ああ、もちろんあるよ」

 繋いだ手を揺らしながら大通りを歩いていると、道の先に手を振っている一団がいるのに気づいた。

「あ、あれって」

 ぶんぶんと手を振っていたのはブレイズとウォルターさんで、控え目に手を振っていたのがファリーマさんだ。

「皆さん!」

 思わず声を上げれば、三人の隣に立っていたルセフさんも軽く手を上げて答えてくれた。

「アキトー!久しぶり!」
「久しぶりー!ブレイズ!」

 勢いよく駆け寄ってきたブレイズの後ろには、今日も元気に揺れるしっぽが見える気がする。俺の数少ない友人は、今日も可愛いワンコだ。

「アキト、元気だったか?」
「はい、元気です!」

 相変わらずお兄さん感のあるウォルターさんは、元気よく質問に答えれば満足そうに頷いてくれた。

「なら良かった」
「アキト、あれから魔法は上達した?」
「俺、補助魔法が使えるようになりましたよ!」
「え、補助魔法!?補助魔法のどっちが使えるようになったんだ?俺は補助魔法は使えないんだけど、あれって…」

 魔法馬鹿と呼ばれていたファリーマさんは、今日も魔法の話には前のめりだった。でもまあこれでこそファリーマさんだよね。まだまだ続きそうなファリーマさんの言葉は、ルセフさんの声に遮られた。

「アキト、元気そうで良かった。そちらは?」

 ルセフさんの声かけに、四人の視線が俺の隣に立っているハルに一気に集まった。俺だったらこれだけいきなり見つめられたら怯むと思うんだけど、ハルは落ち着いた様子で口を開いた。
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