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305.薬屋さんのプーケさん
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護衛依頼を受けると決めたら、その後の予定のすり合わせはあっと言う間だった。最終的に出発するのは二日後の朝に決まり、それまでに依頼に必要なものをそれぞれが用意するらしい。
「それでは二日後に」
「またな、ハル、アキト」
「ああ、じゃあ二日後に」
「はい、また」
ギルドの前でクリスさんとカーディさんと別れた俺達は、トライプールの街中を歩き出した。今日はこのまま、依頼のための買い出しに行く事になったんだ。
「依頼に必要なものって…例えばどんなもの?」
「うーん…今回は野営の可能性もあるから、野営準備は当然必要だね。それに装備に不備が無いか確認しておく事、後は携帯食料も一応買っておきたいかな」
「結構色々あるんだ」
「あーあと、回復ポーションも買い足しておきたいな」
ハルはさらりとそう呟いた。回復ポーション…かぁ。
初めて体を繋げてから数日が経ったけど、最初の一回以降まだ一度も最後まで出来てないんだよな。昨日はお互いのものを扱き合ったけど、それだけで終わっちゃったし。いやそれだけでもすごく気持ち良かったんだけどね。
明日は多分依頼前日だからってしてくれないだろうな。思わず眉をしかめた俺を見て、ハルはぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「野営準備は宿で確認するだけで大丈夫だし、アキトの装備には問題はないよ。俺は剣を研ぎなおしたいんだけどね」
これは用意が不安で眉をしかめてたと思われてるなと思ったけど、二回目はいつなのかなって考えてたなんて言えない俺はこくりと頷いて返した。
「まずはポーションを見に行こうか」
すっと差し出された手をきゅっと握り返して、俺達は歩き出した。
ハルの案内で辿り着いたのは、こじんまりとした一軒の薬屋の前だった。俺は今までずっと冒険者向けの雑貨屋でしか買った事がなかったけど、ポーション専門の薬屋なんてものもあるんだって。
「へーそんなお店があったんだ?」
「あーここはポーションの質は良いんだけど、アキト一人では絶対に来させたくなくてね」
こそっとそう囁いたハルは、アキトは何も喋らなくて良いからねと声をかけてから店のドアを開けた。一人では来させたくなくて、喋らなくて良いとまで言われるお店って一体どんなお店なんだろう。
「いらっしゃいませ…あああー!」
そんなに危険な場所なのかと密かに身構えていた俺は、店に入るなり大きな声で叫ばれてビクリと体を揺らした。オレンジの髪をした店員さんは、叫んだ姿勢のまままじまじと俺達を見つめていた。
「うるさいぞ、プーケ」
「ハル久しぶり」
「ああ、久しぶりだな」
あ、このいきなり叫んだ店員さんって、ハルの知り合いなのか。だから叫んだのかなと思いついた俺はふうと肩の力を抜いた。
「そんな事よりっ!そちらの美しい方、お名前をお聞きしても?」
は?美しい方?
「断る」
「なんでお前が断るんだよ。俺はそちらの美し…なんで手を繋いでるんだ?」
「彼が俺の恋人だからだな」
「う、嘘だろう?俺の運命の相手がついに見つかったと思ったのに?」
「それは間違いなくただの勘違いだな」
ばっさりと切り捨てたハルに、嘘だぁぁと叫んだ店員さんはがっくりと崩れ落ちた。なんだか動きが一々大げさで、何となくコミカルな人だ。
「ハル…?」
「ああ、驚かせてごめんな。こいつの作るポーションはどれも一級品なんだが、とにかく惚れっぽいのが難点でな。絶対にア…君に興味を示すと思ってたんだ」
ハルに君なんて呼ばれたのは、多分これが初めてだ。この人に名前を隠すためって分かってても、何だか違和感がすごい。
「名前ぐらい教えてくれよーさっきアって言ったから、アで始まる名前なんだな?」
「黙ってろ。回復ポーション上級を二本」
「…名前…教えてくれたら売る…」
「分かった、よそで買う」
「あーもー分かったよ!上級のポーション二本ね!」
「ギルドカードで」
「はい」
ハルが差し出したギルドカードで会計を済ませると、プーケさんはすぐに二本の瓶をカウンターの上に並べた。
「お買い上げどうも」
「ああ、また来る」
ハルは瓶を鞄にしまうなり、すぐに店から出ようと歩き出した。手を握られたままの俺も当然、どんどん出口へと近づいていく。
「ハルの恋人さん」
背後からかけられた声に反射的に振り返れば、店員さんは楽し気に笑っていた。
「次は名前教えてねー」
相変わらずの軽い口調だったけど、俺達を見守る目線はどこまでも温かかった。あ、これ本気で俺に興味があるんじゃなくて、ハルの反応を楽しんでるんだな。
「ええ、また」
「返事しなくて良いから!」
ハルの叫ぶような言葉に、閉まりかけのドアの向こうから爆笑が聞こえた。
「それでは二日後に」
「またな、ハル、アキト」
「ああ、じゃあ二日後に」
「はい、また」
ギルドの前でクリスさんとカーディさんと別れた俺達は、トライプールの街中を歩き出した。今日はこのまま、依頼のための買い出しに行く事になったんだ。
「依頼に必要なものって…例えばどんなもの?」
「うーん…今回は野営の可能性もあるから、野営準備は当然必要だね。それに装備に不備が無いか確認しておく事、後は携帯食料も一応買っておきたいかな」
「結構色々あるんだ」
「あーあと、回復ポーションも買い足しておきたいな」
ハルはさらりとそう呟いた。回復ポーション…かぁ。
初めて体を繋げてから数日が経ったけど、最初の一回以降まだ一度も最後まで出来てないんだよな。昨日はお互いのものを扱き合ったけど、それだけで終わっちゃったし。いやそれだけでもすごく気持ち良かったんだけどね。
明日は多分依頼前日だからってしてくれないだろうな。思わず眉をしかめた俺を見て、ハルはぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「野営準備は宿で確認するだけで大丈夫だし、アキトの装備には問題はないよ。俺は剣を研ぎなおしたいんだけどね」
これは用意が不安で眉をしかめてたと思われてるなと思ったけど、二回目はいつなのかなって考えてたなんて言えない俺はこくりと頷いて返した。
「まずはポーションを見に行こうか」
すっと差し出された手をきゅっと握り返して、俺達は歩き出した。
ハルの案内で辿り着いたのは、こじんまりとした一軒の薬屋の前だった。俺は今までずっと冒険者向けの雑貨屋でしか買った事がなかったけど、ポーション専門の薬屋なんてものもあるんだって。
「へーそんなお店があったんだ?」
「あーここはポーションの質は良いんだけど、アキト一人では絶対に来させたくなくてね」
こそっとそう囁いたハルは、アキトは何も喋らなくて良いからねと声をかけてから店のドアを開けた。一人では来させたくなくて、喋らなくて良いとまで言われるお店って一体どんなお店なんだろう。
「いらっしゃいませ…あああー!」
そんなに危険な場所なのかと密かに身構えていた俺は、店に入るなり大きな声で叫ばれてビクリと体を揺らした。オレンジの髪をした店員さんは、叫んだ姿勢のまままじまじと俺達を見つめていた。
「うるさいぞ、プーケ」
「ハル久しぶり」
「ああ、久しぶりだな」
あ、このいきなり叫んだ店員さんって、ハルの知り合いなのか。だから叫んだのかなと思いついた俺はふうと肩の力を抜いた。
「そんな事よりっ!そちらの美しい方、お名前をお聞きしても?」
は?美しい方?
「断る」
「なんでお前が断るんだよ。俺はそちらの美し…なんで手を繋いでるんだ?」
「彼が俺の恋人だからだな」
「う、嘘だろう?俺の運命の相手がついに見つかったと思ったのに?」
「それは間違いなくただの勘違いだな」
ばっさりと切り捨てたハルに、嘘だぁぁと叫んだ店員さんはがっくりと崩れ落ちた。なんだか動きが一々大げさで、何となくコミカルな人だ。
「ハル…?」
「ああ、驚かせてごめんな。こいつの作るポーションはどれも一級品なんだが、とにかく惚れっぽいのが難点でな。絶対にア…君に興味を示すと思ってたんだ」
ハルに君なんて呼ばれたのは、多分これが初めてだ。この人に名前を隠すためって分かってても、何だか違和感がすごい。
「名前ぐらい教えてくれよーさっきアって言ったから、アで始まる名前なんだな?」
「黙ってろ。回復ポーション上級を二本」
「…名前…教えてくれたら売る…」
「分かった、よそで買う」
「あーもー分かったよ!上級のポーション二本ね!」
「ギルドカードで」
「はい」
ハルが差し出したギルドカードで会計を済ませると、プーケさんはすぐに二本の瓶をカウンターの上に並べた。
「お買い上げどうも」
「ああ、また来る」
ハルは瓶を鞄にしまうなり、すぐに店から出ようと歩き出した。手を握られたままの俺も当然、どんどん出口へと近づいていく。
「ハルの恋人さん」
背後からかけられた声に反射的に振り返れば、店員さんは楽し気に笑っていた。
「次は名前教えてねー」
相変わらずの軽い口調だったけど、俺達を見守る目線はどこまでも温かかった。あ、これ本気で俺に興味があるんじゃなくて、ハルの反応を楽しんでるんだな。
「ええ、また」
「返事しなくて良いから!」
ハルの叫ぶような言葉に、閉まりかけのドアの向こうから爆笑が聞こえた。
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