上 下
304 / 1,103

303.依頼の詳細説明

しおりを挟む
「あと、私の肩書を聞いても態度を変えなかったのも、珍しいですから」

 あ、それは俺がストファー魔道具店を知らなかったからですとは言えないよね。さすがにそれが失礼過ぎるのは分かるから、俺は何も言わずにただ黙り込んだ。

 あの時は確か数日してからハルに教えてもらったんだよね、ストファー魔道具店は実は有名なお店なんだよって。あれからだいぶ経ったけど今でも魔道具のお店に行った事は無いから、詳しい事は分からないままだ。ごめんなさい。

「ああ、アキトは肩書で人を判断しないからな」
「私がサブマスと知っても態度は変わらなかったですね、アキトさんは」
「そうなんですか?さすがですね」

 何か俺が黙ってる間に、勝手にすごい人扱いされている気がする。そんなんじゃないですと訂正しようとしたけれど、俺が口を開く前にハルが真剣な顔で口を開いたので流れてしまった。どうしよう。

「アキトはともかく俺とは面識はないわけだが、そこは良いのか?」

 真剣な表情のハルをちらりと見て、クリスさんは不敵に笑ってみせた。

「自分が信頼している相手の信頼している相手なら、私は信じてみる事にしてるんですよ」
「信頼している相手…というのは聞いても大丈夫か?」
「ええ、もちろん。メロウさんとレーブンさんですよ」
「ああ、レーブンにも聞いたのか…ちなみに俺の身分については?」
「今のあなたはただの冒険者。先ほどハルさんと名乗られましたよね?以前の話は必要ないと思いましたが違いますか?」

 クリスさんはそう言い切ると、にっこりと笑ってみせた。あ、クリスさんもやっぱり知ってはいるんだ。騎士のハロルドの事も知ってるけど、今は冒険者のハルとして扱いますよって事だよね。

「いや、それで問題ない」

 ちなみにカーディさんは、何の話だろうと言いたげな不思議そうな顔をして二人のやりとりを見つめていた。カーディさんは多分知らないんだろうな。

「今回の目的地はどこだ?」
「目的地はイーシャル領で、目的は私の親戚に会うのと商売の材料の購入です」

 ぽんぽんと飛び出すハルの質問に、クリスさんもすらすらと答えていく。

「日程ははっきりとは指定されていませんが、イーシャル領までの移動中とあちらでの滞在、さらにトライプール領に戻ってくるまで宿泊費は依頼人持ちだそうですよ」
「そうなのか…野宿の予定は?」
「イーシャル領までなら、野宿はあっても一度ですね。それ以外は宿を取るつもりです」
「宿の手配はまかせて良いそうですよ」

 メロウさんも横からしっかり情報を増やしていってくれてるんだけど、護衛依頼が初めてな俺にはそれが良い条件なのかどうかすら分からない。白熱するやりとりをぼんやりとただ聞き流してていると、不意に目があったカーディさんににっこりと笑いかけられた。

「こういうやりとりはクリスの方が得意だから、俺はさっぱり分からないんだ」

 三人の話を邪魔しないようにと気づかったのか、カーディさんはひそひそと小声で話しかけてきた。

「あ、俺もです。ハルが頼りになるからって甘えちゃってて…」

 俺も同じく、ひっそりと小声で答えた。

「まあ、頼れる伴侶で助かってるけどな」
「自分も何かで役立ちたいって思いますよね」

 しみじみと答えれば、カーディさんはふふと楽し気に笑って続けた。

「出会った頃よりも今の方が、アキトは幸せそうだな?」
「ええ、今すごく幸せなので。大好きな人と恋人同士になれましたから」
「それは良い事だな」
「お二人はあの時と変わらず幸せそうですね?」
「ああ、クリスがいてくれればそれだけで俺は幸せなんだ」
「あ、それは俺も分かります」

 カーディさんもこの世界の人らしいしっかりした体格だけど、中身は何だかほんわかした雰囲気の人なんだな。ちょっと食堂と酒場で話したぐらいだと気づかなかったけど、すごく話しやすくて癒し系な人だ。

「もしこの依頼を受けてくれる事が決まったら、アキトとは色々話したい事があるんだ」
「もしかして…恋人自慢ですか?」
「ああ、俺は伴侶自慢、アキトは恋人自慢でどうだ?」
「いいですね!」

 カーディーさんになら俺もいろんなことを話せそうだ。それに俺がのろけても、絶対笑ってのろけ返してくれると思うんだ。ハルの事が自慢できるめったにない機会かもしれない。俺はワクワクしながら大きく頷いた。

 ふと気づけば、室内はしんと静まり返ってた。

 話してる間に話が終わったのかなと何げなく視線を向けたら、クリスさんとハルが両手で顔を隠してうつむいていた。え、何があったの?俺とカーディさんは、慌ててメロウさんに視線を向けた。

「あの?」
「どうしたんだ?」
「ああ、驚かせてしまってすみません。お二人のやりとりが可愛すぎると呟いてから二人揃ってこの状態です」

 呆れた顔のメロウさんが、すぐにそう教えてくれた。小声で話してたのにばっちり聞こえてたのか。でも可愛いやりとりなんてしてないよね?俺とカーディさんは二人で顔を見合わせた。

「お気になさらずに。元に戻るまでは放っておきましょう」

 あっさりとそう言い切ったメロウさんは、腰につけていた鞄から果実水を取り出すと俺とカーディさんの前にそっと置いてくれた。

「よければどうぞ」
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...