302 / 1,179
301.指名依頼の依頼人
しおりを挟む
冒険者ギルドの地下の部屋は、今までも何度も利用させてもらってる勝手知ったる場所だ。ただ、案内無しで鍵だけを渡されたのは初めてだ。
「これって勝手に地下に入ってって良いの?」
恐る恐る尋ねれば、ハルは笑って頷いてから教えてくれた。
「うん。もし声をかけられてもこの鍵を見せれば大丈夫だからね」
なんでも鍵自体が通行証扱いになるんだって。ちゃんとしてるんだって感心しながら地下に向かったら、通りすがりのギルド職員さんにすぐに声をかけられた。ハルが鍵を見せたら、部屋は分かりますかと尋ねられただけで終わったんたけどね。
部屋に入った俺達は中央にあるテーブルには向かわず、壁際に置いてあった椅子に並んで腰を下ろした。
「ハルは指名依頼の人に心当りある?」
「いや、もしハロルドを知ってる人の依頼なら、メロウはそう言ってくれると思うんだ」
それもそうか。メロウさんは大事な事を隠すような人じゃないもんな。
「アキトは?」
「えー…と…俺に依頼しそうな人?」
この世界に来てから結構な時間が経った。それはもう色んな人に出会ったけど、護衛任務の指名をしそうな人なんていないと思うんだよね。
「全く思い浮かばない」
「でもまあ、メロウが問題が無いというなら信じて待つしかないね」
「表はともかく裏もってのが気になったんだけど」
さっきのメロウさんの言葉を思いだして尋ねてみたら、ハルは何も言わずににっこりと笑みを深くしただけだった。これは聞いたら駄目なやつか。
「護衛任務って、どこに行くんだろうね?」
「隣の領って場合もあれば、他国って場合もあるね」
「そうなの?」
そのまま護衛任務の事を色々教えてもらっていた俺は、不意に響いたノックの音に顔を上げた。無意識のうちに繋いでいた手をそっと離して、二人揃って立ち上がる。
「どうぞ」
「おまたせしました」
そう言って入ってきたメロウさんの後ろに続いたのは、二人組の男性だった。一人は整った顔立ちの優し気な男性で、もう一人は冒険者らしき逞しい体格の男性だった。
あれ、この二人ってもしかして。
「ハルさん、アキトさん、こちらが護衛任務の依頼人であるカーディさんとクリスさんです」
「こんにちは」
「「こんにちは」」
「あーっと、俺達の事、覚えてるかな?」
眉を下げながらそう尋ねてきた逞しい男性の質問に、俺はすぐに口を開いた。
「あの、黒鷹亭の食堂でお手伝いしてた方ですよね?」
「ああ、そうだ!覚えててくれたんだな」
「ギルドの酒場で注文をしてもらったのも覚えてます。お二人が新婚だって教えてもらいましたね」
ハルに伝わるようにとあえて言葉にすれば、ハルはなるほどと小さくひとつ頷いてくれた。無事に分かってもらえたみたいで良かった。
まだこの世界の事を何も知らなかった頃、この二人に出会って俺はこの世界の恋愛事情を知ったんだよな。同性同士なのに堂々としていて、新婚だって周りから祝福されてたのを見て羨ましく思ったのをすごくはっきり覚えてる。
「そこまで覚えてくれてたんですね」
優し気な男性も、嬉しそうに笑ってくれた。
「詳しいお話は座ってからにしましょうか?」
メロウさんがそう声をかけてくれたので、俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろした。
「まずは自己紹介からですね。依頼側からどうぞ」
「では私から、ストファー魔道具店を営んでいます、クリスです」
「俺は元冒険者のカーディだ。今はストファー魔道具店で一緒に働いてる」
二人の自己紹介が終わると、メロウさんの視線が俺達の方に向いた。
「俺はCランク冒険者 前衛で戦士のハルだ」
「同じくCランク冒険者 後衛魔法使いのアキトです」
「はーもうCランクなのか…すごいな」
よく頑張ったなと褒めてくれるカーディさんは、何だか近所のお兄ちゃんって感じだ。
「お互いにまずは聞きたい事があればどうぞ」
進行役を買って出てくれたメロウさんの言葉に、すぐにハルが口を開いた。
「早速だが、俺達を指名した理由を教えてもらえるか?」
「理由…ですか」
「話せないならこの話は無かった事にしてもらいたい」
「ああ、いえ、話すのは問題無いんですが…」
クリスさんはそう言うと言葉を濁した。
「呆れられるかもしれません」
「これって勝手に地下に入ってって良いの?」
恐る恐る尋ねれば、ハルは笑って頷いてから教えてくれた。
「うん。もし声をかけられてもこの鍵を見せれば大丈夫だからね」
なんでも鍵自体が通行証扱いになるんだって。ちゃんとしてるんだって感心しながら地下に向かったら、通りすがりのギルド職員さんにすぐに声をかけられた。ハルが鍵を見せたら、部屋は分かりますかと尋ねられただけで終わったんたけどね。
部屋に入った俺達は中央にあるテーブルには向かわず、壁際に置いてあった椅子に並んで腰を下ろした。
「ハルは指名依頼の人に心当りある?」
「いや、もしハロルドを知ってる人の依頼なら、メロウはそう言ってくれると思うんだ」
それもそうか。メロウさんは大事な事を隠すような人じゃないもんな。
「アキトは?」
「えー…と…俺に依頼しそうな人?」
この世界に来てから結構な時間が経った。それはもう色んな人に出会ったけど、護衛任務の指名をしそうな人なんていないと思うんだよね。
「全く思い浮かばない」
「でもまあ、メロウが問題が無いというなら信じて待つしかないね」
「表はともかく裏もってのが気になったんだけど」
さっきのメロウさんの言葉を思いだして尋ねてみたら、ハルは何も言わずににっこりと笑みを深くしただけだった。これは聞いたら駄目なやつか。
「護衛任務って、どこに行くんだろうね?」
「隣の領って場合もあれば、他国って場合もあるね」
「そうなの?」
そのまま護衛任務の事を色々教えてもらっていた俺は、不意に響いたノックの音に顔を上げた。無意識のうちに繋いでいた手をそっと離して、二人揃って立ち上がる。
「どうぞ」
「おまたせしました」
そう言って入ってきたメロウさんの後ろに続いたのは、二人組の男性だった。一人は整った顔立ちの優し気な男性で、もう一人は冒険者らしき逞しい体格の男性だった。
あれ、この二人ってもしかして。
「ハルさん、アキトさん、こちらが護衛任務の依頼人であるカーディさんとクリスさんです」
「こんにちは」
「「こんにちは」」
「あーっと、俺達の事、覚えてるかな?」
眉を下げながらそう尋ねてきた逞しい男性の質問に、俺はすぐに口を開いた。
「あの、黒鷹亭の食堂でお手伝いしてた方ですよね?」
「ああ、そうだ!覚えててくれたんだな」
「ギルドの酒場で注文をしてもらったのも覚えてます。お二人が新婚だって教えてもらいましたね」
ハルに伝わるようにとあえて言葉にすれば、ハルはなるほどと小さくひとつ頷いてくれた。無事に分かってもらえたみたいで良かった。
まだこの世界の事を何も知らなかった頃、この二人に出会って俺はこの世界の恋愛事情を知ったんだよな。同性同士なのに堂々としていて、新婚だって周りから祝福されてたのを見て羨ましく思ったのをすごくはっきり覚えてる。
「そこまで覚えてくれてたんですね」
優し気な男性も、嬉しそうに笑ってくれた。
「詳しいお話は座ってからにしましょうか?」
メロウさんがそう声をかけてくれたので、俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろした。
「まずは自己紹介からですね。依頼側からどうぞ」
「では私から、ストファー魔道具店を営んでいます、クリスです」
「俺は元冒険者のカーディだ。今はストファー魔道具店で一緒に働いてる」
二人の自己紹介が終わると、メロウさんの視線が俺達の方に向いた。
「俺はCランク冒険者 前衛で戦士のハルだ」
「同じくCランク冒険者 後衛魔法使いのアキトです」
「はーもうCランクなのか…すごいな」
よく頑張ったなと褒めてくれるカーディさんは、何だか近所のお兄ちゃんって感じだ。
「お互いにまずは聞きたい事があればどうぞ」
進行役を買って出てくれたメロウさんの言葉に、すぐにハルが口を開いた。
「早速だが、俺達を指名した理由を教えてもらえるか?」
「理由…ですか」
「話せないならこの話は無かった事にしてもらいたい」
「ああ、いえ、話すのは問題無いんですが…」
クリスさんはそう言うと言葉を濁した。
「呆れられるかもしれません」
343
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる