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300.新しい日常

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 俺とハルが冒険者パーティーとして本格的に活動を始めてから、早くも数日が経った。

 パーティーとして依頼を受けるようになると、やっぱりソロ冒険者だった頃とは色んなことが変わった。

 一番違うのは日々の楽しさかな。

 ハルと一緒だと、ただ依頼を受けて採取地に行くっていう当たり前の事でもすっごく楽しいんだ。もちろん幽霊のハルと一緒の時も楽しかったんだけどね。やっぱり人目を気にしなくて良いってのが大きいんだろうな。その場で楽しさを共有してくれるのって、すごく嬉しいものなんだ。

 あと周りからじろじろ見られるのが、何となくだけど減ったような気がする。ソロ冒険者ってやっぱりちょっと珍しかったのかな。今はちらりと見られてもすぐに視線が反らされるんだよね。元々あまり気にはしてなかったけど、嬉しい変化の一つだ。

 戦闘面での変化はハルが魔物を引き付けてくれるから、俺も前よりも落ち着いて魔法を打てるようになった事かな。頼りになるハルのおかげで、命中率はぐんっと上がったよ。

 あ、あともう一つ変化があったな。浄化魔法と攻撃魔法しか使えなかった俺だけど、なんと補助魔法が使えるようになったんだ。

 使えるようになったきっかけは、森の中で出会ったとある魔物だった。

 驚くほど大きな牙をした真っ黒な熊みたいな魔物は、四つ足でハルめがけて一直線に駆け出したんだ。巨体からは想像もできないほどの素早さに、当てる自信は全く無かったけど牽制ぐらいにはなるかなと俺は土魔法を放つために魔力を練り始めてた。

「アキト下がって!」

 こんな状況でも俺を気にかけてくれるハルと、ハルを目指して駆けていく猛スピードの熊もどきに、俺は魔力を練りながら咄嗟に考えたんだよね。あいつの速度が落ちたら良いのにって。そしたら熊もどきのスピードが一気に遅くなったんだ。

「今の魔力は…」

 何かを言いかけたハルは、速度が落ちたとは言え既に目の前にいる熊もどきにすっと視線を戻した。ハルは危なげなく魔物を倒してから、俺を振り返って言ったんだ。

「アキト、今のは補助魔法だよ!」
「へ?補助魔法?」

 全く意味が分からなかった俺に、ハルはいつも通り丁寧に説明してくれたよ。

 補助魔法っていうのは厳密にいえば二種類あって、仲間にかける能力強化系の魔法と、敵にかける能力低下系の魔法がそれにあたるらしい。

「さっきのノワールベアにかけただろう?だから速度が落ちたんだよ」
「え、でも俺速度が落ちたら良いって思っただけだよ?」
「魔力を練りながらだったからじゃないか?」
「あ…」
「アキトの魔力を確かに感じたから、間違いないと思うよ」

 そう言いきったハルに言われるまま、その場で実験をしてみる事になったんだけど…普通に使えたよね、補助魔法。何ならハルの強化までできるようになったよ。

「これでハルの役に立てるね!」

 嬉しくてそう言った俺にハルが言った一言は、今でも一言一句違わず覚えてるよ。アキトは一緒にいてくれるだけで俺を幸せにしてくれてるから、補助魔法が無くても常に役に立ってるよってね。これを真顔で言い切られた俺は、顔中真っ赤にする事しかできなかったよ。

 補助魔法を使う人って、本来なら一番最初に狙われてしまうらしい。ある程度の知能のある魔物なら、そりゃあ狙うよね。能力を低下させられるだけでも厄介なのに、強化までされたらたまったもんじゃない。

「でもアキトは詠唱をしないから…魔力が感知できる魔物以外には狙われないんじゃないかな」
「それなら、こっそり使って確認してみようか?」
「ああ、それは良いね」

 結果、俺の補助魔法はCランクの魔物には感知されなかったよ。だからこれからはこっそり使いまくる事に決めた。前衛で戦うハルのためになるなら、使わないなんて選択肢は無いからね。



 今日も補助魔法に慣れるべく色んなことを試しながら、俺達は危なげなく依頼を完了した。ランクアップ試験はまだ受けるつもりは無いみたいだから、明日も何かの依頼を受けるのかな。俺はそんな事を考えながら、依頼達成の報酬を待っていた。

「アキトさん、ハルさん、こんばんは」

 にっこり笑顔のメロウさんに声をかけられたのは、その時だった。

「こんばんは。メロウさん」
「こんばんは」
「お二人に護衛任務の指名が来ているんですが…いかがですか?」

 あまりに唐突だったその言葉に、俺とハルは揃って首を傾げた。

「護衛任務って…一体誰のだ?」
「今回は指名条件がいくつかあるので、説明は本人が行いたいとの事ですが…今ならすぐに連れてこれますが」
「……メロウから見て、依頼人はどうだ?」
「問題は一切無いですよ。表も…裏もね」
「そうか、それなら」

 言葉を切ったハルは、俺の方をちらりと見て尋ねた。

「…説明ぐらいは聞いても良いかな?」
「うん、誰が指名してくれたのか知りたいし」
「当然ですが納得が行かなければ、受けなくても問題はありませんからね?」

 メロウさんはそう言うと、地下のこの部屋で待っていて下さいと鍵を一つ渡して行ってしまった。
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