生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
299 / 1,179

298.【ハル視点】愛されている実感

しおりを挟む
 ゆったりと食事を楽しんだら、疲れもだいぶ消えた気がする。依頼を受けるかどこかに出掛けようかと提案した俺を、アキトは有無を言わさずに黒鷹亭へと連れ帰った。

 おかえりとただいまの挨拶を終えて、俺はアキトに尋ねた。

「アキト、まだ早いのに良かったの?」
「うん、今日は疲れたでしょう?」

 咄嗟にそんな事は無いと言いそうになったけれど、少し考えてから口を開いた。

「あー…うん、そうだね」

 アキトに対しては誠実でいたい。そんな気持ちで少しの弱音を吐けば、アキトは嬉しそうに笑ってくれた。

「ハル、今日は浄化魔法は俺にかけさせてくれる?」
「いいの?」
「これぐらいはさせて欲しいな」
「…じゃあ、お願いします」

 体ごと向き直れば、アキトはすぐに魔力を練り上げ始めた。相変わらず一切の無駄の無い綺麗な魔力操作だ。感心して見惚れていると、アキトの魔力が俺の体をほわりと包み込んだ。アキトらしい温かくて優しい魔力だ。

「ありがとう、アキト」
「どういたしまして」
「心なしか俺がやるより綺麗な気がする…」
「それは気のせいじゃないかな?」
「アキトの魔力は温かいんだよね、何だか安心する」

 そう言って笑うと、アキトは不意に目を輝かせた。

「ねえハル、俺にマッサージさせてくれない?」
「マッサージ?」
「えーと、足とか腕とかを揉むって事!」
「ああ、筋肉をほぐすって事か」

 そんな事はしなくて良いよと断ろうとしたけれど、ハルのために何かしてあげたいんだと訴えられたら断れる筈が無いよな。

 言われるがままにベッドの上に寝転がると、アキトは俺の脚にそっと触れた。無理に筋肉をほぐすというよりは、血流を良くするためにゆっくりと揉んでいるといった感じだ。これはかなり気持ちが良いな。

「アキト、上手だね」
「本当?動画サイトなんかで自分が筋肉痛の時に調べたりしたからねー」
「…どうがって何だい?」

 急に知らない単語が出てたけれど、この部屋の中でなら誰かに聞かれるという心配も無い。すぐに分からなかった単語を尋ねれば、アキトはえーとと考えながら口を開く。

「…動く絵?みたいなものかな」
「ああ、それを誰でも見られたって感じなのかな?」
「そうそう」

 異世界って面白いな。普通なら秘匿するか高値で売りつけるものだと思うんだが。

「技術は隠すものじゃないんだね?」
「あー…もちろん隠されてる技術もあるよ?」
「そうなのか」

 俺ができるのは簡単なものだけだしとアキトは謙遜しているけれど、これはそんなレベルのものじゃないと思う。

「本当に…気持ち良いな…」

 自然と体の力が抜けていくし脚はポカポカと温まっていく。アキトにこんな技術があるとバレたら狙われるかもしれない。そんな不安が湧いてくるぐらいの心地よさだ。

「ハル、後ろもやりたいからうつ伏せになれる?」
「わかった」

 すぐにごろんと向きを変えれば、今度は太ももからふくらはぎの辺りを優しく揉んでくれる。その力加減があまりに絶妙なんだ。痛みは一切無く、ただ気持ち良い。

「ハル、痛くない?」
「いたくない…気持ち良い、よ」

 声に力が入らない。みっともなく震える俺の声に、アキトはふふと嬉しそうに笑った。

 こんなみっともない姿を見せても、アキトは思ってたのと違うとは言わないんだな。むしろ嬉しそうにしてくれるんだ。

 幸せを噛み締めていた俺は、不意に頭に乗せられた手に目を見開いて固まった。まさか頭にもまっさーじをするわけじゃないよな。そんな事をぼんやりと考えている間に、アキトの手はゆっくりと動き出した。

「え…」

 優しく動く手に、明らかに頭を撫でられている。アキトを撫でた事はあっても、撫でられた事は一度も無かった。両親に最後に撫でられたのだって、もうはっきりとは思いだせないほど昔の話だ。

 慌てて振り返れば、そこには愛おしそうに目を細めながら、俺の頭を撫でているアキトの姿があった。あまりに神々しい姿に見惚れていると、アキトはそっと俺の頭から手を離した。

「ハル、今日は説明を引き受けてくれてありがとう。お疲れ様」

 ああ、さっきまで本当にアキトに頭を撫でられていたんだと理解した瞬間、ボッと頬が赤くなった。今なら顔から火が吹けそうだ。思わず呻きながら枕に顔を埋めれば、アキトは心配そうに声をかけてくる。

「えっと俺は撫でられるの嬉しいからやってみたかったんだけど、ハルは嫌だった?」

 そうか、アキトも撫でられるのは嬉しかったのか。俺も正直に言えば嬉しかった。アキトに撫でられて嫌だなんて思うわけがないだろう。ただ年上なのにとか、甘やかされすぎじゃないかなとか。そんな事を考えてしまっただけだ。

「…いや、嬉しかったよ…」
「そうなの?じゃあもうちょっと撫でて良い?」

 期待を込めたアキトの問いかけに、俺は小さな声で答えた。

「……お願い」

 あれだけ愛おしそうに撫でてもらえるなら、俺は羞恥心を捨てる。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...