生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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296.【ハル視点】疲れを癒す特効薬

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 メロウが納得するまで説明につきあったおかげか、退席を切り出しても特に引き留められたりはしなかった。

 これでやっと緊張の時間が終わるな。そう思ってから、まだ油断するには少しだけ早いかと思いなおす。俺達はまだギルドの中にいるんだもんなと、密かに気を引き締めなおした。

「アキト、予定通りこの後は依頼を受けるで良いかな?」

 鍵を閉めているメロウの後ろでそう尋ねれば、アキトはふるふるとすぐに首を振った。

「今日は止めておこう」
「え、でも…」

 今朝は何を受けようかなとワクワクしてたのに、本当に依頼を受けなくて良いのか?思わずまじまじと見つめていた俺を、アキトはちらりと見上げて口を開いた。

「それより、俺お腹減ったな」
「ああ、確かに減ってるな…ごはんを食べてから相談しようか?」
「うん、賛成!」

 メロウに別れを告げた俺達は、そのままギルドを後にした。ギルドから一歩外に出るなり、アキトは俺の腕をぐいぐいと引っ張って歩き出す。

 頭の回転が早いメロウには、ほんのわずかな隙を見せるだけでも駄目だ。アキトの秘密にまで気づかれてしまうかもしれないと、少し気を張り過ぎたらしい。ギルドを出た途端に一気に襲ってきた疲れと空腹に、俺はアキトに引っ張ってもらいながら歩いていく。

「ここでいっか」

 不意にアキトが立ち止まったのは一軒の料理店の前だった。こんなところに店なんて、俺が眠る前には無かったな。店の外壁には、緑の大きな文字で有名な植物の名前が書かれていた。これが店名なのだろうか。

「ハル、ここでいい?」

 控え目に尋ねられた俺は、すぐに窓から店内を覗き込んだ。いくら疲れていてもアキトと一緒に入る初めての店なら、安全確認は絶対に必要だからな。こういう時に自分一人で判断せずに俺に聞いてくれるのも、頼られてる感じがして幸せなんだよな。

「うん、活気もあって良い店みたいだ」
「良かった。じゃあ入ろう」

 店内に入ってみればいくつものお皿を持った店員達が、狭い店内をきびきびと行き来していた。入口で立ち尽くしていた俺達に気づくと、笑顔で声をかけてくれる辺り良い店みたいだな。

 一番近くの空きテーブルへと移動して椅子に腰を下ろした瞬間、アキトと俺は二人揃ってふうと息を吐いた。椅子に座った瞬間に、疲れが一気に襲ってくるんだよな。

「疲れた…」

 思わずぽつりとそうこぼせば、アキトは笑顔で労ってくれた。

「お疲れ様」
「ありがとう、アキトもお疲れ様」
「説明は全部ハルがしてくれたから、俺はそんなに疲れてないよ」
「なら良かった…」

 ああ、そうだ。アキトにはさっきのお礼も言わないとな。俺は声を潜めると、じっとアキトの目を見つめながら口を開いた。

「さっきは庇ってくれてありがとう」

 アキトはキョロキョロと周りの席を見回してから、小さな声でそっと答えてくれた。本当にアキトはこういう所が聡いよな。

「どういたしまして。さすがに嘘は言えないけど、あれは嘘じゃないから」
「ああ、確かに嘘じゃないな…説明してない事はあるけど」

 思わずふふと笑えば、アキトも嬉しそうに笑い返してくれた。アキトの笑顔だけでどんどん癒されていく気がするよ。

「説明大変だったでしょ?」
「あー…相手が相手だからね」

 もちろん、俺はメロウの事が嫌いなわけじゃない。どちらかというと、人としては尊敬ができる相手だと思っている。でも油断してしまえば、アキトの秘密は守り通せない。そんな緊張感のあるやり取りだった。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 もっともその疲労も、お礼を言ってくれるアキトのおかげでどんどん消えていくんだよな。

「おまたせしました」

 近づいてきた店員はそう言うと、俺達の前に料理名の書いてある紙を差し出した。こんな形で料理名を見せられるのは少し珍しいな。

 アキトは興味深そうにメニューを覗き込んで、戸惑った顔で固まった。

「えーっと…」

 もしかして書いてある料理が分からないのか。確かにこの辺りではあまり見ない料理名ばかりだな。いくつかは俺も知ってる料理だな。というかこれはもしかして、全てが隣国の料理なんだろうか。

「今日の日替わりは何?」

 戸惑うアキトのためにそう尋ねた俺に、店員はすぐに答えてくれた。

「今日はビルチェッティとガックラースがメインです」

 ビルチェッティとガックラースか。ラースというのはこの国でいうライスの事だ。アキトの生まれた国ではライスが主食だったと言っていたから、これは喜んでもらえそうだな。

 アキトはびるちぇってぃとがっくらーすと繰り返すなり、また固まってしまっていた。何とも可愛い反応に、自然と笑みが浮かんでしまう。

「確かアキトは好き嫌い無かったよね」
「うん、無いよ」
「アキトは好きなメニューだと思うから、日替わりにして良い?」

 目の前に突然ライスを使った料理が出てきたら、アキトは一体どんな反応をするのか。ほんの少しの好奇心でそう聞いてみた俺に、アキトは即答で答えてくれた。

「…っ!それでお願いします!」
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