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295.【ハル視点】嫉妬心

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 謝罪が終わると、室内には沈黙が下りた。

「えーっと、次はBランクの試験?」

 空気を変えるためか、アキトは明るい声でそう尋ねた。俺も慌てて言葉を返す。

「そうなんだけど…次のランクは確か指定された魔物の討伐だったよな?」
「ええ、そうですね」

 話を振ればメロウもすぐに答えてくれた。よし、これで空気は変わったな。いつまでもアキトが恥ずかしそうなのは可愛そうだから、空気が変わって良かった。

 わざわざメロウに尋ねはしたけれど、Bランクにランクアップするための試験は何年も前から変わっていない。指定された魔物を討伐するという何とも単純な試験だ。Cランクの魔物の中から選ばれた魔物を、討伐さえできればランクアップになる。

 Cランクの魔物が相手ならば、俺とアキトならおそらく何の問題もなく倒す事はできる。前衛の俺と後衛のアキトでパーティーのバランスも良いからな。倒せないかもという心配は正直に言えば全くない。だが、それでもすぐにランクを上げるつもりはなかった。

 どことなく緊張した様子のアキトに、俺は優しく笑いかける。

「すぐには受けないよ」
「そうですね」

 メロウもすぐに頷いてくれた。俺の考えは最初から分かっていたみたいだ。

 ランクというのは、一気にいくつも上げるとどうしても知識が偏ってしまう。それにランク飛ばしをしたせいで、急に強くなった敵に対応できなくなるなんて可能性もあるからな。しっかり慣らしながら上げていく方が安全なんだ。

「もう少しアキトがこのランクの依頼に慣れてからにしよう?」
「え、でも、急いでランク上げるべきなんですよね?」

 アキトはそう言うと俺では無く、ちらりとメロウに視線を向けた。

「いえ、そこまで急ぐ必要はありませんよ」

 見た事もないほど優しい笑みを浮かべながら、メロウは答えた。メロウはちょっと、アキトの事を気に入りすぎじゃないかな。

「むしろすぐに次の昇級試験を受けると言ってたら、私が止めてましたよ」

 メロウはそう言うと真剣な目でアキトの目を見つめた。アキトもメロウの真意を探るように、じっと見つめ返している。 

「もちろんランクを上げてもらえるのはギルドとしては助かりますが、無理なランクアップをして欲しいわけじゃないですから」

 大事な事を伝えてくれているのは分かるんだが、ちょっと見つめ合いすぎじゃないかな。

「あくまでお二人のペースで進めてくださいね」
「…俺がアキトに無理をさせるわけが無いだろう」

 思わず横から口を挟めば、メロウは俺にだけ見えるように面白そうに笑ってみせた。さっきアキトと見つめ合ってたのはわざとか、このやろう。嫉妬する俺を見て楽しむのは止めて欲しい。

「その点はまあ信頼してますけどね」
「…あ、そういえば、ウロスの買取はどうなった?」

 不意に思いだした俺が尋ねれば、メロウはすぐに口を開いた。

「ウロスは王都の方へ送る事になりそうです」

 やはりそうなるのか。ここ最近の魔物の増加などの異変の全貌を探るため、出現地域や生息地域がおかしい素材は全て王都に集められているからな。

「やっぱりか…」
「ですから、しばらく時間を頂けますか?」
「ああ、問題ない」

 もしこれが他の領の冒険者ギルドなら、きっと俺は預けなかっただろう。自分で持ったまま、王都に届けた方が確実だからな。王都の騎士団にでも届ければ、ギルドへの移動はやってくれる。

 即答で頷いたのは、トライプールの冒険者ギルドへの信頼からだ。メロウはそんな俺の反応を見て、満足そうに笑ってみせた。

「ではこれを」

 そう言ってメロウが差し出したのは銀色のギルドコインだった。数字とトライプールの文字が彫りこまれたこれは、査定さえ終わればどこのギルドでも報酬を受け取れるというなかなかに便利なものだ。滅多に出てはこないが。

 受け取ったまま魔道収納鞄に放り込もうとした俺は、ふと視線を感じて動きを止めた。気づけばアキトは、興味深そうにギルドコインを見つめていた。

「これは値段がすぐにつけられない素材の時に渡される、引換券みたいなものだよ」

 見やすいようにと持ちかえれば、アキトはじーっとコインを凝視している。メロウがアキトに説明をしているのを流し聞きながら、俺はコインにまで嫉妬しそうな自分と密かに戦っていた。
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