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290.マッサージ
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きっちりと鍵を閉めれば、室内は静寂に包まれる。この防音結界にも気づけばすっかり慣れてしまったな。
「おかえり、アキト」
昨日のやりとりを覚えてくれていたハルは、部屋に入るなり照れくさそうにそう言ってくれた。まだ照れてくれるの可愛いな。
「ただいま」
「おかえり、ハル」
「うん、ただいま」
これから習慣にしていきたい挨拶を終えた俺は、すぐに荷物を下ろし始めた。
「アキト、まだ早いのに良かったの?」
「うん、今日は疲れたでしょう?」
「あー…うん、そうだね」
そんな事ないよって言われるかと思ってたけど、ハルはそう答えるとへにゃりと笑った。 否定されなかった事が嬉しくてたまらない。
「ハル、今日は浄化魔法は俺にかけさせてくれる?」
「いいの?」
「これぐらいはさせて欲しいな」
「…じゃあ、お願いします」
向き直ってくれたハルを見つめながら、俺はすぐに魔力を練り始めた。よく考えたら浄化魔法を人に向かって使うのは、初めてかもしれない。自分にかけるのとは勝手が違ったらどうしようと一瞬だけ頭を過ったけれど、考える間もなく浄化魔法は発動した。
「ありがとう、アキト」
「どういたしまして」
「心なしか俺がやるより綺麗な気がする…」
「それは気のせいじゃないかな?」
それか恋人の欲目ってやつかな。
「アキトの魔力は温かいんだよね、何だか安心する」
そう言って笑うハルを見ていると、俺は不意に良い事を思いついた。
「ねえハル、俺にマッサージさせてくれない?」
「マッサージ?」
「えーと、足とか腕とかを揉むって事!」
「ああ、筋肉をほぐすって事か」
最初は遠慮しようとしていたハルだったけど、俺が何かしてあげたいんだと訴えれば俺の提案を受け入れてくれた。まあ、マッサージって言っても特別な資格とかがあるわけじゃないから、本当に血流をよくする程度の効果なんだけどね。
「じゃあハルのベッドに寝転がって?」
「ああ、仰向け?」
「うん、最初は仰向けで」
言われるがまま寝転がってくれたハルの脚に、俺はそっと触れた。俺の脚とは全く違う筋肉がみっしりと詰まった感じだななんて考えながら、少しずつマッサージしていく。
「アキト、上手だね」
「本当?」
動画サイトなんかで自分が筋肉痛の時に調べたりしたからねと伝えれば、ハルは不思議そうに動画って何だいと尋ねてきた。ああ、そうかまず動画が通じないのか。
「えーと…動く絵?みたいなものかな」
「ああ、それを誰でも見られたって感じなのかな?」
さすがにハルは理解が早いな。
「そうそう」
「技術は隠すものじゃないんだね?」
「あー…もちろん隠されてる技術もあるよ?」
「そうなのか」
ハルは本当に気持ち良いなと嬉しそうにしている。いつもよりも声に力が無いんだけど、俺のマッサージのせいで力が抜けてるんだと思うとすごく嬉しいね。
「ハル、後ろもやりたいからうつ伏せになれる?」
「わかった」
すぐにごろんと向きを変えてくれたハルの、太ももからふくらはぎの辺りを優しくほぐしていく。揉み起こしとかがおきない程度に優しく、やりすぎないように。
「ハル、痛くない?」
「いたくない…気持ち良い、よ」
心なしかさっきよりも更にふにゃりとした声になったハルを見ていたら、俺は不意にひらめいてしまった。
もしかして、今ならハルの頭を撫でられるんじゃないかなって。
長身のハルの頭を撫でるのは、立ってる時だと結構大変だと思うんだよね。すっごい背伸びするか、段差でも使わないと難しいと思う。でもハルが寝転がってる今なら、確実に俺でも手が届くんだ。
もし嫌がったらすぐに止めて謝れば良いか。俺はそーっとハルの頭に手を伸ばした。
金色の細い髪は撫でると柔らかくて、思った以上にフワフワしていた。うわぁ、これは癖になる手触りだ。
「え…」
戸惑ったような声がハルの喉から漏れたけど、まだ止めてって言われてないから続けるよ。俺はハルの頭をゆっくりと柔らかく撫でてみた。いつもハルがしてくれる時みたいに優しく触れれば、ハルは慌てた様子で振り返った。
これはさすがに撫で続けたら駄目かなとすぐに手を離せば、大きく目を見開いて俺を見つめてくる。そのきょとんとした顔がすごく幼く見えてしまった。
「ハル、今日は説明を引き受けてくれてありがとう。お疲れ様」
「あー…」
ポンッと頬を赤く染めたハルはそう呻くと、枕に顔を埋めてしまった。やっぱり嫌だったかな。
「えっと俺は撫でられるの嬉しいからやってみたかったんだけど、ハルは嫌だった?」
「…いや、嬉しかったよ…」
「そうなの?じゃあもうちょっと撫でて良い?」
「……お願い」
ハルの返事は小さな声だったけど、俺の耳にはばっちり届いたよ。気が済むまでハルの頭を撫でさせてもらった俺は、幸せな気分で笑みを浮かべた。
「おかえり、アキト」
昨日のやりとりを覚えてくれていたハルは、部屋に入るなり照れくさそうにそう言ってくれた。まだ照れてくれるの可愛いな。
「ただいま」
「おかえり、ハル」
「うん、ただいま」
これから習慣にしていきたい挨拶を終えた俺は、すぐに荷物を下ろし始めた。
「アキト、まだ早いのに良かったの?」
「うん、今日は疲れたでしょう?」
「あー…うん、そうだね」
そんな事ないよって言われるかと思ってたけど、ハルはそう答えるとへにゃりと笑った。 否定されなかった事が嬉しくてたまらない。
「ハル、今日は浄化魔法は俺にかけさせてくれる?」
「いいの?」
「これぐらいはさせて欲しいな」
「…じゃあ、お願いします」
向き直ってくれたハルを見つめながら、俺はすぐに魔力を練り始めた。よく考えたら浄化魔法を人に向かって使うのは、初めてかもしれない。自分にかけるのとは勝手が違ったらどうしようと一瞬だけ頭を過ったけれど、考える間もなく浄化魔法は発動した。
「ありがとう、アキト」
「どういたしまして」
「心なしか俺がやるより綺麗な気がする…」
「それは気のせいじゃないかな?」
それか恋人の欲目ってやつかな。
「アキトの魔力は温かいんだよね、何だか安心する」
そう言って笑うハルを見ていると、俺は不意に良い事を思いついた。
「ねえハル、俺にマッサージさせてくれない?」
「マッサージ?」
「えーと、足とか腕とかを揉むって事!」
「ああ、筋肉をほぐすって事か」
最初は遠慮しようとしていたハルだったけど、俺が何かしてあげたいんだと訴えれば俺の提案を受け入れてくれた。まあ、マッサージって言っても特別な資格とかがあるわけじゃないから、本当に血流をよくする程度の効果なんだけどね。
「じゃあハルのベッドに寝転がって?」
「ああ、仰向け?」
「うん、最初は仰向けで」
言われるがまま寝転がってくれたハルの脚に、俺はそっと触れた。俺の脚とは全く違う筋肉がみっしりと詰まった感じだななんて考えながら、少しずつマッサージしていく。
「アキト、上手だね」
「本当?」
動画サイトなんかで自分が筋肉痛の時に調べたりしたからねと伝えれば、ハルは不思議そうに動画って何だいと尋ねてきた。ああ、そうかまず動画が通じないのか。
「えーと…動く絵?みたいなものかな」
「ああ、それを誰でも見られたって感じなのかな?」
さすがにハルは理解が早いな。
「そうそう」
「技術は隠すものじゃないんだね?」
「あー…もちろん隠されてる技術もあるよ?」
「そうなのか」
ハルは本当に気持ち良いなと嬉しそうにしている。いつもよりも声に力が無いんだけど、俺のマッサージのせいで力が抜けてるんだと思うとすごく嬉しいね。
「ハル、後ろもやりたいからうつ伏せになれる?」
「わかった」
すぐにごろんと向きを変えてくれたハルの、太ももからふくらはぎの辺りを優しくほぐしていく。揉み起こしとかがおきない程度に優しく、やりすぎないように。
「ハル、痛くない?」
「いたくない…気持ち良い、よ」
心なしかさっきよりも更にふにゃりとした声になったハルを見ていたら、俺は不意にひらめいてしまった。
もしかして、今ならハルの頭を撫でられるんじゃないかなって。
長身のハルの頭を撫でるのは、立ってる時だと結構大変だと思うんだよね。すっごい背伸びするか、段差でも使わないと難しいと思う。でもハルが寝転がってる今なら、確実に俺でも手が届くんだ。
もし嫌がったらすぐに止めて謝れば良いか。俺はそーっとハルの頭に手を伸ばした。
金色の細い髪は撫でると柔らかくて、思った以上にフワフワしていた。うわぁ、これは癖になる手触りだ。
「え…」
戸惑ったような声がハルの喉から漏れたけど、まだ止めてって言われてないから続けるよ。俺はハルの頭をゆっくりと柔らかく撫でてみた。いつもハルがしてくれる時みたいに優しく触れれば、ハルは慌てた様子で振り返った。
これはさすがに撫で続けたら駄目かなとすぐに手を離せば、大きく目を見開いて俺を見つめてくる。そのきょとんとした顔がすごく幼く見えてしまった。
「ハル、今日は説明を引き受けてくれてありがとう。お疲れ様」
「あー…」
ポンッと頬を赤く染めたハルはそう呻くと、枕に顔を埋めてしまった。やっぱり嫌だったかな。
「えっと俺は撫でられるの嬉しいからやってみたかったんだけど、ハルは嫌だった?」
「…いや、嬉しかったよ…」
「そうなの?じゃあもうちょっと撫でて良い?」
「……お願い」
ハルの返事は小さな声だったけど、俺の耳にはばっちり届いたよ。気が済むまでハルの頭を撫でさせてもらった俺は、幸せな気分で笑みを浮かべた。
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