290 / 1,112
289.異国情緒の溢れる料理
しおりを挟む
子どもみたいな悪戯っぽい笑顔を浮かべて『来てからのお楽しみ』なんて言われたら、それ以上問い詰める事なんてできなかった。
せっかくならとできるだけ周りのテーブルを見ないように気をつけて、俺はひたすら注文した料理を待ち続けた。
まあ待ち時間は向かいに座ってたハルをじっくり観察してたから、あっという間に時間は過ぎたんだけどね。伏目がちな時はまつげに目が行くのに、ぱちりと目を開くと綺麗な紫の瞳にばっかり目が行くのを発見したよ。
「お待たせしましたー日替わりと果実水です」
そう声をかけながら目の前に置かれた大きなお皿を見て、俺はギリギリの所でなんとか叫び声を飲み込んだ。え、これってまさか。
「ごゆっくりどうぞ」
「ハル、これって!…えっとまず料理名なんだったっけ?」
「ビルチェッティとガックラースだね」
「それだ。えっと、これってライスだよね?」
料理を指差して尋ねた大興奮の俺の反応を見て、ハルはふふと楽し気に笑った。
「ラースっていうのは隣の国の言葉でライスって意味なんだ。ガックは香草だね」
「そうなんだ!ラースね、覚えとこう!」
「ちなみにビルチェッティは、豆の煮込み料理って感じかな」
へぇ、じゃあライスの横に乗ってるこの豆がたっぷり入った紫色のペーストみたいなのが、ビルチェッティなのか。ふわりと漂ってくる嗅いだことのない香りからして、スパイスが結構効いてるみたいだ。
「隣の国ではラースは良く食べるの?」
「ああ、この国よりは頻繁に食べるかな。温かいうちに食べようか?」
お米をよく食べると言う隣の国についてもっと聞きたい気持ちはあるけど、目の前に温かい料理があるなら冷めてしまう前に食べないと失礼だよね。
「うんっ!いただきます」
「いただきます」
添えられていたスプーンで、俺はお米の部分と豆の煮込み料理の部分を均等にすくい上げた。ワクワクしながら口に運べば、香草の風味の聞いたごはんに、香辛料で味付けされた少し辛味のある豆の煮込みが意外にもよく合っている。異国情緒漂う料理だけど、どこか懐かしいような不思議な味だ。
「アキト、どう?」
ほんの少し心配そうな顔をして俺を見つめていたハルに、俺はすぐに笑顔で答えた。
「美味しい!」
「気に入って良かったよ」
「ちょっと辛いんだね!」
「あ、もしかして辛いのは苦手だった?」
「ううん、むしろ辛いのは大好きなんだ!」
「そうなのか」
我が家はカレーは絶対辛口派だったし、その上辛味スパイスを追加してたぐらいだからね。そう思ったけど、これはさすがにこんな場所で口に出来る話じゃないな。俺はすぐに話題を変えた。
「それにしても、ハルは他の国にも詳しいんだね?」
「ああ、行った事はあるよ」
「そうなんだ?」
「仕事の関係で色々ね」
それは騎士としてなのか、冒険者としてなのか。俺はぼんやりとどっちだろうと考えながら、淡い水色の果実水を一口飲んでみた。爽やかな酸味と濃厚な甘みが、何だか癖になりそうな味だ。
「あ、果実水も美味しい…」
「これは隣国の特産の果物、ビオンを使ってるみたいだね」
「果実水まで隣の国の果物なんだ?」
「ああ、かなりこだわってる店みたいだな」
感心したように店内を見渡したハルは、壁に飾ってある絵や謎の仮面も隣国のものだよと教えてくれた。もしかしてここは、アンテナショップみたいなものなのかな。異国に行った気分で楽しめる料理店とか、そりゃあ間違いなく流行るよね。
しかも味もちゃんと美味しいし。食べれば食べるほど、食欲が湧いてくる気がする。
「たまには下調べ無しで店に入るのも良いもんだね」
「うん、おかげで美味しいごはんに出会えたし」
「あー…メロウにも感謝だな」
ちょっと嫌そうにしながらそう言ったハルに、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。
折角だからこの後どこかに行こうかと誘ってくるハルの手をくいっと引いて、俺はまっすぐ黒鷹亭を目指して歩き続けた。
いくら自然な笑顔が出るようになったっていっても、ハルは間違いなく疲れてるはずだ。だから俺の前でぐらいは無理はして欲しくなかった。
せっかくならとできるだけ周りのテーブルを見ないように気をつけて、俺はひたすら注文した料理を待ち続けた。
まあ待ち時間は向かいに座ってたハルをじっくり観察してたから、あっという間に時間は過ぎたんだけどね。伏目がちな時はまつげに目が行くのに、ぱちりと目を開くと綺麗な紫の瞳にばっかり目が行くのを発見したよ。
「お待たせしましたー日替わりと果実水です」
そう声をかけながら目の前に置かれた大きなお皿を見て、俺はギリギリの所でなんとか叫び声を飲み込んだ。え、これってまさか。
「ごゆっくりどうぞ」
「ハル、これって!…えっとまず料理名なんだったっけ?」
「ビルチェッティとガックラースだね」
「それだ。えっと、これってライスだよね?」
料理を指差して尋ねた大興奮の俺の反応を見て、ハルはふふと楽し気に笑った。
「ラースっていうのは隣の国の言葉でライスって意味なんだ。ガックは香草だね」
「そうなんだ!ラースね、覚えとこう!」
「ちなみにビルチェッティは、豆の煮込み料理って感じかな」
へぇ、じゃあライスの横に乗ってるこの豆がたっぷり入った紫色のペーストみたいなのが、ビルチェッティなのか。ふわりと漂ってくる嗅いだことのない香りからして、スパイスが結構効いてるみたいだ。
「隣の国ではラースは良く食べるの?」
「ああ、この国よりは頻繁に食べるかな。温かいうちに食べようか?」
お米をよく食べると言う隣の国についてもっと聞きたい気持ちはあるけど、目の前に温かい料理があるなら冷めてしまう前に食べないと失礼だよね。
「うんっ!いただきます」
「いただきます」
添えられていたスプーンで、俺はお米の部分と豆の煮込み料理の部分を均等にすくい上げた。ワクワクしながら口に運べば、香草の風味の聞いたごはんに、香辛料で味付けされた少し辛味のある豆の煮込みが意外にもよく合っている。異国情緒漂う料理だけど、どこか懐かしいような不思議な味だ。
「アキト、どう?」
ほんの少し心配そうな顔をして俺を見つめていたハルに、俺はすぐに笑顔で答えた。
「美味しい!」
「気に入って良かったよ」
「ちょっと辛いんだね!」
「あ、もしかして辛いのは苦手だった?」
「ううん、むしろ辛いのは大好きなんだ!」
「そうなのか」
我が家はカレーは絶対辛口派だったし、その上辛味スパイスを追加してたぐらいだからね。そう思ったけど、これはさすがにこんな場所で口に出来る話じゃないな。俺はすぐに話題を変えた。
「それにしても、ハルは他の国にも詳しいんだね?」
「ああ、行った事はあるよ」
「そうなんだ?」
「仕事の関係で色々ね」
それは騎士としてなのか、冒険者としてなのか。俺はぼんやりとどっちだろうと考えながら、淡い水色の果実水を一口飲んでみた。爽やかな酸味と濃厚な甘みが、何だか癖になりそうな味だ。
「あ、果実水も美味しい…」
「これは隣国の特産の果物、ビオンを使ってるみたいだね」
「果実水まで隣の国の果物なんだ?」
「ああ、かなりこだわってる店みたいだな」
感心したように店内を見渡したハルは、壁に飾ってある絵や謎の仮面も隣国のものだよと教えてくれた。もしかしてここは、アンテナショップみたいなものなのかな。異国に行った気分で楽しめる料理店とか、そりゃあ間違いなく流行るよね。
しかも味もちゃんと美味しいし。食べれば食べるほど、食欲が湧いてくる気がする。
「たまには下調べ無しで店に入るのも良いもんだね」
「うん、おかげで美味しいごはんに出会えたし」
「あー…メロウにも感謝だな」
ちょっと嫌そうにしながらそう言ったハルに、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。
折角だからこの後どこかに行こうかと誘ってくるハルの手をくいっと引いて、俺はまっすぐ黒鷹亭を目指して歩き続けた。
いくら自然な笑顔が出るようになったっていっても、ハルは間違いなく疲れてるはずだ。だから俺の前でぐらいは無理はして欲しくなかった。
332
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる