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288.疲れを癒すには

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「こっち注文頼むー」
「はーい!お待ちくださーい!」
「おまたせしました、日替わり定食です」

 ふらりと入ったお店だったが、お昼時を迎えた店の中は活気に満ち溢れていた。いくつものお皿を持った店員さん達は、狭い店内をきびきびと行き来している。

「あ、いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ!」

 店員さんは入口で立ち尽くしていた俺達に気づくと、笑顔でそう声をかけてくれた。ハルも初めての店だから、店の決まりが分からないから勝手に座り難かったんだよね。

 店の中を見渡せばかなりの混み具合だけど、まだいくつかのテーブルは空いてるみたいだ。一番近くのテーブルへ移動して椅子に腰を下ろした瞬間、俺とハルは二人揃ってふうと息を吐いた。

「疲れた…」
「お疲れ様」
「ありがとう、アキトもお疲れ様」
「説明は全部ハルがしてくれたから、俺はそんなに疲れてないよ」
「なら良かった…」

 ハルはそう言うと急に声をひそめた。 

「さっきは庇ってくれてありがとう」

 ここはギルドからそんなに遠くない店だ。どこで誰が聞いてるか分からないから、小声なのか。そう思った俺は同じく小声で答えた。

「どういたしまして。さすがに嘘は言えないけど、あれは嘘じゃないから」
「ああ、確かに嘘じゃないな…説明してない事はあるけど」

 そう言ったハルがやっと笑顔を見せてくれたから、俺も嬉しくなって笑顔を返した。



 メロウさんへの説明と俺のランクアップ手続きが終わった後、俺達はそのままギルドを後にした。本当なら今日は何か依頼を受ける予定だったんだけど、俺が今日は止めておこうってハルを説得したんだ。

 予定通りこの後は依頼を受けようかって提案してくれたハルの顔が、あまりに疲れすぎてたから頷けなかったんだよね。

 メロウさんはやり手だってハルは前にも言ってたから、きっと冷静な顔で説明しながらもかなり気を張ってたんだと思うんだ。だって俺には異世界人っていう、この世界でハルと団長しか知らない特大の秘密があるからね。

 説明を押し付けてしまったから、せめて無理はして欲しくないなと思ったから依頼は断固拒否したよ。

「説明大変だったでしょ?」
「あー…相手が相手だからね」
「ありがとう」
「どういたしまして」

 緊張が解けてきたのか、話してる間にハルの表情もだいぶ普段通りに戻ってきた。ああ良かった、いつものハルの笑顔だ。

「おまたせしました」

 店員さんはそう言うと、俺たちの前にメニューらしき紙を差し出してくれた。へぇ、この店はちゃんとメニューがあるんだ。メニューは無くて口頭で説明するとか、壁に書いてあるのから勝手に選べとかが多いんだけどな。

 興味津々でメニュー覗き込めば、見た事のない料理名がいくつも並んでいた。

「えーっと…」

 名前だけでは何が何だか分からない。ファミレスみたいに写真とかあればまだ予想もできたんだけど、本当に文字だけだ。途方に暮れていた俺の隣で頼りになるハルが口を開いた。

「今日の日替わりは何?」
「今日はビルチェッティとガックラースがメインです」

 びるちぇってぃとがっくらーす。何一つ予想が付かないんだけどと固まった俺を、ハルは柔らかい笑顔で見つめた。

「確かアキトは好き嫌い無かったよね」
「うん、無いよ」
「アキトは好きなメニューだと思うから、日替わりにして良い?」
「…っ!それでお願いします!」

 我ながら見事な即答だった。俺の好みを知りつくしてるハルがきっと好きだと思うって言うんだから、俺に拒否する理由は無い。

「じゃあ日替わりと果実水を二人前で」
「日替わりと果実水二人前ですねーしばらくお待ちください」

 店員さんが去ってしまうと、俺はハルをじっと見つめて尋ねた。

「…ねぇ、ハル、さっきのってどんな料理なの?」
「来てからのお楽しみだよ」
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