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284.【ハル視点】手紙の内容
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ギルド内には、それはもうたくさんの個室が存在している。面談をするための小さな個室から、訓練のための訓練場、講義を受けるための教室まで多種多様だ。
そんな中で今日俺達が案内されたのは、まさかの地下の訓練場だった。
予想外だったのかキョロキョロと周りを見回しているアキトに、メロウは申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。今は上の個室は全て使用中でしたので」
「あ、いえ」
忙しい時間帯でも忙しい時期でも無いのにそんなわけがないだろう。咎める視線を向けたが、メロウは俺だけに見えるようにじろりと睨みつけてきた。
「防音結界を発動してよろしいですか?」
ああ、なるほど。それでこの部屋を選んだのか。大事な話は上の個室でするというのが一般的な認識だから、部屋から出るなり探るような視線が飛んでくる事もある。多分これはメロウのアキトへの気づかいなんだな。
俺はアキトに見えないように、そっとメロウに頭を下げた。分かれば良いと言いたげな視線にもう一度頭を下げてから、俺は立ち尽くしていたアキトの隣に並んだ。
「どうぞ」
「メロウ、俺も持ってるが良いのか?」
「ええ、ギルド内で個人所有の魔道具を使うとなると、色々と手続きが面倒ですし」
「ああ、それもそうか…」
促されるままにアキトと並んで椅子に腰を下ろせば、メロウもすぐに向かい側に腰を下ろした。
「早速ですが、まずは手紙の内容について確認したいので…」
まあ、そう来るよな。メロウの言葉は予想通りだったが、俺が返す事のできる言葉は一つだけだ。
「手紙に書いた事が全てだ」
確認された所で、内容は変わらない。ギルマスとメロウへ連名で送った手紙には、どこまで伝えるべきか悩みながらもいろんな事を書いた。
体は眠ったままだったが幽霊のような状態になった俺が、誰にも気づかれないまま色んな所を彷徨っていた事。そこで偶然出会ったアキトが、生まれつき幽霊が見える体質だった事。アキトの人柄に惹かれて一緒に冒険をするようになった事まで、包み隠さずに説明した。この領に来たばかりのアキトに、この辺りの決まりや採取地を教えていた事もきちんと書き記した。
ギルマスはともかく、メロウは絶対にこんなとんでもない夢のような話をすぐには信じないだろう。そう考えて幽霊の時に見聞きした色んな話も証拠代わりに追加しておいたんだが、それでもやっぱり不十分だったか。
メロウは俺の答えを聞くなり、冷たい目で睨みつけてきた。アキトの前なのに良いのか?という言葉を俺はぐっと我慢して飲み込んだ。今は神経を逆なでしない方が良いだろう。
別に一切の説明をしないと言ったわけじゃない。ただ手紙の内容以上の事は話せないと言いたかっただけなんだが。とりあえず質問を促すように視線を向けた俺に、メロウはやっと睨むのを止めて口を開いた。
「アキトさんは元々幽霊が見える体質で、あなたの幽霊が見えていたと?」
「ああ、この剣に誓って嘘偽りは言ってない」
愛用の剣に指先で触れて誓いの言葉を口にすれば、メロウはなるほどと俺の言葉を受け入れてくれた。騎士がこの誓いを破る時は、剣を捨てる覚悟がある時だけ。そこはさすがに信用してくれるようだ。
「つまりハルさんはずっとアキトさんと一緒にいた…と」
「そうだ」
「リスリーロの件もあなたでしたか」
万が一にもアキトが責められるのが嫌で、手紙ではあえて触れなかったんだがやっぱりバレるよな。
「すみません…」
アキトは申し訳なさそうに、体を小さくしながら謝った。謝る必要なんて無いんだと慌てた俺の向かい側で、メロウも慌てて気にしなくて良いんですよと声を上げた。本当にメロウはアキトがお気に入りなんだな。
「まだ冒険者ですらなかったアキトさんに、体質やハルさんの幽霊の事を教えられても確実に信じられなかったと思いますから」
「でも…俺、精霊が見える人って呼ばれてるけど知識を与えてくれてたのはハルで…だから俺には精霊は見えてないんです」
ああ、アキトはずっとそこが気になっていたのか。対するメロウは、お前そんなに優しい顔ができたんだなと言いたくなるほど柔らかく微笑んだ。
「通り名と言うのは絶対にそれを達成していないと駄目ってわけじゃないんですよ?」
「え…?」
「例えばドラゴンを倒した事なんて無くても、その強さを見込んでか、いつの間にかドラゴンキラーと呼ばれていた冒険者もいます」
唐突なメロウの例えに、アキトはきょとんと目を見張った。例えが上手いな、さすがやり手のメロウだ。俺もすかさず横から口を挟む。
「そうそう。食べられる素材を集めるのが上手いからって料理人なんて通り名が付いたやつもいたけど、そいつの作る料理は壊滅的だったしね」
「ああ、いましたね」
「自分で名乗るならともかく、周りが付けた通り名が事実と異なるなんて事は結構よくある事なんだよ」
まあ盛りに盛った通り名を自称している奴もいたりはするけどな。そういう奴はだいたいが実力でバレてしまうものだ。
その点、アキトは魔法の腕も良いからな。通り名を疑ってかかる奴はまずいないだろう。
「そこは本当に気にしなくて大丈夫ですからね」
優しい声で断言したメロウに、アキトはホッと息を吐いた。恋愛感情では無いと分かっていても、ほんの少しだけ妬いてしまう自分に苦笑が漏れた。
「それでハルさんは冒険者の特別任務ですか」
それは手紙には書かなかった筈だが、騎士団からの正式な書類が行ったのかな。
「ああ、最近の採取地の感じは何かおかしいからな」
「なるほど」
「そういえば、昨日コノーア草原でウロスに遭遇したぞ」
「報告は上がっています。すぐに捜索隊を動かしましたが発見はまだですね」
深刻な顔で告げたメロウに、俺とアキトは顔を見合わせた。
「その反応…もしかして?」
「あーすまん。俺が討伐したから、ここにいる」
ぽんと俺の魔道収納鞄を叩いてみせれば、メロウはまじまじと見つめた。
「…ここに出してもらえますか?」
訓練場をそっと指差したメロウに従って、俺はすぐにウロスを取り出した。どさりと置かれたウロスを、メロウはすぐに鑑定をし始めた。
ああ、これは怒られるやつだな。
そんな中で今日俺達が案内されたのは、まさかの地下の訓練場だった。
予想外だったのかキョロキョロと周りを見回しているアキトに、メロウは申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。今は上の個室は全て使用中でしたので」
「あ、いえ」
忙しい時間帯でも忙しい時期でも無いのにそんなわけがないだろう。咎める視線を向けたが、メロウは俺だけに見えるようにじろりと睨みつけてきた。
「防音結界を発動してよろしいですか?」
ああ、なるほど。それでこの部屋を選んだのか。大事な話は上の個室でするというのが一般的な認識だから、部屋から出るなり探るような視線が飛んでくる事もある。多分これはメロウのアキトへの気づかいなんだな。
俺はアキトに見えないように、そっとメロウに頭を下げた。分かれば良いと言いたげな視線にもう一度頭を下げてから、俺は立ち尽くしていたアキトの隣に並んだ。
「どうぞ」
「メロウ、俺も持ってるが良いのか?」
「ええ、ギルド内で個人所有の魔道具を使うとなると、色々と手続きが面倒ですし」
「ああ、それもそうか…」
促されるままにアキトと並んで椅子に腰を下ろせば、メロウもすぐに向かい側に腰を下ろした。
「早速ですが、まずは手紙の内容について確認したいので…」
まあ、そう来るよな。メロウの言葉は予想通りだったが、俺が返す事のできる言葉は一つだけだ。
「手紙に書いた事が全てだ」
確認された所で、内容は変わらない。ギルマスとメロウへ連名で送った手紙には、どこまで伝えるべきか悩みながらもいろんな事を書いた。
体は眠ったままだったが幽霊のような状態になった俺が、誰にも気づかれないまま色んな所を彷徨っていた事。そこで偶然出会ったアキトが、生まれつき幽霊が見える体質だった事。アキトの人柄に惹かれて一緒に冒険をするようになった事まで、包み隠さずに説明した。この領に来たばかりのアキトに、この辺りの決まりや採取地を教えていた事もきちんと書き記した。
ギルマスはともかく、メロウは絶対にこんなとんでもない夢のような話をすぐには信じないだろう。そう考えて幽霊の時に見聞きした色んな話も証拠代わりに追加しておいたんだが、それでもやっぱり不十分だったか。
メロウは俺の答えを聞くなり、冷たい目で睨みつけてきた。アキトの前なのに良いのか?という言葉を俺はぐっと我慢して飲み込んだ。今は神経を逆なでしない方が良いだろう。
別に一切の説明をしないと言ったわけじゃない。ただ手紙の内容以上の事は話せないと言いたかっただけなんだが。とりあえず質問を促すように視線を向けた俺に、メロウはやっと睨むのを止めて口を開いた。
「アキトさんは元々幽霊が見える体質で、あなたの幽霊が見えていたと?」
「ああ、この剣に誓って嘘偽りは言ってない」
愛用の剣に指先で触れて誓いの言葉を口にすれば、メロウはなるほどと俺の言葉を受け入れてくれた。騎士がこの誓いを破る時は、剣を捨てる覚悟がある時だけ。そこはさすがに信用してくれるようだ。
「つまりハルさんはずっとアキトさんと一緒にいた…と」
「そうだ」
「リスリーロの件もあなたでしたか」
万が一にもアキトが責められるのが嫌で、手紙ではあえて触れなかったんだがやっぱりバレるよな。
「すみません…」
アキトは申し訳なさそうに、体を小さくしながら謝った。謝る必要なんて無いんだと慌てた俺の向かい側で、メロウも慌てて気にしなくて良いんですよと声を上げた。本当にメロウはアキトがお気に入りなんだな。
「まだ冒険者ですらなかったアキトさんに、体質やハルさんの幽霊の事を教えられても確実に信じられなかったと思いますから」
「でも…俺、精霊が見える人って呼ばれてるけど知識を与えてくれてたのはハルで…だから俺には精霊は見えてないんです」
ああ、アキトはずっとそこが気になっていたのか。対するメロウは、お前そんなに優しい顔ができたんだなと言いたくなるほど柔らかく微笑んだ。
「通り名と言うのは絶対にそれを達成していないと駄目ってわけじゃないんですよ?」
「え…?」
「例えばドラゴンを倒した事なんて無くても、その強さを見込んでか、いつの間にかドラゴンキラーと呼ばれていた冒険者もいます」
唐突なメロウの例えに、アキトはきょとんと目を見張った。例えが上手いな、さすがやり手のメロウだ。俺もすかさず横から口を挟む。
「そうそう。食べられる素材を集めるのが上手いからって料理人なんて通り名が付いたやつもいたけど、そいつの作る料理は壊滅的だったしね」
「ああ、いましたね」
「自分で名乗るならともかく、周りが付けた通り名が事実と異なるなんて事は結構よくある事なんだよ」
まあ盛りに盛った通り名を自称している奴もいたりはするけどな。そういう奴はだいたいが実力でバレてしまうものだ。
その点、アキトは魔法の腕も良いからな。通り名を疑ってかかる奴はまずいないだろう。
「そこは本当に気にしなくて大丈夫ですからね」
優しい声で断言したメロウに、アキトはホッと息を吐いた。恋愛感情では無いと分かっていても、ほんの少しだけ妬いてしまう自分に苦笑が漏れた。
「それでハルさんは冒険者の特別任務ですか」
それは手紙には書かなかった筈だが、騎士団からの正式な書類が行ったのかな。
「ああ、最近の採取地の感じは何かおかしいからな」
「なるほど」
「そういえば、昨日コノーア草原でウロスに遭遇したぞ」
「報告は上がっています。すぐに捜索隊を動かしましたが発見はまだですね」
深刻な顔で告げたメロウに、俺とアキトは顔を見合わせた。
「その反応…もしかして?」
「あーすまん。俺が討伐したから、ここにいる」
ぽんと俺の魔道収納鞄を叩いてみせれば、メロウはまじまじと見つめた。
「…ここに出してもらえますか?」
訓練場をそっと指差したメロウに従って、俺はすぐにウロスを取り出した。どさりと置かれたウロスを、メロウはすぐに鑑定をし始めた。
ああ、これは怒られるやつだな。
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