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283.【ハル視点】苛立つメロウ
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騎士団の任務や訓練は、数日がかりで行われるものが多かった。当日中に帰れないとなれば、当然野営をする事になる。襲ってくるような物好きな盗賊はさすがにいないが、それでも魔物の襲来には備える必要がある。
騎士として生活をしている内に、気づけばぐっすりと熟睡する事はなくなっていた。外の物音や他人の気配だけでも目が覚める。それが俺にとっての当たり前だった。
「ん」
ふわりと意識が浮上する。もう朝かと、うっすらと目を開いた。視界に飛び込んできたのは、俺をまじまじと見つめているアキトの楽し気な瞳だった。
正直に言えば、最初は驚いた。
いつの間にか腕の中に抱きこんでいたアキトが、こんなに近くで目覚めているのに俺は眠ったままだったのかってな。
だが同時に納得もしてしまった。俺にとってアキトは安心できる存在で、他人じゃないってだけの話か。
ぱちりと瞬きを一つした俺は、アキトの目をまっすぐに見つめ返した。
「おはよう、アキト」
「うん、おはようハル」
「今日はアキトの方が先に起きてたんだね」
あれだけアキトの寝顔を堪能している身としては、寝顔を見るなとは言えないな。思わず笑ってしまった俺は、腕の中にいるアキトの体をきゅっと抱きしめた。
「寝顔見てたんだ。ハルが俺の寝顔を見るのを楽しいって言う気持ちがちょっと分かってしまった…」
クスクスと笑いながら教えてくれるアキトに、俺は声を上げて笑った。お互いの寝顔を見るのが好きな恋人同士なんて、すごくお似合いじゃないか。
冒険者ギルドに足を踏み入れたのは、昨日よりは少しゆっくりめな時間帯だった。昨日の報告をするのが一番の目的で、良い依頼があれば受けたいねと話しながら俺達は受付に向かった。
ちらりと視線を巡らせてみたけれど、メロウの姿は受付にはまだ無いみたいだ。良かった。メロウが嫌いなわけじゃないが、手紙の説明は面倒だからな。
ひっそりと息を吐いた俺の隣で、アキトが小さく声を上げた。どうかしたのかと視線を辿ってみれば、昨日パーティー登録をしてくれた職員が俺達に向かって笑いかけていた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「達成報告ですか?」
「はい、お願いします」
話が早いのは助かる。二人揃ってギルドカードを差し出して採取してきた素材を手渡してしまえば、後は手続きの待ち時間だ。
職員さんが席を離れている間に、アキトは俺の腕をつんと引いた。
「ハル、ウロスは?」
耳元で囁くように尋ねてくれたアキトに、俺は微笑みながら答える。
「ああ、あれはここで出すと目立つからね。買取はしてもらうつもりだけど直接…」
解体室へ持ち込んだ方が目立たないと続けようとした俺は、その時やっと後ろからずんずんと近づいてくる気配に気が付いた。
ああ、ギルドカードが職員の手にあるから逃げるのは無理か。そう考えた瞬間、俺の両肩が背後からがしりと掴まれた。あまりに急に伸びてきた手に、アキトは固まってしまった。
俺はすぐに振り返ると、はぁとわざとらしく大きなため息を吐きながらメロウを見上げた。
「メロウ…その登場はやめろ、アキトがびっくりするだろう」
「それは失礼しました。あなたが逃げようとするかもと思いまして」
ギルドカードさえ手元にあったらそうしてたかもなとは言わなかったが、メロウにはバレているんだろうな。
「メロウさん、お久しぶりです」
「ああ、アキトさん、お久しぶりです」
手の持ち主がメロウだと分かったアキトは、すっかり警戒を解いたようでのんきに挨拶を交わしている。そういう動じない所も好きだけど、少しぐらいは動じてくれ。
「お待たせしました…あれ?メロウさん?」
手続きを終えて戻ってきた職員は、俺の肩を掴んでいるメロウに驚いたみたいだ。
「ああ、お疲れ様です。コッフェルさん」
「お疲れ様です」
この職員はコッフェルって言うのか。これからもメロウがいない時は世話になるだろうから、ちゃんと名前を覚えておこう。
「彼は知り合いでして」
「ああ、そうなんですか?お二人は昨日パーティー登録をされた方達なんです」
「パーティー登録…ですか」
すごくもの言いたげに俺を見つめてくるメロウを、俺はじろりと睨み返した。
「手続きは終わりましたので、報酬はカードに入れさせて頂きました」
「「ありがとうございます」」
「さあ、アキト。次は依頼を見に行こうか」
わざとらしくそう言ってみた俺の肩を、メロウは渾身の力で上から抑えつけた。中々の力だが、これならまだ振り払える。
「少しだけお時間頂けますか?アキトさん、ハルさん」
「…手紙で詳細は伝えただろう」
俺がそう口にした瞬間、メロウはいつも通りの外面の良い笑顔のままで口を開いた。
「良いから別室までついてこい」
おい、アキトの前では絶対に見せてなかった本性が出てるぞ。これは逃げられそうにないなと俺が覚悟を決めた瞬間、メロウはアキトをちらりと見つめて話しかけた。
「アキトさんは、お時間頂けますか?」
「はい、もちろんです!」
即答したアキトに、メロウさんは嬉しそうに笑って頷くと俺の肩からさっと手を離した。
「では、アキトさんと二人だけでお話しますので、ハルさんは結構です」
「…分かった、行くよ」
「いえ、もう結構ですから」
じろりと俺を睨む目は氷点下の冷たさだった。他の職員にも冒険者にも怯えた視線を向けられてるが、良いのかメロウ。
「あー…悪かった。アキトと一緒に連れていってくれ」
これは謝った方が早いなと素直に謝罪をすれば、メロウはふうと大げさに息を吐いてから頷いた。
「…良いでしょう。ハルさん、アキトさん、こちらへどうぞ」
許してくれたというより、周りの視線に負けたって感じだな。
俺達は二人並んで、メロウの後を追って歩き出した。
騎士として生活をしている内に、気づけばぐっすりと熟睡する事はなくなっていた。外の物音や他人の気配だけでも目が覚める。それが俺にとっての当たり前だった。
「ん」
ふわりと意識が浮上する。もう朝かと、うっすらと目を開いた。視界に飛び込んできたのは、俺をまじまじと見つめているアキトの楽し気な瞳だった。
正直に言えば、最初は驚いた。
いつの間にか腕の中に抱きこんでいたアキトが、こんなに近くで目覚めているのに俺は眠ったままだったのかってな。
だが同時に納得もしてしまった。俺にとってアキトは安心できる存在で、他人じゃないってだけの話か。
ぱちりと瞬きを一つした俺は、アキトの目をまっすぐに見つめ返した。
「おはよう、アキト」
「うん、おはようハル」
「今日はアキトの方が先に起きてたんだね」
あれだけアキトの寝顔を堪能している身としては、寝顔を見るなとは言えないな。思わず笑ってしまった俺は、腕の中にいるアキトの体をきゅっと抱きしめた。
「寝顔見てたんだ。ハルが俺の寝顔を見るのを楽しいって言う気持ちがちょっと分かってしまった…」
クスクスと笑いながら教えてくれるアキトに、俺は声を上げて笑った。お互いの寝顔を見るのが好きな恋人同士なんて、すごくお似合いじゃないか。
冒険者ギルドに足を踏み入れたのは、昨日よりは少しゆっくりめな時間帯だった。昨日の報告をするのが一番の目的で、良い依頼があれば受けたいねと話しながら俺達は受付に向かった。
ちらりと視線を巡らせてみたけれど、メロウの姿は受付にはまだ無いみたいだ。良かった。メロウが嫌いなわけじゃないが、手紙の説明は面倒だからな。
ひっそりと息を吐いた俺の隣で、アキトが小さく声を上げた。どうかしたのかと視線を辿ってみれば、昨日パーティー登録をしてくれた職員が俺達に向かって笑いかけていた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「達成報告ですか?」
「はい、お願いします」
話が早いのは助かる。二人揃ってギルドカードを差し出して採取してきた素材を手渡してしまえば、後は手続きの待ち時間だ。
職員さんが席を離れている間に、アキトは俺の腕をつんと引いた。
「ハル、ウロスは?」
耳元で囁くように尋ねてくれたアキトに、俺は微笑みながら答える。
「ああ、あれはここで出すと目立つからね。買取はしてもらうつもりだけど直接…」
解体室へ持ち込んだ方が目立たないと続けようとした俺は、その時やっと後ろからずんずんと近づいてくる気配に気が付いた。
ああ、ギルドカードが職員の手にあるから逃げるのは無理か。そう考えた瞬間、俺の両肩が背後からがしりと掴まれた。あまりに急に伸びてきた手に、アキトは固まってしまった。
俺はすぐに振り返ると、はぁとわざとらしく大きなため息を吐きながらメロウを見上げた。
「メロウ…その登場はやめろ、アキトがびっくりするだろう」
「それは失礼しました。あなたが逃げようとするかもと思いまして」
ギルドカードさえ手元にあったらそうしてたかもなとは言わなかったが、メロウにはバレているんだろうな。
「メロウさん、お久しぶりです」
「ああ、アキトさん、お久しぶりです」
手の持ち主がメロウだと分かったアキトは、すっかり警戒を解いたようでのんきに挨拶を交わしている。そういう動じない所も好きだけど、少しぐらいは動じてくれ。
「お待たせしました…あれ?メロウさん?」
手続きを終えて戻ってきた職員は、俺の肩を掴んでいるメロウに驚いたみたいだ。
「ああ、お疲れ様です。コッフェルさん」
「お疲れ様です」
この職員はコッフェルって言うのか。これからもメロウがいない時は世話になるだろうから、ちゃんと名前を覚えておこう。
「彼は知り合いでして」
「ああ、そうなんですか?お二人は昨日パーティー登録をされた方達なんです」
「パーティー登録…ですか」
すごくもの言いたげに俺を見つめてくるメロウを、俺はじろりと睨み返した。
「手続きは終わりましたので、報酬はカードに入れさせて頂きました」
「「ありがとうございます」」
「さあ、アキト。次は依頼を見に行こうか」
わざとらしくそう言ってみた俺の肩を、メロウは渾身の力で上から抑えつけた。中々の力だが、これならまだ振り払える。
「少しだけお時間頂けますか?アキトさん、ハルさん」
「…手紙で詳細は伝えただろう」
俺がそう口にした瞬間、メロウはいつも通りの外面の良い笑顔のままで口を開いた。
「良いから別室までついてこい」
おい、アキトの前では絶対に見せてなかった本性が出てるぞ。これは逃げられそうにないなと俺が覚悟を決めた瞬間、メロウはアキトをちらりと見つめて話しかけた。
「アキトさんは、お時間頂けますか?」
「はい、もちろんです!」
即答したアキトに、メロウさんは嬉しそうに笑って頷くと俺の肩からさっと手を離した。
「では、アキトさんと二人だけでお話しますので、ハルさんは結構です」
「…分かった、行くよ」
「いえ、もう結構ですから」
じろりと俺を睨む目は氷点下の冷たさだった。他の職員にも冒険者にも怯えた視線を向けられてるが、良いのかメロウ。
「あー…悪かった。アキトと一緒に連れていってくれ」
これは謝った方が早いなと素直に謝罪をすれば、メロウはふうと大げさに息を吐いてから頷いた。
「…良いでしょう。ハルさん、アキトさん、こちらへどうぞ」
許してくれたというより、周りの視線に負けたって感じだな。
俺達は二人並んで、メロウの後を追って歩き出した。
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