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274.恋人への甘え方

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 美味しいラーメンを堪能した俺達は、魔道具の灯りに照らされた店をふらふらとのぞきながら歩いていた。

 俺達が今歩いているのは、たくさんの店が並んだトライプールの大通りだ。こんな時間でも人が多いし、お店もまだまだ開いてるみたいだ。

 並ぶ店の種類もかなり豊富だ。分かりやすい雑貨屋や食料品、飲食店などの他に、何の店なのかも分からないような謎だらけの店までが普通に並んでいる。

 以前ハルが大通りに店を出すには調査があるんだって言ってたから、この店もちゃんとしたお店なんだろうけどな。そんな事を考えながら、立ち止まった俺は乾燥した木の根っこにがずらりと並んだ店をまじまじと見つめた。

「アキト、次の角を左だよ」

 繋いだままの手をくいっと軽く引っ張られて、俺は慌てて軌道修正を果たした。

「はーい」

 言われた角を左に曲がれば、見慣れた黒鷹亭の建物が遠くに見えてきた。

 夕食を終えた後、今日はさすがに疲れてるだろうから黒鷹亭に帰ろうとハルに誘われたんだ。無理は駄目だよと優しく笑ったハルは、多分俺の事を気づかって提案してくれたんだと思う。なんといってもすっごく久々の依頼だったからね。

 優しいハルの提案に俺はすぐに賛同したけど、別に疲れてるからとかそんな理由なんかじゃない。ただ人目の無い所でハルと思いっきりイチャイチャしたかった俺には、すごく都合の良いお誘いだったってだけだ。



 ガチャリと音を立てて、背後でドアの鍵が閉まった。これで防音結界まで作動した、二人きりの空間の出来上がりだ。すぐにでもハルに抱き着いてしまいたい気持ちを何とか抑え込んで、俺は口を開いた。

「ただいまー」

 ハルはふふと笑うと、嬉しそうに俺の言葉に答えてくれる。

「おかえり、アキト」
「ハルも言って?」

 じっと見上げながらそう囁けば、ハルは照れくさそうに笑いながらもすぐに口を開いてくれた。そこで照れる所も、たまらなく可愛いんだよなぁ。

「ただいま、アキト」
「うん。おかえり、ハル」

 やっぱり照れくさかったのか頬をうっすらと赤く染めたハルは、俺と目が合うとくしゃりと笑ってみせた。

「このやりとり嫌い?」

 本気で嫌なら止めないと駄目かなと聞いてみたら、ハルはびっくりした顔で答えた。

「まさか!照れくさいけど、特別感があって好きだよ?」
「俺もこのやりとり好きなんだ」
「じゃあこれからも続けようよ。慣れれば照れなくなると思うし」

 照れるハルが見れなくなったら、ちょっとだけ寂しい気もする。でもそれはつまり二人の新しい習慣が出来ていくって事だもんな。

「うん、じゃあこれからも続けよう」

 笑顔で宣言した俺は、荷物を下ろすとすぐに装備を外し始めた。ハルも慣れた様子で手早く装備を解除している。あとは浄化魔法さえかけてしまえば、すぐにベッドに転がっても良いんだから魔法ってすごい。

 採取地ではウロスの登場なんて予想外の事もあったけど、久々に受けた依頼もちゃんと達成できた。ハルと一緒に馬も見れたし、ラーメンも美味しかったな。

 後はハルとイチャイチャできたらそれだけですごく良い一日になるんだけど。俺、恋人が出来たの初めてなんだよ。つまり恋人への甘え方なんて全く分からないって事だ。

 直球でハルとイチャイチャしたいって言うのはありなの?なしなの?俺はぐるぐるとそんな事を考えながら、自分のベッドにぽすんと飛び込んだ。

「アキト、やっぱり疲れた?」
「いや、疲れはそんなに…」
「じゃあさっきまで何を考えてたの?もしよければ教えて?」
「えー…と…笑わない?」

 恐る恐るそう尋ねれば、ハルは不思議そうに首を傾げた。

「笑わないから教えて欲しいな」
「その…ハルとイチャイチャしたいけど、こういう時どうやって誘うのかが分からないなって」

 きょとんと大きく目を見開いたハルに、俺は慌てて言いつのる。

「だって、恋人への甘え方とか知らないんだよ、俺は!いきなりイチャイチャしたいって言ったら引くのかなとか」
「引かないよ!」
「え…引かないの?」
「アキトに誘われたら喜びこそすれ、引くわけがないよね?いつでもどこでも俺はアキトとイチャイチャしたいんだからね!」

 ハルは愛おしそうに俺を見つめながら、あっさりとそう断言してみせた。俺は頬を真っ赤に染めたまま枕に顔を埋めた。何でそんなに恥ずかしい事を、堂々と断言できるんだよ。

 イチャイチャしたいと言い出したのは自分なのに、俺はゴロゴロとベッドの上を転がった。
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