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272.同じものを見れる
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行き交う人も少なくなった夜の大門を、ハルと二人で並んで通り抜けた。衛兵の人達は夜になっても油断なく通り過ぎる人をチェックしていたけれど、俺達に声はかからなかった。悪い事なんてしてないのに、ちょっとだけ緊張するのは何でだろうな。
暖かい魔道具の灯りにぼんやりと照らされたトライプールの街並みは、昼間見るのとは全く違う印象だ。何だか違う街にすら見えてくる。
「すっかり遅くなっちゃったね」
ごめんと謝ろうとしたんだけど、ハルは笑って俺の言葉の続きを遮った。
「でも楽しかったでしょう?」
「うん、本っ当に楽しかった!」
ヨウとも御者さんともいっぱい話せたし、馬もたっぷり堪能させてもらった。近くにいた見物客さんからは、滅多にない距離で馬が見れたってお礼の言葉までもらってしまった。
楽しかったならそれで良いよとあっさりと言い切ると、ハルは楽し気に俺を振り返った。
「夜ごはんは外にする?買って帰るのも良いけど」
「あーどうしよう?ハルは何食べたい?」
「うーん…」
二人であれこれと候補を上げながら細い路地を歩いていると、不意に真後ろから声をかけられた。
「アキトさん、ハルさん」
夜の路地で真後ろから声なんてかけられたら普通なら怖いと思うんだけど、この落ち着いた声には聞き覚えがあった。この世界で出会った幽霊の男性で、遺品を家族に届けたいって願ってた元商人さんだ。
バッと振り向いた俺に、カルツさんは優しく微笑み話しかけてくる。
「ハルさん、見つかったんですね?良かったですね」
「はい、ありがとうございました!カルツさん!」
ハルは驚いた顔で、突然話し出した俺の姿を見つめていた。周りに人がいないからって普通に返事までしちゃったけど、カルツさんが見えないハルからしたら、そりゃあびっくりするよね。
「…カルツさん?」
「あ、ごめん、ハル。そうなんだ、カルツさんがいたから…」
「…見えてる」
「え!?」
「…アキト、俺…カルツさんの姿くっきり見えてるよ」
あまりに衝撃的な言葉に、俺はカルツさんと目を見合わせて固まった。
「声も聞こえてるんでしょうか?」
「はい、ばっちり聞こえてます」
「それは嬉しいですね。もうお話は出来ないと思っていたので」
「俺もカルツさんと話せるのは嬉しいです」
のんびりと会話を続ける二人の横で、俺は思いっきり動揺してた。だってハルが生身になった時点で、幽霊は見えなくなってるって思い込んでたからね。
「なんで…?」
「俺は嬉しいけどな」
ハルは本当に嬉しそうにふわりと笑ってそう呟いた。
「なんで!?だって見えるって嫌な事だって絶対にあるのに」
「アキトだけが見えて嫌な思いをするより、同じものを見たいからね」
「ハル…」
「俺にも同じものが見えるなら、二人で対処を考えれば良いだけだろう?」
まあ幽霊への対処法なんて全く知らないから、そこはアキトに教えて貰わないと駄目だけどねとハルは悪戯っぽく笑った。
ハルの言葉で胸がいっぱいになった俺は、じわりと滲んできそうな涙を必死で堪えていた。本当にハルは格好良いな。見た目ももちろんだけど、何より中身が格好良い。こんな事を言われたら、更にハルの事を好きになってしまうじゃないか。
「お二人は雰囲気が少し変わりましたね」
「あ、えっと、恋人に…なりました」
「それはおめでとうございます!私の言葉には何の効力もありませんが、二人のこれからに祝福を」
「「ありがとうございます」」
二人揃ってお礼を言うと、カルツさんは嬉しそうに息がぴったりだと笑ってくれた。
「ああ、それと…無事に目覚められた事、心からお祝い申し上げます。ハロルドさん」
いつも通りの笑みを浮かべたままさらりと告げられたその言葉に、俺達は思わずカルツさんを凝視してしまった。
「…やっぱり気づいてましたか?」
ある程度予想はしていたのか、ハルは苦笑を浮かべて尋ねた。
「ええまあ。商人にとって情報は何よりも大切な武器ですからね。それをひけらかすようでは三流ですが…」
「さすが凄腕の商人ですね」
ハルに褒められたカルツさんは喜ぶでもなく、一転して申し訳なさそうに俺を見つめてきた。
「アキトさんがハルさんを探しに来た時は、騎士団本部に行くように言うかこれでも悩んだんですよ。黙っていてすみませんでした」
丁重に頭まで下げて謝罪された俺は、慌てて手を振った。
「気にしないでください!もしその話を聞いても、伝手も無いのに騎士団本部にいきなり行くわけにも行かなかっただろうし」
下手したら門番の騎士さんに捕まってたかもしれない。
「そこまで考えて教えなかったんでしょう?」
ハルが笑って尋ねれば、それでも黙っていたのは事実だとカルツさんは答えた。
「カルツさん、俺これからはアキトと一緒にパーティーを組んで冒険者をやるんです」
「ではこれまで通りハルさんとお呼びしましょうか」
「それでお願いします」
「ああ、長い間引き留めてしまいましたね」
「そんなこと!」
「恋人たちの邪魔をしたら精霊に叱られますからね」
それはもしかして異世界の格言とかことわざみたいなものなのかな。
そんなことを考えている間に、カルツさんはあっさりと立ち去ってしまった。
暖かい魔道具の灯りにぼんやりと照らされたトライプールの街並みは、昼間見るのとは全く違う印象だ。何だか違う街にすら見えてくる。
「すっかり遅くなっちゃったね」
ごめんと謝ろうとしたんだけど、ハルは笑って俺の言葉の続きを遮った。
「でも楽しかったでしょう?」
「うん、本っ当に楽しかった!」
ヨウとも御者さんともいっぱい話せたし、馬もたっぷり堪能させてもらった。近くにいた見物客さんからは、滅多にない距離で馬が見れたってお礼の言葉までもらってしまった。
楽しかったならそれで良いよとあっさりと言い切ると、ハルは楽し気に俺を振り返った。
「夜ごはんは外にする?買って帰るのも良いけど」
「あーどうしよう?ハルは何食べたい?」
「うーん…」
二人であれこれと候補を上げながら細い路地を歩いていると、不意に真後ろから声をかけられた。
「アキトさん、ハルさん」
夜の路地で真後ろから声なんてかけられたら普通なら怖いと思うんだけど、この落ち着いた声には聞き覚えがあった。この世界で出会った幽霊の男性で、遺品を家族に届けたいって願ってた元商人さんだ。
バッと振り向いた俺に、カルツさんは優しく微笑み話しかけてくる。
「ハルさん、見つかったんですね?良かったですね」
「はい、ありがとうございました!カルツさん!」
ハルは驚いた顔で、突然話し出した俺の姿を見つめていた。周りに人がいないからって普通に返事までしちゃったけど、カルツさんが見えないハルからしたら、そりゃあびっくりするよね。
「…カルツさん?」
「あ、ごめん、ハル。そうなんだ、カルツさんがいたから…」
「…見えてる」
「え!?」
「…アキト、俺…カルツさんの姿くっきり見えてるよ」
あまりに衝撃的な言葉に、俺はカルツさんと目を見合わせて固まった。
「声も聞こえてるんでしょうか?」
「はい、ばっちり聞こえてます」
「それは嬉しいですね。もうお話は出来ないと思っていたので」
「俺もカルツさんと話せるのは嬉しいです」
のんびりと会話を続ける二人の横で、俺は思いっきり動揺してた。だってハルが生身になった時点で、幽霊は見えなくなってるって思い込んでたからね。
「なんで…?」
「俺は嬉しいけどな」
ハルは本当に嬉しそうにふわりと笑ってそう呟いた。
「なんで!?だって見えるって嫌な事だって絶対にあるのに」
「アキトだけが見えて嫌な思いをするより、同じものを見たいからね」
「ハル…」
「俺にも同じものが見えるなら、二人で対処を考えれば良いだけだろう?」
まあ幽霊への対処法なんて全く知らないから、そこはアキトに教えて貰わないと駄目だけどねとハルは悪戯っぽく笑った。
ハルの言葉で胸がいっぱいになった俺は、じわりと滲んできそうな涙を必死で堪えていた。本当にハルは格好良いな。見た目ももちろんだけど、何より中身が格好良い。こんな事を言われたら、更にハルの事を好きになってしまうじゃないか。
「お二人は雰囲気が少し変わりましたね」
「あ、えっと、恋人に…なりました」
「それはおめでとうございます!私の言葉には何の効力もありませんが、二人のこれからに祝福を」
「「ありがとうございます」」
二人揃ってお礼を言うと、カルツさんは嬉しそうに息がぴったりだと笑ってくれた。
「ああ、それと…無事に目覚められた事、心からお祝い申し上げます。ハロルドさん」
いつも通りの笑みを浮かべたままさらりと告げられたその言葉に、俺達は思わずカルツさんを凝視してしまった。
「…やっぱり気づいてましたか?」
ある程度予想はしていたのか、ハルは苦笑を浮かべて尋ねた。
「ええまあ。商人にとって情報は何よりも大切な武器ですからね。それをひけらかすようでは三流ですが…」
「さすが凄腕の商人ですね」
ハルに褒められたカルツさんは喜ぶでもなく、一転して申し訳なさそうに俺を見つめてきた。
「アキトさんがハルさんを探しに来た時は、騎士団本部に行くように言うかこれでも悩んだんですよ。黙っていてすみませんでした」
丁重に頭まで下げて謝罪された俺は、慌てて手を振った。
「気にしないでください!もしその話を聞いても、伝手も無いのに騎士団本部にいきなり行くわけにも行かなかっただろうし」
下手したら門番の騎士さんに捕まってたかもしれない。
「そこまで考えて教えなかったんでしょう?」
ハルが笑って尋ねれば、それでも黙っていたのは事実だとカルツさんは答えた。
「カルツさん、俺これからはアキトと一緒にパーティーを組んで冒険者をやるんです」
「ではこれまで通りハルさんとお呼びしましょうか」
「それでお願いします」
「ああ、長い間引き留めてしまいましたね」
「そんなこと!」
「恋人たちの邪魔をしたら精霊に叱られますからね」
それはもしかして異世界の格言とかことわざみたいなものなのかな。
そんなことを考えている間に、カルツさんはあっさりと立ち去ってしまった。
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