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270.【ハル視点】ウマに好かれるアキト
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俺にとっては使い慣れたいつもの小道を、ただ二人並んで歩いていく。ただそれだけの事なのに、アキトと一緒だと特別な時間に感じてしまう。
アキトは風を受けてふわりと笑い、鳥の声がすれば木の上に視線を動かし、道端で揺れる花をじっと見つめてみたりと忙しそうだ。微笑ましい動きをこっそりと見守りながらも気配探知をしていた俺を、アキトはちらりと見上げた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
アキトの言葉に改めて周りを見てみれば、確かに朝の道と同じような道の曲がり方だ。さっきの鳥の声は朝も聞いた気がするし、アキトがみつめていた花もそういえばあったな。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
俺が指差したのは、木々の間から見える馬車乗り場の建物だ。この辺りでは珍しい黒レンガを使って建てられているため、遠くから見ても一目瞭然だろう。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
慌てた様子でそう言いつのるキトの頭を、俺はぽんぽんと撫でた。疑われたなんてかけらも思ってない。知ってるよと軽く伝えれば、アキトは安心したようにふにゃりと笑った。
「ほら、行こう」
この小道は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっている。周りを興味深そうに見回しているアキトの前に、俺はそっと手を差し出した。
一瞬だけ驚いた顔をしたアキトは、次の瞬間には慌てて手を繋いでくれた。アキトも俺と手を繋ぎたいと思ってくれていたみたいだな。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
ウマの気配がこれだけたくさん集まっている場所に、わざわざ近寄ってくるような命知らずな魔物なんて滅多にいない。ただそれだけの理由だが、安全な事は嘘ではない。
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進めた。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にあるウマのための放牧場だ。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、アキトの喉から感嘆の声が漏れた。夕日に照らされた草原を、ウマが数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿はかなり見ごたえがあった。
「これはすごいね!」
思わずそう声を上げれば、アキトは嬉しそうに笑った。
「うん、すごいね!」
俺達はゆっくりと放牧場の柵の近くに近づいていくと、そこで並んで立ち止まった。ウマたちは、走り回ったり寝転がったりと自由に過ごしているようだ。アキトの目はキラキラと輝いていて、北門から帰ってきて良かったなとしみじみそう思った。
ふと気配に目を上げた俺は、まっすぐ近づいてくる真っ白なウマを見つめながらアキトに声をかけた。
「アキト、気を付けて」
思わず庇うように前に出てしまうほどの威圧感を出しながら、まっすぐに近づいてくる。アキトは不思議そうな顔をしているから、これは俺に対してだけ威圧感を出しているのか。
近づいてきた白いウマは、警戒する俺を見てふんと鼻を鳴らした。そのまま俺の存在を完全に無視したまま、アキトの手の近くにすいっと鼻先を差し出した。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
アキトがこの世界に来てから二回だけ利用した馬車は、どちらもこのヨウが引いていたものだった。当時からアキトの事を気に入っていたなと思いながら気配を探れば、俺に対してはともかくアキトに敵意は無いようだった。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
残念そうにしながらもアキトがはっきりと断れば、ヨウはすっと顔を離すとそのまま走り去っていった。ああ、止める暇さえなかったな。俺はこれから起きるだろう騒動を想像してちいさくため息を吐いた。
この世界のウマは元は魔物だ。成長すれば人語も理解するようになる、それほどに聡明な生き物だ。人の好き嫌いはすごいがな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
断言した俺の言葉に被るように、遠くから野太い男の叫び声が近づいてくる。周りでウマを眺めていた見物客も、何事かと身構えているようだ。誰だってウマの暴走に巻き込まれたくは無いからな。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
俺は苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である御者だった。
うちのアキトが話しかけてしまったばっかりにすまないな。
どれだけ宥められても御者の言葉を綺麗に無視して駆け寄ってきたヨウは、アキトの目の前まで来ると唐突に動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者は、それでも慣れた様子でひらりとウマの背中から飛び降りた。
アキトは風を受けてふわりと笑い、鳥の声がすれば木の上に視線を動かし、道端で揺れる花をじっと見つめてみたりと忙しそうだ。微笑ましい動きをこっそりと見守りながらも気配探知をしていた俺を、アキトはちらりと見上げた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
アキトの言葉に改めて周りを見てみれば、確かに朝の道と同じような道の曲がり方だ。さっきの鳥の声は朝も聞いた気がするし、アキトがみつめていた花もそういえばあったな。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
俺が指差したのは、木々の間から見える馬車乗り場の建物だ。この辺りでは珍しい黒レンガを使って建てられているため、遠くから見ても一目瞭然だろう。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
慌てた様子でそう言いつのるキトの頭を、俺はぽんぽんと撫でた。疑われたなんてかけらも思ってない。知ってるよと軽く伝えれば、アキトは安心したようにふにゃりと笑った。
「ほら、行こう」
この小道は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっている。周りを興味深そうに見回しているアキトの前に、俺はそっと手を差し出した。
一瞬だけ驚いた顔をしたアキトは、次の瞬間には慌てて手を繋いでくれた。アキトも俺と手を繋ぎたいと思ってくれていたみたいだな。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
ウマの気配がこれだけたくさん集まっている場所に、わざわざ近寄ってくるような命知らずな魔物なんて滅多にいない。ただそれだけの理由だが、安全な事は嘘ではない。
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進めた。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にあるウマのための放牧場だ。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、アキトの喉から感嘆の声が漏れた。夕日に照らされた草原を、ウマが数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿はかなり見ごたえがあった。
「これはすごいね!」
思わずそう声を上げれば、アキトは嬉しそうに笑った。
「うん、すごいね!」
俺達はゆっくりと放牧場の柵の近くに近づいていくと、そこで並んで立ち止まった。ウマたちは、走り回ったり寝転がったりと自由に過ごしているようだ。アキトの目はキラキラと輝いていて、北門から帰ってきて良かったなとしみじみそう思った。
ふと気配に目を上げた俺は、まっすぐ近づいてくる真っ白なウマを見つめながらアキトに声をかけた。
「アキト、気を付けて」
思わず庇うように前に出てしまうほどの威圧感を出しながら、まっすぐに近づいてくる。アキトは不思議そうな顔をしているから、これは俺に対してだけ威圧感を出しているのか。
近づいてきた白いウマは、警戒する俺を見てふんと鼻を鳴らした。そのまま俺の存在を完全に無視したまま、アキトの手の近くにすいっと鼻先を差し出した。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
アキトがこの世界に来てから二回だけ利用した馬車は、どちらもこのヨウが引いていたものだった。当時からアキトの事を気に入っていたなと思いながら気配を探れば、俺に対してはともかくアキトに敵意は無いようだった。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
残念そうにしながらもアキトがはっきりと断れば、ヨウはすっと顔を離すとそのまま走り去っていった。ああ、止める暇さえなかったな。俺はこれから起きるだろう騒動を想像してちいさくため息を吐いた。
この世界のウマは元は魔物だ。成長すれば人語も理解するようになる、それほどに聡明な生き物だ。人の好き嫌いはすごいがな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
断言した俺の言葉に被るように、遠くから野太い男の叫び声が近づいてくる。周りでウマを眺めていた見物客も、何事かと身構えているようだ。誰だってウマの暴走に巻き込まれたくは無いからな。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
俺は苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である御者だった。
うちのアキトが話しかけてしまったばっかりにすまないな。
どれだけ宥められても御者の言葉を綺麗に無視して駆け寄ってきたヨウは、アキトの目の前まで来ると唐突に動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者は、それでも慣れた様子でひらりとウマの背中から飛び降りた。
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