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269.【ハル視点】これからの予定は
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景色も居心地も良い休憩所に二人きり。繋いだ手をそのままに話し込む。そんな穏やかな時間が幸せすぎて、ちょっとのんびりし過ぎたかもしれない。そろそろ次の採取を始めないと、帰る時間が読めなくなる。
「アキト、そろそろ行こうか」
「そうだね、だいぶゆっくりしちゃったし」
自分で切り出しておいてなんだが、離れていったアキトの手が名残惜しくて仕方がない。こうなったらさっさと採取を終わらぜて、トライプールに帰ろう。そうすれば手なんていくらでも繋げる。何といっても俺とアキトは恋人同士なんだから。
密かにそう決意してからホワイトブランカを探し出した俺は、その後すぐに群生地を見つけてしまった。どれだけアキトと手を繋ぎたかったんだ。必死な自分に笑ってしまいそうになった。
「終わっちゃったね」
二人並んでの採取を終えたアキトは、あまりにあっさりと終わった依頼に拍子抜けしたようだった。冒険者をやっていればこういう日はたまにあるが、それにしても今日は早かったな。
「ああ。少しは残しておいたけど、それにしてもすごい量だ」
「たくさん採れたね」
アキトは穏やかに話しをしながらも、採取したばかりのホワイトブランカを手早く束ねるとツタを使って括っていく。その手つきは流れるようで、すっかりりっぱな冒険者といった感じだ。
「今日の依頼分も無事に終わったし、帰ろうか」
先に立ち上がった俺は、すっとアキトに手を差し伸べた。エスコートなんて柄じゃないが、アキト相手だと自然とそうしたくなるんだよな。きゅっと掴んでくれた手を、ぐいっと引っ張ればアキトの体はあまりにも簡単に持ち上がった。
「うん、帰ろう!」
俺達はまだまばらにしか人がいない草原を歩き出した。
「今日は早く終わったね」
「ああ、レボネの花をアキトがあっさり見つけたからね」
「え、でもホワイトブランカはハルがあっさり見つけたよね?」
「いやアキトだよ」
「ううん、ハルだよ」
「でも」
「いやいや」
歩きながら言い合っていた俺達は、顔を見合わせると二人同時に吹きだした。二人とも一歩も引かずに、相手のおかげだと言い合うなんて。普通なら手柄の取り合いになってもおかしくない状況なのにな。
「二人とも運が良かったおかげで早く終わったって事にしようか」
「賛成!」
「ちょっと時間が出来たからどうしようか?」
「んー…冒険者ギルドは?」
真面目なアキトの提案に、俺は緩く首を振って否定を返した。もし報告にいけばメロウに捕まるかもしれない。捕まってしまえば手紙の解説を求められるだろうし、ウロスの報告もするとなるときっと――いや確実に長くなる。
「今日の報告は明日でも問題ないから、どこかアキトが行きたい場所があれば行こうか?」
誤魔化すように続ければ、アキトはうーんと唸るなりそのまま固まってしまった。
「ゆっくり考えて良いから、何か思いついたら教えて」
急かすつもりはないからと声をかければ、アキトは更に必死に考え始めてしまった。俺からも何かを提案するべきかなと一緒になって考えていると、ふいにアキトは周りを見渡しゆるりと首を傾げた。
「あれ…?」
「どうかした?」
「俺達が来たのはこっちだよね?じゃああっちはどこに繋がってるの?」
二つの小道を順番に指差しながらアキトは俺に尋ねた。こういうちょっとした疑問に思った事をすぐに尋ねてくれるのはアキトの長所だな。
「ああ、あっちは北門につながってるんだ」
「え、北門!?」
アキトは驚いた顔で、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「コノーア草原はどちらの門からも同じくらいの距離にあるんだ。ただ、朝早くは北門の方が混雑するからね」
早朝から移動を開始する冒険者や商人達は、遠方に行く人が多い。その分馬車を利用する人も必然的に多くなるため、北門はかなり混みあってしまうのだ。どちらから出ても問題が無いなら、朝早い時は南門を選ぶのが一般的だ。
「そうなんだ…まだまだ知らない事がいっぱいあるんだなー」
「ゆっくり覚えていけば良いよ。これからはいつも一緒にいるんだし」
何でも聞いてと言えば、アキトはくすぐったそうに笑いながらでも嬉しそうに頷いてくれた。ああ、可愛いな。アキトが喜ぶ事は何だろうと考えた瞬間、不意にひらめいた。
「あ、良い事考えついたかも!」
「良い事?」
「北門に帰れば、アキトの好きなウマが見れるかもしれないよ」
期待に目をキラキラさせたアキトは、一転して心配そうな表情に変わった。どうしたのかと見つめていれば、おずおずと尋ねてくる。
「え?…いいの?」
「もちろん」
「でも俺、馬見てたら話せないから…」
自分がウマに見惚れて会話をできなくなるかもという心配だったのか。アキトの気持ちを理解した俺は、その優しい気遣いに自然と微笑んでいた。
「大丈夫だよ。俺もウマは好きだし」
断言した俺に、アキトはまだ不安そうな表情を浮かべていた。
「もし飽きたらアキトを見てるから問題ないよ」
慌ててそう付け加えれば、きょとんと不思議そうな顔で見上げてくる。
「えー…俺見て楽しい?」
「俺にとっては何より楽しいよ」
アキトはしばらく考えてから、じゃあ北門から帰りたいとやっと希望を口にした。
「もちろん」
アキトにとって楽しい時間になると良い。そう考えながら俺はゆっくりと歩き出した。
「アキト、そろそろ行こうか」
「そうだね、だいぶゆっくりしちゃったし」
自分で切り出しておいてなんだが、離れていったアキトの手が名残惜しくて仕方がない。こうなったらさっさと採取を終わらぜて、トライプールに帰ろう。そうすれば手なんていくらでも繋げる。何といっても俺とアキトは恋人同士なんだから。
密かにそう決意してからホワイトブランカを探し出した俺は、その後すぐに群生地を見つけてしまった。どれだけアキトと手を繋ぎたかったんだ。必死な自分に笑ってしまいそうになった。
「終わっちゃったね」
二人並んでの採取を終えたアキトは、あまりにあっさりと終わった依頼に拍子抜けしたようだった。冒険者をやっていればこういう日はたまにあるが、それにしても今日は早かったな。
「ああ。少しは残しておいたけど、それにしてもすごい量だ」
「たくさん採れたね」
アキトは穏やかに話しをしながらも、採取したばかりのホワイトブランカを手早く束ねるとツタを使って括っていく。その手つきは流れるようで、すっかりりっぱな冒険者といった感じだ。
「今日の依頼分も無事に終わったし、帰ろうか」
先に立ち上がった俺は、すっとアキトに手を差し伸べた。エスコートなんて柄じゃないが、アキト相手だと自然とそうしたくなるんだよな。きゅっと掴んでくれた手を、ぐいっと引っ張ればアキトの体はあまりにも簡単に持ち上がった。
「うん、帰ろう!」
俺達はまだまばらにしか人がいない草原を歩き出した。
「今日は早く終わったね」
「ああ、レボネの花をアキトがあっさり見つけたからね」
「え、でもホワイトブランカはハルがあっさり見つけたよね?」
「いやアキトだよ」
「ううん、ハルだよ」
「でも」
「いやいや」
歩きながら言い合っていた俺達は、顔を見合わせると二人同時に吹きだした。二人とも一歩も引かずに、相手のおかげだと言い合うなんて。普通なら手柄の取り合いになってもおかしくない状況なのにな。
「二人とも運が良かったおかげで早く終わったって事にしようか」
「賛成!」
「ちょっと時間が出来たからどうしようか?」
「んー…冒険者ギルドは?」
真面目なアキトの提案に、俺は緩く首を振って否定を返した。もし報告にいけばメロウに捕まるかもしれない。捕まってしまえば手紙の解説を求められるだろうし、ウロスの報告もするとなるときっと――いや確実に長くなる。
「今日の報告は明日でも問題ないから、どこかアキトが行きたい場所があれば行こうか?」
誤魔化すように続ければ、アキトはうーんと唸るなりそのまま固まってしまった。
「ゆっくり考えて良いから、何か思いついたら教えて」
急かすつもりはないからと声をかければ、アキトは更に必死に考え始めてしまった。俺からも何かを提案するべきかなと一緒になって考えていると、ふいにアキトは周りを見渡しゆるりと首を傾げた。
「あれ…?」
「どうかした?」
「俺達が来たのはこっちだよね?じゃああっちはどこに繋がってるの?」
二つの小道を順番に指差しながらアキトは俺に尋ねた。こういうちょっとした疑問に思った事をすぐに尋ねてくれるのはアキトの長所だな。
「ああ、あっちは北門につながってるんだ」
「え、北門!?」
アキトは驚いた顔で、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
「コノーア草原はどちらの門からも同じくらいの距離にあるんだ。ただ、朝早くは北門の方が混雑するからね」
早朝から移動を開始する冒険者や商人達は、遠方に行く人が多い。その分馬車を利用する人も必然的に多くなるため、北門はかなり混みあってしまうのだ。どちらから出ても問題が無いなら、朝早い時は南門を選ぶのが一般的だ。
「そうなんだ…まだまだ知らない事がいっぱいあるんだなー」
「ゆっくり覚えていけば良いよ。これからはいつも一緒にいるんだし」
何でも聞いてと言えば、アキトはくすぐったそうに笑いながらでも嬉しそうに頷いてくれた。ああ、可愛いな。アキトが喜ぶ事は何だろうと考えた瞬間、不意にひらめいた。
「あ、良い事考えついたかも!」
「良い事?」
「北門に帰れば、アキトの好きなウマが見れるかもしれないよ」
期待に目をキラキラさせたアキトは、一転して心配そうな表情に変わった。どうしたのかと見つめていれば、おずおずと尋ねてくる。
「え?…いいの?」
「もちろん」
「でも俺、馬見てたら話せないから…」
自分がウマに見惚れて会話をできなくなるかもという心配だったのか。アキトの気持ちを理解した俺は、その優しい気遣いに自然と微笑んでいた。
「大丈夫だよ。俺もウマは好きだし」
断言した俺に、アキトはまだ不安そうな表情を浮かべていた。
「もし飽きたらアキトを見てるから問題ないよ」
慌ててそう付け加えれば、きょとんと不思議そうな顔で見上げてくる。
「えー…俺見て楽しい?」
「俺にとっては何より楽しいよ」
アキトはしばらく考えてから、じゃあ北門から帰りたいとやっと希望を口にした。
「もちろん」
アキトにとって楽しい時間になると良い。そう考えながら俺はゆっくりと歩き出した。
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