生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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267.【ハル視点】アボカドという野菜

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 槍使いだと名乗ったハドリーは、ひねっただけだという足首を固定するとすぐに立ち上がった。少し引きずってはいるが、リマの支えがあれば移動に問題はなさそうだ。

「すごい、手早い!」

 感心した様子のアキトの声に、ハドリーとリマは笑って答える。

「冒険者ならこれぐらいの手当はできて当然だよ」
「さすがにウロスがいる状況じゃ無理だったけどなぁ」

 尊敬の眼差しで見つめてくるアキトに照れながらも、二人は怪我をしないのが一番すごいんだよとか、もし怪我をしたら止血さえできれば大丈夫だとか説明をしてくれている。

 アキトに優しくされると、自分に優しくされるよりも嬉しいなんて俺も変わったな。

「送っていこうか?」

 そんな言葉が飛び出してきた事に、自分でも少し驚いてしまった。

「ウロスほどの強さの敵がこなけりゃ、私一人で倒せるよ」

 リマはそう言い切ると、背負っていた大剣をぽんぽんと叩いてみせた。まあその武器を使いこなせるなら、帰り道に出るような敵はほとんど問題ないだろうな。

「それもそうか」
「じゃあここで、本当にありがとう」
「またな。アキト、ハル」

 手を振って去っていく二人の背中を見送ってから、俺達は人けの減った草原をぐるりと見渡した。あの騒ぎのせいでほとんどの冒険者は既に帰っているし、きちんとギルドに報告が入ったのか新しくやってくる冒険者もほとんどいないようだ。

「これからどうしよっか?」
「ホワイトブランカの採取もしないとだけど、まずは昼食にしよっか」

 時間的にはお昼を過ぎた頃だしと声をかければ、アキトは嬉しそうに笑ってくれた。

「うん、ご飯にしよう」
「じゃあアキト、あっちに行こう」
「どこか良い場所がある感じ?」
「ああ、とっておきの場所があるよ」

 その場所を知っている冒険者の間ではいつも争奪戦になる人気の場所だが、今日はあの騒動で人も少ないしかなり狙い目だ。そう説明すれば、アキトは興味深そうに目を輝かせた。これは絶対に連れて行ってやらないとな。俺はアキトに目くばせをすると、すぐに歩き出した。

 ワクワクした様子のアキトを連れてやってきたのは、白い花で囲まれた草原の一角だった。ここだけは草も短めに刈り取られていて、過ごしやすい環境が整えられている。

 元々は休憩所にするべくギルドが作った場所だったが、あまりに人気がありすぎるため最近はギルドでもここの情報はわざわざ教えないようになった。つまりここに来るには自力で見つけるか、誰かに教えてもらうかしか辿り着く方法は無い。

 今はたった二人の男性冒険者しかいないけれど、普段は腰を下ろす場所を探すのも大変な状態だ。

「うわーすごいね」
「気に入った?」
「うん、気に入った!でも…ここが混んでる時はどうしてるの?」

 アキトは不思議そうにそう尋ねてきた。

「どうしてもここが混みあってる時は、木に登ったり…」
「え、木に登るって言ってもそんなに木無かったよね?」

 言葉を挟んだアキトに、俺は真面目な顔を作って頷いてから続けた。

「それも奪い合いなんだよ」
「えー…木も無理だったら?」

 眉を下げて心配そうに尋ねてきたアキトに、俺はあっさりと答えた。

「もう立ったまま食事をするか、キニーアの森まで抜けて食事をするかだね」

 衝撃を受けたらしいアキトは、驚いた顔で固まってしまった。

「雨の後で地面がぬかるんでたりしたら、立ったまま食事もよくある事だよ?」
「え、そうなんだ?」
「ケビンなんかは、汚れても後で浄化魔法をかけるから一緒だって座り込んでたけどね」

 俺は隊から離れてでも、木に登る派だったけどな。

「うわー…やりそう」

 しみじみと呟いたアキトの答えに、俺は思わずブハッと吹き出した。ケビンの性格をばっちり把握してるみたいだな。

 話をしながらも場所を探していた俺は、特に花の綺麗そうな奥まった場所を選んで声をかけた。

「この辺で良いかな」
「うん」

 いそいそと屋台で買った昼食を用意するアキトを微笑ましく見つめていると、不意に男達が近づいてきた。

「さっきは助かった」
「ありがとう」
「いや、俺達も自分たちの身を守るためだったから」

 気にするなと返せば、男は右手に持っていたノルパルの実をそっと差し出してきた。

「これ、さっき採取したばかりなんだが良かったら」

 よく熟れた真っ青なノルパルの実は、売りに出せばそれなりの値段になる果物だ。

「いいのか?」
「ああ、二人で食べてくれ」

 視線を向ければもう一人の男性も、笑って頷いている。これは貰っても大丈夫そうかなと俺は素直に受け取る事を決めた。 

「ありがとう」

 俺が礼を言えば、アキトもすぐに言葉を重ねた。

「ありがとうございます」
「こっちこそ助かった」
「ありがとね」

 二人は律儀にももう一度礼を述べると、そのまま休憩所を去っていった。

「貰っちゃったね」
「ああ、これはノルパルの実って言うんだ。ちょっと珍しいやつだよ」

 アキトはじーっと俺の手にあるノルパルの実を見つめている。元々好奇心旺盛なアキトだけど、この反応は何かが違う気がする。一体どうしたんだろう?

「ノルパルの実っていうんだ」
「濃厚な甘みでちょっとクリーム状で…説明が難しいな」

 食べた方が分かりやすいかもしれないと考えていた俺に、アキトはちいさく手招きをした。隣に座ったままでの手招きに、どうしたんだろうと思いながらもそっと顔を近づける。

「俺の故郷にはそれに似た野菜があったんだ」
「へぇーどんなの?」
「アボカドって言う野菜」

 なるほど、異世界の話だから警戒しているのか。この距離での会話なら、今から休憩所に人が来ても聞こえる事はないだろうな。

「皮は食べられなくてね、真ん中に種があるんだ」
「ああ、それは似てるかもしれない。これも皮は食べれないし真ん中に種があるよ」

 こそこそと耳元で話すのは内緒話のようで何だか楽しい。人が近くにいない事なんて気配探知で分かっているのに、それでもこの会話を続けたくなってしまう。

「種が小さいと得した気分で、種が大きいと損した気分になってたなー」
「ああ、それはこれもよく言われるよ!切ってしまうと色が変わるから切り売りには向かないんだ」
「そんなところまで似てるんだ…まさか同意してもらえるとは思わなかったよ」

 アキトはそう言うと嬉しそうに笑いだした。

「俺もまさかこんな話が出来るとは思ってなかったよ」

 もしかしたら、他にもこういう共通点があるのかもしれない。そう思うとワクワクしてくる。

「よしアボカドに似た実は、食後の楽しみにしよう」

 あえてアボカドという呼び方で囁けば、アキトはくすぐったそうに笑った。
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