266 / 1,179
265.馬の放牧場
しおりを挟む
小道を吹き抜ける爽やかな風が、動いたせいで少し汗ばんだ体に心地良い。木々の上から聞こえてくる鳥の声に耳を傾けながら、俺は隣を歩くハルを見上げた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
ハルが教えてくれた道じゃなかったら、多分今頃不安になってた。もしかしてどこかで道を間違えたんじゃないかなって心配になって、何だったら途中で引き返しててもおかしくない。それぐらいどこまでもそっくりな小道だった。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
ハルが指差した所を見てみれば、確かに木々の間から見覚えのある建物が見えていた。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
これだけはちゃんと言っておかないとと慌てて口を開けば、ハルは知ってると笑って俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「ほら、行こう」
小道の出口は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっていた。へぇ、こんな所に繋がってるんだな。感心しながら周りを見回していると、不意にハルの手が俺の前に差し出された。
え、これって手を繋いで良いって事?でもまだトライプールの中に入ってないのに?
そう思ったのは一瞬だけで、引っ込められる前にと俺は慌てて手を繋いだ。そんな俺の動きにハルはクスクスと笑いだす。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進める。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にある馬のための放牧場だからね。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声が漏れた。夕日に照らされたオレンジがかった草原を、馬が数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿は圧巻だ。
「これはすごいね!」
隣で声を上げたハルの声も心なしか弾んでいて、それがなんだかすごく嬉しかった。同じ物を見て感動できるのって嬉しいんだよね。
「うん、すごいね!」
放牧場の柵の近くに、ハルと二人で並んで立つ。走り回ったり寝転がったりと自由な馬の姿を眺めて楽しんでいると、不意に真っ白な馬がまっすぐ俺達に近づいてきた。
「アキト、気を付けて」
そう言うなりハルは俺を庇うように前に立った。え、馬に気を付けるの?と一瞬だけ思ってしまったけど、そういえばこの馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。
近づいてきた白馬は警戒するハルを見てふんと鼻を鳴らすと、俺の手の近くにすいっと鼻先を差し出してきた。撫でろと言いたげなその仕草には、見覚えがあった。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
この世界に来てから二回乗った馬車は、両方ともこのヨウが引いてくれていた。なるほどと警戒を解いたハルと並んで、ヨウとじっと見つめ合う。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
すっごくすっごく残念だけど。眉を下げながら説明すれば、ヨウは俺の言葉を理解したかのようにすっと顔を離すとそのまま走り去ってしまった。ああ、行っちゃったな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
もしそうなら嬉しいなと考えていると、遠くから叫び声が近づいてきた。周りで馬を眺めていた人達も、全員が何事かと身構えている。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
ハルは苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である見覚えのある御者のおじさんだった。どれだけ声をかけられても綺麗に無視をしていたヨウは、俺達の目の前まで来るとぴたりとその動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者さんは、それでもひらりと馬の背から飛び降りた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
ハルが教えてくれた道じゃなかったら、多分今頃不安になってた。もしかしてどこかで道を間違えたんじゃないかなって心配になって、何だったら途中で引き返しててもおかしくない。それぐらいどこまでもそっくりな小道だった。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
ハルが指差した所を見てみれば、確かに木々の間から見覚えのある建物が見えていた。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
これだけはちゃんと言っておかないとと慌てて口を開けば、ハルは知ってると笑って俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「ほら、行こう」
小道の出口は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっていた。へぇ、こんな所に繋がってるんだな。感心しながら周りを見回していると、不意にハルの手が俺の前に差し出された。
え、これって手を繋いで良いって事?でもまだトライプールの中に入ってないのに?
そう思ったのは一瞬だけで、引っ込められる前にと俺は慌てて手を繋いだ。そんな俺の動きにハルはクスクスと笑いだす。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進める。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にある馬のための放牧場だからね。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声が漏れた。夕日に照らされたオレンジがかった草原を、馬が数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿は圧巻だ。
「これはすごいね!」
隣で声を上げたハルの声も心なしか弾んでいて、それがなんだかすごく嬉しかった。同じ物を見て感動できるのって嬉しいんだよね。
「うん、すごいね!」
放牧場の柵の近くに、ハルと二人で並んで立つ。走り回ったり寝転がったりと自由な馬の姿を眺めて楽しんでいると、不意に真っ白な馬がまっすぐ俺達に近づいてきた。
「アキト、気を付けて」
そう言うなりハルは俺を庇うように前に立った。え、馬に気を付けるの?と一瞬だけ思ってしまったけど、そういえばこの馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。
近づいてきた白馬は警戒するハルを見てふんと鼻を鳴らすと、俺の手の近くにすいっと鼻先を差し出してきた。撫でろと言いたげなその仕草には、見覚えがあった。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
この世界に来てから二回乗った馬車は、両方ともこのヨウが引いてくれていた。なるほどと警戒を解いたハルと並んで、ヨウとじっと見つめ合う。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
すっごくすっごく残念だけど。眉を下げながら説明すれば、ヨウは俺の言葉を理解したかのようにすっと顔を離すとそのまま走り去ってしまった。ああ、行っちゃったな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
もしそうなら嬉しいなと考えていると、遠くから叫び声が近づいてきた。周りで馬を眺めていた人達も、全員が何事かと身構えている。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
ハルは苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である見覚えのある御者のおじさんだった。どれだけ声をかけられても綺麗に無視をしていたヨウは、俺達の目の前まで来るとぴたりとその動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者さんは、それでもひらりと馬の背から飛び降りた。
388
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる