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262.お昼ご飯にしよう
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ハドリーさんはひねったという足首を自分で手早く布で固定すると、リマさんに支えられてコノーア草原を去っていった。冒険者はそれぐらいの手当はできて当然なんだって。
送っていこうかとハルが聞いてくれたんだけど、リマさんの返事はあっさりしたものだった。
「ウロスほどの強さの敵がこなけりゃ、私一人で倒せるよ」
「それもそうか」
ハルはそう言うと笑って頷いた。うん、リマさん明らかに強そうだもんね。俺だったら持ち上がるかすら怪しい大きな剣を、軽々と扱ってウロスに向かって構えてたわけだし。
「じゃあここで、本当にありがとう」
「またな。アキト、ハル」
手を振って去っていく二人を見送ってから、俺達は人けの減った草原を見渡した。あの騒ぎのせいでほとんどの冒険者は帰っちゃったからね。
「これからどうしよっか?」
「ホワイトブランカの採取もしないとだけど、まずは昼食にしよっか」
ウロス騒動で、結構時間かかっちゃったもんな。言われるまでは忘れてたのに、言われた途端にお腹が空いてきた。
「うん、ご飯にしよう」
「じゃあアキト、あっちに行こう」
「どこか良い場所がある感じ?」
「ああ、とっておきの場所があるよ」
何でもその場所は、普段なら混みあってて知ってる冒険者の間では争奪戦らしい。でも今の騒動で人が少ないから、今日は狙い目だと思うと教えてくれた。
ハルの先導で辿り着いたのは、綺麗な白い花に囲まれた一角だった。膝ぐらいの高さの草に覆われてる草原の中で、ここだけは十センチ程度の長さにしっかりと刈りこまれている。ピクニックするならこんな所が良いなって想像するような場所だった。
「うわーすごいね」
「気に入った?」
「うん、気に入った!でも…ここが混んでる時はどうしてるの?」
今日は端の方に陣取ってる男性二人組しかいないみたいだけど、争奪戦とまで言うなら毎回こうじゃないって事だよね。
「どうしてもここが混みあってる時は、木に登ったり…」
「え、木に登るって言ってもそんなに木無かったよね?」
思わず言葉を挟めば、ハルは真面目な顔で頷いてから続けた。
「それも奪い合いなんだよ」
「えー…木も無理だったら?」
「もう立ったまま食事をするか、キニーアの森まで抜けて食事をするかだね」
そんなに大変なのか。
「雨の後で地面がぬかるんでたりしたら、立ったまま食事もよくある事だよ?」
「え、そうなんだ?」
「ケビンなんかは、汚れても後で浄化魔法をかけるから一緒だって座り込んでたけどね」
「うわー…やりそう」
思わずそう答えれば、ハルはブハッと噴き出した。
「この辺で良いかな」
「うん」
今日のお昼は、ハルがおすすめだっていう屋台で買って来たから楽しみにしてたんだよね。上機嫌で鞄の中に手を入れていると、ハルがふと視線を上げた。どうしたのかと視線の先を追えば、すでに食事を終えていたらしい二人組が近づいてきた。
「さっきは助かった」
「ありがとう」
「いや、俺達も自分たちの身を守るためだったから」
「これ、さっき採取したばかりなんだが良かったら」
男が差し出してきたのは、俺の目からはどう見ても皮が青いアボカドにしか見えない。
「いいのか?」
「ああ、二人で食べてくれ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「こっちこそ助かった」
「ありがとう」
冒険者にも色んな人がいるんだな。去っていく背中を見つめながらついついそんな事を考えてしまった。
「貰っちゃったね」
「ああ、これはノルパルの実って言うんだ。ちょっと珍しいやつだよ」
ハルが珍しいって言うなんて、そんなものくれて良かったのかな。そう思ったけど、もういなくなっちゃった名前も知らない冒険者を探して返すわけにもいかないよね。一瞬で割り切った俺は、ハルの手元をじっと見つめた。見れば見る程青いアボカドだ。
「ノルパルの実っていうんだ」
「濃厚な甘みでちょっとクリーム状で…説明が難しいな」
今はここにいるのは俺達だけだけど、他の人に聞かれたら困る。そう思った俺は隣に座っていたハルを手招いた。ハルは不思議そうにしながらもすぐに顔を近づけてくれる。
「俺の故郷にはそれに似た野菜があったんだ」
「へぇーどんなの?」
「アボカドって言う野菜」
興味深そうなハルに皮は食べられないとか、真ん中に種があるとか耳元に顔を近づけたまま説明をした。
「ああ、それは似てるかもしれない。これも皮は食べれないし真ん中に種があるよ」
そうなんだ。アボカドは母がすごく好きだったんだよね。小さい頃から食べ慣れてたからか、一人暮らしになってからもたまに買ってた。
粗めにつぶしてマヨネーズと塩コショウ、ちょっとだけ醤油をたらしてサンドイッチにしたら、簡単なのにすっごい美味しかったんだよね。懐かしいな。
「種が小さいと得した気分で、種が大きいと損した気分になってたなー」
「ああ、それはこれもよく言われるよ!」
なんでも切ってしまうと色が変わるからって切り売りには向かないんだって。そんな所まで似てるなんて、ノルパルの実ってもしかしてアボカドの親戚なのかな。
「まさか同意してもらえるとは」
「俺もまさかこんな話が出来るとは思ってなかったよ」
なんて言い合いながら、俺達は買ってあった食事を取り出した。
「よしアボカドに似た実は、食後の楽しみにしよう」
「デザート付きなんて豪華だね」
ハルと同じ感覚を共有できるってだけで、こんなに嬉しいんだな。
あの冒険者さん達には感謝しないと。
送っていこうかとハルが聞いてくれたんだけど、リマさんの返事はあっさりしたものだった。
「ウロスほどの強さの敵がこなけりゃ、私一人で倒せるよ」
「それもそうか」
ハルはそう言うと笑って頷いた。うん、リマさん明らかに強そうだもんね。俺だったら持ち上がるかすら怪しい大きな剣を、軽々と扱ってウロスに向かって構えてたわけだし。
「じゃあここで、本当にありがとう」
「またな。アキト、ハル」
手を振って去っていく二人を見送ってから、俺達は人けの減った草原を見渡した。あの騒ぎのせいでほとんどの冒険者は帰っちゃったからね。
「これからどうしよっか?」
「ホワイトブランカの採取もしないとだけど、まずは昼食にしよっか」
ウロス騒動で、結構時間かかっちゃったもんな。言われるまでは忘れてたのに、言われた途端にお腹が空いてきた。
「うん、ご飯にしよう」
「じゃあアキト、あっちに行こう」
「どこか良い場所がある感じ?」
「ああ、とっておきの場所があるよ」
何でもその場所は、普段なら混みあってて知ってる冒険者の間では争奪戦らしい。でも今の騒動で人が少ないから、今日は狙い目だと思うと教えてくれた。
ハルの先導で辿り着いたのは、綺麗な白い花に囲まれた一角だった。膝ぐらいの高さの草に覆われてる草原の中で、ここだけは十センチ程度の長さにしっかりと刈りこまれている。ピクニックするならこんな所が良いなって想像するような場所だった。
「うわーすごいね」
「気に入った?」
「うん、気に入った!でも…ここが混んでる時はどうしてるの?」
今日は端の方に陣取ってる男性二人組しかいないみたいだけど、争奪戦とまで言うなら毎回こうじゃないって事だよね。
「どうしてもここが混みあってる時は、木に登ったり…」
「え、木に登るって言ってもそんなに木無かったよね?」
思わず言葉を挟めば、ハルは真面目な顔で頷いてから続けた。
「それも奪い合いなんだよ」
「えー…木も無理だったら?」
「もう立ったまま食事をするか、キニーアの森まで抜けて食事をするかだね」
そんなに大変なのか。
「雨の後で地面がぬかるんでたりしたら、立ったまま食事もよくある事だよ?」
「え、そうなんだ?」
「ケビンなんかは、汚れても後で浄化魔法をかけるから一緒だって座り込んでたけどね」
「うわー…やりそう」
思わずそう答えれば、ハルはブハッと噴き出した。
「この辺で良いかな」
「うん」
今日のお昼は、ハルがおすすめだっていう屋台で買って来たから楽しみにしてたんだよね。上機嫌で鞄の中に手を入れていると、ハルがふと視線を上げた。どうしたのかと視線の先を追えば、すでに食事を終えていたらしい二人組が近づいてきた。
「さっきは助かった」
「ありがとう」
「いや、俺達も自分たちの身を守るためだったから」
「これ、さっき採取したばかりなんだが良かったら」
男が差し出してきたのは、俺の目からはどう見ても皮が青いアボカドにしか見えない。
「いいのか?」
「ああ、二人で食べてくれ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「こっちこそ助かった」
「ありがとう」
冒険者にも色んな人がいるんだな。去っていく背中を見つめながらついついそんな事を考えてしまった。
「貰っちゃったね」
「ああ、これはノルパルの実って言うんだ。ちょっと珍しいやつだよ」
ハルが珍しいって言うなんて、そんなものくれて良かったのかな。そう思ったけど、もういなくなっちゃった名前も知らない冒険者を探して返すわけにもいかないよね。一瞬で割り切った俺は、ハルの手元をじっと見つめた。見れば見る程青いアボカドだ。
「ノルパルの実っていうんだ」
「濃厚な甘みでちょっとクリーム状で…説明が難しいな」
今はここにいるのは俺達だけだけど、他の人に聞かれたら困る。そう思った俺は隣に座っていたハルを手招いた。ハルは不思議そうにしながらもすぐに顔を近づけてくれる。
「俺の故郷にはそれに似た野菜があったんだ」
「へぇーどんなの?」
「アボカドって言う野菜」
興味深そうなハルに皮は食べられないとか、真ん中に種があるとか耳元に顔を近づけたまま説明をした。
「ああ、それは似てるかもしれない。これも皮は食べれないし真ん中に種があるよ」
そうなんだ。アボカドは母がすごく好きだったんだよね。小さい頃から食べ慣れてたからか、一人暮らしになってからもたまに買ってた。
粗めにつぶしてマヨネーズと塩コショウ、ちょっとだけ醤油をたらしてサンドイッチにしたら、簡単なのにすっごい美味しかったんだよね。懐かしいな。
「種が小さいと得した気分で、種が大きいと損した気分になってたなー」
「ああ、それはこれもよく言われるよ!」
なんでも切ってしまうと色が変わるからって切り売りには向かないんだって。そんな所まで似てるなんて、ノルパルの実ってもしかしてアボカドの親戚なのかな。
「まさか同意してもらえるとは」
「俺もまさかこんな話が出来るとは思ってなかったよ」
なんて言い合いながら、俺達は買ってあった食事を取り出した。
「よしアボカドに似た実は、食後の楽しみにしよう」
「デザート付きなんて豪華だね」
ハルと同じ感覚を共有できるってだけで、こんなに嬉しいんだな。
あの冒険者さん達には感謝しないと。
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