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261.【ハル視点】三人組への怒り

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 相対したウロスは、スタンピードの時の個体よりは小さかった。アキトから意識を反らすべく切りつければ、すぐに俺の事を睨みつけてくれた。これでアキトが巻き込まれる心配は無さそうだな。

 ウロスは攻撃力こそ高いけれど、動きは単純だし複雑な作戦を立てたりするような知恵はない。素早さで攻撃を避けながら、浅手でも良いから手数を増やす俺とは非常に相性の良い魔物だ。

 予想通り一直線につっこんできたウロスをひらりと避けると、俺はそのまま攻撃に転じる。ウロスも避けようとはしているが、俺の動きの方が速い。

 このままなら大きな怪我もせずに倒せそうだなと考えた瞬間、背後で声が上がった。

「あ、あの!」

 ちらりと視線を向ければ、アキトに話しかけているのはあの迷惑な三人組だった。

「何か?」

 律儀に答えるアキトに、三人は嬉しそうに話しかける。

「さっきは俺達のために攻撃してくれてありがとう!」
「いえ、あの…」
「迷惑をかけた俺たちを助けてくれるなんて」
「天使みたいだ…」
「俺達に礼をさせてくれっ!」

 天使みたいだという意見はまあ分かる。分かるんだが、それを俺以外が口にするのは面白くない。

 ちらりと視線を向けて見てみれば、三人は明らかにぽーっとした顔でアキトを見つめている。あれはただのお礼というより、それをきっかけに口説こうとか思ってるな。

 ぶわっと腹の底から湧いてきた怒りを、俺はそのままウロスにぶつけた。ウロスは渾身の俺の攻撃を受けてそのまま倒れた。

 片付いたなとようやく後ろを振り返れば、三人は暑苦しくアキトに詰め寄っていた。アキトはぶんぶんと首を振りながら後ずさっている。

「助けたつもりは無いので」
「いや、助かったよ」
「天使だ…」
「優しい上に謙虚だなんて!」

 ああ、腹立たしい。あんな事をしでかした後なのに謝罪するでも無く、俺の前でアキトを口説こうとしているなんて。ウロスの体を肩に担いで、俺はゆっくりと歩き出した。魔道収納鞄にしまわずにあえて持ち上げたのは、三人に見せつけるためだ。

「お前達、アキトは俺の恋人だ…」

 真後ろから近づいていけば、アキトはホッと息を吐いた。ギギギと俺の方を見た三人の視線を感じながら、俺はドサッとウロスの体を地面に下ろした。震え出した三人組を、思いっきり睨みつけながら俺は口を開いた。

「アキトを口説くつもりなら…俺が相手になるぞ?」

 脅すように低い声で囁けば、三人は俺とウロスを交互に見つめてから息を飲んだ。

「「「す、す…すみませんでしたー!」」」

 そう叫ぶなり驚くほどのスピードで走り出すと、三人組はそのまま逃げて行った。周りの巻き込んだ奴らへの謝罪も無しとは、すこし脅し過ぎただろうか。

「逃げ足だけは早いな…顔はしっかり覚えたけどな」

 正式な報告は面倒だが、もしメロウに聞かれたら顔の特徴ぐらいは教えてやろう。

「ハル、怪我はしてない?さっきの三人組のせいで最後は見れてなかったから」

 心配そうに眉をひそめたアキトに、大丈夫だよと笑って答える。アキトがホッと息を吐いた瞬間、またしても後ろから声がかかった。少しずつ近づいてきているのは知っていたから、俺は驚きもせずにゆっくりと振り返った。

「すまない、ちょっと良いか?」

 予想通り、声をかけてきたのはさっきの二人組の女性だった。男性はすぐ近くの地面に座り込んでいるが、足の怪我がひどいんだろうか。

「助けてくれてありがとう。君たちがいなかったらハドリーは助からなかった」
「俺からも感謝を。リマを助けてくれてありがとう」

 二人からの丁寧な礼の言葉に、俺達は顔を見合わせてから口を開いた。

「気にしないで下さい」
「ああ、俺達は自分のために戦っただけだ」
「しかし」

 更に言いつのろうとした女性に、俺は遮るように声を上げた。

「ああ、俺からも礼を。アキトを庇うために気を引こうとしてくれていたよな」
「…役には立たなかったけどな」

 苦笑を洩らした女性に、俺は笑顔で首を振った。

「あの状況で、自分たちが標的に戻る覚悟で声を上げてくれたんだ。そんな事が出来る人はそう多く無い――誇って良いと思うよ」

 アキトを庇おうとしてくれたこの二人の事は、助けられて良かったと心から思える。俺達の言葉を聞いた二人組は顔を見合してから、強張っていた顔にやっとうっすらと笑みを浮かべた。

「俺は槍使いのハドリーだ」
「私は剣士のリマ」

 名乗りを上げてくれた二人に、俺達もすぐに答えた。

「俺は魔法使いのアキトです」
「戦士のハルだ」
「今日は無理だが、俺の怪我が治ったらご馳走させてくれるか?」
「気を使わなくて良いですよ?」
「いや、それぐらいはしたいんだ」
「頼む」

 アキトは俺に判断を委ねるつもりか、ちらりと俺を見上げてきた。人前で会話が出来ない時には視線だけで意思の疎通をしていたせいか、アキトの目は驚くほどに雄弁だ。

 俺は二人の真剣な目をじっと見つめてから、おもむろに口を開いた。

「俺達は黒鷹亭を拠点にしてる」
「感謝する」

 来た時に宿にいるとは限らないが、この二人ならレーブンに嫌われて追い出されるかもなんて心配はいらないだろう。それにアキトにとっても、人の良い知り合いが増えるのは良い事だからな。
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