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259.【ハル視点】採取地に到着

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 アキトの言葉をきっかけに、俺は気持ちを切り替えた。小道の近くの花について話したり、アキトが発見した鳥の巣の鳥を想像してみたりしながら、俺達はのんびりと採取地を目指した。

「着いたー!」
「着いたね」
「ハルと一緒だとあっという間だったな」
「もうちょっと遠くても良かったね」

 そんな会話をしながらも、俺はゆるりと首を傾げた。魔物の気配が明らかに少なすぎる。いつもなら生い茂った草むらには、ミドルスライムやブラックウルフなどの魔物が潜んでいるのに今日は気配が無い。

「魔物が多いん…だよね?」
「ああ、でも今日はあまりいないみたいだね」

 何かの前触れで無ければ良いがと考えつつ、俺は本気で気配を探った。草原の隅の方にいるミドルスライムの気配しかないな。もし今日の依頼が討伐依頼であれば困ったかもしれないが、幸いにも今日は採取依頼しか受けていない。俺は笑顔でアキトを振り返った。

「俺達は採取依頼だし、問題は無いけどね」
「あーまあそうだね」

 草原内を見渡せば、明らかに気落ちした様子の冒険者達が何組も見えている。おそらく討伐依頼を受けてきた奴らなのだろうそいつらを、アキトは心配そうに見つめている。

「こういう場合は冒険者ギルドに報告すれば、期限を伸ばしてくれる事もあるから大丈夫だよ」
「そうなの?」

 近くにいた冒険者達は驚いた顔で俺を見つめているが綺麗に無視して、アキトを見つめたまま説明を続ける。

「数人の冒険者からの報告では無理かもしれないが、いくつかのパーティーやチームが依頼票を提示しながら報告すればしてくれるよ」

 わざわざここでは言わないが、ギルドだってあっさりと特例を認めてくれるわけでは無い。信頼のある冒険者への聞き取りや、裏付け調査はきっちりとする筈だ。虚偽の報告をした場合は、ランク落ちや冒険者資格のはく奪なんかもありえる。

 特例があると知ってホッとした様子のアキトの後ろで、話を聞いていた冒険者たちはぺこりと頭を下げると他の冒険者に声をかけるべく去っていった。
 
「まずは図鑑で確認してから始めようか」
「うん、ちょっと待ってね」

 アキトは魔道収納鞄の中に手を入れると、すぐに図鑑を取り出した。

「えーと…レボネの花ーレボネの花ーあ、あった」

 そっと肩を寄せ合って、アキトが開いたページを覗き込む。今は自分の図鑑も持っているから取り出せば良いだけなんだけど、これは幽霊だった時の癖かな。

「あー…これは見分けにくそうだね」
「ああ、これは結構採取難易度が高いんだ」

 濃い緑の縦線が入っている、ただの草にしかみえない植物だからな。アキトはじっと図鑑を見つめていたがふと顔を上げると、ぴたりと動きを止めた。

「ハル…」
「ん、どうしたの?」
「あの、これって…濃い緑の縦線に見えない?」
「………見える――というかこれレボネの花で間違いないよ」

 レボネの花に似ているコーネ草というものもあるんだが、これは間違いなくレボネの花だ。こんなにあっさり見つかるなんて滅多にない奇跡のような事態だ。

 採取困難な筈の素材をあっさりと見つけ、俺達は二人並んでしゃがみ込んだ。

「花がどれか分からないけど、葉っぱも混ざって良いの?」
「ああ、鑑定してから使うからまとめて採っていけば大丈夫だよ」
「なるほど、鑑定するのか」

 そんなことを喋りながらも、俺達はどんどんレボネの花を採取していく。

「それにしても、アキトは本当に運が良いな」

 元々幸運だとは思っていたけど、まさかここまでとは。そう思って口にした言葉に、アキトはすぐに首を振った。

「今日は俺たち二人が、特に運が良い日なのかもしれないよ?」

 俺だけの運じゃなくて二人の運じゃないかな?と笑うアキトに、たまらない気持ちになった。誤魔化すとか謙遜とかじゃなく、本当に心からそう思ってるんだろうな。

「この調子ならホワイトブランカもすぐ見つかるかもね」
「だと良いけ…」

 会話の途中で俺はバッと顔を上げた。ここまで近づくまで気配に気づかないなんて、今日の俺はやっぱり浮かれてるんだな。もっときちんと気配を気にしておくべきだった。そう反省しながらも声を張り上げる。

「アキトっ!何か来るっ!」

 俺はアキトの前に立つと、すぐに腰の剣を抜いて構えた。背後でアキトの魔力が練り上げられていくのが分かる。アキトはこういう時の反応が早くて助かる。俺の元部下の騎士達よりも反応が早いかもしれない。

 草原の向こう側に見えるキニーアの森との境目辺りを、俺はじっと見つめた。

「うわぁぁぁぁぁああぁぁ!」
「くるなああああああぁぁぁぁ!」

 けたたましい叫びと共に森から飛び出してきたのは、ここに来る途中でアキトにぶつかりかけたあの三人組の冒険者だった。バキバキと木々をへし折りながら三人組の後を追うのは、黒い角のある大きな魔物だった。

「あれは…もしかしてB級のウロスか」
「誰か助けてくれええええええええええ!」

 暑苦しい絶叫を聞きながら、俺はぽつりと呟いた。

「またあの三人組か」
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