生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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254.B級魔物ウロス

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 騎士団でやってた手合わせや稽古の見学で、ハルの強さはある程度知っている。C級なんて嘘だろうと思うぐらい強いって事ももちろん知ってはいるけど、それでもやっぱり心配は心配だ。

 だって今のハルは幽霊じゃなくて生身なんだよ。ということは怪我をする可能性とか、もっと悪ければ死んでしまう可能性だってゼロじゃないって事だ。

 思わずそんな事を考えてしまった俺は、返事もできずにうつむいたまま黙り込んだ。

「あ、じゃあアキトにお願いしても良い?」
「お願い…?」

 ちらりと視線を向ければ、ハルはにっこりと笑顔を浮かべた。

「俺以外の人の所に行きそうになったら、魔法で牽制して欲しいんだけど」

 ああ、ハルって本当にすごいよね。ただ待っててと言われても送り出せない俺に、さらりと役目を与えてくれるんだから。

「どうかな?」
「いいよ、土魔法で大丈夫かな?」

 申し出を快諾しながら、ハルがピンチになったら絶対に魔法攻撃を飛ばそうと俺はこっそり決意した。

 魔法なら遠くからでも狙えるんだから、危ない場面を見たらすぐに発動すれば間に合う筈だ。魔法で攪乱してる間に、二人で一緒に逃げるだけならできると思う。

 それにハルが怪我をしたらあの魔法を使えば良いんじゃないかな。また使えるか自信は無いけど、ハルのためなら発動できる気がするし。

「ああ、頼んだよ」

 ハルは俺の決意を知ってか知らずか、少し俺との距離をとってから三人組に声をかけた。

「おい、お前ら!こっちに来い!」
「うわああああああああああぁぁぁぁ!」
「助けてくれえぇぇぇぇx!」
「ぎゃああああぁぁぁ」

 追われている三人組がハルの方に来てくれれば、話は簡単だったんだけどね。三人は既にパニック状態なのか、ハルの声は全く聞こえていないみたいだ。

「無理か…全く」

 意味の無い言葉しか叫ばない三人に呆れながら、ハルは剣を手にしたまま駆け出した。

 その結果、草原では冒険者三人組を追うウロスに、さらにそのウロスを追うハルという、何とも奇妙な光景が繰り広げられている。

 でもそろそろハルが追いつきそうだな。すごいスピードだ。ハルの速さに感心しながら追いかけっこを眺めていると、三人組の進む先に冒険者達がいる事に気づいた。

 足を引きずっている男性冒険者と、その男に肩を貸している女性冒険者の二人組だ。まっすぐに二人に向かって駆けていく三人組は、周りが見えていないんだろうか。俺はもう一度魔力を練り上げ始める。 

「リマ、俺を置いて行ってくれ!」
「嫌だ!」

 女性はそう叫ぶなり、男性に肩を貸したまま腰にあった剣を抜いた。

「駄目だ、ウロスはB級、俺達では倒せない!」
「やってみなくちゃ分からない!」

 ウロスはうるさい声を上げて逃げ回る三人よりも、動かない静かな二人に狙いを変えたようだ。あれだけ必死で追いかけていたのに、どうしてよりによって今狙いを変えるんだよ。

「頼む!逃げてくれ!」
「断る!」

 お互いを大切に想ってるのが伝わってくる二人のやりとりを聞きながら、俺はようやく練りあがった魔力を使って得意の土魔法を発動した。

 強化した大きなつぶてはまっすぐに飛んでいくと、きっちりとウロスの後頭部に命中した。迷惑そうに頭を振ったウロスに、更に追撃のつぶてをどんどん打ち込んでいく。5つ全てを命中させてふうと息を吐いた時には、ウロスは殺意を込めた目で俺を睨んでいた。

 5つ全てを同じ場所に命中させたのに、それでもかすり傷程度なのか。B級はやっぱり強さが違うんだな。

「なんで…?」
「そこの人、逃げて!」
「はっ!こっちだ!化け物!」

 せっかくウロスの意識が俺に反れたのに、二人組は必死に気を引こうと声を張り上げてくれている。そのままこっそり逃げても良かったのに、良い人達だな。

 ウロスは二人組には見向きもせずにまっすぐに俺に向かって駆け出したけれど、それよりも早くハルが追いついた。

「さすがアキトだ!」

 高らかと叫んだハルは俺とウロスの間に陣取ると、流れるような動きでウロスに切りかかった。
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