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253.レボネの花

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 のんびりと歩いてようやく辿り着いたコノーア草原は、所々に低木や木がある以外はどこまでも平坦な場所だった。

 生い茂った草のせいでそれほど見通しは良くないけど、それでも見える範囲に魔物がいない事は俺にも分かった。

「魔物が多いん…だよね?」
「ああ、でも今日はあまりいないみたいだね」

 真剣な顔で気配を探っていたハルは、危険が無い事を確認すると笑顔で振り返った。

「俺達は採取依頼だし、問題は無いけどね」
「あーまあそうだね」

 討伐依頼で来てる人は困ってるみたいだけど、ハルによるとこういう場合は全員でギルドに報告すれば期限が伸びる事もあるらしいから気にしない事にした。
 
「まずは図鑑で確認してから始めようか」
「うん、ちょっと待ってね」

 俺は魔道収納鞄の中に手を入れると、すぐに図鑑を取り出した。

「えーと…レボネの花ーレボネの花ーあ、あった」

 開いたページには、申し訳ないけれどただの雑草にしか見えない植物の絵が載っている。この植物のどこが花なのかは全く分からないけど、うっすらと濃い緑の縦線が入ってるのが唯一の特徴って感じかな。

「あー…これは見分けにくそうだね」
「ああ、これは結構採取難易度が高いんだ」

 図鑑を見ながら一つずつ見ていくしかなさそうかなと周りを見渡すと、ふと一カ所で視線が止まった。

「ハル…」
「ん、どうしたの?」
「あの、これって…濃い緑の縦線に見えない?」
「………見える――というかこれレボネの花で間違いないよ」

 ハルが断言したって事は、これが間違いなく本物のレボネの花なんだ。まじまじと観察してみたけど、実物を見てもやっぱりどこが花なのかは分かりそうになかった。

 採取困難な筈の素材をあっさりと見つけたラッキーな俺達は、その場に二人並んでしゃがみ込んだ。

「花がどれか分からないけど、葉っぱも混ざって良いの?」
「ああ、鑑定してから使うからまとめて採っていけば大丈夫だよ」

 なるほど、鑑定すればどこが花なのかが分かるのか。鑑定の時って見物させてもらえたりしないかななんて考えながら、俺はハルと一緒に採取に励んだ。

「それにしても、アキトは本当に運が良いな」
「え、今日は俺たち二人が特に運が良い日なのかもしれないよ?」

 俺だけの運じゃなくて二人の運じゃないかなと伝えれば、ハルはくしゃりと嬉しそうに笑ってみせた。

「この調子ならホワイトブランカもすぐ見つかるかもね」
「だと良いけ…」
「アキトっ!何か来るっ!」

 唐突にそう叫んだハルは、俺が顔を上げた時には既に腰の剣を抜いて構えていた。俺を庇うように立ったハルの姿に見惚れそうになったけれど、慌てて首を振るといつでも魔法を発動できるように魔力を練り上げる。

 ハルの視線は、草原の向こうに見える森にぴたりと固定されていた。一体何が出てくるのかドキドキはするけれど、ハルが一緒にいてくれるだけで安心感があるな。

「うわぁぁぁぁぁああぁぁ!」
「くるなああああああぁぁぁぁ!」

 けたたましい叫びと共に森から飛び出してきたのは、ここに来る途中で俺たちを追い抜いていったあの三人組の冒険者だった。その尋常じゃない慌てっぷりに目をこらして見つめれば、バキバキと木々をへし折りながら後を追う巨大な魔物が飛び出してきた。

 真っ黒な体毛に黒光りする鋭い角のあるその魔物は、見た目だけなら真っ黒なバッファローのようにも見えた。

「あれは…もしかしてB級のウロスか」
「誰か助けてくれええええええええええ!」
「またあの三人組か」

 心なしか嫌そうにハルはそう呟いた。逃げるのに必死なのは分かるんだけど、三人組が縦横無尽に草原を駆け回るせいで周りにもどんどん影響が広がっていく。

 この場から逃げようと荷物を捨てて駆け出す冒険者もいれば、真横から突っ込んできたウロスに盾ごと吹っ飛ばされた冒険者もいた。

「うわ…大丈夫かな?」
「飛ばされた盾使いはちゃんと身構えてたから大丈夫だと思うよ。ほら、あそこ。仲間が回収してる」

 ハルに言われた方を見てみれば、仲間に担がれて移動している盾使いの姿が見えた。知らない人だけど、生きてて良かった。

「それにしても…魔物を引き連れて周りを巻き込むなんて」

 一瞬だけ明らかに怒気を滲ませたハルは、ちらりと俺を振り返ると安心させるように笑ってみせた。阿鼻叫喚のこの場には、あまりに場違いな爽やかな笑顔だった。

「アキトはここで見てて」
「え、一人で行くの?」

 ハルの実力からしたら確かに倒せるかもしれないけど、俺も全力で援護する気だったんだけどな。

「ああ、ウロスとは戦った事があるから大丈夫だよ。信じてまかせて欲しいな」

 信じてまかせてって言葉はちょっと卑怯じゃないかな。

「信じてるけど…」

 ちゃんと信じてるけど、それでもどうしても心配になるものなんだよ。
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