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234.【ハル視点】初めてのお揃い
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白狼亭を出た俺たちは、そのままのんびりと大通りを進んでいた。
人目を気にせずアキトと気兼ねなく話すために、今までは裏道や路地ばかりを選んでいた。けれどこれからは、そんな事を気にして道を選ぶ必要は無い。
たくさんの人達で賑わった大通りの様子に、アキトは興味深そうにキョロキョロと視線を動かしている。こんなにキラキラした目をしたアキトが見れるなら、もっと早く連れてきてやれば良かったな。
こっそりと反省しながらふと見下ろせば、アキトはじっと一点を見つめて考え込んでいた。
「アキト?どうかした?」
何か気になる物でもあったのかと声をかければ、アキトは慌てて手を振った。
「なんでもないんだ、意外に人が多いんだなって思ってただけで」
ああ、そうか。こんな時間に大通りに来る事は無かったからな。
「ああ、大通りはあまり来てなかったから」
「そうそう。あーそれにしても本当に美味しかったね、白狼亭のステーキ!」
そう言い切ったアキトは、本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「アキトにも気に入ってもらえて良かったよ」
「うん、本当に気に入ったよ。だって追加注文までしちゃったぐらいだし」
アキトは元々良く食べる方だが、追加注文をするほど気に入ってくれるとは思っていなかった。ローガンの作る絶品のステーキは、どうやらアキトの口にも合ったらしい。
「また行きたいな」
「ああ、また行こう」
「ローガンさんにも会いたいし」
ローガンが怖いから店に行きたくないという奴はいたが、ローガンに会いたいから行くというのは初めて聞いたな。
「甥っ子認定されてたし、きっとローガンも喜ぶよ」
素直な気持ちを告げれば、アキトはそうだと嬉しいなと照れ笑いを浮かべた。
大通りを歩きながら俺はずっと悩んでいた。
このまま黒鷹亭へ帰るか、それとも今からどこかへ出掛けるか。今日は騎士団本部での任命式もあったし、アキトも疲れているだろうか。無理をさせたくは無いけれど、このまま戻るのも悔しいような気がする。
というのも、アキトと歩いているとやたら視線を感じるからだ。俺を見ている視線はどうでも良いが、一人じゃないアキトに驚いた顔をする奴や、しょんぼりと肩を落としていた奴は明らかにアキト狙いだろう。
どうやって牽制してやろうかと考えていると、不意にアキトが立ち止まった。俺もすぐに立ち止まって振り返る。
「どうかした?」
明らかに恋人同士だと分かる距離で、アキトの顔をそっと覗き込む。
アキトは俺の恋人だから誰にも渡すつもりは無いよ。そう思いながら笑みを浮かべれば、周りの視線は更に集まってくる。別に誰に見られても困らないから、いくらでも見てくれて構わない。うっとりと俺を見上げてくるアキトはすごく可愛いだろう?
そんな事を考えていると、アキトからそっと手が伸びてきた。ああ、手を繋ぎたいって思ってくれたんだな。俺は伸ばされた手をぎゅっと握り返した。
「このまま戻るのはもったいないかなーって考えてたんだ」
「俺も同じ事を考えてたよ。お揃いだね」
目を合わせたまま二人で笑い合えば、遠くの方でキャーと声が上がった。アキトは少し驚いた様子だったけど、視線を反らしたりもせずにただじっと俺の目を見つめていた。
「じゃあ買い物にでも行かない?」
「行きたい!」
「アキトはどこか行きたいとこある?」
「詳しくないから、ここが良いって思いつかないな。ハルは何か欲しいものとかある?」
さらりと俺の行きたい所を聞き返してくれたアキトに、少しだけ考えてから答えた。
「んー…そうだな、冒険者用の食器かな」
「冒険者用の食器?」
「え、でもハルも持ってるでしょ?」
「もちろん持ってはいるよ。でも…」
続けようとした言葉があまりに浮かれていたから恥ずかしくなってしまったけれど、ここで急に黙り込むわけにもいかない。
「せっかく二人で一緒に冒険者をできるなら、揃いの食器が欲しいなって思ったんだけど……あー俺、浮かれすぎてて恥ずかしいな」
俺の本音を聞いたアキトはキョトンとした顔でしばらく俺を見つめてから、不意にふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「そんな事ないよ!お揃いの食器嬉しい!」
「本当?引いてない?」
そう聞き返しはしたけれど、アキトの目を見れば引いてないのはすぐに分かった。愛おしいと言いたげな甘く潤んだ瞳に、このまま人目も気にせずにキスしたくなってしまった。
「引いてない!ハルのおすすめのお店に連れていってくれる?」
「もちろん、こっちだよ」
俺は繋いだ手を軽く引くと、そのまま歩き出した。
冒険者用の食器選びは、想像以上に難航した。どの店に立ち寄っても、置いてあるのは地味な木製の食器ばかりだからだ。せめて色でもついていればお揃いだと納得できるかもしれないのに、それすら見つからなかった。
「ここにも無いか」
「うん、これじゃお揃いって感じしないね」
四軒目に訪れた雑貨屋でアキトと小声で相談していると、不意に店主が声をかけてきた。
「なんだ、お客さん達は揃いの冒険者用が欲しいのかい?」
「ええ。ですが、冒険者用はどこも柄無しで…揃いのが欲しかったんですけどね」
店主は俺とアキトの繋いだ手に気づくと優しく目を細めた。
「ああ、お客さん達は伴侶なのかい?」
「あ、いえ、違います!」
予想外の言葉だったのか慌てて否定したアキトは、申し訳なさそうに俺を見上げてきた。別に気にしてないのに、こういうところがアキトの可愛い所だな。
「今はまだ、伴侶では無いですね。先日恋人になったばかりなんですよ」
まだを強調して言葉にすれば、アキトはボッと頬を赤くしてうつむいた。あまりに可愛い反応に、無意識の内に頭を撫でてしまった。
「そうかいそうかい」
店主は微笑ましそうに笑うと、近くにあった紙にさらさらと何かを書き出した。
「ここに行ってみると良いよ」
受け取った紙には簡単な地図と、店名が書き込まれていた。こんな所にも店があったのか。俺も知らない店だなと思いながら詳しい話を聞いてみれば、なんでもそのお店は店主の元弟子が作ったそうだ。
「伴侶馬鹿で、揃いの食器にこだわりのありすぎる弟子だよ」
「え!」
「それじゃあ」
「あいつも元冒険者だから、きっと冒険者用の食器も作ってると思うよ」
「「ありがとうございます」」
思わず重なった感謝の言葉に、店主は楽し気に笑った。
人目を気にせずアキトと気兼ねなく話すために、今までは裏道や路地ばかりを選んでいた。けれどこれからは、そんな事を気にして道を選ぶ必要は無い。
たくさんの人達で賑わった大通りの様子に、アキトは興味深そうにキョロキョロと視線を動かしている。こんなにキラキラした目をしたアキトが見れるなら、もっと早く連れてきてやれば良かったな。
こっそりと反省しながらふと見下ろせば、アキトはじっと一点を見つめて考え込んでいた。
「アキト?どうかした?」
何か気になる物でもあったのかと声をかければ、アキトは慌てて手を振った。
「なんでもないんだ、意外に人が多いんだなって思ってただけで」
ああ、そうか。こんな時間に大通りに来る事は無かったからな。
「ああ、大通りはあまり来てなかったから」
「そうそう。あーそれにしても本当に美味しかったね、白狼亭のステーキ!」
そう言い切ったアキトは、本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「アキトにも気に入ってもらえて良かったよ」
「うん、本当に気に入ったよ。だって追加注文までしちゃったぐらいだし」
アキトは元々良く食べる方だが、追加注文をするほど気に入ってくれるとは思っていなかった。ローガンの作る絶品のステーキは、どうやらアキトの口にも合ったらしい。
「また行きたいな」
「ああ、また行こう」
「ローガンさんにも会いたいし」
ローガンが怖いから店に行きたくないという奴はいたが、ローガンに会いたいから行くというのは初めて聞いたな。
「甥っ子認定されてたし、きっとローガンも喜ぶよ」
素直な気持ちを告げれば、アキトはそうだと嬉しいなと照れ笑いを浮かべた。
大通りを歩きながら俺はずっと悩んでいた。
このまま黒鷹亭へ帰るか、それとも今からどこかへ出掛けるか。今日は騎士団本部での任命式もあったし、アキトも疲れているだろうか。無理をさせたくは無いけれど、このまま戻るのも悔しいような気がする。
というのも、アキトと歩いているとやたら視線を感じるからだ。俺を見ている視線はどうでも良いが、一人じゃないアキトに驚いた顔をする奴や、しょんぼりと肩を落としていた奴は明らかにアキト狙いだろう。
どうやって牽制してやろうかと考えていると、不意にアキトが立ち止まった。俺もすぐに立ち止まって振り返る。
「どうかした?」
明らかに恋人同士だと分かる距離で、アキトの顔をそっと覗き込む。
アキトは俺の恋人だから誰にも渡すつもりは無いよ。そう思いながら笑みを浮かべれば、周りの視線は更に集まってくる。別に誰に見られても困らないから、いくらでも見てくれて構わない。うっとりと俺を見上げてくるアキトはすごく可愛いだろう?
そんな事を考えていると、アキトからそっと手が伸びてきた。ああ、手を繋ぎたいって思ってくれたんだな。俺は伸ばされた手をぎゅっと握り返した。
「このまま戻るのはもったいないかなーって考えてたんだ」
「俺も同じ事を考えてたよ。お揃いだね」
目を合わせたまま二人で笑い合えば、遠くの方でキャーと声が上がった。アキトは少し驚いた様子だったけど、視線を反らしたりもせずにただじっと俺の目を見つめていた。
「じゃあ買い物にでも行かない?」
「行きたい!」
「アキトはどこか行きたいとこある?」
「詳しくないから、ここが良いって思いつかないな。ハルは何か欲しいものとかある?」
さらりと俺の行きたい所を聞き返してくれたアキトに、少しだけ考えてから答えた。
「んー…そうだな、冒険者用の食器かな」
「冒険者用の食器?」
「え、でもハルも持ってるでしょ?」
「もちろん持ってはいるよ。でも…」
続けようとした言葉があまりに浮かれていたから恥ずかしくなってしまったけれど、ここで急に黙り込むわけにもいかない。
「せっかく二人で一緒に冒険者をできるなら、揃いの食器が欲しいなって思ったんだけど……あー俺、浮かれすぎてて恥ずかしいな」
俺の本音を聞いたアキトはキョトンとした顔でしばらく俺を見つめてから、不意にふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「そんな事ないよ!お揃いの食器嬉しい!」
「本当?引いてない?」
そう聞き返しはしたけれど、アキトの目を見れば引いてないのはすぐに分かった。愛おしいと言いたげな甘く潤んだ瞳に、このまま人目も気にせずにキスしたくなってしまった。
「引いてない!ハルのおすすめのお店に連れていってくれる?」
「もちろん、こっちだよ」
俺は繋いだ手を軽く引くと、そのまま歩き出した。
冒険者用の食器選びは、想像以上に難航した。どの店に立ち寄っても、置いてあるのは地味な木製の食器ばかりだからだ。せめて色でもついていればお揃いだと納得できるかもしれないのに、それすら見つからなかった。
「ここにも無いか」
「うん、これじゃお揃いって感じしないね」
四軒目に訪れた雑貨屋でアキトと小声で相談していると、不意に店主が声をかけてきた。
「なんだ、お客さん達は揃いの冒険者用が欲しいのかい?」
「ええ。ですが、冒険者用はどこも柄無しで…揃いのが欲しかったんですけどね」
店主は俺とアキトの繋いだ手に気づくと優しく目を細めた。
「ああ、お客さん達は伴侶なのかい?」
「あ、いえ、違います!」
予想外の言葉だったのか慌てて否定したアキトは、申し訳なさそうに俺を見上げてきた。別に気にしてないのに、こういうところがアキトの可愛い所だな。
「今はまだ、伴侶では無いですね。先日恋人になったばかりなんですよ」
まだを強調して言葉にすれば、アキトはボッと頬を赤くしてうつむいた。あまりに可愛い反応に、無意識の内に頭を撫でてしまった。
「そうかいそうかい」
店主は微笑ましそうに笑うと、近くにあった紙にさらさらと何かを書き出した。
「ここに行ってみると良いよ」
受け取った紙には簡単な地図と、店名が書き込まれていた。こんな所にも店があったのか。俺も知らない店だなと思いながら詳しい話を聞いてみれば、なんでもそのお店は店主の元弟子が作ったそうだ。
「伴侶馬鹿で、揃いの食器にこだわりのありすぎる弟子だよ」
「え!」
「それじゃあ」
「あいつも元冒険者だから、きっと冒険者用の食器も作ってると思うよ」
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