234 / 1,179
233.衝撃的な事実
しおりを挟む
部屋の中に入って鍵を閉めると、すぐに防音結界が発動する。
ハルいわく、宿で使われている鍵と連動した防音結界の魔道具は、多少音を減らす程度のものから完全に音を遮断するものまで種類が豊富にあるらしい。
「黒鷹亭はさすがに良いものを使ってるね」
「それって鑑定とかしたって事?」
「いや、違うよ」
ハルは笑いながら、もう一度鍵を開けてから俺をちらりと見た。
「外の音を聞いてみて」
「分かった」
言われるがままに耳を澄ませば、外から聞こえてくるのは雑多な音の集まりだった。
部屋に戻っていく冒険者たちのわいわいと話す声。これから何を食べるか相談している楽し気な声。酔っ払いなのか歌ってる人の声まで聞こえてくる。
それ以外にも重装備を身に着けているのかズシンと響くような足音や、軽やかに廊下を駆けていく誰かの足音も聞こえてくる。
「今の時間は結構うるさいんだね」
「じゃあ鍵をかけるよ」
ハルがカチリと鍵を回した瞬間、廊下を行き来している宿泊客の声も足音も、何もかもが完全に聞こえなくなった。
「分かった?」
悪戯っぽく尋ねてくるハルに、俺は大きく頷いた。確かに鑑定するまでも無いな。明らかに外の音が全く聞こえなくなったから、良い魔道具を使ってるのは間違いない。
そんな所にもこだわってくれてるんだなと感心していると、不意にハルが俺を見つめているのに気づいた。
「ハル?」
「おかえり、アキト」
「え、一緒に帰って来たのにおかえり?」
思わずそう聞き返した俺に、ハルは楽し気に笑いながら答えた。
「言いたいなと思ったんだけど、駄目だった?」
おかえりって言う機会なんて幽霊の時も滅多になかったから。これもアキトと一緒にしたい事の一つだよなんて言われたら、もう俺に言える事なんて一つしかないよね。
「ただいま、ハル」
「うん、ありがとう、アキト」
満足そうなハルが話を終わらせてしまう前にと、俺も慌てて口を開いた。折角なら、俺もおかえりって言いたい。
「じゃあ俺からも!おかえり、ハル」
「ただいま…あー…うん、何だか照れるね」
「…分かる」
新婚みたいなやりとりだなとか一瞬思ってしまったせいで、余計に恥ずかしい。何だか頬が熱い気がするけど、これはきっと気のせいだ。俺はごまかすように声を上げた。
「あ、装備外さないとね!」
かなり無理やりかつ唐突な話題転換だったけど、ハルはすぐにこの提案に乗ってくれた。こういう所で俺の顔が赤いとか指摘しないあたりが、大人の余裕なのかな。そういう所もたまらなく好きなんだけど。
結局ハルの優しさに甘えて、俺たちはそれぞれ装備を解除する事になった。
マントを外して、剣を下ろし、あちこちにあるベルトや紐を緩めていく。そうやってどんどん装備を解除していたら、ふと衝撃的な事実に気づいてしまったんだ。
あれ、もしかして俺たち二人同じ部屋で寝るって事!?
生身での初デートに浮かれすぎてて、同じ部屋にベッドが二つ並んでる意味とか理解できてなかったんだよ。ベッドが並んでるの見て、こっそり喜んでる場合じゃなかった。
えーと、ちょっと待ってね。ちょっとだけ整理させて欲しい。今ハルと俺は部屋の中に二人きりで、しかも防音結界もばっちり発動してる。多少声を出したりなんかしたって、外に聞こえる事は絶対に無いって事だよね。
「アキト、俺はもう装備外し終わったよ」
「ひゃいっ!」
変な事を考えていたせいで、明らかに声が裏返ってしまった。
「どうかした?」
ゆるく首を傾げて近づいてくるハルは、装備を解除したせいで露出度が上がってる!とは言っても、腕まくりしてるのと胸元がはだけてるぐらいだけど!そのちょっとの違いで、ハルの大人の色気が駄々洩れになってる気がする。
「な、何でもないよ」
幽霊の時は服装は一切変わらなかったから、何というか破壊力がすごい。
ハルいわく、宿で使われている鍵と連動した防音結界の魔道具は、多少音を減らす程度のものから完全に音を遮断するものまで種類が豊富にあるらしい。
「黒鷹亭はさすがに良いものを使ってるね」
「それって鑑定とかしたって事?」
「いや、違うよ」
ハルは笑いながら、もう一度鍵を開けてから俺をちらりと見た。
「外の音を聞いてみて」
「分かった」
言われるがままに耳を澄ませば、外から聞こえてくるのは雑多な音の集まりだった。
部屋に戻っていく冒険者たちのわいわいと話す声。これから何を食べるか相談している楽し気な声。酔っ払いなのか歌ってる人の声まで聞こえてくる。
それ以外にも重装備を身に着けているのかズシンと響くような足音や、軽やかに廊下を駆けていく誰かの足音も聞こえてくる。
「今の時間は結構うるさいんだね」
「じゃあ鍵をかけるよ」
ハルがカチリと鍵を回した瞬間、廊下を行き来している宿泊客の声も足音も、何もかもが完全に聞こえなくなった。
「分かった?」
悪戯っぽく尋ねてくるハルに、俺は大きく頷いた。確かに鑑定するまでも無いな。明らかに外の音が全く聞こえなくなったから、良い魔道具を使ってるのは間違いない。
そんな所にもこだわってくれてるんだなと感心していると、不意にハルが俺を見つめているのに気づいた。
「ハル?」
「おかえり、アキト」
「え、一緒に帰って来たのにおかえり?」
思わずそう聞き返した俺に、ハルは楽し気に笑いながら答えた。
「言いたいなと思ったんだけど、駄目だった?」
おかえりって言う機会なんて幽霊の時も滅多になかったから。これもアキトと一緒にしたい事の一つだよなんて言われたら、もう俺に言える事なんて一つしかないよね。
「ただいま、ハル」
「うん、ありがとう、アキト」
満足そうなハルが話を終わらせてしまう前にと、俺も慌てて口を開いた。折角なら、俺もおかえりって言いたい。
「じゃあ俺からも!おかえり、ハル」
「ただいま…あー…うん、何だか照れるね」
「…分かる」
新婚みたいなやりとりだなとか一瞬思ってしまったせいで、余計に恥ずかしい。何だか頬が熱い気がするけど、これはきっと気のせいだ。俺はごまかすように声を上げた。
「あ、装備外さないとね!」
かなり無理やりかつ唐突な話題転換だったけど、ハルはすぐにこの提案に乗ってくれた。こういう所で俺の顔が赤いとか指摘しないあたりが、大人の余裕なのかな。そういう所もたまらなく好きなんだけど。
結局ハルの優しさに甘えて、俺たちはそれぞれ装備を解除する事になった。
マントを外して、剣を下ろし、あちこちにあるベルトや紐を緩めていく。そうやってどんどん装備を解除していたら、ふと衝撃的な事実に気づいてしまったんだ。
あれ、もしかして俺たち二人同じ部屋で寝るって事!?
生身での初デートに浮かれすぎてて、同じ部屋にベッドが二つ並んでる意味とか理解できてなかったんだよ。ベッドが並んでるの見て、こっそり喜んでる場合じゃなかった。
えーと、ちょっと待ってね。ちょっとだけ整理させて欲しい。今ハルと俺は部屋の中に二人きりで、しかも防音結界もばっちり発動してる。多少声を出したりなんかしたって、外に聞こえる事は絶対に無いって事だよね。
「アキト、俺はもう装備外し終わったよ」
「ひゃいっ!」
変な事を考えていたせいで、明らかに声が裏返ってしまった。
「どうかした?」
ゆるく首を傾げて近づいてくるハルは、装備を解除したせいで露出度が上がってる!とは言っても、腕まくりしてるのと胸元がはだけてるぐらいだけど!そのちょっとの違いで、ハルの大人の色気が駄々洩れになってる気がする。
「な、何でもないよ」
幽霊の時は服装は一切変わらなかったから、何というか破壊力がすごい。
428
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる