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229.【ハル視点】夢にまで見たあの味
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厨房の扉の向こうへとローガンの姿が消えた瞬間、店内は一気に喧噪に包まれた。
「あ、ステーキ一人前追加でー!」
「はいよー!」
「こっちは酒の追加頼むー!」
「はーい!」
今までの反動のように立て続けに入る追加注文に、店員達は忙しそうに答えながら動き出している。
「いやーもめごとじゃなくて良かったな」
「冷や汗かいたわー」
「相変わらずの威圧感だったな」
ローガンがいなくなったからか、そんな会話がそこかしこで大っぴらに交わされている。おそらくその会話もローガンにはばっちり聞こえてると思うんだがな。犯罪関係の話題でもない限り、意外に温厚なローガンが怒り出す事はないだろうけど。
アキトは一気に賑やかになった店内を、興味深そうに見回していた。
「アキトはローガンも怖くないんだね」
「え、ローガンさんもレーブンさんも別に怖くはないよね?」
うん、アキトならそう言うと思ってはいたけど、あまりに予想通りすぎて笑ってしまった。
「そう?」
「うん。ローガンさんもレーブンさんも、二人とも綺麗な目だからさ」
あまりに唐突な誉め言葉に店員にまで二度見されているんだが、アキトは全く気づかずに続けた。
「悪意が無いのが目を見るだけで伝わってくるんだ。二人とも優しい人だから怖いと思った事は無いなぁ」
厨房にいるローガンは、今ごろにやけてるか照れてるかどっちだろうな。クスクスと笑いながら、俺はアキトに声をかけた。
「アキト、周り見てごらん」
俺の言葉に素直に周りの様子を伺ったアキトは、あまりの視線の量に驚いたようだ。
「うわ、何?」
アキトの言葉に、近くの客達は慌てて弁解を始めた。
「あ、すまない。あの強面が怖くないって言うからつい見ちゃったよ」
「華奢な兄さんなのに、肝が据わってるんだなぁ」
「ローガンだけじゃなくレーブンまで怖くないなんてな」
「あ、俺は別に気にしてませんから」
あっさりと謝罪を受け入れると、アキトは手を振った。
「恋人の兄さんも、すまん」
「そうだな。恋人をじろじろ見ちまって悪かった」
何故か俺にまで謝罪の言葉がくるのは、さっきの牽制の言葉が効きすぎたせいだろうか。
「いや、俺もさすがに色を含んでない視線にまで文句は言わないよ」
色を含んでいる視線には、当然恋人の権利として文句は言わせてもらうけどな。そう考えながら答えれば、周りの客達はホッと息を吐いた。
「いやー兄さんが寛大で良かったよ」
「ローガンの知り合いに睨まれたら、ここのステーキが食えなくなっちまうからな」
「それだけは耐えられねぇな!」
「違いねぇ!」
どっと笑いが起きた。誰もその言葉を否定しない辺り、出入り禁止になったら困ると本気で思ってるみたいだな。かくいう俺も、ここに出入り禁止になったら困るんだが。
「お待たせ!」
三人前の鉄板を運んできたのは、アキトに敬語で話しかけた店員とは違う奴だった。俺が牽制した時、必死で目を反らしていたもんな。
アキトは鉄板の上に並んだ分厚いステーキと、色とりどりなグリル野菜にキラキラと目を輝かせていた。
「うわー美味しそう!」
「アキトが気に入ってくれると良いけど」
見た目だけで美味しそうだよと笑うアキトと二人で声をそろえる。
「「いただきます」」
ナイフで切り分けた分厚いステーキを、アキトは口に放り込んだ。
「んっ!!」
どんな反応が来るのかとじっと見つめていれば、アキトはすぐに満面の笑みを浮かべた。そうそう、口の中に溢れた肉汁の旨味に、ついつい笑みがこぼれるんだよな。
「はー…」
「どう?」
「すっっっごく美味しい!これはハルがトライプールで一番って言うのも分かる!」
嬉しそうな顔でそう断言したアキトに、周りの常連たちは満足げに頷いた。もう少し食べようかなと追加注文まで飛んでいるのは、アキトの美味しそうな食べっぷりのおかげかもしれないな。
「それは良かった」
「ほら、ハルも食べて」
まだ口を付けていない事に気づいたアキトは、じっと俺を見つめながら促してきた。
既に切り分けていたステーキをそっと口に運べば、夢にまで見たあの味が口内に広がった。肉汁が溢れる良質の肉に特製のソースの味、焼き加減も最高だ。
「ああ…やっぱり美味しいね」
「うん、すっごく美味しい」
アキトは幸せそうに笑うと、パクリと二口目を口に放り込んだ。
「あ、ステーキ一人前追加でー!」
「はいよー!」
「こっちは酒の追加頼むー!」
「はーい!」
今までの反動のように立て続けに入る追加注文に、店員達は忙しそうに答えながら動き出している。
「いやーもめごとじゃなくて良かったな」
「冷や汗かいたわー」
「相変わらずの威圧感だったな」
ローガンがいなくなったからか、そんな会話がそこかしこで大っぴらに交わされている。おそらくその会話もローガンにはばっちり聞こえてると思うんだがな。犯罪関係の話題でもない限り、意外に温厚なローガンが怒り出す事はないだろうけど。
アキトは一気に賑やかになった店内を、興味深そうに見回していた。
「アキトはローガンも怖くないんだね」
「え、ローガンさんもレーブンさんも別に怖くはないよね?」
うん、アキトならそう言うと思ってはいたけど、あまりに予想通りすぎて笑ってしまった。
「そう?」
「うん。ローガンさんもレーブンさんも、二人とも綺麗な目だからさ」
あまりに唐突な誉め言葉に店員にまで二度見されているんだが、アキトは全く気づかずに続けた。
「悪意が無いのが目を見るだけで伝わってくるんだ。二人とも優しい人だから怖いと思った事は無いなぁ」
厨房にいるローガンは、今ごろにやけてるか照れてるかどっちだろうな。クスクスと笑いながら、俺はアキトに声をかけた。
「アキト、周り見てごらん」
俺の言葉に素直に周りの様子を伺ったアキトは、あまりの視線の量に驚いたようだ。
「うわ、何?」
アキトの言葉に、近くの客達は慌てて弁解を始めた。
「あ、すまない。あの強面が怖くないって言うからつい見ちゃったよ」
「華奢な兄さんなのに、肝が据わってるんだなぁ」
「ローガンだけじゃなくレーブンまで怖くないなんてな」
「あ、俺は別に気にしてませんから」
あっさりと謝罪を受け入れると、アキトは手を振った。
「恋人の兄さんも、すまん」
「そうだな。恋人をじろじろ見ちまって悪かった」
何故か俺にまで謝罪の言葉がくるのは、さっきの牽制の言葉が効きすぎたせいだろうか。
「いや、俺もさすがに色を含んでない視線にまで文句は言わないよ」
色を含んでいる視線には、当然恋人の権利として文句は言わせてもらうけどな。そう考えながら答えれば、周りの客達はホッと息を吐いた。
「いやー兄さんが寛大で良かったよ」
「ローガンの知り合いに睨まれたら、ここのステーキが食えなくなっちまうからな」
「それだけは耐えられねぇな!」
「違いねぇ!」
どっと笑いが起きた。誰もその言葉を否定しない辺り、出入り禁止になったら困ると本気で思ってるみたいだな。かくいう俺も、ここに出入り禁止になったら困るんだが。
「お待たせ!」
三人前の鉄板を運んできたのは、アキトに敬語で話しかけた店員とは違う奴だった。俺が牽制した時、必死で目を反らしていたもんな。
アキトは鉄板の上に並んだ分厚いステーキと、色とりどりなグリル野菜にキラキラと目を輝かせていた。
「うわー美味しそう!」
「アキトが気に入ってくれると良いけど」
見た目だけで美味しそうだよと笑うアキトと二人で声をそろえる。
「「いただきます」」
ナイフで切り分けた分厚いステーキを、アキトは口に放り込んだ。
「んっ!!」
どんな反応が来るのかとじっと見つめていれば、アキトはすぐに満面の笑みを浮かべた。そうそう、口の中に溢れた肉汁の旨味に、ついつい笑みがこぼれるんだよな。
「はー…」
「どう?」
「すっっっごく美味しい!これはハルがトライプールで一番って言うのも分かる!」
嬉しそうな顔でそう断言したアキトに、周りの常連たちは満足げに頷いた。もう少し食べようかなと追加注文まで飛んでいるのは、アキトの美味しそうな食べっぷりのおかげかもしれないな。
「それは良かった」
「ほら、ハルも食べて」
まだ口を付けていない事に気づいたアキトは、じっと俺を見つめながら促してきた。
既に切り分けていたステーキをそっと口に運べば、夢にまで見たあの味が口内に広がった。肉汁が溢れる良質の肉に特製のソースの味、焼き加減も最高だ。
「ああ…やっぱり美味しいね」
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アキトは幸せそうに笑うと、パクリと二口目を口に放り込んだ。
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