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223.あの日の上書きを
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黒鷹亭の自室に入ると、帰って来た実感が一気に湧いてきた。ほんの十日程いなかっただけなのに、懐かしさを感じるのはちょっと不思議だ。
見慣れた室内には、今まではなかった見慣れないベッドが一つ増えている。仲良く二つ並んだベッドが、何だかすごく特別に見えてくる。本当に今日からハルと一緒にいられるんだな。
「まだお昼前だけど、どうしようか?」
「ハルさえ良かったら、俺ハルと一緒に食事しに行きたいな」
「もちろん。生身でのデートは初めてだね」
さらりと言われた生身でのデートはという言葉が、なんだかたまらなく嬉しい。ハルにとっても、一緒に買い物に行ったあの休日はデートだったんだと分かったからだ。
「アキトはどこに行きたい?」
ハルの質問に俺は笑って答える。
「あ、行きたい場所は、ずっと前から決まってるんだ!」
「へーどこだい?」
「白狼亭!」
実はハルが起きた時から考えてたんだ。
ハルを探しに行った時はとても店には入れなかったけど、一緒に行くなら絶対に楽しめる。トライプールで一番美味しいとハルが断言したステーキを、折角なら二人での初の外食にしたいってずっと思ってたんだ。
元気よく宣言した俺の言葉を聞いたハルは、大きく目を見開いて固まってしまった。
「ハル?」
「ごめん。白狼亭…覚えててくれたんだ?」
「うん、覚えてたよ。それにハルが消えてからさ、もしかしてハルがいないかなって探しに行ったんだ」
「そうだったの!?心配かけてごめんね…」
ハルの意思とは関係なく強制的に体に戻されたんだから、別にハルが悪いわけじゃないのに。それでも少しの躊躇も無く謝ってくれたハルに、俺は慌てて手を振った。
「謝らないで良いから」
「ありがと…でも、そっか。もう一度行きたいくらいには美味しかった?」
ステーキの感想を聞きたそうなハルにはかなり言いづらいけど、隠すわけにもいかないよね。
「えーと、あの時は食欲が無くて…店には入らなかったんだ」
がっかりするかなと思ったけど、ハルはぎゅっと俺を抱きしめてから優しく額にキスを贈ってくれた。
「アキト…ごめん」
「謝らなくて良いって」
「違うんだ。アキトが辛かった時の話なのに、嬉しいって思ってごめんね」
「嬉しいの?」
「だって俺がいない間も、アキトが俺の事を気にかけてくれてたって証明でしょ?」
そう言ったハルがあまりに幸せそうに笑うから、それだけであの日の寂しさにも意味があった気がしてくる。思わず涙がこぼれそうになった俺は、ハルの体を抱きしめながらぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「じゃあ、一緒に食べに行こうか」
何とか涙を堪えて声をかければ、ハルはすぐに頷いてくれた。
「ああ、きっとアキトと一緒に食べたら、もっと美味しいだろうな」
楽しそうに話すハルとどちらからともなく手を繋いで、俺たちは部屋を後にした。
受付にいたレーブンさんは、俺たちを見て意外そうに目を見張った。
「なんだ、でかけるのか?」
「昼食を食べに行ってきます」
ハルがすぐにそう答えれば、レーブンさんは少し考えてから口を開いた。
「さっきから気になってたんだが、何だその話し方は。今までは呼び捨てだったし、敬語じゃなかっただろうが」
え、そうなの?前から知り合いって言ってたけど、その頃は普通に話してたってこと?
「アキトの家族なら、敬おうかと思いまして」
「お前の敬語とか気持ち悪いからやめろ」
レーブンさんの即答に、ハルは苦笑を洩らした。
「分かった。ついでにすこし街を歩いてくるつもりだ」
レーブンさんはワクワクしている俺をちらりと見て、ふわりと笑った。
「まあ楽しんで来い」
「はいっ!いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
優しく笑うレーブンさんに見送られて、俺たちは再びトライプールの街へと飛び出した。
見慣れた室内には、今まではなかった見慣れないベッドが一つ増えている。仲良く二つ並んだベッドが、何だかすごく特別に見えてくる。本当に今日からハルと一緒にいられるんだな。
「まだお昼前だけど、どうしようか?」
「ハルさえ良かったら、俺ハルと一緒に食事しに行きたいな」
「もちろん。生身でのデートは初めてだね」
さらりと言われた生身でのデートはという言葉が、なんだかたまらなく嬉しい。ハルにとっても、一緒に買い物に行ったあの休日はデートだったんだと分かったからだ。
「アキトはどこに行きたい?」
ハルの質問に俺は笑って答える。
「あ、行きたい場所は、ずっと前から決まってるんだ!」
「へーどこだい?」
「白狼亭!」
実はハルが起きた時から考えてたんだ。
ハルを探しに行った時はとても店には入れなかったけど、一緒に行くなら絶対に楽しめる。トライプールで一番美味しいとハルが断言したステーキを、折角なら二人での初の外食にしたいってずっと思ってたんだ。
元気よく宣言した俺の言葉を聞いたハルは、大きく目を見開いて固まってしまった。
「ハル?」
「ごめん。白狼亭…覚えててくれたんだ?」
「うん、覚えてたよ。それにハルが消えてからさ、もしかしてハルがいないかなって探しに行ったんだ」
「そうだったの!?心配かけてごめんね…」
ハルの意思とは関係なく強制的に体に戻されたんだから、別にハルが悪いわけじゃないのに。それでも少しの躊躇も無く謝ってくれたハルに、俺は慌てて手を振った。
「謝らないで良いから」
「ありがと…でも、そっか。もう一度行きたいくらいには美味しかった?」
ステーキの感想を聞きたそうなハルにはかなり言いづらいけど、隠すわけにもいかないよね。
「えーと、あの時は食欲が無くて…店には入らなかったんだ」
がっかりするかなと思ったけど、ハルはぎゅっと俺を抱きしめてから優しく額にキスを贈ってくれた。
「アキト…ごめん」
「謝らなくて良いって」
「違うんだ。アキトが辛かった時の話なのに、嬉しいって思ってごめんね」
「嬉しいの?」
「だって俺がいない間も、アキトが俺の事を気にかけてくれてたって証明でしょ?」
そう言ったハルがあまりに幸せそうに笑うから、それだけであの日の寂しさにも意味があった気がしてくる。思わず涙がこぼれそうになった俺は、ハルの体を抱きしめながらぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「じゃあ、一緒に食べに行こうか」
何とか涙を堪えて声をかければ、ハルはすぐに頷いてくれた。
「ああ、きっとアキトと一緒に食べたら、もっと美味しいだろうな」
楽しそうに話すハルとどちらからともなく手を繋いで、俺たちは部屋を後にした。
受付にいたレーブンさんは、俺たちを見て意外そうに目を見張った。
「なんだ、でかけるのか?」
「昼食を食べに行ってきます」
ハルがすぐにそう答えれば、レーブンさんは少し考えてから口を開いた。
「さっきから気になってたんだが、何だその話し方は。今までは呼び捨てだったし、敬語じゃなかっただろうが」
え、そうなの?前から知り合いって言ってたけど、その頃は普通に話してたってこと?
「アキトの家族なら、敬おうかと思いまして」
「お前の敬語とか気持ち悪いからやめろ」
レーブンさんの即答に、ハルは苦笑を洩らした。
「分かった。ついでにすこし街を歩いてくるつもりだ」
レーブンさんはワクワクしている俺をちらりと見て、ふわりと笑った。
「まあ楽しんで来い」
「はいっ!いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
優しく笑うレーブンさんに見送られて、俺たちは再びトライプールの街へと飛び出した。
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