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222.【ハル視点】ウェルマール家
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「それで?お前はハルと呼んだ方が良いのか?」
「これからは冒険者ハルとして、アキトとパーティーを組みます」
特別任務を受けた話をすれば、レーブンはなるほどと頷いた。
「アキトがソロの冒険者じゃなくなるってのは、俺としても安心だな」
優しい笑顔でアキトを見たレーブンは、すっと立ち上がった。
「アキトの部屋にはベッドを増やしておいてやる。俺が部屋の用意をしてる間に、二人で話し合え」
恋人ならなおさら家族の話ぐらいきちんとしておけと言いたいんだろうな。レーブンがばらさなければ、今日中には伝える予定だったんだよ。
「ハロルド・ウェルマール、知らなかったんだろ?」
そう言い残すと、レーブンはすぐに食堂を出ていってしまった。
「あ、そうだ!ウェルマール!」
アキトがじっと見つめてくるのに、俺は苦笑しながら答える。
「まあ、それが今日話したいって言ってた事なんだけどね」
「そうだったの?えーと辺境伯と同じ名前ってことは、辺境伯とも親戚とかなの?」
「ケイリー・ウェルマールは、俺の父親だ」
「ちち…おや?」
アキトはぽつりと確認するように繰り返した。
「もっと早く言うつもりだったんだけど、あまりにアキトがあの本を気に入ってたから逆に言い難くて…」
「えーと、つまりハルは辺境伯の息子って事?」
「まあそうだな。ただし跡継ぎでは無いよ。上に二人の兄と下に一人の弟がいる」
「えー…?ちょっと待って…?」
黙り込んだままのアキトは、何かを考えているのか表情がくるくると変わっていく。普段なら表情の変化を眺めて楽しむんだけど、今はアキトが何を考えているのかが気になって仕方がない。大好きな本の主人公が父親な男は、嫌だったりしないだろうか。
「ええー…」
「アキトは、辺境伯の息子は嫌かな?」
「そんなわけない!」
即答で答えてくれたアキトに、俺はホッと胸をなでおろした。
「ないんだけど、辺境伯って貴族だよね?」
「そうだね」
「俺、平民どころか異世界人なんだけど…大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ」
「その…息子に近づくなとか、別れてくれとか言われない?」
恐る恐る尋ねてくるアキトに、俺は即答で答えた。
「それは絶対に無いと断言できるよ」
「本当に?」
「ああ、うちは身分とかそういう細かい事は一切気にしないからね」
「身分って細かい事?」
「うちにとっては細かい事だね」
確かに普通の貴族の家なら、恋人が平民だと知れば金で解決しようとするかもしれない。邪魔をして無理に別れさせようとする家だってあるだろう。
だが、我が家に限ってそんな事はあり得ない。そもそもスタンピードが定期的に起こる辺境領では、身分よりもその人の強さを重視する。
強さと言ってもそれは単純な戦闘力だけというわけではない。精神的な強さでも良いし、商売が上手だとか、作戦を立てるのが上手だとかでも良い。
「ちなみに一番上の兄は、平民の凄腕女戦士と結婚したんだ。跡継ぎの子も、もういるよ」
女傑という言葉がぴったりな義姉は、ケルビンのような派手な戦い方を好む立派な戦士だ。平民出身の彼女を兄が何とか口説き落とした時、両親はやっと家族になってくれると大喜びで迎え入れていたな。
「二番目の兄は、子爵家の文官の男性と結婚してる。ちなみにこっちは戦闘力は全然なんだけど、精神的に強いし頭の良い人だよ」
義兄は周りの意見を取りまとめるのが上手い優秀な人だ。彼が領主城に入ってから、物資不足で魔物相手に戦い難くなるという事態は一度も起こっていない。
一番下の弟は今年成人する年齢だから結婚はしていないと伝えれば、アキトはそうなんだと笑みを見せてくれた。
「だから、アキトも安心して。うちの親は身分なんて気にしないから」
貴族らしくはないけど細かい事は気にしない家だから、本当に心配する必要なんてないんだよ。そう伝えたかっただけなのに、アキトは何故かしょんぼりと肩を落とした。
「でも俺にはそこまでの強さは無いから…」
「ちょっと待って、アキト。アキトは魔法の腕だけで、俺の恋人として認めて貰えるよ」
何故そんな発想になるんだ。
「騎士団でも騒がれてたでしょう?アキトの魔法の腕はすごいんだよ」
戦闘の多い辺境領には、もちろん魔法使いもたくさん存在している。それでもアキトほど細かい魔力操作ができる人は滅多にいない。アキトはドロシーとファリーマぐらいしか魔法使いを知らないから、魔法使いについての知識が偏ってるのかもしれないな。
まあアキトの性格なら、もし魔法が使えなくても俺の家族は大歓迎だろうけどな。俺に守られたいじゃなくて、俺を守りたいと言えるだけで気に入られる事間違いなしだ。
「俺、もっと魔法の練習頑張るね」
何故か唐突に拳を握って宣言したアキトに、俺はゆるく首を傾げた。
「もう十分じゃないか?」
「ううん。ハルの家族に認めてもらいたいから、もっと頑張りたいんだ」
本当にアキトはこういう殺し文句を無自覚で口にするから怖いよな。抱きしめてしまいたい気持ちと戦いながら、俺は何とかお礼の言葉を口にした。
「これからは冒険者ハルとして、アキトとパーティーを組みます」
特別任務を受けた話をすれば、レーブンはなるほどと頷いた。
「アキトがソロの冒険者じゃなくなるってのは、俺としても安心だな」
優しい笑顔でアキトを見たレーブンは、すっと立ち上がった。
「アキトの部屋にはベッドを増やしておいてやる。俺が部屋の用意をしてる間に、二人で話し合え」
恋人ならなおさら家族の話ぐらいきちんとしておけと言いたいんだろうな。レーブンがばらさなければ、今日中には伝える予定だったんだよ。
「ハロルド・ウェルマール、知らなかったんだろ?」
そう言い残すと、レーブンはすぐに食堂を出ていってしまった。
「あ、そうだ!ウェルマール!」
アキトがじっと見つめてくるのに、俺は苦笑しながら答える。
「まあ、それが今日話したいって言ってた事なんだけどね」
「そうだったの?えーと辺境伯と同じ名前ってことは、辺境伯とも親戚とかなの?」
「ケイリー・ウェルマールは、俺の父親だ」
「ちち…おや?」
アキトはぽつりと確認するように繰り返した。
「もっと早く言うつもりだったんだけど、あまりにアキトがあの本を気に入ってたから逆に言い難くて…」
「えーと、つまりハルは辺境伯の息子って事?」
「まあそうだな。ただし跡継ぎでは無いよ。上に二人の兄と下に一人の弟がいる」
「えー…?ちょっと待って…?」
黙り込んだままのアキトは、何かを考えているのか表情がくるくると変わっていく。普段なら表情の変化を眺めて楽しむんだけど、今はアキトが何を考えているのかが気になって仕方がない。大好きな本の主人公が父親な男は、嫌だったりしないだろうか。
「ええー…」
「アキトは、辺境伯の息子は嫌かな?」
「そんなわけない!」
即答で答えてくれたアキトに、俺はホッと胸をなでおろした。
「ないんだけど、辺境伯って貴族だよね?」
「そうだね」
「俺、平民どころか異世界人なんだけど…大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ」
「その…息子に近づくなとか、別れてくれとか言われない?」
恐る恐る尋ねてくるアキトに、俺は即答で答えた。
「それは絶対に無いと断言できるよ」
「本当に?」
「ああ、うちは身分とかそういう細かい事は一切気にしないからね」
「身分って細かい事?」
「うちにとっては細かい事だね」
確かに普通の貴族の家なら、恋人が平民だと知れば金で解決しようとするかもしれない。邪魔をして無理に別れさせようとする家だってあるだろう。
だが、我が家に限ってそんな事はあり得ない。そもそもスタンピードが定期的に起こる辺境領では、身分よりもその人の強さを重視する。
強さと言ってもそれは単純な戦闘力だけというわけではない。精神的な強さでも良いし、商売が上手だとか、作戦を立てるのが上手だとかでも良い。
「ちなみに一番上の兄は、平民の凄腕女戦士と結婚したんだ。跡継ぎの子も、もういるよ」
女傑という言葉がぴったりな義姉は、ケルビンのような派手な戦い方を好む立派な戦士だ。平民出身の彼女を兄が何とか口説き落とした時、両親はやっと家族になってくれると大喜びで迎え入れていたな。
「二番目の兄は、子爵家の文官の男性と結婚してる。ちなみにこっちは戦闘力は全然なんだけど、精神的に強いし頭の良い人だよ」
義兄は周りの意見を取りまとめるのが上手い優秀な人だ。彼が領主城に入ってから、物資不足で魔物相手に戦い難くなるという事態は一度も起こっていない。
一番下の弟は今年成人する年齢だから結婚はしていないと伝えれば、アキトはそうなんだと笑みを見せてくれた。
「だから、アキトも安心して。うちの親は身分なんて気にしないから」
貴族らしくはないけど細かい事は気にしない家だから、本当に心配する必要なんてないんだよ。そう伝えたかっただけなのに、アキトは何故かしょんぼりと肩を落とした。
「でも俺にはそこまでの強さは無いから…」
「ちょっと待って、アキト。アキトは魔法の腕だけで、俺の恋人として認めて貰えるよ」
何故そんな発想になるんだ。
「騎士団でも騒がれてたでしょう?アキトの魔法の腕はすごいんだよ」
戦闘の多い辺境領には、もちろん魔法使いもたくさん存在している。それでもアキトほど細かい魔力操作ができる人は滅多にいない。アキトはドロシーとファリーマぐらいしか魔法使いを知らないから、魔法使いについての知識が偏ってるのかもしれないな。
まあアキトの性格なら、もし魔法が使えなくても俺の家族は大歓迎だろうけどな。俺に守られたいじゃなくて、俺を守りたいと言えるだけで気に入られる事間違いなしだ。
「俺、もっと魔法の練習頑張るね」
何故か唐突に拳を握って宣言したアキトに、俺はゆるく首を傾げた。
「もう十分じゃないか?」
「ううん。ハルの家族に認めてもらいたいから、もっと頑張りたいんだ」
本当にアキトはこういう殺し文句を無自覚で口にするから怖いよな。抱きしめてしまいたい気持ちと戦いながら、俺は何とかお礼の言葉を口にした。
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