生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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219.ハルの家族

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「ちち…おや?」

 思わず繰り返した俺を、ハルは申し訳なさそうな顔で見つめてくる。

「もっと早く言うつもりだったんだけど、あまりにアキトがあの本を気に入ってたから逆に言い難くて…」
「えーと、つまりハルは辺境伯の息子って事?」
「まあそうだな。ただし跡継ぎでは無いよ。上に二人の兄と下に一人の弟がいる」

 跡継ぎじゃないっていわれても、ハルが辺境伯の息子って事に違いは無いよね。

「えー…?ちょっと待って…?」

 そういえばハルのお父さんは、ハルから見ても強い人だって聞いた事があったな。あれって、スタンピードを乗り越えた英雄ケイリー・ウェルマールの事だったのか。そりゃあ誰がどう見ても間違いなく強い人だよね。

 それに初めて魔物を倒した俺が沈んでた時、ハルのお父さんの言葉に救われた事もあった。あれってケイリー・ウェルマール辺境伯の言葉だったの?道理で言葉に説得力がある訳だよ。

「ええー…」
「アキトは、辺境伯の息子は嫌かな?」
「そんなわけない!」

 まだ絶賛動揺中だけど、それだけは即答できるよ。

「ないんだけど、辺境伯って貴族だよね?」
「そうだね」

 つまりハルも貴族って事だ。

 この世界に来たばかりの頃にハルに説明してもらったから、身分制度があるのは知ってた。知ってはいたけど、そこまで貴族が平民がって話を聞かないから、ぼんやりとしか知らないんだよな。まあ、今まで接点がなかっただけかもしれないけど。

 これはもしかしてハルの両親から、ハルに近づくなとか息子と別れてくれとか言われるやつじゃないの?そんな漠然とした不安が湧いてくる。

「俺、平民どころか異世界人なんだけど…大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ」
「その…息子に近づくなとか、別れてくれとか言われない?」

 恐る恐る尋ねた俺に、ハルは即答で答えた。

「それは絶対に無いと断言できるよ」
「本当に?」
「ああ、うちは身分とかそういう細かい事は一切気にしないからね」
「身分って細かい事?」
「うちにとっては細かい事だね」

 なんでもハルの家は、貴族の中でもかなり特殊なんだって。

 スタンピードが定期的に起こる辺境領では、身分よりもその人の強さを重視するらしい。強さと言ってもそれは単純な戦闘力だけってわけじゃなくて、精神的な強さでも良いし、商売が上手とか、作戦を立てるのが上手とかでも良いらしい。

「ちなみに一番上の兄は、平民の凄腕女戦士と結婚したんだ。跡継ぎの子も、もういるよ」

 義理のお姉さんは派手な戦い方を好む人で、ケルビンと戦い方の系統は似てるらしい。ハルでも簡単には勝たせてもらえないくらいには強いんだそうだ。本職の騎士であるハルに苦戦させる程の強さって、ちょっと想像がつかない。

 強さとまっすぐな性格がご両親にも気に入られていたそうで、やっとお兄さんが口説き落とした時はやっと家族になれるってご両親も大喜びだったらしい。本当に身分とか気にしないんだな。

「二番目の兄は、子爵家の文官の男性と結婚してる。ちなみにこっちは戦闘力は全然なんだけど、精神的に強いし頭の良い人だよ」

 義理のお兄さんは、周りの意見を取りまとめるのが上手い優秀な人らしい。後方支援や物資の手配などで、既に辺境領に無くてはならない存在になっているそうだ。この世界では当たり前の事だって知ってはいても、同性同士でも反対されないんだなってどうしても思ってしまう。早くこっちの世界の常識に慣れないといけないな。

「弟はまだ今年成人だから、結婚はしてないけどね」

 だいぶ年が離れてるんだと、ハルはお兄ちゃんって感じの優しい笑みを浮かべた。

「だから、アキトも安心して。うちの親は身分なんて気にしないから」

 ハルはそう言い切ってくれたけど、俺にはハルと張り合う程の強さは無いし、周りの意見をとりまとめて後方支援が出来るわけでも無い。俺に出来る事って何だろうと考えながら、しょんぼりと肩を落とす。

「でも俺にはそこまでの強さは無いから…」
「ちょっと待って、アキト。アキトは魔法の腕だけで、俺の恋人として認めて貰えるよ」

 慌てた様子でハルは続けた。

「騎士団でも騒がれてたでしょう?アキトの魔法の腕はすごいんだよ」

 確かに騎士団ではかなり盛り上がったけど、あれは魔法使いが珍しいからだと思ってた。だって騎士の皆は剣で戦うからさ。でもそっか、魔法の腕は認めて貰えるかもしれないんだ。

 それなら、堂々とハルと並んで立てるように、もっともっと魔法の練習をしないとだな。

「俺、もっと魔法の練習頑張るね」

 拳を握ってそう宣言すれば、ハルはゆるく首を傾げた。

「もう十分じゃないか?」
「ううん。ハルの家族に認めてもらいたいから、もっと頑張りたいんだ」

 ハルはびっくりした顔で固まってから、くしゃりと笑って頷いてくれた。

「ありがとう、アキト」
「どういたしまして、ハル」
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