218 / 1,112
217.久しぶりのレーブンさん
しおりを挟む
騎士団本部から出た俺たちは、見慣れたトライプールの街中を手をつないでゆっくりと歩いていた。
この世界では同性のカップルも多いから、手をつないで歩いていても周りからじろじろ見られたりしないんだね。
「アキト、まっすぐ黒鷹亭に行くで良い?」
「うん。レーブンさん心配してくれてるだろうし…ハルの事恋人だって紹介したいな」
浮かれてるのは分かってるんだけど、やっと生身のハルを紹介できるようになったんだからこれぐらいは許して欲しい。思わずぎゅっと手を握りしめれば、ハルは柔らかい笑みを浮かべる。
「アキト、黒鷹亭に帰り着いたら、もう一つ話したい事があるんだ」
ここで聞くのにと思ったけれど、真剣なハルの顔を見て俺は言葉を飲み込んだ。黒鷹亭なら防音結界があるから、そこに入ってからって事かな。
「うん、分かった」
「じゃあこっちだね」
俺一人だと絶対に通らないような狭い路地を駆使して、俺たちはあっという間に黒鷹亭の前に辿り着いた。
既にお昼に近い時間な事もあり、黒鷹亭の中はしんと静まりかえっていた。こんなに天気が良い冒険日和だ。そりゃあ、冒険者はみんな出掛けてるよね。
「すみませーん」
ハルが声を張り上げれば、レーブンさんが厨房の方から現れた。
「なんのよう…アキト!」
「レーブンさん!ただいま戻りました!」
「おかえり、アキト!怪我はしてないか?」
「はい、元気です!」
「一体何があったんだ?ケビンの野郎は体調に問題はないんだがとしか言わないし…」
ケルビンさん、きちんと話を通してるって言ってたのに全然じゃないか。心配してくれてたんだなって分かるレーブンさんの反応は、正直に言えばちょっとだけ嬉しい。
「それについては、俺から説明させて下さい」
俺の後ろに立っていたハルがそう口を開けば、レーブンさんはギロリと見た事が無いほど険しい目でハルを睨みつけた。
「なんでお前がアキトと一緒にいるんだ?」
「あの、レーブンさん」
大切な二人がもめる所なんて見たくないと咄嗟に口を挟んだ俺をちらりと見て、レーブンさんは続けた。
「きっちり説明してくれるよな?ハロルド・ウェルマール」
ハロルド・ウェルマール。今レーブンさんは確かにそう言った。
「ウェルマール…?」
ウェルマールって、辺境伯の苗字と同じだよね?
「なんだ、お前名乗ってすらいなかったのか?」
「詳しい話は、これを起動してからでお願いします」
魔道具を取り出してそう言ったハルに、レーブンさんは食堂を指差した。
魔道具が起動された食堂で、隣り合わせに座った俺とハルの向かい側にレーブンさんは腰を下ろした。
「まずお前、いつ目覚めたんだ」
レーブンさんはあっさりとそう尋ねた。ハルの予想通り、レーブンさんはハルが毒で眠ってた事も知ってたんだな。
「10日程前ですね」
「そうか。まあそれは良かった…おめでとう」
仏頂面のままで律儀にお祝いの言葉を言うレーブンさんに、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
「まずこれから話す事は、剣に誓って真実です」
「お前が嘘を吐くと思ってるわけじゃない」
「俺は半年前から眠ったままでしたが、ずっと体にいたわけじゃないんです」
「…は?」
レーブンさんの反応も無理は無いと思う。だって突然そんな事を言われても、ああそうなんだって納得できる筈が無い。
「俺は体から抜け出して、幽霊として色んな所を彷徨っていたんです」
「それは…」
「信じられないと思いますが、事実です」
言い切ったハルを不思議そうな顔で見つめていたレーブンさんと、ふと目があった。ここは俺の体質を先に話した方が良いかもしれない。
「レーブンさん、俺は生まれつき変わった体質を持ってます」
「変わった体質?」
「俺には幽霊が見えるんです」
ハルの言葉以上に唐突な切り出し方だったと思うけれど、レーブンさんはじっと俺の目を見つめてからふうと息を吐いた。
「アキトが嘘を吐いて無い事は分かった」
レーブンさんはそう言い切ると、今度はハルの目をじっと見つめる。ハルは少しも怯まずにレーブンさんの目を見つめ返すと、そのまま見つめ合った。
「はあ…お前たち二人が嘘を吐いてない事は分かった」
なんでそんな風に信じられるんだろうと思ったけど、そういえばレーブンさんは特殊なスキルで相手の事が分かるんだったっけ。嘘を吐いてるかどうかまでバレるとは思わなかったな。
レーブンさんって、やっぱりすごい人なんだ。
この世界では同性のカップルも多いから、手をつないで歩いていても周りからじろじろ見られたりしないんだね。
「アキト、まっすぐ黒鷹亭に行くで良い?」
「うん。レーブンさん心配してくれてるだろうし…ハルの事恋人だって紹介したいな」
浮かれてるのは分かってるんだけど、やっと生身のハルを紹介できるようになったんだからこれぐらいは許して欲しい。思わずぎゅっと手を握りしめれば、ハルは柔らかい笑みを浮かべる。
「アキト、黒鷹亭に帰り着いたら、もう一つ話したい事があるんだ」
ここで聞くのにと思ったけれど、真剣なハルの顔を見て俺は言葉を飲み込んだ。黒鷹亭なら防音結界があるから、そこに入ってからって事かな。
「うん、分かった」
「じゃあこっちだね」
俺一人だと絶対に通らないような狭い路地を駆使して、俺たちはあっという間に黒鷹亭の前に辿り着いた。
既にお昼に近い時間な事もあり、黒鷹亭の中はしんと静まりかえっていた。こんなに天気が良い冒険日和だ。そりゃあ、冒険者はみんな出掛けてるよね。
「すみませーん」
ハルが声を張り上げれば、レーブンさんが厨房の方から現れた。
「なんのよう…アキト!」
「レーブンさん!ただいま戻りました!」
「おかえり、アキト!怪我はしてないか?」
「はい、元気です!」
「一体何があったんだ?ケビンの野郎は体調に問題はないんだがとしか言わないし…」
ケルビンさん、きちんと話を通してるって言ってたのに全然じゃないか。心配してくれてたんだなって分かるレーブンさんの反応は、正直に言えばちょっとだけ嬉しい。
「それについては、俺から説明させて下さい」
俺の後ろに立っていたハルがそう口を開けば、レーブンさんはギロリと見た事が無いほど険しい目でハルを睨みつけた。
「なんでお前がアキトと一緒にいるんだ?」
「あの、レーブンさん」
大切な二人がもめる所なんて見たくないと咄嗟に口を挟んだ俺をちらりと見て、レーブンさんは続けた。
「きっちり説明してくれるよな?ハロルド・ウェルマール」
ハロルド・ウェルマール。今レーブンさんは確かにそう言った。
「ウェルマール…?」
ウェルマールって、辺境伯の苗字と同じだよね?
「なんだ、お前名乗ってすらいなかったのか?」
「詳しい話は、これを起動してからでお願いします」
魔道具を取り出してそう言ったハルに、レーブンさんは食堂を指差した。
魔道具が起動された食堂で、隣り合わせに座った俺とハルの向かい側にレーブンさんは腰を下ろした。
「まずお前、いつ目覚めたんだ」
レーブンさんはあっさりとそう尋ねた。ハルの予想通り、レーブンさんはハルが毒で眠ってた事も知ってたんだな。
「10日程前ですね」
「そうか。まあそれは良かった…おめでとう」
仏頂面のままで律儀にお祝いの言葉を言うレーブンさんに、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
「まずこれから話す事は、剣に誓って真実です」
「お前が嘘を吐くと思ってるわけじゃない」
「俺は半年前から眠ったままでしたが、ずっと体にいたわけじゃないんです」
「…は?」
レーブンさんの反応も無理は無いと思う。だって突然そんな事を言われても、ああそうなんだって納得できる筈が無い。
「俺は体から抜け出して、幽霊として色んな所を彷徨っていたんです」
「それは…」
「信じられないと思いますが、事実です」
言い切ったハルを不思議そうな顔で見つめていたレーブンさんと、ふと目があった。ここは俺の体質を先に話した方が良いかもしれない。
「レーブンさん、俺は生まれつき変わった体質を持ってます」
「変わった体質?」
「俺には幽霊が見えるんです」
ハルの言葉以上に唐突な切り出し方だったと思うけれど、レーブンさんはじっと俺の目を見つめてからふうと息を吐いた。
「アキトが嘘を吐いて無い事は分かった」
レーブンさんはそう言い切ると、今度はハルの目をじっと見つめる。ハルは少しも怯まずにレーブンさんの目を見つめ返すと、そのまま見つめ合った。
「はあ…お前たち二人が嘘を吐いてない事は分かった」
なんでそんな風に信じられるんだろうと思ったけど、そういえばレーブンさんは特殊なスキルで相手の事が分かるんだったっけ。嘘を吐いてるかどうかまでバレるとは思わなかったな。
レーブンさんって、やっぱりすごい人なんだ。
417
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる