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208.特別任務の内容は
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「今日は俺の特別任務の任命式なんだよ」
まっすぐに目を見て教えてくれたハルに、俺は小さく首を傾げて答えた。特別任務の任命式と言われても、一体どんな任務なのか想像すらつかない。
「特別任務…って?」
「俺が元々冒険者としての身分も持ってたってのは聞いた?」
「うん、ケルビンが教えてくれたよ」
「この服で騎士として動くより、冒険者としての方が動きやすい事もあるからね」
「なるほど」
なんで騎士なのに冒険者の身分がいるのかなって気になってたんだけど、そう説明されたら納得しかない。
騎士団服を着たハルは凛々しくてすごく格好良いけど、とにかく目立つ。ちょっと街中を移動しただけで、見物客が現れてもおかしくないと思うレベルだ。騎士が動いてるって宣伝しながら歩いてるようなものだよな。
「冒険者らしい恰好で動いていれば、そうそうバレないしね」
片方の前髪を上げてきっちりと撫でつけている今日は、誰が見ても騎士のハロルドだ。でも俺と出会った時みたいに髪の毛をラフに下ろしてれば、よほどの事が無いとバレないんだって。
でもハルはこんなに格好良いんだから、冒険者の恰好をしていても気づく人は気づくと思うんだけどな。
「今回の特別任務は、冒険者としての活動をしながら情報収集をするという内容なんだ」
「え…?」
「これで、俺は表向きは冒険者としてアキトと一緒にいられるんだよ」
優しい笑顔で見つめてくるハルの言葉を理解した瞬間、俺は反射的にぎゅっとハルに抱き着いた。二人とも椅子に座ったままだから変な体勢だけど、こんな嬉しい事を聞かされたら抱き着かずにはいられなかった。
「おれ…ずっと一緒にはいられないのかなと思ってた」
例え一緒にいられなくても小まめに会いにくる気満々だったし、何なら二人で部屋でも借りられたらなんて考えたりもしていたんだけど。さすがに騎士のハルに一緒に冒険しようとは言い難いなって考えてた。
「俺がアキトを一人にするわけないだろう?」
そっと俺の顔を覗き込んできたハルは、とろけるような笑顔でそう囁いた。至近距離での殺し文句はやめて欲しい。俺の顔は今、絶対に真っ赤だと思う。
「こいつ、アキトが起きる前から根回ししてたんだぜ」
ケルビンいわく、ハルは特別任務が拒絶されたら騎士団を辞める覚悟まで決めていたそうだ。トライプールの領主様の許可を得て、王都の騎士団にもきっちりと連絡を取って話を通し、この特別任務を無理やりもぎ取ったらしい。
最近忙しそうにしてたのは、俺と一緒にいるために頑張ってくれてたからだったんだ。そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられた。
「もし俺が騎士を辞めたら、アキトが気にするかと思ってね。できるだけ残るつもりで手を尽くしたんだ」
「そうなんだ…ありがとう、ハル」
ハルは本当に俺の事をよく分かってくれてるんだな。ハルと一緒にいれるのはすごく嬉しいけど、俺のために騎士を辞めたって言われたらきっと複雑な気持ちになってたと思う。頭をそっと撫でてくれる手が嬉しくて、俺はふにゃりと笑みを浮かべた。
「ただ騎士団から依頼が来た時は、他の領にも行く必要があると思う」
「うん、ハルと一緒に行けるなら他の領も楽しそうだよね!」
俺はトライプールしか知らないけど、ハルと一緒ならきっと楽しめると思う。素直にそう告げれば、ハルは幸せそうに笑ってくれた。
「どこに行っても、俺がちゃんと案内するからね」
「頼りにしてます」
俺たちの会話がひと段落すると、周りで聞いていた騎士達から一斉に声が上がった。
「見せつけないでくださいよ!」
「あー俺もこんな恋人欲しい…」
「恋人っていうかもはや夫婦みたいじゃないか?」
「お幸せに!」
「このままプロポーズでも始まるかと思ったよ」
わいわいと騒ぐ周りの声に、俺はようやくここがどこかを思い出した。ここは騎士団の食堂で、今は朝食の時間だ。こんなに人が多い場所でこんな会話をしてしまうなんてと、俺は真っ赤になってうつむいた。
「お前ら、羨ましいだろう?」
ハルは余裕の態度でそう答えると、自慢げに笑ってみせた。
まっすぐに目を見て教えてくれたハルに、俺は小さく首を傾げて答えた。特別任務の任命式と言われても、一体どんな任務なのか想像すらつかない。
「特別任務…って?」
「俺が元々冒険者としての身分も持ってたってのは聞いた?」
「うん、ケルビンが教えてくれたよ」
「この服で騎士として動くより、冒険者としての方が動きやすい事もあるからね」
「なるほど」
なんで騎士なのに冒険者の身分がいるのかなって気になってたんだけど、そう説明されたら納得しかない。
騎士団服を着たハルは凛々しくてすごく格好良いけど、とにかく目立つ。ちょっと街中を移動しただけで、見物客が現れてもおかしくないと思うレベルだ。騎士が動いてるって宣伝しながら歩いてるようなものだよな。
「冒険者らしい恰好で動いていれば、そうそうバレないしね」
片方の前髪を上げてきっちりと撫でつけている今日は、誰が見ても騎士のハロルドだ。でも俺と出会った時みたいに髪の毛をラフに下ろしてれば、よほどの事が無いとバレないんだって。
でもハルはこんなに格好良いんだから、冒険者の恰好をしていても気づく人は気づくと思うんだけどな。
「今回の特別任務は、冒険者としての活動をしながら情報収集をするという内容なんだ」
「え…?」
「これで、俺は表向きは冒険者としてアキトと一緒にいられるんだよ」
優しい笑顔で見つめてくるハルの言葉を理解した瞬間、俺は反射的にぎゅっとハルに抱き着いた。二人とも椅子に座ったままだから変な体勢だけど、こんな嬉しい事を聞かされたら抱き着かずにはいられなかった。
「おれ…ずっと一緒にはいられないのかなと思ってた」
例え一緒にいられなくても小まめに会いにくる気満々だったし、何なら二人で部屋でも借りられたらなんて考えたりもしていたんだけど。さすがに騎士のハルに一緒に冒険しようとは言い難いなって考えてた。
「俺がアキトを一人にするわけないだろう?」
そっと俺の顔を覗き込んできたハルは、とろけるような笑顔でそう囁いた。至近距離での殺し文句はやめて欲しい。俺の顔は今、絶対に真っ赤だと思う。
「こいつ、アキトが起きる前から根回ししてたんだぜ」
ケルビンいわく、ハルは特別任務が拒絶されたら騎士団を辞める覚悟まで決めていたそうだ。トライプールの領主様の許可を得て、王都の騎士団にもきっちりと連絡を取って話を通し、この特別任務を無理やりもぎ取ったらしい。
最近忙しそうにしてたのは、俺と一緒にいるために頑張ってくれてたからだったんだ。そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられた。
「もし俺が騎士を辞めたら、アキトが気にするかと思ってね。できるだけ残るつもりで手を尽くしたんだ」
「そうなんだ…ありがとう、ハル」
ハルは本当に俺の事をよく分かってくれてるんだな。ハルと一緒にいれるのはすごく嬉しいけど、俺のために騎士を辞めたって言われたらきっと複雑な気持ちになってたと思う。頭をそっと撫でてくれる手が嬉しくて、俺はふにゃりと笑みを浮かべた。
「ただ騎士団から依頼が来た時は、他の領にも行く必要があると思う」
「うん、ハルと一緒に行けるなら他の領も楽しそうだよね!」
俺はトライプールしか知らないけど、ハルと一緒ならきっと楽しめると思う。素直にそう告げれば、ハルは幸せそうに笑ってくれた。
「どこに行っても、俺がちゃんと案内するからね」
「頼りにしてます」
俺たちの会話がひと段落すると、周りで聞いていた騎士達から一斉に声が上がった。
「見せつけないでくださいよ!」
「あー俺もこんな恋人欲しい…」
「恋人っていうかもはや夫婦みたいじゃないか?」
「お幸せに!」
「このままプロポーズでも始まるかと思ったよ」
わいわいと騒ぐ周りの声に、俺はようやくここがどこかを思い出した。ここは騎士団の食堂で、今は朝食の時間だ。こんなに人が多い場所でこんな会話をしてしまうなんてと、俺は真っ赤になってうつむいた。
「お前ら、羨ましいだろう?」
ハルは余裕の態度でそう答えると、自慢げに笑ってみせた。
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