生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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204.【ハル視点】夢のような時間

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 ほんの思いつきだった魔法の披露は、大満足の出来栄えで無事に終了した。これだけ実力がある事を見せつけておけば、アキトを侮るようなやつは現れないだろう。

「ハロルド、さすがに俺も驚いたよ。アキトの実力は本物だな」

 想像以上の実力に感動したらしいケルビンは、面白そうな笑顔で話しかけてきた。アキトのすごさを理解してもらえて何よりだよ。

「ああ、アキトはドロシーの弟子だからな」
「金級のドロシーか?」
「そうだ。ギルドで授業をしてもらった時に気に入られてな」

 軽く話している間に、アキトはあっという間に騎士達に囲まれてしまった。

「あの、お腹空いてませんか?」
「うちの食堂、一般公開はされてないんですけど、アキトさんなら歓迎しますよ」
「ハロルドさんと一緒にどうです?」

 さすがに俺の目の前で口説くような馬鹿はいないようだが、あんな体格の良い奴らに囲まれたら困惑するだろう。

「おまえら、近すぎ」

 急いでアキトの側に移動すると、俺は周りの騎士達をじろりと睨んだ。

「ちゃんと距離取ってますよ?」
「え、これでも近いですか?」
「ああ、まだ近すぎるな」

 不服そうな周囲の声に、俺はにっこりとわざとらしい笑みを浮かべた。慌てた様子で一歩ずつ下がった周りに、アキトは少しだけ笑みを浮かべた。

「今日は二人で食事するんだから、邪魔するなよ」
「ああ、もう部屋の用意はしてあるぞ」
「ありがとう。じゃあアキト、行こうか」

 手を差し出せばすぐに握り返してくれるアキトに、この場で思いっきり抱きしめたいと一瞬だけ思ってしまった。周りから冷やかすような歓声が巻き起こったおかげで、俺は何とか踏みとどまった。

 人目があろうとアキトへの気持ちを隠す必要性は感じないけれど、アキトの可愛い反応は誰にも見せたくないからな。俺はアキトの手を引いて、その場を後にした。



 二人だけで食事がしたいという我儘にケルビンが用意したのは、来客用に使う豪華な応接室だった。俺としてはもう少し普通の部屋が良かったんだが、料理を並べられるテーブルのある部屋はどうしても限られてしまう。

「派手だからアキト好みじゃないとは思うんだけど、ちょっとだけ我慢してね」
「それは良いんだけど…料理すごいね」

 アキトの目線が料理に釘付けになっているのが、なんだか微笑ましい。テーブルの上に所せましと並んでいる料理には、きっちりと保温の魔法までかけられているみたいだ。

「お腹が空いてきた?」
「うん、すっごく」
「それは良かった。魔力切れの後は、食欲が戻ったらもう安心だって言われてるんだ」

 アキトの魔力が満ちた事が嬉しくて、俺は満面の笑みを浮かべた。

「色々と話したいことはあるけど、まずは座って食べようか」
「うん!」

 テーブルを挟み、アキトと向かい合って腰を下ろす。

「「いただきます」」

 食前にアキトが必ず口にする言葉を、俺も一緒になって声に出してみた。アキトは驚いた顔をしたまま、ちらりと俺を見つめてきた。

「アキトが言うのを聞いてて、ずっと言ってみたかったんだよね」

 食事もできないのに一緒に言えば、きっとアキトは気にするだろう。そう思ってずっと我慢していたんだけど、やっと口に出して言えたな。

「俺は嬉しいよ」
「アキトが嫌じゃないなら、これからも言わせてもらおうかな」

 食前の祈りには地域性が出るものだから、異世界の言葉だと気づかれる事はきっと無いだろう。



 実はアキトが眠っている間に、少しずつ体は慣らしてある。魔法薬以外を口にしていなかった体では、ろくに食べる事もできなかったからだ。眠っていてくれたおかげで、みっともない所を見られなかったとも言えるな。

 数日かけて何とか普通の食事が出来るようになったとはいえ、刺激物は駄目だとかこの食材は禁止だとか色々と制約も多い。そんな状態だから一緒に食事は無理かとも思っていたんだが、料理が得意なディエゴが腕を振るってくれた。

「アキトさんと一緒に食事がしたいんでしょう?」
「ああ、したい」
「まかせて下さい!制限ぐらい何とでもします!」

 ディエゴはミング先生と相談しながら、今日のメニューを考えて腕を振るってくれたんだ。いくら感謝してもし足りないな。

 テーブルの上に並んだ料理は、どれを食べても美味しかった。華やかさはあまり無いけれど、騎士団で人気のメニューを俺でも食べられるように手を加えて作ってくれているのが分かる。

「この肉の煮込み、美味しい!」

 目をキラキラさせながら叫んだアキトに、俺も肉の煮込みを口に運んだ。

「あ、本当だ、美味しいね」

 アキトが美味しいと言ったものを、同じように味わえるのがたまらなく嬉しい。ひそかに感動していた俺に、アキトはにっこりと笑みを浮かべた。

「俺さ、ハルと美味しいって言い合いながら食べれるの嬉しい」
「ああ、俺もすごく嬉しいよ」



 食事を楽しみながらあれこれ話している時に、ふとこの料理は騎士が交代で作っているのだと伝えればアキトは心底驚いたようだった。

「え、これって騎士の人が作ってるの?」
「料理っていうのは、なかなか良い鍛錬になるからね」

 不思議そうなアキトに、俺は指を折りながら説明を続けた。

「大量に作るとなると計算も必要だし、計画性も段取りを考える力もいる。美味しくできれば達成感もあるだろ?」

 確かにと頷いていたアキトは、ハッと何かに気づいた顔で俺を見つめてきた。

「それってハルも料理できるって事?」
「もちろん。今度アキトに食べてもらいたいな」

 以前からアキトのために料理を作りたいと考えていたからか、ぽろっと口から言葉がこぼれた。アキトは嬉しそうに笑いながら答えてくれた。

「うわー楽しみ!俺も上手じゃないけど、ハルに料理食べて欲しいな」
「じゃあお互いに作ろうか、約束ね」

 二人で一緒に食事をして、未来の約束を交わす。気を抜いたら泣きそうだなと考えている俺の前で、アキトはふにゃりと笑みを浮かべてから大きく頷いてくれた。
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