205 / 1,179
204.【ハル視点】夢のような時間
しおりを挟む
ほんの思いつきだった魔法の披露は、大満足の出来栄えで無事に終了した。これだけ実力がある事を見せつけておけば、アキトを侮るようなやつは現れないだろう。
「ハロルド、さすがに俺も驚いたよ。アキトの実力は本物だな」
想像以上の実力に感動したらしいケルビンは、面白そうな笑顔で話しかけてきた。アキトのすごさを理解してもらえて何よりだよ。
「ああ、アキトはドロシーの弟子だからな」
「金級のドロシーか?」
「そうだ。ギルドで授業をしてもらった時に気に入られてな」
軽く話している間に、アキトはあっという間に騎士達に囲まれてしまった。
「あの、お腹空いてませんか?」
「うちの食堂、一般公開はされてないんですけど、アキトさんなら歓迎しますよ」
「ハロルドさんと一緒にどうです?」
さすがに俺の目の前で口説くような馬鹿はいないようだが、あんな体格の良い奴らに囲まれたら困惑するだろう。
「おまえら、近すぎ」
急いでアキトの側に移動すると、俺は周りの騎士達をじろりと睨んだ。
「ちゃんと距離取ってますよ?」
「え、これでも近いですか?」
「ああ、まだ近すぎるな」
不服そうな周囲の声に、俺はにっこりとわざとらしい笑みを浮かべた。慌てた様子で一歩ずつ下がった周りに、アキトは少しだけ笑みを浮かべた。
「今日は二人で食事するんだから、邪魔するなよ」
「ああ、もう部屋の用意はしてあるぞ」
「ありがとう。じゃあアキト、行こうか」
手を差し出せばすぐに握り返してくれるアキトに、この場で思いっきり抱きしめたいと一瞬だけ思ってしまった。周りから冷やかすような歓声が巻き起こったおかげで、俺は何とか踏みとどまった。
人目があろうとアキトへの気持ちを隠す必要性は感じないけれど、アキトの可愛い反応は誰にも見せたくないからな。俺はアキトの手を引いて、その場を後にした。
二人だけで食事がしたいという我儘にケルビンが用意したのは、来客用に使う豪華な応接室だった。俺としてはもう少し普通の部屋が良かったんだが、料理を並べられるテーブルのある部屋はどうしても限られてしまう。
「派手だからアキト好みじゃないとは思うんだけど、ちょっとだけ我慢してね」
「それは良いんだけど…料理すごいね」
アキトの目線が料理に釘付けになっているのが、なんだか微笑ましい。テーブルの上に所せましと並んでいる料理には、きっちりと保温の魔法までかけられているみたいだ。
「お腹が空いてきた?」
「うん、すっごく」
「それは良かった。魔力切れの後は、食欲が戻ったらもう安心だって言われてるんだ」
アキトの魔力が満ちた事が嬉しくて、俺は満面の笑みを浮かべた。
「色々と話したいことはあるけど、まずは座って食べようか」
「うん!」
テーブルを挟み、アキトと向かい合って腰を下ろす。
「「いただきます」」
食前にアキトが必ず口にする言葉を、俺も一緒になって声に出してみた。アキトは驚いた顔をしたまま、ちらりと俺を見つめてきた。
「アキトが言うのを聞いてて、ずっと言ってみたかったんだよね」
食事もできないのに一緒に言えば、きっとアキトは気にするだろう。そう思ってずっと我慢していたんだけど、やっと口に出して言えたな。
「俺は嬉しいよ」
「アキトが嫌じゃないなら、これからも言わせてもらおうかな」
食前の祈りには地域性が出るものだから、異世界の言葉だと気づかれる事はきっと無いだろう。
実はアキトが眠っている間に、少しずつ体は慣らしてある。魔法薬以外を口にしていなかった体では、ろくに食べる事もできなかったからだ。眠っていてくれたおかげで、みっともない所を見られなかったとも言えるな。
数日かけて何とか普通の食事が出来るようになったとはいえ、刺激物は駄目だとかこの食材は禁止だとか色々と制約も多い。そんな状態だから一緒に食事は無理かとも思っていたんだが、料理が得意なディエゴが腕を振るってくれた。
「アキトさんと一緒に食事がしたいんでしょう?」
「ああ、したい」
「まかせて下さい!制限ぐらい何とでもします!」
ディエゴはミング先生と相談しながら、今日のメニューを考えて腕を振るってくれたんだ。いくら感謝してもし足りないな。
テーブルの上に並んだ料理は、どれを食べても美味しかった。華やかさはあまり無いけれど、騎士団で人気のメニューを俺でも食べられるように手を加えて作ってくれているのが分かる。
「この肉の煮込み、美味しい!」
目をキラキラさせながら叫んだアキトに、俺も肉の煮込みを口に運んだ。
「あ、本当だ、美味しいね」
アキトが美味しいと言ったものを、同じように味わえるのがたまらなく嬉しい。ひそかに感動していた俺に、アキトはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺さ、ハルと美味しいって言い合いながら食べれるの嬉しい」
「ああ、俺もすごく嬉しいよ」
食事を楽しみながらあれこれ話している時に、ふとこの料理は騎士が交代で作っているのだと伝えればアキトは心底驚いたようだった。
「え、これって騎士の人が作ってるの?」
「料理っていうのは、なかなか良い鍛錬になるからね」
不思議そうなアキトに、俺は指を折りながら説明を続けた。
「大量に作るとなると計算も必要だし、計画性も段取りを考える力もいる。美味しくできれば達成感もあるだろ?」
確かにと頷いていたアキトは、ハッと何かに気づいた顔で俺を見つめてきた。
「それってハルも料理できるって事?」
「もちろん。今度アキトに食べてもらいたいな」
以前からアキトのために料理を作りたいと考えていたからか、ぽろっと口から言葉がこぼれた。アキトは嬉しそうに笑いながら答えてくれた。
「うわー楽しみ!俺も上手じゃないけど、ハルに料理食べて欲しいな」
「じゃあお互いに作ろうか、約束ね」
二人で一緒に食事をして、未来の約束を交わす。気を抜いたら泣きそうだなと考えている俺の前で、アキトはふにゃりと笑みを浮かべてから大きく頷いてくれた。
「ハロルド、さすがに俺も驚いたよ。アキトの実力は本物だな」
想像以上の実力に感動したらしいケルビンは、面白そうな笑顔で話しかけてきた。アキトのすごさを理解してもらえて何よりだよ。
「ああ、アキトはドロシーの弟子だからな」
「金級のドロシーか?」
「そうだ。ギルドで授業をしてもらった時に気に入られてな」
軽く話している間に、アキトはあっという間に騎士達に囲まれてしまった。
「あの、お腹空いてませんか?」
「うちの食堂、一般公開はされてないんですけど、アキトさんなら歓迎しますよ」
「ハロルドさんと一緒にどうです?」
さすがに俺の目の前で口説くような馬鹿はいないようだが、あんな体格の良い奴らに囲まれたら困惑するだろう。
「おまえら、近すぎ」
急いでアキトの側に移動すると、俺は周りの騎士達をじろりと睨んだ。
「ちゃんと距離取ってますよ?」
「え、これでも近いですか?」
「ああ、まだ近すぎるな」
不服そうな周囲の声に、俺はにっこりとわざとらしい笑みを浮かべた。慌てた様子で一歩ずつ下がった周りに、アキトは少しだけ笑みを浮かべた。
「今日は二人で食事するんだから、邪魔するなよ」
「ああ、もう部屋の用意はしてあるぞ」
「ありがとう。じゃあアキト、行こうか」
手を差し出せばすぐに握り返してくれるアキトに、この場で思いっきり抱きしめたいと一瞬だけ思ってしまった。周りから冷やかすような歓声が巻き起こったおかげで、俺は何とか踏みとどまった。
人目があろうとアキトへの気持ちを隠す必要性は感じないけれど、アキトの可愛い反応は誰にも見せたくないからな。俺はアキトの手を引いて、その場を後にした。
二人だけで食事がしたいという我儘にケルビンが用意したのは、来客用に使う豪華な応接室だった。俺としてはもう少し普通の部屋が良かったんだが、料理を並べられるテーブルのある部屋はどうしても限られてしまう。
「派手だからアキト好みじゃないとは思うんだけど、ちょっとだけ我慢してね」
「それは良いんだけど…料理すごいね」
アキトの目線が料理に釘付けになっているのが、なんだか微笑ましい。テーブルの上に所せましと並んでいる料理には、きっちりと保温の魔法までかけられているみたいだ。
「お腹が空いてきた?」
「うん、すっごく」
「それは良かった。魔力切れの後は、食欲が戻ったらもう安心だって言われてるんだ」
アキトの魔力が満ちた事が嬉しくて、俺は満面の笑みを浮かべた。
「色々と話したいことはあるけど、まずは座って食べようか」
「うん!」
テーブルを挟み、アキトと向かい合って腰を下ろす。
「「いただきます」」
食前にアキトが必ず口にする言葉を、俺も一緒になって声に出してみた。アキトは驚いた顔をしたまま、ちらりと俺を見つめてきた。
「アキトが言うのを聞いてて、ずっと言ってみたかったんだよね」
食事もできないのに一緒に言えば、きっとアキトは気にするだろう。そう思ってずっと我慢していたんだけど、やっと口に出して言えたな。
「俺は嬉しいよ」
「アキトが嫌じゃないなら、これからも言わせてもらおうかな」
食前の祈りには地域性が出るものだから、異世界の言葉だと気づかれる事はきっと無いだろう。
実はアキトが眠っている間に、少しずつ体は慣らしてある。魔法薬以外を口にしていなかった体では、ろくに食べる事もできなかったからだ。眠っていてくれたおかげで、みっともない所を見られなかったとも言えるな。
数日かけて何とか普通の食事が出来るようになったとはいえ、刺激物は駄目だとかこの食材は禁止だとか色々と制約も多い。そんな状態だから一緒に食事は無理かとも思っていたんだが、料理が得意なディエゴが腕を振るってくれた。
「アキトさんと一緒に食事がしたいんでしょう?」
「ああ、したい」
「まかせて下さい!制限ぐらい何とでもします!」
ディエゴはミング先生と相談しながら、今日のメニューを考えて腕を振るってくれたんだ。いくら感謝してもし足りないな。
テーブルの上に並んだ料理は、どれを食べても美味しかった。華やかさはあまり無いけれど、騎士団で人気のメニューを俺でも食べられるように手を加えて作ってくれているのが分かる。
「この肉の煮込み、美味しい!」
目をキラキラさせながら叫んだアキトに、俺も肉の煮込みを口に運んだ。
「あ、本当だ、美味しいね」
アキトが美味しいと言ったものを、同じように味わえるのがたまらなく嬉しい。ひそかに感動していた俺に、アキトはにっこりと笑みを浮かべた。
「俺さ、ハルと美味しいって言い合いながら食べれるの嬉しい」
「ああ、俺もすごく嬉しいよ」
食事を楽しみながらあれこれ話している時に、ふとこの料理は騎士が交代で作っているのだと伝えればアキトは心底驚いたようだった。
「え、これって騎士の人が作ってるの?」
「料理っていうのは、なかなか良い鍛錬になるからね」
不思議そうなアキトに、俺は指を折りながら説明を続けた。
「大量に作るとなると計算も必要だし、計画性も段取りを考える力もいる。美味しくできれば達成感もあるだろ?」
確かにと頷いていたアキトは、ハッと何かに気づいた顔で俺を見つめてきた。
「それってハルも料理できるって事?」
「もちろん。今度アキトに食べてもらいたいな」
以前からアキトのために料理を作りたいと考えていたからか、ぽろっと口から言葉がこぼれた。アキトは嬉しそうに笑いながら答えてくれた。
「うわー楽しみ!俺も上手じゃないけど、ハルに料理食べて欲しいな」
「じゃあお互いに作ろうか、約束ね」
二人で一緒に食事をして、未来の約束を交わす。気を抜いたら泣きそうだなと考えている俺の前で、アキトはふにゃりと笑みを浮かべてから大きく頷いてくれた。
402
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる