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206.現副団長 ディエゴ

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 ハルが目を覚ましてから、早一週間が過ぎた。俺はまだ黒鷹亭には戻れず、騎士団本部の客人として滞在している。

 目が覚めた日に魔法を披露したのが良かったのか、騎士の人達には温かく受け入れて貰っている。魔法について聞きに来る人もいれば、ハルと二人で食べてくださいって差し入れをくれる人までいる。

 居心地は悪くないんだよ。でも俺はレーブンさんに会いたい。だって俺が黒鷹亭を出たのって、ハルがいなくなって散々心配かけた直後だ。いくらケルビンが話を通してくれてたとしても、絶対に心配かけてると思うんだよな。

「まだ帰れないのって何でなんだろ…」
「あれ?まだハロルド先輩から話聞いてないんだ?」

 俺の愚痴に軽く答えてくれたのは、トライプール騎士団の現在の副団長、ディエゴだ。

「え、ディエゴ何か知ってるの?」
「えーと…知ってるけど俺からは話せないからね?」
「教えてよー」
「勝手に話したら、俺がハロルド先輩に怒られるじゃないか」

 絶対に話さないからねと念を押してくるディエゴを、俺は恨めし気に見つめた。最初に会った時は、ここまで気安く話せる仲になるとは思わなかったんだけどな。



 ディエゴとの初対面は、俺が目覚めてから数日が経ってからだった。

 ちょうどミング先生の診察を受けていた俺の部屋に、無表情なディエゴが青筋を浮かべて乱入してきたんだ。ディエゴはこの騎士団では比較的細めの体型なんだけど、乱入してきた時は迫力がすごすぎてびびってしまった。

 まあ俺に対してでもハルに対してでもなく、大事な仕事を放り出してサボってたケルビン団長に怒り狂ってたんだけどね。窓から逃げようとした団長を片手で取り押さえたディエゴに、ミング先生とハルは軽く笑っただけだった。

 なんだろうこの慣れてる感じ。

「ああ、ディエゴ」
「あ、ハロルド先輩、お疲れ様です」
「ケルビンが仕事中とは知らなかったんだ、悪かったな」
「いえ、先輩は悪くないですから」

 そう言いながらもじろりと団長を睨んだディエゴは、ふと俺の方を見てからふわりと笑ってくれた。笑顔になるだけで威圧感が一気に減って、優し気なお兄さんに見えてくるから不思議だ。片手に団長は捕まえたままだけど。

「こんにちは、あなたがアキトさんですね」
「あ、はじめまして、アキトです」
「はじめまして。私はディエゴ。現在はここの副団長をしています」

 片手で団長を抑え込んだまま、ディエゴはお手本のような綺麗な敬礼をしてみせた。

「アキトさんにお礼を言わせて頂きたかったんです」
「お礼…ですか?」
「ハロルド先輩を救って頂きありがとうございました」

 ディエゴはそう言うと深々と頭を下げた。突然の事に戸惑っている俺に、ハルは笑って声をかけてきた。

「一応騎士団の奴には異国出のアキトが持ってた毒消しが、ミング先生の魔法と相性が良いものだったから奇跡的に効いたんだって事になってるんだ」
「そうなんだ?」
「私の手柄になってしまうのはどうかと思ったんですが…」

 申し訳なさそうにそう言うミング先生に、俺はぶんぶんと首を振った。

「いえ、その方が俺も助かるので!」
「副団長であるディエゴには、アキトの異物を取り除く魔法の話をしたんだ。もちろんアキトが隠してる能力である事も伝えてあるから安心してくれ」

 なるほど。そりゃ副団長にまで隠してたら駄目だよな。

「えーと、どういたしまして」
「ハロルド先輩の恋人だって話も聞いてますよ」
「え…」
「私は団長とハロルド先輩の二つ下で入隊したんですけど、指導係がハロルド先輩だったんですよ」
「へーそうなんですか」
「もし良ければ、昔のハロルド先輩のお話もしますよ」

 ニコニコ笑顔でそう言われた時は、もしかしてハルの事が好きで牽制されてるのかなとか思ったんだけどね。

 だってハルはあんなに格好良いんだから、好きだって人もいるだろうと覚悟はしてたから。でも二人きりで話してみたら、ただのハルの事を尊敬している後輩って事が分かったんだよね。私って言うのは公式の場だけで、普段は一人称が俺だって事も知って、気づけばさん付けも消えてたんだ。

「あーもう、勝手に抜け出して顔出しに行ったら駄目かなぁ」

 レーブンさんに心配しないでくださいって声さえかけられれば、ここに戻ってくるでも良いんだけど。

「それだけはやめてくれ」
「駄目?」
「頼むから、さっきの話を、そのまま、ハロルド先輩にしてくれ!」
「…分かった」

 懇願するように迫ってくるディエゴに、俺は大きく頷いて返した。
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