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201.【ハル視点】アキトの実力
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声をかけてくれる騎士や初対面の騎士達と会話をしながら汗を拭いていると、不意に二階の窓からこちらを見ているアキトに気づいた。
「アキト!」
思わず叫んだ俺の声に、アキトはびくりと体を揺らした。急に大声を出して驚かせてしまっただろうか。今日はもう目が覚めたのかとか、朝起きる時にいなくてごめんねとか言いたい事は沢山あったが、俺は笑顔でアキトに声をかけた。
「降りておいで、アキト!」
周りの騎士の視線が集まっているのは少し不満だが、これも良い機会だろう。
「アキト、おはよう」
「うん、おはよう、ハル」
「よう、アキト、おはよう」
「ケルビン…団長、おはようございます」
敬語で返したアキトの判断は騎士達に囲まれたこの状況下では正しいものだが、ケルビン的には不服だったようだ。こどもみたいな顔をするなと注意したくなってしまう。
「こちらの方は?」
「ああ、アキトは冒険者だよ」
「精霊が見える人って通り名知ってるだろ?」
「ああ」
「あの精霊が見える人か」
「華奢で可愛いな」
「冒険者って…あの体格で?」
「うわー可愛い」
明らかに恋愛的な意味で興味がある様子の奴が、何人か混ざっているな。守ってあげたいなんて言葉まで聞こえてきて、俺はにっこりと笑みを浮かべた。
「ちなみにアキトは俺の恋人だから、そのつもりでな、お前ら」
「ええー」
「一瞬で失恋とか…」
「嘘だろ」
「ハロルド様、いつの間に!?」
わいわいと言い合う騎士たちをちらりと見た俺は、アキトの後ろにずっと付き添ってくれていたミング先生に声をかけた。
「ミング先生、アキトは魔法を使っても良いですか?」
「ああ、問題は無いよ」
「分かりました。じゃあアキト、ちょっとだけこいつらに魔法見せてやってくれないか?」
「え?魔法を見せる?」
「アキトの魔法を見れば、こいつらもアキトのすごさが分かるからな」
なんでそんな事をする必要があるんだって思ってるのが、表情だけでよく分かる。さすがにこの騎士団に不埒な真似をする奴はいないと信じたいが、アキトが一人でも戦える奴だときっちり証明しておいた方が良いと思ったからだ。
ケルビンが的の用意を部下に頼んでいる方に、指だけで4つの的を遠くにと指示を出した。アキトは不思議そうだったけど、俺が言うならとあっさりと受け入れてくれた。
「準備できたぞ」
4つの的が用意されたのは、訓練場の一番隅の辺りだ。
「え、遠すぎない?」
「さすがにあれは…弓でないと無理じゃないか?」
そんな同情まじりの声が聞こえてくるなか、アキトは全ての声を無視して俺をじっと見上げてきた。
「ハル、指示出してくれる?」
「もちろん」
察しの良いアキトは、的の数だけで俺の狙いを理解してくれたみたいだ。
「まずは火魔法で一番左」
何とも雑な指示に、後ろで騎士達がそれはさすがに可愛そうだと騒ぐ声が聞こえてくる。なかには、あの距離まで届くかどうかなんて失礼な言葉まであったが、アキトの能力を知ってびっくりすれば良い。
何の予備動作もなく、アキトは魔力を使って火の玉を浮かび上がらせた。
「無詠唱…?」
アキトの放った魔法は、ふらふらと揺らぎながら飛んでいくと見事に的の真ん中に命中した。火魔法はやっぱり苦手なんだよな、アキトは。おおーと歓声が聞こえる中、アキトは次の魔法のための魔力を練り始める。最初の火魔法でなかなかやるなと思っただろうが、その予想の上を行くのがアキトだぞ。
「次は風魔法で一番右」
アキトは一瞬で作り上げた風で作った刃を、すぐに的めがけて放った。しっかりと真ん中に的中した魔法に、周りはしんと静まりかえった。ひとつの魔法が無詠唱なら、それが得意魔法なのかと見ている者は思うだろう。けれどふたつめも無詠唱の場合は、話が変わってくる。そんな静けさの中、アキトはまた魔力を練り始めた。
「次は水魔法、右から二番目」
またしても無詠唱で作られたのは、先の尖った鋭利な氷の塊だ。水を変化させて放つ事ができるのなんて、魔法使いの中でもほんの一握りな事にアキトは気づいていない。
「アキト、最後は土魔法。4つ全ての的に順番に」
「おい、いくら何でもそれは」
アキトの魔法の腕に感心していたケルビンですら、無茶だと思ったのかそう口を挟んできた。周りの騎士たちもさすがにそれは無理だろうと止めに入って来たが、アキトは楽しそうに俺に笑い返してきた。
「問題無いです」
アキトはそう言うなり、同時に4つのつぶてを作り上げた。無詠唱で作られた4つのつぶてに、周囲はシンと静まりかえっている。
「狙う順番は指示して良いか」
「うん、ハルが指示した順番でいくよ」
「一番左」
きっちりと的を狙ってアキトが放つ。命中した。
「右から二番目」
すぐに狙って礫を放つ。命中。
「右端」
すっと狙って放つ。これも命中。
「左から二番目」
アキトは俺の言葉にちらりと視線を向けてから悪戯っぽく笑ってみせると、最後のつぶてを大きくしてから的に向かって飛ばしてみせた。命中した的がバキッと音を立てて潰れていく。
「うん、さすがアキトだ!」
思わず遠慮なく頭を撫でてしまったけれど、アキトは頬を赤く染めて照れ笑いを浮かべてくれた。危ない処だった。アキトが可愛すぎて、人目も気にせずに抱きしめそうになったぞ。
「…すげぇな、アキト」
ケルビンの声に俺たちが振り返れば、我に返った騎士達の拍手が辺りに鳴り響いた。興奮した様子の周りに、アキトはまだ不思議そうな顔をしている。
「あの早さでぽんぽん魔法発動されたら怖すぎるだろ」
「しかもあの狙いの正確さ」
「うーわーハロルドさんの恋人も似た者同士かよ」
「最後の大きくしたやつびっくりした」
うん、目的は達成できたみたいだな。
「アキト、これで騎士に手出しされる事は無いからね」
「手出しって」
「俺のアキトを口説いたりされないための牽制だよ」
本音しかない俺の言葉に周りは呆れた顔をしていたが、アキト本人は真っ赤な顔をしたままそっと視線を反らせた。
「アキト!」
思わず叫んだ俺の声に、アキトはびくりと体を揺らした。急に大声を出して驚かせてしまっただろうか。今日はもう目が覚めたのかとか、朝起きる時にいなくてごめんねとか言いたい事は沢山あったが、俺は笑顔でアキトに声をかけた。
「降りておいで、アキト!」
周りの騎士の視線が集まっているのは少し不満だが、これも良い機会だろう。
「アキト、おはよう」
「うん、おはよう、ハル」
「よう、アキト、おはよう」
「ケルビン…団長、おはようございます」
敬語で返したアキトの判断は騎士達に囲まれたこの状況下では正しいものだが、ケルビン的には不服だったようだ。こどもみたいな顔をするなと注意したくなってしまう。
「こちらの方は?」
「ああ、アキトは冒険者だよ」
「精霊が見える人って通り名知ってるだろ?」
「ああ」
「あの精霊が見える人か」
「華奢で可愛いな」
「冒険者って…あの体格で?」
「うわー可愛い」
明らかに恋愛的な意味で興味がある様子の奴が、何人か混ざっているな。守ってあげたいなんて言葉まで聞こえてきて、俺はにっこりと笑みを浮かべた。
「ちなみにアキトは俺の恋人だから、そのつもりでな、お前ら」
「ええー」
「一瞬で失恋とか…」
「嘘だろ」
「ハロルド様、いつの間に!?」
わいわいと言い合う騎士たちをちらりと見た俺は、アキトの後ろにずっと付き添ってくれていたミング先生に声をかけた。
「ミング先生、アキトは魔法を使っても良いですか?」
「ああ、問題は無いよ」
「分かりました。じゃあアキト、ちょっとだけこいつらに魔法見せてやってくれないか?」
「え?魔法を見せる?」
「アキトの魔法を見れば、こいつらもアキトのすごさが分かるからな」
なんでそんな事をする必要があるんだって思ってるのが、表情だけでよく分かる。さすがにこの騎士団に不埒な真似をする奴はいないと信じたいが、アキトが一人でも戦える奴だときっちり証明しておいた方が良いと思ったからだ。
ケルビンが的の用意を部下に頼んでいる方に、指だけで4つの的を遠くにと指示を出した。アキトは不思議そうだったけど、俺が言うならとあっさりと受け入れてくれた。
「準備できたぞ」
4つの的が用意されたのは、訓練場の一番隅の辺りだ。
「え、遠すぎない?」
「さすがにあれは…弓でないと無理じゃないか?」
そんな同情まじりの声が聞こえてくるなか、アキトは全ての声を無視して俺をじっと見上げてきた。
「ハル、指示出してくれる?」
「もちろん」
察しの良いアキトは、的の数だけで俺の狙いを理解してくれたみたいだ。
「まずは火魔法で一番左」
何とも雑な指示に、後ろで騎士達がそれはさすがに可愛そうだと騒ぐ声が聞こえてくる。なかには、あの距離まで届くかどうかなんて失礼な言葉まであったが、アキトの能力を知ってびっくりすれば良い。
何の予備動作もなく、アキトは魔力を使って火の玉を浮かび上がらせた。
「無詠唱…?」
アキトの放った魔法は、ふらふらと揺らぎながら飛んでいくと見事に的の真ん中に命中した。火魔法はやっぱり苦手なんだよな、アキトは。おおーと歓声が聞こえる中、アキトは次の魔法のための魔力を練り始める。最初の火魔法でなかなかやるなと思っただろうが、その予想の上を行くのがアキトだぞ。
「次は風魔法で一番右」
アキトは一瞬で作り上げた風で作った刃を、すぐに的めがけて放った。しっかりと真ん中に的中した魔法に、周りはしんと静まりかえった。ひとつの魔法が無詠唱なら、それが得意魔法なのかと見ている者は思うだろう。けれどふたつめも無詠唱の場合は、話が変わってくる。そんな静けさの中、アキトはまた魔力を練り始めた。
「次は水魔法、右から二番目」
またしても無詠唱で作られたのは、先の尖った鋭利な氷の塊だ。水を変化させて放つ事ができるのなんて、魔法使いの中でもほんの一握りな事にアキトは気づいていない。
「アキト、最後は土魔法。4つ全ての的に順番に」
「おい、いくら何でもそれは」
アキトの魔法の腕に感心していたケルビンですら、無茶だと思ったのかそう口を挟んできた。周りの騎士たちもさすがにそれは無理だろうと止めに入って来たが、アキトは楽しそうに俺に笑い返してきた。
「問題無いです」
アキトはそう言うなり、同時に4つのつぶてを作り上げた。無詠唱で作られた4つのつぶてに、周囲はシンと静まりかえっている。
「狙う順番は指示して良いか」
「うん、ハルが指示した順番でいくよ」
「一番左」
きっちりと的を狙ってアキトが放つ。命中した。
「右から二番目」
すぐに狙って礫を放つ。命中。
「右端」
すっと狙って放つ。これも命中。
「左から二番目」
アキトは俺の言葉にちらりと視線を向けてから悪戯っぽく笑ってみせると、最後のつぶてを大きくしてから的に向かって飛ばしてみせた。命中した的がバキッと音を立てて潰れていく。
「うん、さすがアキトだ!」
思わず遠慮なく頭を撫でてしまったけれど、アキトは頬を赤く染めて照れ笑いを浮かべてくれた。危ない処だった。アキトが可愛すぎて、人目も気にせずに抱きしめそうになったぞ。
「…すげぇな、アキト」
ケルビンの声に俺たちが振り返れば、我に返った騎士達の拍手が辺りに鳴り響いた。興奮した様子の周りに、アキトはまだ不思議そうな顔をしている。
「あの早さでぽんぽん魔法発動されたら怖すぎるだろ」
「しかもあの狙いの正確さ」
「うーわーハロルドさんの恋人も似た者同士かよ」
「最後の大きくしたやつびっくりした」
うん、目的は達成できたみたいだな。
「アキト、これで騎士に手出しされる事は無いからね」
「手出しって」
「俺のアキトを口説いたりされないための牽制だよ」
本音しかない俺の言葉に周りは呆れた顔をしていたが、アキト本人は真っ赤な顔をしたままそっと視線を反らせた。
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