200 / 1,112
199.【ハル視点】アキトの目覚め
しおりを挟む
どんどん暗くなっていく室内に魔道具の灯りを灯せば、ほっとするような温かい光が室内を照らす。ベッドの横に置かれた俺専用の椅子に座り、俺はそっとアキトの顔を覗き込んだ。
幸せそうに眠っているアキトの顔色は、倒れた時と比べればだいぶ良くなってきている。もうすぐ起きると先生は言っていたけどなと見つめ続けていると、不意にアキトの目がうっすらと開いた。茶色がかったアキトの目が、まっすぐに俺の目を見つめてくる。
「ハル」
小さな声がそっと俺の名前を呼んだ瞬間、こらえきれなかった涙がじわりと滲んだ。ただの魔力切れと聞いていても、もうすぐ起きると言われていても怖くて仕方が無かった。アキトが大切だから、起きなかったらどうしようとそんな事ばかり考えてしまっていたんだ。
「おはよう、アキト」
「おはよ、ハル」
「アキト、触れても良い?」
目の前にいるアキトが本物か、どうしても触れて確かめたくなった。
「…っ!…もちろん!」
すぐに帰ってきた言葉に、俺は恐る恐る手を伸ばした。そっとアキトの手に触れてきゅっと握りしめれば、アキトもすぐにぎゅっと握り返してくれた。
「俺いまハルに触れてる」
「ああ、俺も今、アキトに触れてるな」
そんな普通なら当たり前の事に感動して泣いて、あまりにしまらない再会に二人して笑い合った。
やっと触れ合えるようになった事が素直に嬉しい。何だかこのまま離れがたい気がして、俺たちは手を握り合ったまま話し始めた。
「アキト」
「ん、なに?」
「ありがとう。俺の毒を取り除いてくれて」
きちんとお礼の言葉は伝えたけれど、表情には気持ちが出てしまっていたようだ。
「ねえ、なんでそんなに複雑そうなの?」
「だって、アキトはあの後、魔力切れで三日も寝てたんだよ…?」
救ってもらった側がこんな事をいうのもどうかとは思うけど、アキトが目を覚ますまで三日も経っている。その間生きた心地がしなかった俺は、ついついそう口にしてしまった。アキトは怒るでも無く、驚いた顔で固まった。
「え、その日の夜かと思ってたよ」
「無理させちゃったから、手放しでは喜べないんだよ」
結局、俺はアキトにあの魔法を使わせてしまったんだから。アキトの答えを緊張しながら待っていると、アキトは慌てた顔で声を上げた。
「あー!俺レーブンさんに連絡してない!」
本気で心配そうな様子に肩透かしをくらった気分になりながらも、ケルビンがちゃんと伝えに言った事を伝えれば、アキトはホッと息を吐いた。
「アキトは…なんだかいつも通りだね」
「ああ、うん。いつも通りだよ」
「あんな事があったのに?」
「だってハルを助けられるなら、魔力切れくらいなんて事ないからね」
その言葉は嬉しいけれど、もっと自分の体を大事にして欲しい。そう思うと自然に眉間にしわが寄っていた。アキトは仕方ないなと言いたげに、優しく笑った。
「もし逆の立場だったらって想像してみて?」
「は?」
「俺が意識不明で、ハルは助けられる可能性のある魔法を持っているとする。その状態で、助けたら魔力切れになるけどって言われたら、ハルならどうする?」
「魔力切れなんて気にせずに、なりふり構わずに助けるな」
思わず即答してしまった。そんなの当たり前の事だ。
「別に自分を大切にしてないとかじゃないんだ。ただハルが大事だっただけ」
アキトの言葉がじわじわと胸の中に染みてくる。ただ大事だったからあの魔法を使っただけか。アキトらしいというかなんというか。
「そうか…うん、ありがとう」
「どういたしまして!」
俺たちは顔を見合わせると、自然と笑いあった。
「安心したら、何かちょっと眠くなってきた」
アキトの目はとろんとし始めていて、今にも閉じそうな状態だっだ。
「魔力切れの後は、とにかく寝るのが一番の治療法だからね」
「そうなんだ?」
「目が覚めたって事はかなり魔力は回復してる筈だけど、まだ完璧じゃないんだよ」
「そっか」
「寝るまでここにいるからね。おやすみ、アキト」
ぎゅっと手を握ってそう伝えれば、アキトはふにゃりと柔らかく笑ってくれた。
「おやすみ、ハル」
「ああ、良い夢を」
目を覚ます頃には部屋に戻ってくるつもりで、アキトの眠る部屋を後にした。きっちりと鍵を閉めてから廊下を見れば、壁にもたれて俺を待っているケルビンの姿があった。
「アキトは?」
「目を覚ましたよ」
気にはなっていたけれど、邪魔はしないように配慮したってところだろうか。
「ハロルド、お前これからどうするつもりだ?」
「まだ考えてる途中だけど、アキトを一人にするつもりは無いよ」
「はーやっぱりな」
ある程度予想はできていたのか、ケルビンは驚いた様子もなく苦笑を洩らした。
「お前は反対するか?」
「いや、お前が副団長の頃なら絶対無理だったけど、今なら問題は少ないだろうよ」
「ありがとな、相棒」
「素直なお前なんて珍しすぎるだろ、相棒。アキトに似てきたか?」
からかうようなケルビンの言葉に、俺はにっこりと笑みを浮かべて答えた。
「アキトに似てくるなら光栄だよ」
幸せそうに眠っているアキトの顔色は、倒れた時と比べればだいぶ良くなってきている。もうすぐ起きると先生は言っていたけどなと見つめ続けていると、不意にアキトの目がうっすらと開いた。茶色がかったアキトの目が、まっすぐに俺の目を見つめてくる。
「ハル」
小さな声がそっと俺の名前を呼んだ瞬間、こらえきれなかった涙がじわりと滲んだ。ただの魔力切れと聞いていても、もうすぐ起きると言われていても怖くて仕方が無かった。アキトが大切だから、起きなかったらどうしようとそんな事ばかり考えてしまっていたんだ。
「おはよう、アキト」
「おはよ、ハル」
「アキト、触れても良い?」
目の前にいるアキトが本物か、どうしても触れて確かめたくなった。
「…っ!…もちろん!」
すぐに帰ってきた言葉に、俺は恐る恐る手を伸ばした。そっとアキトの手に触れてきゅっと握りしめれば、アキトもすぐにぎゅっと握り返してくれた。
「俺いまハルに触れてる」
「ああ、俺も今、アキトに触れてるな」
そんな普通なら当たり前の事に感動して泣いて、あまりにしまらない再会に二人して笑い合った。
やっと触れ合えるようになった事が素直に嬉しい。何だかこのまま離れがたい気がして、俺たちは手を握り合ったまま話し始めた。
「アキト」
「ん、なに?」
「ありがとう。俺の毒を取り除いてくれて」
きちんとお礼の言葉は伝えたけれど、表情には気持ちが出てしまっていたようだ。
「ねえ、なんでそんなに複雑そうなの?」
「だって、アキトはあの後、魔力切れで三日も寝てたんだよ…?」
救ってもらった側がこんな事をいうのもどうかとは思うけど、アキトが目を覚ますまで三日も経っている。その間生きた心地がしなかった俺は、ついついそう口にしてしまった。アキトは怒るでも無く、驚いた顔で固まった。
「え、その日の夜かと思ってたよ」
「無理させちゃったから、手放しでは喜べないんだよ」
結局、俺はアキトにあの魔法を使わせてしまったんだから。アキトの答えを緊張しながら待っていると、アキトは慌てた顔で声を上げた。
「あー!俺レーブンさんに連絡してない!」
本気で心配そうな様子に肩透かしをくらった気分になりながらも、ケルビンがちゃんと伝えに言った事を伝えれば、アキトはホッと息を吐いた。
「アキトは…なんだかいつも通りだね」
「ああ、うん。いつも通りだよ」
「あんな事があったのに?」
「だってハルを助けられるなら、魔力切れくらいなんて事ないからね」
その言葉は嬉しいけれど、もっと自分の体を大事にして欲しい。そう思うと自然に眉間にしわが寄っていた。アキトは仕方ないなと言いたげに、優しく笑った。
「もし逆の立場だったらって想像してみて?」
「は?」
「俺が意識不明で、ハルは助けられる可能性のある魔法を持っているとする。その状態で、助けたら魔力切れになるけどって言われたら、ハルならどうする?」
「魔力切れなんて気にせずに、なりふり構わずに助けるな」
思わず即答してしまった。そんなの当たり前の事だ。
「別に自分を大切にしてないとかじゃないんだ。ただハルが大事だっただけ」
アキトの言葉がじわじわと胸の中に染みてくる。ただ大事だったからあの魔法を使っただけか。アキトらしいというかなんというか。
「そうか…うん、ありがとう」
「どういたしまして!」
俺たちは顔を見合わせると、自然と笑いあった。
「安心したら、何かちょっと眠くなってきた」
アキトの目はとろんとし始めていて、今にも閉じそうな状態だっだ。
「魔力切れの後は、とにかく寝るのが一番の治療法だからね」
「そうなんだ?」
「目が覚めたって事はかなり魔力は回復してる筈だけど、まだ完璧じゃないんだよ」
「そっか」
「寝るまでここにいるからね。おやすみ、アキト」
ぎゅっと手を握ってそう伝えれば、アキトはふにゃりと柔らかく笑ってくれた。
「おやすみ、ハル」
「ああ、良い夢を」
目を覚ます頃には部屋に戻ってくるつもりで、アキトの眠る部屋を後にした。きっちりと鍵を閉めてから廊下を見れば、壁にもたれて俺を待っているケルビンの姿があった。
「アキトは?」
「目を覚ましたよ」
気にはなっていたけれど、邪魔はしないように配慮したってところだろうか。
「ハロルド、お前これからどうするつもりだ?」
「まだ考えてる途中だけど、アキトを一人にするつもりは無いよ」
「はーやっぱりな」
ある程度予想はできていたのか、ケルビンは驚いた様子もなく苦笑を洩らした。
「お前は反対するか?」
「いや、お前が副団長の頃なら絶対無理だったけど、今なら問題は少ないだろうよ」
「ありがとな、相棒」
「素直なお前なんて珍しすぎるだろ、相棒。アキトに似てきたか?」
からかうようなケルビンの言葉に、俺はにっこりと笑みを浮かべて答えた。
「アキトに似てくるなら光栄だよ」
417
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる