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195.締まらない再会
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ぱちりと目を開けば、視界に飛び込んできたのは綺麗な紫色の瞳だった。
例え年齢が変わっても、その眼の色だけは変わらないんだな。そういえば幽霊の頃も、ハルはよくこうやって俺の寝顔を見ていたな。
「ハル」
小さな声でそっと名前を呼べば、じっと俺をみつめていたその目がじわりと涙で潤んだ。
「おはよう、アキト」
俺はちらりと室内に視線を向ける。どうやら時刻は既に夜に差し掛かっているようで、枕元にある魔道具が柔らかく室内を照らしてくれている。
「おはよ、ハル」
どう考えても夜なんだけど、まあ良いかと俺も同じように返事を返した。
「アキト、触れても良い?」
「…っ!…もちろん!」
ハルは恐る恐る手を伸ばすと、そっと壊れ物でも触るように俺の手を握ってくれた。きゅっと握られた手を、ぎゅっと握り返す。ハルが起きる前は一方的に握ってたけど、反応があるだけでこんなに嬉しいんだな。
「俺いまハルに触れてる」
「ああ、俺も今、アキトに触れてるな」
そんな普通なら当たり前の事に感動して泣いて、あまりに締まらない再会に二人して笑い合った。
やっと触れ合えるようになった事が素直に嬉しい。何だかこのまま離れがたい気がして、俺たちは手を握り合ったまま話し始めた。
「アキト」
「ん、なに?」
「ありがとう。俺の毒を取り除いてくれて」
伝えられたのは感謝の言葉だったけど、ハルの顔はなんとも複雑そうだった。
「ねえ、なんでそんなに複雑そうなの?」
「だって、アキトはあの後、魔力切れで三日も寝てたんだよ…?」
ハルの言葉に驚いて、思わず俺は固まってしまった。まだ夜だったから結構早く起きれたと思ってたんだけど、夜は夜でもまさかの三日も過ぎた後の夜だったのか。
「え、その日の夜かと思ってたよ」
魔力切れの睡眠って、そんなに長い間寝ちゃうんだな。さすがに怖すぎるだろう。採取先で魔力切れになったら、本気で命に関わるやつだ。これはもっと気を付けないと駄目だな。
「無理させちゃったから、手放しでは喜べないんだよ」
ハルが心配してくれてたのは分かったよと答えようとした俺は、不意にある事に気づいて声を上げた。
「あー!俺レーブンさんに連絡してない!」
連絡もなしで三日も帰らなかったって事じゃないか。
「ああ、それはケルビンがちゃんとしてるよ」
「え、そうなの?良かったー」
レーブンさんは俺の事をすごく気にかけてくれてるから、突然帰らなくなったらすごく心配させちゃう所だった。
「アキトは…なんだかいつも通りだね」
「ああ、うん。いつも通りだよ」
「あんな事があったのに?」
「だってハルを助けられるなら、魔力切れくらいなんて事ないからね」
あっさりと言い切れば、ハルは眉間にぐっとしわを寄せた。もっと自分を大切にしろって怒られそうだけど、ここだけは譲れない。俺にだって言い分があるからね。
「もし逆の立場だったらって想像してみて?」
「は?」
「俺が意識不明で、ハルは助けられる可能性のある魔法を持っているとする。その状態で、助けたら魔力切れになるけどって言われたら、ハルならどうする?」
「魔力切れなんて気にせずに、なりふり構わずに助けるな」
うん、きっとそう言ってくれると思ってたよ。
「別に自分を大切にしてないとかじゃないんだ。ただハルが大事だっただけ」
「そうか…うん、ありがとう」
今度のありがとうは、さっきの複雑そうなありがとうとは違ってた。心からのありがとうだな。
「どういたしまして!」
俺たちは顔を見合わせると、自然と笑いあった。
「安心したら、何かちょっと眠くなってきた」
まだまだハルと話していたいのに、気を抜くと目が閉じそうになる。
「魔力切れの後は、とにかく寝るのが一番の治療法だからね」
「そうなんだ?」
「目が覚めたって事はかなり魔力は回復してる筈だけど、まだ完璧じゃないんだよ」
「そっか」
「寝るまでここにいるからね。おやすみ、アキト」
ぎゅっと握られた手が嬉しくて、俺はふにゃりと笑みを浮かべた。
「おやすみ、ハル」
「ああ、良い夢を」
例え年齢が変わっても、その眼の色だけは変わらないんだな。そういえば幽霊の頃も、ハルはよくこうやって俺の寝顔を見ていたな。
「ハル」
小さな声でそっと名前を呼べば、じっと俺をみつめていたその目がじわりと涙で潤んだ。
「おはよう、アキト」
俺はちらりと室内に視線を向ける。どうやら時刻は既に夜に差し掛かっているようで、枕元にある魔道具が柔らかく室内を照らしてくれている。
「おはよ、ハル」
どう考えても夜なんだけど、まあ良いかと俺も同じように返事を返した。
「アキト、触れても良い?」
「…っ!…もちろん!」
ハルは恐る恐る手を伸ばすと、そっと壊れ物でも触るように俺の手を握ってくれた。きゅっと握られた手を、ぎゅっと握り返す。ハルが起きる前は一方的に握ってたけど、反応があるだけでこんなに嬉しいんだな。
「俺いまハルに触れてる」
「ああ、俺も今、アキトに触れてるな」
そんな普通なら当たり前の事に感動して泣いて、あまりに締まらない再会に二人して笑い合った。
やっと触れ合えるようになった事が素直に嬉しい。何だかこのまま離れがたい気がして、俺たちは手を握り合ったまま話し始めた。
「アキト」
「ん、なに?」
「ありがとう。俺の毒を取り除いてくれて」
伝えられたのは感謝の言葉だったけど、ハルの顔はなんとも複雑そうだった。
「ねえ、なんでそんなに複雑そうなの?」
「だって、アキトはあの後、魔力切れで三日も寝てたんだよ…?」
ハルの言葉に驚いて、思わず俺は固まってしまった。まだ夜だったから結構早く起きれたと思ってたんだけど、夜は夜でもまさかの三日も過ぎた後の夜だったのか。
「え、その日の夜かと思ってたよ」
魔力切れの睡眠って、そんなに長い間寝ちゃうんだな。さすがに怖すぎるだろう。採取先で魔力切れになったら、本気で命に関わるやつだ。これはもっと気を付けないと駄目だな。
「無理させちゃったから、手放しでは喜べないんだよ」
ハルが心配してくれてたのは分かったよと答えようとした俺は、不意にある事に気づいて声を上げた。
「あー!俺レーブンさんに連絡してない!」
連絡もなしで三日も帰らなかったって事じゃないか。
「ああ、それはケルビンがちゃんとしてるよ」
「え、そうなの?良かったー」
レーブンさんは俺の事をすごく気にかけてくれてるから、突然帰らなくなったらすごく心配させちゃう所だった。
「アキトは…なんだかいつも通りだね」
「ああ、うん。いつも通りだよ」
「あんな事があったのに?」
「だってハルを助けられるなら、魔力切れくらいなんて事ないからね」
あっさりと言い切れば、ハルは眉間にぐっとしわを寄せた。もっと自分を大切にしろって怒られそうだけど、ここだけは譲れない。俺にだって言い分があるからね。
「もし逆の立場だったらって想像してみて?」
「は?」
「俺が意識不明で、ハルは助けられる可能性のある魔法を持っているとする。その状態で、助けたら魔力切れになるけどって言われたら、ハルならどうする?」
「魔力切れなんて気にせずに、なりふり構わずに助けるな」
うん、きっとそう言ってくれると思ってたよ。
「別に自分を大切にしてないとかじゃないんだ。ただハルが大事だっただけ」
「そうか…うん、ありがとう」
今度のありがとうは、さっきの複雑そうなありがとうとは違ってた。心からのありがとうだな。
「どういたしまして!」
俺たちは顔を見合わせると、自然と笑いあった。
「安心したら、何かちょっと眠くなってきた」
まだまだハルと話していたいのに、気を抜くと目が閉じそうになる。
「魔力切れの後は、とにかく寝るのが一番の治療法だからね」
「そうなんだ?」
「目が覚めたって事はかなり魔力は回復してる筈だけど、まだ完璧じゃないんだよ」
「そっか」
「寝るまでここにいるからね。おやすみ、アキト」
ぎゅっと握られた手が嬉しくて、俺はふにゃりと笑みを浮かべた。
「おやすみ、ハル」
「ああ、良い夢を」
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