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194.【ハル視点】頼み事
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ミング先生の診断の結果、俺の体にあった毒は綺麗に消え去っており体調の問題は無いとの事だった。アキトの魔法は、俺の体内の毒を全て消し去ってくれたみたいだ。
「ただ、半年の間にやはり筋肉は衰えていますので…まずは体力を戻す所からですよ」
「分かった」
ミング先生の言葉を素直に受け入れれば、満足そうに頷かれた。
「それで、アキトはどうするんだ?」
「アキトさんも魔力切れ以外に問題は無いので、別室でゆっくりと寝て頂きましょう」
俺はそっとベッドから降りて立ち上がった。久しぶりに動かす自分の体は、驚く程に重く感じた。ミング先生とケルビンの視線を感じながら、俺はそっと体の筋肉を動かしてみる。魔法薬をこまめに飲ませてくれていたおかげか、思った程体の違和感は無さそうだ。
「うん、いけそうだな。俺が運ぶ」
「…ハロルド様?さっき私が言った事を、きちんと聞いていましたか?」
穏やかに微笑んだままとは思えないほどの威圧感で、ミング先生はじろりと俺を睨んだ。
「ぐ…しかし…」
俺以外が無防備なアキトの体を運ぶなんて、どうしても嫌だ。先生をどう説得しようかと悩んでいると、ケルビンが鞄から取り出した魔道具を先生に手渡した。
「これは重さを軽減する魔道具なんだが、これを使えばハロルドが運んでも良いか?」
「おや、こんなものがあるんですか?」
「重い物を運ぶ時に使うものなんだが、便利だと思って買ってきたんだ」
魔道具の使い方や便利さを熱弁するケルビンの隣で、俺は先生の判断をじっと待っていた。
「なるほど。これを使うなら良いでしょう」
「ありがとう、先生!」
「おい、ハロルド、俺にも礼を言えよ」
「ありがとう、ケルビン!」
満面の笑みでお礼の言葉を口にしてやったのに、ケルビンは嫌そうに眉をしかめた。嫌がるなら礼をねだるな。
「隣の部屋にお願いします」
「ああ、分かった」
アキトのために部屋の用意をするべく、ミング先生とケルビンは先に部屋を出ていった。
二人きりになった室内で、アキトの頬をそっと撫でてみる。指を押し返す弾力に、じわりと涙が滲んだ。本当にアキトに触れられるんだな。
「ハロルドーまだか?」
「すぐ行く」
お腹の上に乗せた魔道具に、魔力を流し込んで起動する。魔道具の力で驚くほど軽くなったアキトの体を、俺はそっと抱き上げて隣室へと向かった。
「うわぁ…恋人抱きとかお前なぁ」
「お互いに告白済みなんだから問題は無いだろう」
呆れた顔のケルビンと違い、ミング先生は微笑ましそうに笑ってくれた。綺麗に整えられた清潔なベッドに、そっとアキトを横たえる。簡易ベッドとは寝心地も段違いだからな、ゆっくり眠って欲しい。
「夜に一度、アキトさんの様子を見に来ますね」
「よろしくお願いします」
思わず頭を下げた俺に、無理だけはしないようにと言いつけてから先生は部屋を出ていった。
これで部屋の中にいるのは、眠ったままのアキトと、俺と、ケルビンだけだ。
「おかえり相棒」
「ああ、ただいま相棒」
ふざけたような軽い言葉に、俺も笑って返した。お互いに、湿っぽく再会を喜ぶような性格じゃないからな。
「そうだ。ケルビン、お前に頼みがある」
「なんだ?さっきの魔法の話か?」
「いや、その話は防音結界が無いとしないぞ」
「ああ、それなら持ってるぞ」
にんまり笑顔でケルビンが鞄から取り出したのは、ギルドにも置いてあるあの防音結界用の魔道具だった。ギルドですらいくつかしか所有していないほど値の張る魔道具なのに、何故買っているんだこいつは。相変わらずの魔道具好きだな。
「そっちは後だ。まずは急ぎの話がある」
「防音結界は使うか?」
「いや、必要ない。南大門の裏通りにあるシャリ―パって店を、今すぐに調べて欲しい」
「は?」
一体こいつは突然何を言い出したんだって顔をしているが、俺は気にせずに続ける。
「店主と常連が組んで、禁制の媚薬を客に飲ませて襲ってるんだ」
「はぁ?」
「絶対にすぐには認めないだろうが、店のカウンターの棚左端にある紫色の酒瓶がその媚薬だ。成分を確認すれば証拠になるだろう」
「あー…ハロルド?それは俺たちの管轄じゃなくないか?」
衛兵は街を巡回して市民と大門を守る。騎士は要所を警備しながら国を守るのが仕事だ。そんな事は分かっている。
「あの禁制の媚薬は他国からの密輸品だ。そこを押せば騎士団で担当できる」
「まあそうだな………アキトか?」
「未遂だぞ」
「お前がついてたんだからそこは心配してねぇ」
ケルビンはあっさりとそう言うと、くるりと背中を向けた。
「自分で行くって言わないだけ、我慢してるな」
「ああ、本当なら自分で行きたい」
あの時のいけ好かない店主と客を、思いっきりぶん殴ってやりたいと心からそう思う。
「病み上がりなんだから、ここでアキトについててやれよ」
「…分かった」
「捕まえたら、お前にも会わせてやるからな」
ああ、これはケルビンもかなり怒ってるみたいだな。アキトはまた味方を増やしたみたいだ。
俺は犯人たちに少しだけ同情しながらも、まかせたと声をかけた。
「ただ、半年の間にやはり筋肉は衰えていますので…まずは体力を戻す所からですよ」
「分かった」
ミング先生の言葉を素直に受け入れれば、満足そうに頷かれた。
「それで、アキトはどうするんだ?」
「アキトさんも魔力切れ以外に問題は無いので、別室でゆっくりと寝て頂きましょう」
俺はそっとベッドから降りて立ち上がった。久しぶりに動かす自分の体は、驚く程に重く感じた。ミング先生とケルビンの視線を感じながら、俺はそっと体の筋肉を動かしてみる。魔法薬をこまめに飲ませてくれていたおかげか、思った程体の違和感は無さそうだ。
「うん、いけそうだな。俺が運ぶ」
「…ハロルド様?さっき私が言った事を、きちんと聞いていましたか?」
穏やかに微笑んだままとは思えないほどの威圧感で、ミング先生はじろりと俺を睨んだ。
「ぐ…しかし…」
俺以外が無防備なアキトの体を運ぶなんて、どうしても嫌だ。先生をどう説得しようかと悩んでいると、ケルビンが鞄から取り出した魔道具を先生に手渡した。
「これは重さを軽減する魔道具なんだが、これを使えばハロルドが運んでも良いか?」
「おや、こんなものがあるんですか?」
「重い物を運ぶ時に使うものなんだが、便利だと思って買ってきたんだ」
魔道具の使い方や便利さを熱弁するケルビンの隣で、俺は先生の判断をじっと待っていた。
「なるほど。これを使うなら良いでしょう」
「ありがとう、先生!」
「おい、ハロルド、俺にも礼を言えよ」
「ありがとう、ケルビン!」
満面の笑みでお礼の言葉を口にしてやったのに、ケルビンは嫌そうに眉をしかめた。嫌がるなら礼をねだるな。
「隣の部屋にお願いします」
「ああ、分かった」
アキトのために部屋の用意をするべく、ミング先生とケルビンは先に部屋を出ていった。
二人きりになった室内で、アキトの頬をそっと撫でてみる。指を押し返す弾力に、じわりと涙が滲んだ。本当にアキトに触れられるんだな。
「ハロルドーまだか?」
「すぐ行く」
お腹の上に乗せた魔道具に、魔力を流し込んで起動する。魔道具の力で驚くほど軽くなったアキトの体を、俺はそっと抱き上げて隣室へと向かった。
「うわぁ…恋人抱きとかお前なぁ」
「お互いに告白済みなんだから問題は無いだろう」
呆れた顔のケルビンと違い、ミング先生は微笑ましそうに笑ってくれた。綺麗に整えられた清潔なベッドに、そっとアキトを横たえる。簡易ベッドとは寝心地も段違いだからな、ゆっくり眠って欲しい。
「夜に一度、アキトさんの様子を見に来ますね」
「よろしくお願いします」
思わず頭を下げた俺に、無理だけはしないようにと言いつけてから先生は部屋を出ていった。
これで部屋の中にいるのは、眠ったままのアキトと、俺と、ケルビンだけだ。
「おかえり相棒」
「ああ、ただいま相棒」
ふざけたような軽い言葉に、俺も笑って返した。お互いに、湿っぽく再会を喜ぶような性格じゃないからな。
「そうだ。ケルビン、お前に頼みがある」
「なんだ?さっきの魔法の話か?」
「いや、その話は防音結界が無いとしないぞ」
「ああ、それなら持ってるぞ」
にんまり笑顔でケルビンが鞄から取り出したのは、ギルドにも置いてあるあの防音結界用の魔道具だった。ギルドですらいくつかしか所有していないほど値の張る魔道具なのに、何故買っているんだこいつは。相変わらずの魔道具好きだな。
「そっちは後だ。まずは急ぎの話がある」
「防音結界は使うか?」
「いや、必要ない。南大門の裏通りにあるシャリ―パって店を、今すぐに調べて欲しい」
「は?」
一体こいつは突然何を言い出したんだって顔をしているが、俺は気にせずに続ける。
「店主と常連が組んで、禁制の媚薬を客に飲ませて襲ってるんだ」
「はぁ?」
「絶対にすぐには認めないだろうが、店のカウンターの棚左端にある紫色の酒瓶がその媚薬だ。成分を確認すれば証拠になるだろう」
「あー…ハロルド?それは俺たちの管轄じゃなくないか?」
衛兵は街を巡回して市民と大門を守る。騎士は要所を警備しながら国を守るのが仕事だ。そんな事は分かっている。
「あの禁制の媚薬は他国からの密輸品だ。そこを押せば騎士団で担当できる」
「まあそうだな………アキトか?」
「未遂だぞ」
「お前がついてたんだからそこは心配してねぇ」
ケルビンはあっさりとそう言うと、くるりと背中を向けた。
「自分で行くって言わないだけ、我慢してるな」
「ああ、本当なら自分で行きたい」
あの時のいけ好かない店主と客を、思いっきりぶん殴ってやりたいと心からそう思う。
「病み上がりなんだから、ここでアキトについててやれよ」
「…分かった」
「捕まえたら、お前にも会わせてやるからな」
ああ、これはケルビンもかなり怒ってるみたいだな。アキトはまた味方を増やしたみたいだ。
俺は犯人たちに少しだけ同情しながらも、まかせたと声をかけた。
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