175 / 1,103
174.【ハル視点】アコの果実
しおりを挟む
アコの果実の前にまずは木を探す必要があるため、最初はギザギザの葉を探す所から始まった。この森の厄介な所は、果実や木の実が実っている木が多い事だ。冒険者が少ないからか、どうしても素材で溢れている。
「これも違う」
「違うね」
「トゲトゲだけど裏面のトゲが無いから…これもアコの木じゃない」
「うん、そうだね」
さっきから連続不正解なのにそれでも真面目に探し続けているアキトに、少しぐらいは気分転換をしてもらいたい。そう考えた俺は、ついさっきアキトが違うと断言した木を指差した。
「あ、でもこれは火を通すと甘くなるシュマの果実だよ」
「美味しい?」
「ああ、アキトは好きな味だと思う」
俺には少し甘すぎるけど、アキトは焼き菓子も美味しく食べていたから好きだと思う。
「じゃあいくつか採って行くよ」
期待通り、アキトは嬉しそうにシュマの果実を採取し始めた。鼻歌を歌いそうな雰囲気からして、気分転換は成功したみたいだな。
きちんと採取用袋にしまわれていくシュマの果実を何となく見つめていると、不意にアキトが口を開いた。
「そういえば図鑑には書いてなかったけど、アコの果実って美味しいの?」
その言葉があまりに衝撃的で、俺は大きく目を見開いた。図鑑に記載が無いのは、書く必要が無いぐらい誰もがあの味を知っているからだ。
「アコの果実が…美味しい???」
何とか俺がひねり出せたのは、そんな言葉だけだった。
「えーと、食用可なんだよね?」
「食べてももちろん害はないよ。アコの果実は香りはすごく甘いんだけど…」
そう香りだけはすごく甘いんだ。香りだけは。
「そのまま食べたら後悔するぐらい苦い」
「そうなんだ!あ、でもペースト状にして販売してるなら、ペースト状にしたら苦味が消えるとか?」
アコのペーストを知らないアキトは、無邪気にそう口にした。
そうだったらどれだけ良かったか。ペースト状にしても苦味は減らないどころかむしろ増える。それなのにあの甘い香りは何故か消えないから、余計に頭の中が混乱してしまう。
あのものすごい苦味を思い出した俺は、くしゃりと顔を歪ませた。
「むしろ更に苦くなるよ…思い出しただけでこんな顔になるぐらいにはね」
そんなものがどうして常設依頼なのと聞かれた時には、俺は大いに慌ててしまった。ここでアキトの誤解を解けなかったら、異世界って変わってるななんて思われてしまうかもしれない。そう思った俺は必死に説明をして、何とかアキトを納得させる事に成功した。
「アキトがもし興味があるなら、トライプールの市場で売ってるよ?」
食べてみないかと口にした俺に、アキトは満面の笑みを浮かべて遠慮しますと叫んだ。
この森に来てから数時間が経ってしまったけれど、アキトは飽きた様子もなく集中して作業に取り組んでいる。遠目に一本ずつの木を確認し、第一条件であるギザギザの葉を見つけたら、すかさず近づいていって詳しく調べるという作業の繰り返しだ。
何度も何度も不正解を重ねながら、それでもアキトは楽しそうだ。
「これも違う」
「違うね」
「次行こ、次」
明るくそう言うと、アキトはぐるりと周囲を見渡した。気になる木でもあったのか、アキトはすぐに歩き出した。
ひょいっと目の前にあった葉の裏側を覗き込んだアキトは、そのままその場で固まってしまった。何かあったんだろうかと心配になるぐらい、何の反応も無い。
「アキト、どうかした?」
そっと後ろから声をかければ、アキトは慌てて両手を振ってみせた。
「あ、いや、裏面にうっすらトゲがあったから。心配させてごめん」
ああ、ずっと探していた条件にあてはまったからびっくりしただけか。何も無かったなら良かったと思いつつ、俺もそっと隣に並んで一緒に葉の裏側を確認してみた。
うん、これは第二条件合格だな。きちんとトゲが並んでいる。
アキトはきちんと手袋をはめてから、今度は果実に手を伸ばした。ルセフのキノコ騒動を見たからか、きちんと毒や麻痺への対策を取ったみたいだ。
アキトは一番近くにあった果実をもぎとると、そっと鼻を近づけた。
「すごく甘い香りだ」
嬉しそうなアキトの表情からして、本当に甘い良い香りがしているんだろうな。これで第三条件も合格だ。
アキトはおもむろに果物ナイフを取り出すと、その果実を二つに切り分けた。異世界で言うものくろな世界でも、実際の色が違えば微妙に濃淡は違ってくる。俺が何も指示しなても自分でそこに辿り着いたアキトに、誇らしい気持ちが湧いてくる。
さすがはアキトだと褒めたくて仕方がないけれど、今はアキトの集中の邪魔をすべきではない。俺はぐっと我慢しながら、アキトの横から果実の断面を覗き込んだ。
「果皮と果肉の色が違う」
ああ、本当だ。これで全ての条件が一致したな。
「ハル、これがアコの木だと思う!」
アキトはワクワクしながら、俺の言葉を待っている。
「大正解だよ!さすがアキトだ!」
「やったー!」
「諦めずによく見つかるまで探したね。よくできました」
そう声をかけると、アキトはふにゃりと幸せそうな笑みを見せてくれた。
ようやく見つけたアコの木を、アキトはじっと見上げていた。
「こんなにたくさんあるけど、何個ぐらいなら買い取って貰えるかな?」
「そうだな。あまり多いと逆に買取値段が下がるかもしれないから…30個までならすぐに買い取って貰えるだろう」
「じゃあ30個までにしよう」
アキトは楽しそうに笑いながら、ひとつずつアコの果実を採取し始めた。
「これだけあるなら、一個ぐらい食べてみる?」
俺は悪戯っぽく笑いながら話しかけた。断られるとは分かっているからただの言葉遊びのようなものだ。
「食べてみないよ!」
「じゃあペーストの方にしようか」
「そっちもしない!顔くしゃくしゃになるぐらい苦いんでしょ?」
「苦くない…とはとても言えないな」
そんなくだらない会話をしている間に、無事にアコの果実の採取は完了した。
「これも違う」
「違うね」
「トゲトゲだけど裏面のトゲが無いから…これもアコの木じゃない」
「うん、そうだね」
さっきから連続不正解なのにそれでも真面目に探し続けているアキトに、少しぐらいは気分転換をしてもらいたい。そう考えた俺は、ついさっきアキトが違うと断言した木を指差した。
「あ、でもこれは火を通すと甘くなるシュマの果実だよ」
「美味しい?」
「ああ、アキトは好きな味だと思う」
俺には少し甘すぎるけど、アキトは焼き菓子も美味しく食べていたから好きだと思う。
「じゃあいくつか採って行くよ」
期待通り、アキトは嬉しそうにシュマの果実を採取し始めた。鼻歌を歌いそうな雰囲気からして、気分転換は成功したみたいだな。
きちんと採取用袋にしまわれていくシュマの果実を何となく見つめていると、不意にアキトが口を開いた。
「そういえば図鑑には書いてなかったけど、アコの果実って美味しいの?」
その言葉があまりに衝撃的で、俺は大きく目を見開いた。図鑑に記載が無いのは、書く必要が無いぐらい誰もがあの味を知っているからだ。
「アコの果実が…美味しい???」
何とか俺がひねり出せたのは、そんな言葉だけだった。
「えーと、食用可なんだよね?」
「食べてももちろん害はないよ。アコの果実は香りはすごく甘いんだけど…」
そう香りだけはすごく甘いんだ。香りだけは。
「そのまま食べたら後悔するぐらい苦い」
「そうなんだ!あ、でもペースト状にして販売してるなら、ペースト状にしたら苦味が消えるとか?」
アコのペーストを知らないアキトは、無邪気にそう口にした。
そうだったらどれだけ良かったか。ペースト状にしても苦味は減らないどころかむしろ増える。それなのにあの甘い香りは何故か消えないから、余計に頭の中が混乱してしまう。
あのものすごい苦味を思い出した俺は、くしゃりと顔を歪ませた。
「むしろ更に苦くなるよ…思い出しただけでこんな顔になるぐらいにはね」
そんなものがどうして常設依頼なのと聞かれた時には、俺は大いに慌ててしまった。ここでアキトの誤解を解けなかったら、異世界って変わってるななんて思われてしまうかもしれない。そう思った俺は必死に説明をして、何とかアキトを納得させる事に成功した。
「アキトがもし興味があるなら、トライプールの市場で売ってるよ?」
食べてみないかと口にした俺に、アキトは満面の笑みを浮かべて遠慮しますと叫んだ。
この森に来てから数時間が経ってしまったけれど、アキトは飽きた様子もなく集中して作業に取り組んでいる。遠目に一本ずつの木を確認し、第一条件であるギザギザの葉を見つけたら、すかさず近づいていって詳しく調べるという作業の繰り返しだ。
何度も何度も不正解を重ねながら、それでもアキトは楽しそうだ。
「これも違う」
「違うね」
「次行こ、次」
明るくそう言うと、アキトはぐるりと周囲を見渡した。気になる木でもあったのか、アキトはすぐに歩き出した。
ひょいっと目の前にあった葉の裏側を覗き込んだアキトは、そのままその場で固まってしまった。何かあったんだろうかと心配になるぐらい、何の反応も無い。
「アキト、どうかした?」
そっと後ろから声をかければ、アキトは慌てて両手を振ってみせた。
「あ、いや、裏面にうっすらトゲがあったから。心配させてごめん」
ああ、ずっと探していた条件にあてはまったからびっくりしただけか。何も無かったなら良かったと思いつつ、俺もそっと隣に並んで一緒に葉の裏側を確認してみた。
うん、これは第二条件合格だな。きちんとトゲが並んでいる。
アキトはきちんと手袋をはめてから、今度は果実に手を伸ばした。ルセフのキノコ騒動を見たからか、きちんと毒や麻痺への対策を取ったみたいだ。
アキトは一番近くにあった果実をもぎとると、そっと鼻を近づけた。
「すごく甘い香りだ」
嬉しそうなアキトの表情からして、本当に甘い良い香りがしているんだろうな。これで第三条件も合格だ。
アキトはおもむろに果物ナイフを取り出すと、その果実を二つに切り分けた。異世界で言うものくろな世界でも、実際の色が違えば微妙に濃淡は違ってくる。俺が何も指示しなても自分でそこに辿り着いたアキトに、誇らしい気持ちが湧いてくる。
さすがはアキトだと褒めたくて仕方がないけれど、今はアキトの集中の邪魔をすべきではない。俺はぐっと我慢しながら、アキトの横から果実の断面を覗き込んだ。
「果皮と果肉の色が違う」
ああ、本当だ。これで全ての条件が一致したな。
「ハル、これがアコの木だと思う!」
アキトはワクワクしながら、俺の言葉を待っている。
「大正解だよ!さすがアキトだ!」
「やったー!」
「諦めずによく見つかるまで探したね。よくできました」
そう声をかけると、アキトはふにゃりと幸せそうな笑みを見せてくれた。
ようやく見つけたアコの木を、アキトはじっと見上げていた。
「こんなにたくさんあるけど、何個ぐらいなら買い取って貰えるかな?」
「そうだな。あまり多いと逆に買取値段が下がるかもしれないから…30個までならすぐに買い取って貰えるだろう」
「じゃあ30個までにしよう」
アキトは楽しそうに笑いながら、ひとつずつアコの果実を採取し始めた。
「これだけあるなら、一個ぐらい食べてみる?」
俺は悪戯っぽく笑いながら話しかけた。断られるとは分かっているからただの言葉遊びのようなものだ。
「食べてみないよ!」
「じゃあペーストの方にしようか」
「そっちもしない!顔くしゃくしゃになるぐらい苦いんでしょ?」
「苦くない…とはとても言えないな」
そんなくだらない会話をしている間に、無事にアコの果実の採取は完了した。
284
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる