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164.【ハル視点】報酬とアキトの決断
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ファリーマとウォルターが待ち合わせ場所にやってくると、チームはルセフと合流するために動き出した。ギルド職員に案内されるがままに、地下の一室へと進んで行く。
部屋の中にいたのはルセフだけではなく、メロウの姿もあった。依頼受付の時もメロウが担当していたから当然といえば当然か。
「今日はギルドの好意でこの部屋を借りた。あとメロウさんは全員の依頼の処理と、おれたちの分配の処理をするためにいてもらってる」
「お邪魔致します」
「報告自体はもう終わってる…満点だそうだ」
おおーと歓声を上げたウォルターとファリーマに対して、ブレイズとアキトは不思議そうに首を傾げた。そういえば、調査依頼は採点方式だとは伝えてなかったな。各項目ごとに加点と減点がされるようになっていて、点数は最大で10点満点だ。
「本当に素晴らしい調査内容でした」
メロウはそう言うと、調査内容を褒めちぎった。
素材調査はノートも分かりやすくまとめてあるし、採取した素材もきっちりと分けられている。アグアウルフ二頭とヒュージスライムという珍しい魔物の討伐。更にクラ―ウ茸の発見と報告も加点がついて、文句なしの10点満点だそうだ。
良い結果になるだろうとは思っていたが、まさかの満点か。もしかしたらギルドの依頼史上初の快挙かもしれないな。
「こちらをご覧下さい」
テーブルの上に置かれた紙を覗き込んで、チームの大人組は満足そうに頷いた。それなりに高額ではあるが、5人で分けるんだからこれぐらいが妥当だろう。納得した俺の隣で、ブレイズとアキトが挙動不審になった。
「アグアウルフ二頭とヒュージスライム、それにクラ―ウ茸が高額買取ですし、それ以外もたくさんの素材を採ってきて頂いてますからね」
あまりに遠い目をしている二人に、メロウがそう説明を始めた。
ギルドからの直接依頼だから、全ての素材は一般価格よりも少し高めに買い取ってくれる。報酬が美味しくなければ、依頼を断られるから当然の事だが、アキトは不思議そうに首を傾げていた。
「ギルドからの依頼をまかせられるような信頼できる冒険者には、また依頼を受けて貰いたいからね。そのための高価買取だよ」
こっそりと裏事情を教えれば、アキトはなるほどと言いたげに頷いた。
報酬の山分けが終わると、ルセフが軽く手をあげて口を開いた。
「あ、今回の食費は全員3000で」
そういえば、報酬が入った時に食費を集めると言っていたな。それにしてもあれだけ色んな食材を使った見事な料理が、一人あたり3000グルで済むのはすごいな。
俺は素直に感心したが、アキトは値段に納得できなかったようだ。
「あの、本当にそんなに安いんですか?」
「ああ、今回は一角ボアの肉も手に入ったしね。これでも俺が損はしない金額にしてるよ」
アキトはじっとルセフの顔を見つめた。この言葉が、嘘か本当かを見極めようとしているみたいだ。
「差額は俺が貰うことになるけどね」
ルセフはまっすぐにアキトの目を見返しながら、笑ってそう言った。
「損は無いって言うのは本当ですか?」
「ああ、誓って嘘は言ってない」
「じゃあ、これ。美味しいごはん、ありがとうございました!」
「あ、そうだ。今回も美味しいごはんありがとう、ルセフさん」
アキトとブレイズが並んでお礼を言えば、ルセフは真顔で固まった。
「あー…やっぱりブレイズとアキトは可愛いな」
そう言うとルセフはアキトとブレイズの頭を撫で始めた。こんなにまっすぐに感謝の気持ちを伝えられたら、そうなる気持ちは分かる。
「アキト。これは全員で相談して決めた事だから、ただの俺の思いつきで言うんじゃないんだけどな…?」
不意に真剣な顔になって前置きをしたルセフに、ああやっぱりかと思った。
「アキトさえ良ければ、うちのチームに入らないか?」
一緒に依頼を受けてアキトの事を知ったなら、こうなるかもしれないとはずっと思っていた。
知識に貪欲で学ぶ事を楽しめるその気質、それに加えて高い戦闘能力。素直で可愛らしい性格に、いざとなると頼れる男前さ。偉ぶることも文句を言うこともなく指示に従うアキトだから、チームにはぜひ欲しい人材だろう。
「アキトは実力も人柄も良いから歓迎するぜ?」
ウォルターはそう言うとニカッと笑ってみせる。
「俺は魔法の話がもっと聞きたいから大歓迎!」
ファリーマが口にした理由には、俺も苦笑してしまった。まあ魔法馬鹿なファリーマらしいか。
「アキトがチームに入ってくれたら、俺も嬉しいよ!絶対楽しくなる!」
ブレイズはそう言うとワクワクした顔でアキトを見つめている。
「チームの奴との相性も良いし、一緒にいて楽しいってのは大事な理由だよ」
ルセフは軽い調子でそう続けた。
ああ、アキトがこの申し出を受けたら…寂しくなるな。
ブレイズには既にばれているけれど、それでもチームの前で普通にアキトと会話は出来ないだろう。つまり今までみたいに二人で話しながらの採取が、これからは出来なくなるって事だ。テントの中でこそこそと会話をするだけの日々が日常になる。新しい仲間が出来て、俺の事も仲間の内の一人という扱いに変わるんだろうか。そう思うと怖くて仕方がない。
それでも、もしアキトがチームに入りたいと言うなら、俺が邪魔するべきじゃない。アキトの視線が不意に俺に向いた。笑え。いつも通りの笑顔で笑って答えろ。
「アキトがしたいようにして良いんだよ。このチームは良いチームだと思うし…俺は反対しないから自分で決めて?」
出来るだけ穏やかな優しい声を作って声をかけると、アキトは目をつむって考えだした。いつも通りに笑えていただろうか。声は震えていなかっただろうか。そんな事を考えながら、悩むアキトを見つめた。
答えが出たのか、アキトはぱちりと目を開くとすぐに口を開いた。
「すみません。俺はチームには入れません」
は?入れない?依頼の間はあんなに楽しそうだったし、初の友人とも呼べるブレイズがいるチームなのに?俺は呆然とアキトを見つめて立ち尽くしていた。
「この数日はすごく楽しかったですし、もし皆がよければまた依頼には誘って欲しいですけど…せっかく誘って頂いたのに、すみません」
きっちりと断りを入れたアキトは、ちらりと俺を見上げてきた。
チームには入らない。つまりこれからも俺と二人で冒険者を続けてくれるって事だ。ぶわりと喜びの感情が溢れてくる。一人で踊りだしそうな気分だった。
チームへの勧誘を断られても、誰一人としてアキトへの態度を変えなかった。むしろまた依頼があったら誘うと約束してくれる姿に、俺はホッと息を吐いた。気まずくならなくて良かった。
「何か困った事があったら、俺たちを頼ってくれて良いんだからな。チームに入らなくてもアキトは俺たちにとっての特別だ」
ルセフの言葉に、チームの皆は頷いていた。ああ、本当に良いチームだ。
「…っ!ありがとうございます!」
「よし、じゃあ宴会行くか」
「待ってましたー!」
元気いっぱいのウォルターの叫びに、全員で笑ってしまった。
「あーでも今日はギルドの酒場もう混んでたよ?」
「席空いてるか?」
「俺見てこようか?」
今にも走り出しそうなブレイズの肩に、ルセフはぽんっと手を乗せた。
「待て待て。俺が昨日のうちにルネの店に予約を入れてある」
「え…本当に?」
「さすがリーダー!一生ついて行く!」
ウォルターとファリーマは、すごい勢いでルセフに近づいていった。ブレイズは話だけは聞いた事があるけど、行くのは初めてなんだと楽し気だ。
「なにを食べても美味しいけど、メニューが選べないってお店なんだ」
「へーこだわりがあるのかな?」
「その日一番美味しい食材を使って、その日一番美味しい料理を作る!ってのがルネのこだわりだ」
ルネの店とはまた、良い店を選んだな。
この店は元々は店名が無かったんだが、店主の名前がルネだからいつの間にかルネの店と呼ばれるようになったという変わり種だ。俺も何度か行った事があるが、本当に何を食べても美味しかった。
基本的には夜しか開かない店だったが、昼から開けて貰えるとは伝手でもあるのか、それとも昼も営業するように変わったんだろうか。俺は懐かしく思い出しながら、宴会だと騒ぐチームの後を追って歩き出した。
部屋の中にいたのはルセフだけではなく、メロウの姿もあった。依頼受付の時もメロウが担当していたから当然といえば当然か。
「今日はギルドの好意でこの部屋を借りた。あとメロウさんは全員の依頼の処理と、おれたちの分配の処理をするためにいてもらってる」
「お邪魔致します」
「報告自体はもう終わってる…満点だそうだ」
おおーと歓声を上げたウォルターとファリーマに対して、ブレイズとアキトは不思議そうに首を傾げた。そういえば、調査依頼は採点方式だとは伝えてなかったな。各項目ごとに加点と減点がされるようになっていて、点数は最大で10点満点だ。
「本当に素晴らしい調査内容でした」
メロウはそう言うと、調査内容を褒めちぎった。
素材調査はノートも分かりやすくまとめてあるし、採取した素材もきっちりと分けられている。アグアウルフ二頭とヒュージスライムという珍しい魔物の討伐。更にクラ―ウ茸の発見と報告も加点がついて、文句なしの10点満点だそうだ。
良い結果になるだろうとは思っていたが、まさかの満点か。もしかしたらギルドの依頼史上初の快挙かもしれないな。
「こちらをご覧下さい」
テーブルの上に置かれた紙を覗き込んで、チームの大人組は満足そうに頷いた。それなりに高額ではあるが、5人で分けるんだからこれぐらいが妥当だろう。納得した俺の隣で、ブレイズとアキトが挙動不審になった。
「アグアウルフ二頭とヒュージスライム、それにクラ―ウ茸が高額買取ですし、それ以外もたくさんの素材を採ってきて頂いてますからね」
あまりに遠い目をしている二人に、メロウがそう説明を始めた。
ギルドからの直接依頼だから、全ての素材は一般価格よりも少し高めに買い取ってくれる。報酬が美味しくなければ、依頼を断られるから当然の事だが、アキトは不思議そうに首を傾げていた。
「ギルドからの依頼をまかせられるような信頼できる冒険者には、また依頼を受けて貰いたいからね。そのための高価買取だよ」
こっそりと裏事情を教えれば、アキトはなるほどと言いたげに頷いた。
報酬の山分けが終わると、ルセフが軽く手をあげて口を開いた。
「あ、今回の食費は全員3000で」
そういえば、報酬が入った時に食費を集めると言っていたな。それにしてもあれだけ色んな食材を使った見事な料理が、一人あたり3000グルで済むのはすごいな。
俺は素直に感心したが、アキトは値段に納得できなかったようだ。
「あの、本当にそんなに安いんですか?」
「ああ、今回は一角ボアの肉も手に入ったしね。これでも俺が損はしない金額にしてるよ」
アキトはじっとルセフの顔を見つめた。この言葉が、嘘か本当かを見極めようとしているみたいだ。
「差額は俺が貰うことになるけどね」
ルセフはまっすぐにアキトの目を見返しながら、笑ってそう言った。
「損は無いって言うのは本当ですか?」
「ああ、誓って嘘は言ってない」
「じゃあ、これ。美味しいごはん、ありがとうございました!」
「あ、そうだ。今回も美味しいごはんありがとう、ルセフさん」
アキトとブレイズが並んでお礼を言えば、ルセフは真顔で固まった。
「あー…やっぱりブレイズとアキトは可愛いな」
そう言うとルセフはアキトとブレイズの頭を撫で始めた。こんなにまっすぐに感謝の気持ちを伝えられたら、そうなる気持ちは分かる。
「アキト。これは全員で相談して決めた事だから、ただの俺の思いつきで言うんじゃないんだけどな…?」
不意に真剣な顔になって前置きをしたルセフに、ああやっぱりかと思った。
「アキトさえ良ければ、うちのチームに入らないか?」
一緒に依頼を受けてアキトの事を知ったなら、こうなるかもしれないとはずっと思っていた。
知識に貪欲で学ぶ事を楽しめるその気質、それに加えて高い戦闘能力。素直で可愛らしい性格に、いざとなると頼れる男前さ。偉ぶることも文句を言うこともなく指示に従うアキトだから、チームにはぜひ欲しい人材だろう。
「アキトは実力も人柄も良いから歓迎するぜ?」
ウォルターはそう言うとニカッと笑ってみせる。
「俺は魔法の話がもっと聞きたいから大歓迎!」
ファリーマが口にした理由には、俺も苦笑してしまった。まあ魔法馬鹿なファリーマらしいか。
「アキトがチームに入ってくれたら、俺も嬉しいよ!絶対楽しくなる!」
ブレイズはそう言うとワクワクした顔でアキトを見つめている。
「チームの奴との相性も良いし、一緒にいて楽しいってのは大事な理由だよ」
ルセフは軽い調子でそう続けた。
ああ、アキトがこの申し出を受けたら…寂しくなるな。
ブレイズには既にばれているけれど、それでもチームの前で普通にアキトと会話は出来ないだろう。つまり今までみたいに二人で話しながらの採取が、これからは出来なくなるって事だ。テントの中でこそこそと会話をするだけの日々が日常になる。新しい仲間が出来て、俺の事も仲間の内の一人という扱いに変わるんだろうか。そう思うと怖くて仕方がない。
それでも、もしアキトがチームに入りたいと言うなら、俺が邪魔するべきじゃない。アキトの視線が不意に俺に向いた。笑え。いつも通りの笑顔で笑って答えろ。
「アキトがしたいようにして良いんだよ。このチームは良いチームだと思うし…俺は反対しないから自分で決めて?」
出来るだけ穏やかな優しい声を作って声をかけると、アキトは目をつむって考えだした。いつも通りに笑えていただろうか。声は震えていなかっただろうか。そんな事を考えながら、悩むアキトを見つめた。
答えが出たのか、アキトはぱちりと目を開くとすぐに口を開いた。
「すみません。俺はチームには入れません」
は?入れない?依頼の間はあんなに楽しそうだったし、初の友人とも呼べるブレイズがいるチームなのに?俺は呆然とアキトを見つめて立ち尽くしていた。
「この数日はすごく楽しかったですし、もし皆がよければまた依頼には誘って欲しいですけど…せっかく誘って頂いたのに、すみません」
きっちりと断りを入れたアキトは、ちらりと俺を見上げてきた。
チームには入らない。つまりこれからも俺と二人で冒険者を続けてくれるって事だ。ぶわりと喜びの感情が溢れてくる。一人で踊りだしそうな気分だった。
チームへの勧誘を断られても、誰一人としてアキトへの態度を変えなかった。むしろまた依頼があったら誘うと約束してくれる姿に、俺はホッと息を吐いた。気まずくならなくて良かった。
「何か困った事があったら、俺たちを頼ってくれて良いんだからな。チームに入らなくてもアキトは俺たちにとっての特別だ」
ルセフの言葉に、チームの皆は頷いていた。ああ、本当に良いチームだ。
「…っ!ありがとうございます!」
「よし、じゃあ宴会行くか」
「待ってましたー!」
元気いっぱいのウォルターの叫びに、全員で笑ってしまった。
「あーでも今日はギルドの酒場もう混んでたよ?」
「席空いてるか?」
「俺見てこようか?」
今にも走り出しそうなブレイズの肩に、ルセフはぽんっと手を乗せた。
「待て待て。俺が昨日のうちにルネの店に予約を入れてある」
「え…本当に?」
「さすがリーダー!一生ついて行く!」
ウォルターとファリーマは、すごい勢いでルセフに近づいていった。ブレイズは話だけは聞いた事があるけど、行くのは初めてなんだと楽し気だ。
「なにを食べても美味しいけど、メニューが選べないってお店なんだ」
「へーこだわりがあるのかな?」
「その日一番美味しい食材を使って、その日一番美味しい料理を作る!ってのがルネのこだわりだ」
ルネの店とはまた、良い店を選んだな。
この店は元々は店名が無かったんだが、店主の名前がルネだからいつの間にかルネの店と呼ばれるようになったという変わり種だ。俺も何度か行った事があるが、本当に何を食べても美味しかった。
基本的には夜しか開かない店だったが、昼から開けて貰えるとは伝手でもあるのか、それとも昼も営業するように変わったんだろうか。俺は懐かしく思い出しながら、宴会だと騒ぐチームの後を追って歩き出した。
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