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162.俺の選択

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 チームの皆がくれた言葉は嬉しかったけど、まさかたった一度一緒に依頼を受けただけで、こんな風に誘ってくれるなんて。正直かけらも想像していなかった。あまりに予想外の申し出に戸惑いが隠せない。

 ちらりと視線を向ければ、ハルはいつも通りの笑顔で俺を見つめていた。

「アキトがしたいようにして良いんだよ。このチームは良いチームだと思うし…俺は反対しないから自分で決めて?」

 穏やかな優しい声でそう言われた俺は、この数日のチームの様子を思い出してみた。

 ルセフさんはチームを引っ張ってくれる頼り甲斐のある良いリーダーだし、色んな知識もあって心から尊敬できる人だった。ウォルターさんは俺たちを笑わせるためにおどけたりもするけど、意外にも中身は落ち着いている頼れる人だった。

 ファリーマさんは魔法が大好きで隙あらば魔法の話に持っていくけど、周りをよく見ている気配りの上手な優しい人だった。ブレイズはこの世界での初めての友人で、その言動と明るい笑顔でチーム全体を明るくしてくれるムードメーカーな奴だった。

 ハルが言ったように俺もすごく良いチームだと思うし、一緒に行動したこの数日間はとても楽しかった。きっとこのチームに入ったら、楽しく冒険者生活が送れると思う。

 もし俺が異世界人だとばれてもこのチームなら問題は無いと思う。この懐の大きい人達なら笑って受け入れてくれるだろうし、何なら一緒になって俺の秘密を隠してくれるかもしれない。そう思えるぐらいには信頼している。

 それでも、俺にはこのチームには入れない理由がある。

「すみません。俺はチームには入れません」

 せっかく誘ってくれたのに、がっかりされるかな。そう思ったけれど、チームの皆は残念そうにしながらもやっぱりなと言いたげだった。

「この数日はすごく楽しかったですし、もし皆がよければまた依頼には誘って欲しいですけど…せっかく誘って頂いたのに、すみません」

 断った理由はたった一つ。単純に、俺がハルと話せなくなるのがつらいからだ。

 チームで行動してる間は、夜のテントで話す以外は全然ハルと話せなかった。いや憑依オナニーの一件できまずいからって、この依頼に飛びついたのは俺なんだけどさ。

 それにしても想像以上に話す隙が無かったんだ。一人にならないんだから当たり前なんだけど。ハルからはいつも通り話しかけてくれたし、色んなことも教えてくれた。俺はそれに返事がしたくてたまらなかった。

 周りからはソロ冒険者に見えるけど、俺はいつでもハルと一緒だしハルと二人で冒険者をやりたいんだ。

 ハルは俺がチームに入っても別に良いみたいだったけどな。会話ができなくて寂しいって思ってくれないのかなと視線を向ければ、ハルは驚いた顔で俺をじっと見つめていた。ほら、こういう時にその表情どんな意味ってすぐに聞きたくなるんだよ。

「そうか…残念だけど分かった」

 ルセフさんはニヤリと笑って眼鏡を整えた。

「依頼に誘うのは良いんだよな?」
「はい!ぜひ!」

 俺はハルと話しながら冒険がしたい。だからチームに入ってずっと一緒にいるのは無理だけど、たまにならこういう依頼も受けたい。わがままかと思ったけど、ルセフさんは笑顔で続けた。

「何か困った事があったら、俺たちを頼ってくれて良いんだからな。チームに入らなくてもアキトは俺たちにとっての特別だ」

 チームの皆はその通りと頷いてくれていて、その光景に胸が温かくなった。本当に優しい人たちだ。

「…っ!ありがとうございます!」
「よし、じゃあ宴会行くか」
「待ってましたー!」

 元気いっぱいのウォルターさんの叫びに、その場にいた全員で笑ってしまった。

「あーでも今日はギルドの酒場もう混んでたよ?」
「席空いてるか?」
「俺見てこようか?」

 今にも走り出しそうなブレイズの肩に、ルセフさんはぽんっと手を乗せた。

「待て待て。俺が昨日のうちにルネの店に予約を入れてある」
「え…本当に?」
「さすがリーダー!一生ついて行く!」

 ウォルターさんとファリーマさんが、すごい勢いでルセフさんに近づいていく。ブレイズは話だけは聞いた事があるけど、行くのは初めてなんだそうだ。

「なにを食べても美味しいけど、メニューが選べないってお店なんだ」
「へーこだわりがあるのかな?」
「その日一番美味しい食材を使って、その日一番美味しい料理を作る!ってのがルネのこだわりだ」

 食材によって変わる、日替わりメニューのお店ってことか。そんなの絶対美味しいやつだ。

「ではメロウさん、俺たちはこれで」
「はい、お疲れ様でした」

 笑顔で手を振ってくれたメロウさんに、俺も小さく手を振り返す。

「よし行くぞー」
「宴会だー」
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