生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
160 / 1,179

159.屋台飯と秘密

しおりを挟む
 夕日が完全に沈んでしまった頃、俺たちは領都トライプールの北大門が見える所にいた。あの大きな大門を見ると、やっとトライプールに帰ってきたなって実感できる。

 こんな時間でもまだ屋台が出ている事に驚きながら、俺はチームの皆の後を追って大門前の広場に足を進めた。

「無事に帰ってこれたな、皆お疲れ様」

 ルセフさんは汚れた眼鏡を拭きながら、俺たちにそう声をかけた。

「疲れただろうし、宴会は明日にしよう」
「賛成ー」
「早くベッドで寝たいよ」
「分かりました」

 続々と賛同の声が上がるなか、ウォルターさんだけがびっくり顔で振り返った。

「え、飲みにいかないのか?」

 ショックですって顔に書いてあるその表情に、俺はうっかり噴き出しそうになった。

「明日にしようよ、ウォルター兄ちゃん」
「俺はお前の兄貴じゃないっての!」

 本当に今すぐでも飲みにいけそうなぐらい、ウォルターさんは元気いっぱいみたいだ。盾使いの体力って、本当にすごいんだな。

「行きたければ一人で行って来い。ただし遅刻したら…分かってるな?」
「…我慢します」
「よし。明日の集合は昼頃にギルド前で。朝から報告はしておくから、報酬と食材の精算もその時にな」

 チーム全員で報告に行くとギルド職員さんが大変だから、いつもリーダーであるルセフさんが代表で行ってくれるんだって。俺は行かなくて良いのかなって気になったけど、まかせて欲しいって言われたから頷きました。

「じゃあ今日は解散で。また明日な」
「はい、お疲れさまでした!」
「アキトはすぐ帰るの?」

 ブレイズに聞かれた俺は、さっきから気になっていたこんな時間でも空いてる屋台に視線を向ける。

「ちょっとお腹も空いてきたし、屋台でも覗いてから帰るよ」
「あ、俺も行くー!」

 ブレイズは笑顔で三人に手を振った。俺と一緒に、屋台に付き合ってくれるみたいだ。

 近づいて行くと、屋台に見覚えがあった。あれ?と首を傾げると、ハルがそっと教えてくれた。

「出発前に見たあの屋台だよ」

 え、あんな朝早くからずっとここで屋台をやってるの?思わず労働環境の心配しちゃったけど、屋台にいたのはムキムキマッチョなおじさんだった。ギャップがすごい。

「ん?兄ちゃんどうかしたか?」
「あ、いえ、朝早くにこの屋台の設営をしていた女性の方を見たんで、こんな時間までやってるのかとちょっと心配になっただけです」

 失礼だったかなと見上げれば、スキンヘッドのおじさんは優しく笑ってくれた。

「それは俺の母親だな。朝から昼だけ母親がやってて、昼から夜までは俺が担当なんだ。心配してくれてありがとうな」

 お前には関係ないだろうと言われてもおかしくないのに、お礼を言ってくれるおじさんにちょっと嬉しくなってしまった。

「アキト、これすっごく美味しいんだよ」
「おや、ブレイズ。また来てくれたのか」
「うん、友達連れてきたよー俺両方!」

 おじさんは嬉しそうに笑いながら、鉄板の上で焼いていた丸いパンのようなものをくるりと裏返した。中身は分からないけど美味しそうな香りがしてる。ブレイズは両方って言ったよねと口を開こうとしたら、おじさんが先に教えてくれた。

「こっちがチーズとスパイスだけ、こっちはチーズと甘辛い肉入りだよ」
「俺も両方で!」

 即答だったよね、だってこれ絶対美味しいやつ。

 おじさんは自分の夜食用だという、ジャムを挟んだやつを二つもおまけしてくれた。

「俺まで良いんですか?」
「おう、また来てくれたらそれで良いよ。気にせず食ってくれ」

 本当に見た目に反して、柔らかい雰囲気の人だ。

「おじさん、こいつアキトっていうんだ」
「そっか、じゃあまたなアキト!」

 ブレイズは俺の手を引いてベンチの方へと歩き出した。夜だからか、ベンチも空いていてあっさりと座れた。

「とりあえずジャムのだけ食べちゃお」
「いいね」

 表面には綺麗に焦げ目がついた丸いパンにぱくりと齧りつけば、とろりと赤紫色のジャムが見えた。甘酸っぱくてすごく美味しい。

「美味しい!」
「うわーこれも売ってよって言いに行かないと!」
「これは売って欲しいね」
「帰りに言いに行こ?」
「行こう!」

 これで宿までは歩けそうだなと立ち上がろうとすると、ブレイズが声をひそめて話しかけてきた。

「ハルさん?の事は、チームの皆にも言わないから安心してね」
「え、でもチームの皆に秘密なんて」
「みんな秘密ぐらいあるから、大丈夫だよ」

 笑顔で断言すると、ブレイズはにんまりと笑みを浮かべた。

「じゃあ、また明日ね!」
「うん、また明日」
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...