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156.友人と惚気話

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 薬も飲んだしもう大丈夫だと言い張るルセフさんを四人がかりで説得して、なんとか横になってもらう事ができた。病気ってわけじゃないって主張してたけど、あんな状態だったんだから無理はして欲しくない。

 ということで、今日の昼ごはんと夜ごはんはファリーマさんと俺の二人で作ったよ。

 ファリーマさんは元々自炊もする人らしくて、かなり手際が良かった。バイト経験のおかげで下ごしらえだけなら得意な俺を、上手く使ってくれた。

 ルセフさんには負けるからななんて言ってたけど、ファリーマさんの作る料理もすごく美味しかった。ルセフさんの料理はお店の味みたいに洗練されてるけど、ファリーマさんのは家庭料理っぽくて何だかほっとする味だった。

「さっきまで休んでたんだから、見張り番はやらせてくれ」

 予想通りルセフさんはそう言い出したけど、ファリーマさんに諭され、ウォルターさんに脅され、ブレイズに涙目で見つめられてついには折れた。



 今日の見張り番は俺とブレイズ、ウォルターさんとファリーマさんのペアですることに決まった。ぽつぽつと小声で昼間の事や素材の事を話しながら、俺たちは時間を潰していた。

 ふと話が途切れた所で、俺はそっと夜空を見上げた。ハルが教えてくれた野営地での楽しみだ。天気が良かったからか、やっぱり今日も星が綺麗に見えるな。

「あのさ…」

 不意にかけられた声に、俺はそっとブレイズへと視線を向けた。何だかブレイズらしくないもじもじとした様子に、俺は小さく首を傾げた。

「その、ハルって誰?」

 あまりに予想外の言葉すぎて、目を見開いて固まってしまった。俺とブレイズの間に当然のように座り込んでいたハルも、驚いた顔でブレイズを見つめている。

「…聞いてたのか?どこで?」

 精霊が見える人なんて言われてるけど、ハルの名前までバレた事は無かった。動揺しすぎて質問に質問で返してしまったけれど、ブレイズは普通に話し出した。

「俺さ、実はちょっとだけ獣人の血が入ってるんだ」
「あ…そうなんだ?」
「うん、爺ちゃんがハーフだったらしい」

 耳も尻尾もあれば良かったんだけどねと残念そうにブレイズは続けた。犬っぽいって思ってたけど、もしかして獣人の血のせいだったりするのかな。いや、でもそれはただのブレイズの個性かな。

「普段はそうでも無いんだけど、集中してると遠くの声も聞こえるんだよ」
「なるほど、獣人の能力が集中している時だけ使えるって事か」

 ハルはその説明で納得できたみたいだけど、俺はブレイズの耳がすごいって事しか分からなかったよ。

「ウォルター兄ちゃんとファリーマさんを呼びに行った時さ、俺ルセフさんが心配で集中してたから聞いちゃったんだ…」

 盗み聞きしてごめんねと続けたブレイズは、見えない耳を下げてしょんぼりとうなだれた。やっぱり耳が見える気がするし、何なら丸まった尻尾も見える気がする。

「それは別に良いんだけど、えーと…ハルは…」

 幽霊って言って良いものなのかな?それとも精霊って言い張るべきなのか?でも嘘は吐きたくないしとぐるぐると考えていると、慌てた様子のブレイズが声を上げた。

「あ、待って!えっと、誰かって聞きたいってわけじゃなくて!アキトの通り名は知ってるんだ」

 ブレイズも俺と同じぐらい動揺してるみたいだな。自分よりも動揺している人を見ると、ちょっと落ち着くよね。俺はうんと頷いて続きを促した。

「うちのチームはルセフさんの知識量が凄くて、素材についてはいっつもルセフさん頼りなんだ」

 確かにルセフさんの知識量はすごいから、そうなるのも仕方ないと思う。俺だってハルにいっぱい助けて貰ってるもんな。

「だから、ルセフさんの目が見えないなんて事態になったら、原因を見つけるのにも苦労するんだ…」

 ブレイズはそう言うと、ぐっと拳を握りしめた。

「アキトには感謝してるんだ。原因のクラーウ茸を見つけてくれた事、治療薬の事教えてくれた事、薬を作ってくれた事にもありがとうって言いたかっただけ!」

 何て言えば良いのか悩んで誰とか聞いてごめんねと謝ってくれたブレイズに、俺はふるふると首を振った。

「今回の調査依頼でさ、俺ももっと知識をつけないとって思ったんだ」

 ルセフさんの手伝いぐらいはできるようになりたいと、ブレイズはキラキラと目を輝かせて目標を語った。

「アキト、今日は本当にありがとうな」

 満面の笑みでまっすぐに伝えられた言葉に、俺はちらりとハルを見つめた。誰にも話した事がないけど、ブレイズになら知っていて欲しいとそう思った。

「ハルはね、俺に色んなことを教えてくれる、大切な存在なんだ」

 幽霊とも精霊とも言わない。これなら嘘じゃないからね。

「…っ!そうなのか!」
「うん、素材の事も詳しいし、道にも詳しくていつも案内してくれるんだ」
「へールセフさんみたいだな」
「俺が凹んだ時は励ましてくれるし、いつも俺の事を考えてくれてる」

 ちょっと口にしたら止まらなくなった。だって今までは、誰にも自慢できなかったハルの事を話せるんだよ。ちょっとした惚気気分で、いっぱい話してしまった。

「アキト、そんな風に思ってくれてたのか…」
「ハルがいてくれて良かったっていつも思ってるよ」

 ちらっとハルの顔を見てみたら、恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべて目を反らされた。ひたすら褒めてしまったからな。俺がもし逆の立場でされたら倒れるかもしれない。

「話してくれてありがとうな、アキト」
「こっちこそ、聞いてくれてありがとう」

 変な奴って思われても仕方ない事をいっぱい話したけど、ブレイズはいつも通りの笑みを浮かべてくれていてほっとしてしまった。

「本当に良い友人を見つけたな」

 ハルの言葉に、俺は大きく頷いて満面の笑みを浮かべた。
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