生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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155.魔法を使った薬作り

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 お姫様抱っこをしながらでも、ウォルターさんは少しも危なげなく野営地まで歩き通した。細身ながら筋肉に覆われたルセフさんを、ここまで軽々と運んでしまうなんて。俺だったら三歩ぐらいで崩れ落ちるだろうな。

 さすがに地面に直接寝かすのは駄目だと思うけど、テントを設営する時間も惜しい。間を取って寝袋を地面に敷いてから、その上にそっとルセフさんを寝かせた。周りをぐるりと囲むようにして、皆で地面に座り込む。

「それでクラーウ茸の治療法は?」

 ウォルターさんの言葉に俺が答えるよりも先に、ルセフさんが口を開いた。

「ジジの花びらとブローズの葉が薬の原料だ」
「ブローズの葉か…採ってくるか」

 立ち上がりかけたウォルターさんに、俺は慌てて声をかける。

「あ、ブローズの葉あります!」
「アキト?」
「ブレイズ、ジジの花びらも昨日採ったのがあるよね?」
「ジジ…あの白いおっきい花のやつか?」
「そう、それそれ」

 ブレイズは、すぐにジジの花びらの採取袋を取り出してくれた。

「あーじゃあ火を起こすための枯れ枝集めか」

 今度はファリーマさんが立ち上がろうとしたけれど、俺はそれも慌てて止めた。

「いえ、俺の魔法でやります」

 できるよねとハルに視線を向ければ、面白そうに笑いながら大きく頷いてくれたから特に問題は無さそうだ。

「魔法で?」

 その場に立ち上がった俺は、すぐに魔力を練り上げた。じわじわと大きくなるように水魔法で水球を作っていくと、手のひらサイズになった所でハルからストップがかかる。水の量はこれぐらいなんだ。俺は目の前に浮かぶ水球に念のため浄化魔法をかけると、次の作業にとりかかった。

「ブローズの葉は半分にちぎっていれて、ジジの花びらはそのまま2枚」

 ブローズの葉も一応浄化したし、もちろんジジの花びらにも浄化魔法をかける。ばんばん浄化魔法を使う俺に、ハルは苦笑していた。本当に綺麗好きだなとか思われてそうだけど、口から飲むなら綺麗な状態じゃないと駄目だろう。

 水球の中に放り込めば、後は火魔法で温めるだけだ。気づけばファリーマさんは楽しそうに笑いながら、水球の真ん前に立ってじっと見つめている。見世物じゃないけど、楽しそうで何よりです。

「そこからゆっくり温度を上げていって…そう」

 ハルの指示通りにゆっくりと火魔法で水の温度を上げていくと、ジジの花びらもブローズの葉もじわじわと溶けだした。最初は透明だった水がどんどん変化して、抹茶ミルクのような色に変わっていく。へーこんな色になるのか。薬なんて初めて作ったけど、なんだか不思議な現象だ。

「沸騰したら止めて」

 ハルが全部横から教えてくれるから、俺は安心して作業だけに集中することが出来た。

「よし、完成!」
「すみません、コップ下さい」

 声をかけたけれど、ウォルターさんは座り込んだまま呆然と水球を見つめているし、ファリーマさんは特等席での魔法鑑賞に夢中だ。

「はい、これ」

 ブレイズがいなかったらコップを探すのも大変だったかもしれない。もし次薬を作る事があったら、先にコップを用意しようと俺は心に決めた。

 薬を注いでいる間に、ブレイズはルセフさんの上半身を起き上がらせてくれていた。完璧な助手っぷりが本当にありがたい。

「できました。ルセフさん、熱いので気を付けて下さいね」
「ああ、ありがとう」

 そっと手に触れてからコップに誘導すれば、ルセフさんは両手でコップを持ち上げた。眉間にしわが寄ってるあたり、味はすごく苦かったりすごく甘かったりするのかな。それともシンプルにめっちゃまずいんだろうか。

「すげぇ顔してんな」

 我に返ったウォルターさんがそう突っ込みを入れてしまうぐらい顔を歪めながら、ルセフさんはコップを傾けている。抹茶ミルクっぽくて美味しそうとか密かに思ってたんだけど、絶対に味見はしない。

 歪んだ顔をしながらも、ルセフさんは何とかコップの薬を全て飲み干した。

「効果はすぐ出る筈だよ」

 ハルの言葉にじっと見守っていると、ルセフさんの目が周囲を見渡してからまっすぐに俺を見つめた。

「ああ、ちゃんと見えるようになった!ありがとう、アキト」
「はー成功して良かったです!手のしびれはどうですか?」

 しびれもこの薬で消える筈ってハルには聞いてたけど、やっぱり心配だったから聞いてみた。ルセフさんは手を握ったり開いたりを繰り返してから、柔らかい笑みを浮かべた。

「大丈夫そうだ」
「心配かけやがって」
「悪かったな」

 俺は優しい笑みを浮かべたハルに、そっと視線を向けた。ハルがいなかったらクラーウ茸に気づけてなかったし、治療法も分からなかったし、薬だって成功したか分からない。全部ハルのおかげだ。俺はなんだか誇らしい気持ちでハルの姿をじっと見つめていた。
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