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153.ルセフさんの異変
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ふたご山の辺りは雨が多いと聞いていたけれど、翌日も雲一つない青空が広がっていた。雨に備えた用意もきっちりしてはいるけれど、晴れてくれた方が調査はしやすい。
朝食を終えた俺たちは、今日の予定をこなすべく動き出した。
「じゃあ俺たちは東側の調査をしてくるから」
「おう、俺たちは釣りだな!」
「忘れずに水の採取もしてくれよ」
「忘れねぇっての!まかせとけ!」
昨日の戦闘で一番の脅威が無くなったからか、流れる空気もどことなく穏やかだ。
強敵がいなくなった事を察知して、逃げた魔物たちが戻ってくる可能性もあるらしいけど、今の所近くに魔物の気配は無いそうだ。それだけでも、かなり安心できる。
「アキト、油断して良いって意味じゃないからね」
表情にでも出ていたのか、真剣な目をしたハルに釘を刺された俺はコクコクと小さく頷いた。
昨日のやり方は効率が良かったからと、今日も採用される事になった。ルセフさん一人と、俺とブレイズの二人組に分かれての調査だ。
「アキト、これ渡しとくな」
ルセフさんが差し出したのは、二冊のノートだった。昨日の調査ノートと上級素材だけを書き留めた俺のあのノートだ。
西側と東側でもし同じ物があっても、気にせずに記入してしまって良いらしい。確認しながら書き留めるのかと思っていたけど、その情報も大事なんだって。俺としては一つ手間が減ったから、大歓迎だ。
「はい、ブレイズはこれな」
次に差し出されたのは、赤い線の入った採取袋だった。ブレイズはすぐに受け取ると、不思議そうに首を傾げた。
笑いながら説明してくれたルセフさんによれば、もし西側と同じ物があった時でも採取した物がきちんと区別できるように、今日はこの袋を使うんだって。場所が違うと成分が違うかもしれないから、一度調査されるそうだ。色々考えてあってすごいな。
「じゃあ、今日も頼んだぞ。アキト、ブレイズ」
ルセフさんの信頼のこもった言葉を、俺たちは笑顔で受け取った。
今日担当する場所まで辿り着くと、まずは全員でぐるりと辺りを見渡してみた。昨日の西側の豊富な素材に比べると、東側の素材はそこまで多くはなさそうだ。
「こんなに違うんだね?同じ森なのに」
「昨日の半分ぐらいしか無いよな」
「よし、頑張るぞー」
「おう!」
要領が分かって来たからか、調査は昨日よりも更に順調だった。素材の数が少ない事もあって、あっという間に調べ終わってしまった。上級素材っぽい物もこの辺りには特に無さそうだから、俺のノートの出番は無さそうだ。
「え、もう終わり?」
簡単すぎた調査にブレイズはつまらなさそうな顔をしているけれど、素材が無いんだからどうしようもない。
「終わっちゃったね」
「仕方ないかールセフさん所に戻ろっか」
ぽつぽつと話しながらのんびりと来た道を歩いていくと、不意に地面にうなだれて座り込んでいるルセフさんの姿が見えた。隣に切り株があるんだから、あんな場所に座り込んで休憩をしたりはしないだろう。心臓が嫌な感じにバクバクと騒ぎ立てる。
「え…ルセフさん?」
「おう、おかえり。ちょっと失敗したわ」
苦笑交じりの声とはいえ、返事が返ってきた事に俺たちはホッと息を吐いた。そのままの勢いで駆け寄ろうとした俺たちは、すぐにルセフさんに止められてしまった。ハルも手を伸ばして通せんぼのような体勢になっているって事は、ルセフさんと同意見なんだろうな。
「そこで止まれ、原因が分からない今はまだ近づいたら駄目だ」
「でもっ!」
「ブレイズ、もしお前らが近づいてきて俺と同じ症状を起こしたら、誰が俺を助けるんだ?」
「…分かった」
「よし、ブレイズはファリーマとウォルターを呼んできてくれるか?」
ブレイズはこの場を離れて良いのか一瞬だけ悩んだようだったけれど、ちいさく頷くとすぐに走り出した。ハルは動かないように手だけで俺に指示をしてから、すたすたと無造作にルセフさんに近づいていく。
「症状を聞いてくれ」
「ルセフさん、今の症状を教えてくれますか?」
俺の問いかけにこちらを向いたルセフさんの目は、ぼんやりとどこか遠くを見つめている。これほど近くにいるのに、全く視線が合わない事に違和感を覚えた。
「今は目が見えなくて、手も少ししびれてるな」
「原因は分からないんですか?」
「ああ心当たりは無いな…しびれ以外に痛みは特にないけど、今の状態で魔物に襲われてたら危なかった」
ルセフさんは淡々と言っているけど、俺は背筋がぞっとした。もし戻ってくるのがもっと遅かったら、もしかしたらなんて想像したくも無いけど。ハルはルセフさんの言葉を聞いて、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「そんな風に言ってるけど、さっきは集中して気配探知してたみたいだし、魔物が来たら先手必勝って攻撃してたと思うよ?」
予想外の言葉に、俺は目を大きく見開いてハルを見つめた。
「だからアキトは、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
ハルはそう言うと、にこっと笑みを浮かべた。
「さて始めようか。今の見えないというのはどういう状態かを聞いてくれ。かすんで見えないのか、真っ暗なのか、それとも真っ白なのか…」
「見えないというのはどういう状態ですか?かすんでるとか真っ暗とか」
「真っ暗だな」
「…アキト、キノコに触れたか聞いてくれるか?」
「ルセフさん、キノコに触れましたか?」
「リュス茸には触れたけど、あれは毒は無いからな…え、まさか?」
何かに気づいた様子のルセフさんを置いて、ハルは茂みに入っていった。倒れていた場所の近くに原因があると見たんだろうか。どうしようとそわそわしながら待っていると、ハルが不意に声を上げた。
「アキト、来てくれ!」
「ルセフさん、ちょっとだけ待っててくださいね」
「ああ」
朝食を終えた俺たちは、今日の予定をこなすべく動き出した。
「じゃあ俺たちは東側の調査をしてくるから」
「おう、俺たちは釣りだな!」
「忘れずに水の採取もしてくれよ」
「忘れねぇっての!まかせとけ!」
昨日の戦闘で一番の脅威が無くなったからか、流れる空気もどことなく穏やかだ。
強敵がいなくなった事を察知して、逃げた魔物たちが戻ってくる可能性もあるらしいけど、今の所近くに魔物の気配は無いそうだ。それだけでも、かなり安心できる。
「アキト、油断して良いって意味じゃないからね」
表情にでも出ていたのか、真剣な目をしたハルに釘を刺された俺はコクコクと小さく頷いた。
昨日のやり方は効率が良かったからと、今日も採用される事になった。ルセフさん一人と、俺とブレイズの二人組に分かれての調査だ。
「アキト、これ渡しとくな」
ルセフさんが差し出したのは、二冊のノートだった。昨日の調査ノートと上級素材だけを書き留めた俺のあのノートだ。
西側と東側でもし同じ物があっても、気にせずに記入してしまって良いらしい。確認しながら書き留めるのかと思っていたけど、その情報も大事なんだって。俺としては一つ手間が減ったから、大歓迎だ。
「はい、ブレイズはこれな」
次に差し出されたのは、赤い線の入った採取袋だった。ブレイズはすぐに受け取ると、不思議そうに首を傾げた。
笑いながら説明してくれたルセフさんによれば、もし西側と同じ物があった時でも採取した物がきちんと区別できるように、今日はこの袋を使うんだって。場所が違うと成分が違うかもしれないから、一度調査されるそうだ。色々考えてあってすごいな。
「じゃあ、今日も頼んだぞ。アキト、ブレイズ」
ルセフさんの信頼のこもった言葉を、俺たちは笑顔で受け取った。
今日担当する場所まで辿り着くと、まずは全員でぐるりと辺りを見渡してみた。昨日の西側の豊富な素材に比べると、東側の素材はそこまで多くはなさそうだ。
「こんなに違うんだね?同じ森なのに」
「昨日の半分ぐらいしか無いよな」
「よし、頑張るぞー」
「おう!」
要領が分かって来たからか、調査は昨日よりも更に順調だった。素材の数が少ない事もあって、あっという間に調べ終わってしまった。上級素材っぽい物もこの辺りには特に無さそうだから、俺のノートの出番は無さそうだ。
「え、もう終わり?」
簡単すぎた調査にブレイズはつまらなさそうな顔をしているけれど、素材が無いんだからどうしようもない。
「終わっちゃったね」
「仕方ないかールセフさん所に戻ろっか」
ぽつぽつと話しながらのんびりと来た道を歩いていくと、不意に地面にうなだれて座り込んでいるルセフさんの姿が見えた。隣に切り株があるんだから、あんな場所に座り込んで休憩をしたりはしないだろう。心臓が嫌な感じにバクバクと騒ぎ立てる。
「え…ルセフさん?」
「おう、おかえり。ちょっと失敗したわ」
苦笑交じりの声とはいえ、返事が返ってきた事に俺たちはホッと息を吐いた。そのままの勢いで駆け寄ろうとした俺たちは、すぐにルセフさんに止められてしまった。ハルも手を伸ばして通せんぼのような体勢になっているって事は、ルセフさんと同意見なんだろうな。
「そこで止まれ、原因が分からない今はまだ近づいたら駄目だ」
「でもっ!」
「ブレイズ、もしお前らが近づいてきて俺と同じ症状を起こしたら、誰が俺を助けるんだ?」
「…分かった」
「よし、ブレイズはファリーマとウォルターを呼んできてくれるか?」
ブレイズはこの場を離れて良いのか一瞬だけ悩んだようだったけれど、ちいさく頷くとすぐに走り出した。ハルは動かないように手だけで俺に指示をしてから、すたすたと無造作にルセフさんに近づいていく。
「症状を聞いてくれ」
「ルセフさん、今の症状を教えてくれますか?」
俺の問いかけにこちらを向いたルセフさんの目は、ぼんやりとどこか遠くを見つめている。これほど近くにいるのに、全く視線が合わない事に違和感を覚えた。
「今は目が見えなくて、手も少ししびれてるな」
「原因は分からないんですか?」
「ああ心当たりは無いな…しびれ以外に痛みは特にないけど、今の状態で魔物に襲われてたら危なかった」
ルセフさんは淡々と言っているけど、俺は背筋がぞっとした。もし戻ってくるのがもっと遅かったら、もしかしたらなんて想像したくも無いけど。ハルはルセフさんの言葉を聞いて、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「そんな風に言ってるけど、さっきは集中して気配探知してたみたいだし、魔物が来たら先手必勝って攻撃してたと思うよ?」
予想外の言葉に、俺は目を大きく見開いてハルを見つめた。
「だからアキトは、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
ハルはそう言うと、にこっと笑みを浮かべた。
「さて始めようか。今の見えないというのはどういう状態かを聞いてくれ。かすんで見えないのか、真っ暗なのか、それとも真っ白なのか…」
「見えないというのはどういう状態ですか?かすんでるとか真っ暗とか」
「真っ暗だな」
「…アキト、キノコに触れたか聞いてくれるか?」
「ルセフさん、キノコに触れましたか?」
「リュス茸には触れたけど、あれは毒は無いからな…え、まさか?」
何かに気づいた様子のルセフさんを置いて、ハルは茂みに入っていった。倒れていた場所の近くに原因があると見たんだろうか。どうしようとそわそわしながら待っていると、ハルが不意に声を上げた。
「アキト、来てくれ!」
「ルセフさん、ちょっとだけ待っててくださいね」
「ああ」
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