生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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152.【ハル視点】戦闘終了

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 ヒュージスライムは自分に向かってくるアキトとブレイズの事を、本格的に敵と認識したらしい。ぷるぷると体を揺らしたかと思うと、立て続けに酸を放って攻撃してきた。

 酸を利用した遠距離攻撃は、射程距離こそ長いが速度はそれほどでも無い。飛んできたその攻撃を、アキトとブレイズは余裕を持って回避している。

「良かった。そこまで速くは無さそうだね」
「うん、これぐらいなら大丈夫そうだ。まずは様子見!」

 ブレイズはそう言うなり、一瞬で構えた弓をぐいっと引き絞った。狙いを定める時間も無いと思うほどの速射だったけれど、放たれた矢はコアに向かってまっすぐに飛んでいく。

 遠距離攻撃の手段として仕方なく弓矢を手にした冒険者には、絶対に出来ない芸当だな。さすがは元狩人だと感心しながら見つめていたけれど、コアが素早く移動したせいであっさりと避けられてしまった。

「あーやっぱり動くか」
「それに思ったよりも分解の能力が高そうだよ、見て、俺の矢」

 ブレイズの言葉にアキトと二人で目をこらすと、さっき取り込まれたばかりの矢がじわりじわりと溶けていく所だった。しかも木製の部分だけでなく、矢尻の鉄製の部分までがすぐに消えていく。

 ああ、これは予想よりもかなり成長した個体だな。鉄をこれほど簡単に溶かせるなら、溶かせない物の方が少ないかもしれない。油断ならない相手だ。

「うわ―…」
「これは剣で攻撃なんかしたら、剣ごと腕が溶かされそうだね」

 その有様を想像してしまったのか、アキトは眉間にしわを寄せたまま一気に魔力を練り上げた。アキトが選んだのは一番得意な土魔法だった。時間をずらして二つのつぶてを左右から飛ばすという、ファリーマがみたら騒ぎそうな繊細な土魔法だな。

 左右両側からコアを狙う作戦だったようだが、ヒュージスライムは見透かしたようにコアを下へと移動させた。

「ああ、ここまで大きくなってると、やっぱり知能がかなり高くなってるな」

 攻撃の目的をきっちりと見抜いた上で、コアが逃げる場所を選ぶだけの知能がある。本当に油断ならない相手だな。思わず漏れた俺の言葉に、アキトは小さく頷きを返した。

 飛んでくる酸を危なげなく避けながら、二人は次なる作戦を考え始める。

「アキト、つぶてっていくつまで同時に出せる?」
「え、三つまでしかやった事ない!」

 素直に答えたアキトに、ブレイズは続けて尋ねた。

「五ついけるかやってみて」

 頷いたアキトはすぐに魔力を練り上げると、あっさりと五つのつぶてを作ってみせた。

 成功おめでとうと口を開きかけたが、何故かアキトは不服そうにつぶてを見つめている。何かするつもりなのかなと静かに見守っていれば、浮かんでいた五つのつぶてが前触れなくググッと二回りほども大きくなった。

 最初の大きさでは小さすぎると思って、つぶて自体を大きくしたのか。これはまた繊細な魔力操作が必要な技だな。ブレイズはファリーマがいたら大騒ぎだろうなと笑っていたけれど、これはファリーマじゃなくても魔法好きな奴ならまず間違いなく大騒ぎだろうな。

「アキト、俺に続けて攻撃してくれる?」

 そう言ってニヤリと笑ったブレイズは、三本の矢を器用に片手だけで持っていた。二本同時は見たことがあるけれど、三本同時に射るのは俺も初めて見るな。かなり難しい技になるが、ブレイズなら出来るかもしれない。

「分かった」
「行くよっ!」

 言葉と同時にブレイズが放った矢は、じわりと縦に広がりながら飛んで行く。ただ命中させるだけでも難しいだろうに、等間隔で広がりながら飛んでいく矢の軌道に見惚れてしまう。

 狙われたヒュージスライムもコアをどこに動かすべきか迷ったようだが、何とか矢を避けて右半身へとコアを動かして矢を避けた。

「アキト!」

 ふうと息を吐いて集中しなおしてから、アキトは五つのつぶてを次々に飛ばし出した。最初の三つで、ブレイズがやったのと同じように半分を更に半分に絞り込む。これで移動できる場所はまた狭くなった。

「よしっ!」

 これなら本当に二人だけでも倒せるかもしれない。アキトは落ち着いた様子で、残りの二つのつぶてを放った。追い詰められたコアがヒュージスライムの体内で逃げ惑う。狭い範囲を動き続けているコアにかすりはしたけれど、きっちりと命中とはならなかった。惜しい。

「ああっ」

 残念そうなブレイズの叫びが聞こえたけれど、アキトは攻撃が外れた瞬間にはもう魔力を練り上げ始めていた。追撃の用意が早いのは良い判断だ。あとで褒めないとな。

「まだまだ!」

 声と同時にアキトが放ったつぶては、まっすぐに飛んでいくと動き回っていた真っ白なコアを見事に撃ち抜いてみせた。コアを撃ち抜かれたヒュージスライムの体は、ぶるぶるっと震えると液体状になって地面へと落ちて動かなくなった。

「…倒した?」
「うん。アキトすごかった!」
「ブレイズの三本同時もすごかったよ!あれがなかったら移動できる場所を減らすなんて思いつかなかった!」

 お互いを褒め称えているアキトとブレイズに、笑って声をかける。

「二人ともすごかったよ。頑張ったね」

 俺の言葉を聞いてアキトはニコッと笑みを見せてくれた。



 ヒュージスライムに勝利した事を噛み締める間もなく、アキトとブレイズは慌てた様子で後ろを振り返った。アグアウルフは強敵だと知っているからこそ、自分たちも手伝わなくてはと思ったんだろう。

 その気持ちは分かるんだが、どうやらチームのメンバーも同じことを考えていたようだな。

 今、呆然と見つめる二人の視線の先にあるのは、既に地面に倒れ伏したアグアウルフの姿と、二頭目にとどめを刺しているルセフの姿だった。周りの気配を探ってみても魔物の気配は無くなっている。確実に倒せたみたいだ。

「え…?」
「もう?」
「アグアウルフって強いんだよね?」
「しかも番って連携してくるから余計厄介って言う…よね?」

 現実逃避ぎみに言い合っていた二人に、大人組の視線が一気に集まってくる。ぎらぎらとした殺意に満ちた三人の目に、ブレイズとアキトの喉からはヒッと音が漏れた。怖がっている二人に、俺はあえてのんびりと笑いながら声をかける。

 「あーきっと二人の事がそれだけ心配だったんだろうね」

 ヒュージスライムは本来ならD級二人で倒せるような魔物ではない。たまたま二人の作戦がうまく嵌まったから倒せただけで、怪我を負うかもしれないような強敵だ。きっとアキトとブレイズを助けるために、慌てて終わらせたんだろうな。

「え…?」
「アキトとブレイズ?」 
「は?」

 既に年下組がヒュージスライムとの戦闘を終わらせているなんて、予想もしていなかったんだろう。三人はその場で固まったまま、アキトとブレイズの姿をじっと見つめていた。

「お疲れーヒュージスライムは二人で倒したよー!」

 手を振りながらそう叫んだブレイズの満面の笑みを見て、ようやく三人の時間も動き出す。

「は?倒した?」
「あのサイズを二人だけで?」

 戸惑いを隠せないルセフとファリーマの隣で、ウォルターは楽し気に笑い出した。こういう時の反応に、性格の違いが出るんだな。

「二人ともやるじゃねーか!」
「まあ、とどめを刺したのはアキトだけどねー」
「え、でも作戦はブレイズだったよ?」
「あれは別に作戦ってほどのものじゃなくないー?」
「いやいや、コアの分断とか思いつかなかったよ!」

 お互いにすごいのは相手だと主張し合う姿は、何とも微笑ましい。転がったままになっていたコアの欠片とスライムゼリーを、ルセフはまじまじと見つめてから口を開いた。

「これは…本当に倒したんだな」
「うん!」
「はい」
「あー正直、二人だけで討伐までできるとは思ってなかったよ。頑張ったな」

 ルセフは柔らかく笑うと、またアキトとブレイズの頭をわしわしと撫で始めた。保護者目線だと完全に理解したからか、もう腹立たしくは感じなかった。

「すごかったんだよ、アキトがつぶてを大きくしてね」

 唐突に始まったブレイズの説明に、魔法馬鹿と呼ばれるファリーマはすかさず食いついた。

「何だって?つぶてを?」
「どうやったのって聞いたら、初めてだけどやったらできたって言ってた」
「あー感覚派!俺も見たかったー!アキト、後でやって見せてくれないか!?」

 ブレイズの予想通り、魔法大好きなファリーマは大興奮だった。アキトに詰め寄るファリーマを必死で宥めているルセフの隣で、ウォルターはブレイズの頭を撫でながら笑っている。

 このチームのメンバーが全員無事で良かった。俺はしみじみとそう思いながら、楽しそうな笑顔を見つめていた。
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